一流ホテル旅館の料理人でも知っているようで知らない原価管理のポイント

こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。

突然ですが、皆さんのホテル旅館(料亭・レストラン・ラウンジ・和食処)は、原価管理をしっかりできていますか?大手の飲食業界ですと、FLコスト(食材原価・人件費)の管理は従業員の待遇に響くので徹底してやっているでしょうが、ホテル旅館業界ですと指導・徹底できていない会社の方が多いように思います。一流旅館やリゾートホテルでも実は知らないまま今までやって来たというケースは少なくありません。

原価管理がしっかりとできているかどうかは、次の5つの質問に「はい」と言えるかどうかで簡単に分かります。皆さんのホテル旅館はどうでしょうか?

  • 調理部門(板前)は毎月棚卸をしていますか?
  • 今月の原価率を計算する方法を知っていますか?
  • 月の途中でも原価率は分かりますか?
  • メニューごとの標準原価は理解していますか?
  • 調理部門に試算表は見せていますか?

もちろん、5つの全てをやっていなくても素晴らしい実績を上げているホテル旅館は沢山あります。でも、この5つのポイントを徹底すればさらに発展することができるでしょう。今回コラムでは、適正な営業利益を確保するための原価管理の本当のやり方を具体的に紹介しましょう。

 

毎月末に棚卸することが原価管理の第一歩

皆さんのホテル旅館は食材原価をチェックしていますか?おそらく、ほとんどの旅館は「もちろん、原価は毎月チェックしている」と答えるでしょう。

それでは、皆さんのホテル旅館の調理部門(板前)は毎月末に棚卸をしていますか(棚卸しとは、月末に食材がホテル内にいくら残っているか数えて合計額を出す一連の作業のことです)?

この答えはマチマチです。棚卸しをしていないにも関わらず、原価をチェックしていると答えたホテル旅館の管理職の方は、残念ながら「まやかしの原価率・嘘の原価率」で判断していることになります。棚卸しをしないと正確な原価率を計算することができないからです。

このことは、原価率の計算方法を見れば分かります。

原価率=(①月初の食材在庫額+②当月の食材仕入れ額−③月末の食材在庫額)÷売上高

③の月末の食材在庫額を把握するためには、月末のホテル旅館内の食材の在庫額を計算しないといけません。また、③の月末の食材在庫額が分からないと、その月の原価率を計算することができないことが分かります。

食材原価が毎月いくらかかっているのか把握するためには、正確な棚卸表の作成が必須です。月末の棚卸をしないと、食材費を計上する月と実際に使用する月とにずれが生じることになります。特に、連休を挟む4月や12月は見かけ上の原価率が大幅に上昇してしまいますので、判断ミスを招くことにつながります。棚卸表の作成自体は簡単です。納品書から品名と単位、単価をパソコンで整理して、月末に数量、在庫金額を入力すれば良いだけです。一般的には調理長の担当業務となりますが、エクセルの入力に慣れていなかったり、間違いが多かったりする場合には、総務部門が入力を代行しても良いでしょう。

 

「仕入日計表」を作ってリアルタイム原価を把握しよう

毎日の食材仕入額を入力するものが仕入日計表です。仕入額と売上の累計額を出せば、月の途中でも仕入れ率や原価率を把握することができます。月中の仕入れ率が予算超過となった場合には、仕入れの抑制や食材内容の見直しをかけるよう調理部門に指示すると良いでしょう。業者別や品目別の内訳額を出せば、有益な示唆を得ることができます。

特定の業者からの仕入れ額が大きい場合は、調理部門が相見積もりをとっていなかったり、業者からのセールスに負けて必要以上の冷食・既製品をとっていたりする可能性があります。特定の業者からの仕入れに偏らないよう調理部門に指示すると良いでしょう。

特定の品目の仕入れ額が大きい場合は、料理構成のバランスが悪い可能性があります。例えば、山間のホテル旅館で魚介類の仕入れが全体の5割を占めている場合には、立地と料理の構成が適合していない可能性があります。肉や野菜の比率を高めたほうが、その地域の食材の魅力を引き出した料理を提供することができるし、食材原価の低減にもつながるでしょう。

 

メニューごとの標準原価が適切か確認しよう

「板前に余計なことを言って集団退職されたら困る」と調理部門を聖域とするのはやめましょう。ホテル旅館は空前の人手不足ですし、和食料理人を目指す調理師学校の生徒も少なくなっていることから、退職されると新しい板前を採用するのが難しいという実情は分かります。しかしながら、食材原価を正確に把握できないと適正な利益を出すことができず、賃金のベースアップや賞与支給などの待遇改善を行うことはできません。ホテル旅館の経営者や管理職自らが板長と腹を割って話して改革を進めましょう。

板前の協力を得てやって欲しいことが、メニューごとの標準原価の把握です。例えば、和食の会席コースについて1品ごとの1人あたり標準原価を出してもらいます(13品あれば、13種類の標準原価)。バイキングであれば、1人あたりの想定喫食量から1人あたり標準原価を出してもらうと良いでしょう。

標準原価を算出することによって、料理としてあまり魅力のないメニューに余計な原価がかかっていたり、明らかに割安に売りすぎていたり(原価割れとなっている)するメニューを発見することができます。

 

思い切って料理売価の見直しを行おう

原価率を適正化するには、原価低減を図るだけでなく売価見直しも有効です。近年の食材原価の高騰により、同じレシピで食材選定すると原価率上昇が避けられない状況となっています。食材のレベルを維持しながら原価低減するのが限界にきているホテル旅館は多いでしょう。

特に低単価の会席プラン(1泊2食で12000円以下)は、食材原価、人件費、諸経費を考慮すると採算が合わなくなっている可能性が高いと言えます。付加価値の向上や客層変更が前提となりますが、料理の提供方法を見直すか値上げを検討すると良いでしょう。

見落としがちなのがドリンク類の売価です。食材原価を100円下げるのもドリンク1杯を100円上げるのも利益への効果は同じです。100円の値上げを受け入れてもらえるよう魅力的なドリンクメニューの開発やホールスタッフからの声かけ(ファーストドリンクの獲得)を実施すると良いでしょう。

 

試算表を有効活用しよう

毎月末に棚卸をしっかりと行えば、正確な試算表を作成できます。業界水準や昨年同時期、予算と比較して有益な示唆を得ましょう。より効果的な分析を行うために、次の事項を会計事務所へ依頼するとよいでしょう。

  1. 売上・売上原価を部門別に計上する・・・少なくとも料飲と売店の原価率をそれぞれ算出できるように
  2. 役員・社員とパート・アルバイト、業務委託を分けて計上する・・・それぞれの毎月の支出額を把握できるように
  3. 試算表は遅くとも翌月15日までに提出してもらう・・・タイムリーに現状把握できるように
  4. 月次推移表を提出してもらう・・・毎月の変動を把握しやすいように

食材原価率を下げるために人手のかかる仕込みを行うのは本末転倒です。食材原価率は下がったが人件費率は上がってしまったということにならないように、人件費も合わせてチェックしましょう。