赤字・資金繰り難からの立て直しを、宿泊業専門コンサルタントが具体例で解説します
こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。
「客室は埋まっているのに、なぜか手元の資金が増えない」
最近、私のもとにはこうしたご相談が増えています。インバウンドは過去最高、市場規模も過去最高水準。観光は好況だと言われます。それなのに、自館の通帳を見ると資金が思うように増えていない。忙しさと、手元に残るお金が、どうもかみ合わない。心当たりはないでしょうか。
その違和感の正体は、たいてい次の3つが重なっています。
こうした状況で、「このままでは、半年先には返済が計画どおりにできなくなるかもしれない」。そう感じ始めたとき、必要になるのが「経営改善計画」です。問題が深刻になってからではなく、その兆しが見えた段階で備えるための計画です。
経営改善計画は、新しく施設を建てるための事業計画とは違い、すでに営業している施設をどう立て直すかを示す計画です。難しそうに見えて、骨格はシンプル。本コラムでは、自館でも取り組めるよう、できるだけ平易に整理していきます。
本コラムは「すでに営業している施設の立て直し」を扱います。これから開業・新規参入する方向けの事業計画の作り方は別のコラムで解説していますので、新規開業をお考えの方はそちらをご覧ください。
経営改善計画とは、いまある施設を立て直すための計画。新しく建てる事業計画とは目的がまるで違う。
経営改善計画とは、業績が悪化した、あるいは悪化しそうな施設が、どのように収益を立て直し、借入金を返済していくかを示した計画書です。多くの場合、金融機関に対して提出し、元本返済の猶予(リスケジュール)(返済の一部を一時的に待ってもらうこと)や新規融資といった支援をお願いするための土台になります。
同じ「計画書」でも、新規開業の事業計画とは目的がはっきり異なります。新規開業の計画は、まだ存在しない施設の将来像を描き、融資を引き出すための前向きな計画です。これに対して経営改善計画は、すでにある施設の過去の実績を振り返り、なぜ業績が悪化したのかを明らかにし、現実的な立て直しの道筋を示すものです。
ここを取り違えると、金融機関の信頼を失います。希望的な売上目標を並べた『新規開業のような計画』を改善局面で出してしまうと、『この経営者は現実が見えていない』と受け取られかねません。改善計画で求められるのは、夢ではなく実現可能性です。
| 観点 | 新規開業の事業計画 | 経営改善計画 |
|---|---|---|
| 対象 | これから建てる・始める施設 | すでに営業している施設 |
| 主な目的 | 新規融資を引き出す | 返済猶予や再建支援を受ける |
| 時間の向き | 将来の成長を描く | 過去を振り返り立て直す |
| 重視される点 | 事業の魅力と収益性 | 窮境原因の分析と実現可能性 |
| 読み手の関心 | 貸して回収できるか | 支援して再建できるか |
近年、国の方針として「早期着手」と「予兆管理」という考え方が前面に出てきました。業績悪化が深刻になってから動くのではなく、その兆しが見えた段階で手を打つことが、再建の可能性を高めるという考え方です。金融機関に対しても、取引先の状況の変化を早めに把握し、一歩先を見据えた対応をとるよう促す方向に制度が動いています。
経営者の立場からすると、これはむしろ前向きに捉えてよい変化です。状態が軽いうちに相談に動いたほうが、選べる手段は多く、痛みも小さいからです。資金が尽きてから駆け込むと、打てる手が限られてしまいます。冒頭で触れた『半年先に返済が苦しくなりそう』という段階こそ、まさに動き始めるべきタイミングなのです。
→ 次の章では、自館がいまどの段階にいるのかを見極めるところから始めましょう。
立て直しの第一歩は、資金繰り表で「経常収支が黒字か赤字か」を確かめること。ここで自館の段階が分かる。
経営改善に取り組むとき、最初にやるべきは自館の資金繰りの状態を正確に把握することです。損益計算書の利益ではなく、実際のお金の動きを見ます。宿泊業は装置産業であり、借入金に依存しやすく、毎月の元利返済という財務支出が重くのしかかるからです。
見極めの軸は、資金繰り表の「経常収支(本業の営業活動で出入りするお金)」です。ここが黒字か赤字かによって、自館が置かれている局面が大きく変わります。
ここで注意したいのは、経常収支が黒字でも、経常外収支や財務収支(借入返済など)を差し引いた当月の収支が赤字なら、資金は確実に減っていくということです。返済負担が重いと、本業で稼いでいても手元の資金が毎月目減りしていきます。冒頭で触れた『満室なのに利益が残らない、資金が増えない』という状態は、まさにこれにあたります。
資金繰りの状態は、難しい会計知識がなくても、過去の実績から簡易的な資金繰り表を作れば把握できます。資金繰り表は、日本政策金融公庫(国が100%出資する政府系金融機関)などが様式(ひな形)をホームページで公開していますので、まずはそれを使ってみるのが早道です。これらの様式は、お金の動きを「経常収支」「経常外収支」「財務収支」の3つに分けて整理する構造になっています。
| 区分 | 主な内容 | 見るポイント |
|---|---|---|
| 前月繰越 | 前月末の現預金残高 | スタート地点の手元資金 |
| 経常収支 | 本業の売上入金と、仕入・経費・人件費などの支払の差 | 黒字か赤字か(局面の判断軸) |
| 経常外収支 | 設備投資、税金、補助金・保険金、資産売却など | 大きな支出が出る月への備え |
| 財務収支 | 借入金の実行と、元利返済 | 返済負担の重さ |
| 翌月繰越 | 前月繰越+3つの収支の合計 | 資金が薄くなる月でも底をつかないか |
作り方の手順を整理しましょう。
ここまで作れば、毎月の現預金がどう動くか、何か月先まで資金が持つかが見えてきます。なお、減価償却費は実際に現金が出ていく費用ではないため、資金繰り表には計上しません。宿泊業は季節による繁閑の波が大きいため、年間を通した月別の動きで見ることが大切です。一年で最も資金が薄くなる月に資金がショートしないかを必ず確認しましょう。
「このままで大丈夫だろうか」と感じたら、その時が相談のタイミングです。弊社では、資金繰りの状態を一緒に確認し、いまどの段階にいるのかを整理する事前診断を行っています。早めに動くほど、選べる手は多くなります。
経営改善・資金繰りについて無料で相談する→ 資金繰りで現在地が分かったら、次は『なぜそうなったのか』という窮境の原因を掴みます。
立て直しの前に「なぜ悪くなったか」を正しく掴む。原因を取り違えると、打つ手もずれてしまう。
立て直しの計画を作る前に、なぜ業績が悪化したのかを正しく掴む必要があります。原因の見立てを誤ると、打つ手もずれてしまうからです。これまで多くの施設を拝見してきたなかで、業績不振に陥る施設にはいくつか共通したパターンがあると感じています。
とりわけ景気が悪くなった局面で苦しくなる施設の特徴は、投資と回収・銀行返済のバランスの読み違い、どんぶり勘定の運営、データ理解の不足に集約されます。売上が右肩上がりで十分な利益が出ている時代には、こうした問題は表に出てきません。業績が陰り始めて初めて、隠れていた弱点が一気に表面化するのです。
窮境原因を掴むうえで有効なのが、部門別の損益を見ることです。宿泊・料飲・宴会・売店といった単位ごとに売上と原価、人件費を分けて並べると、どの部門が足を引っ張っているかが見えてきます。ただし、部門別損益は運用を誤ると弊害も生むため、扱い方には注意が要ります。この点は後の章で改めて触れます。
→ 原因が見えてきたら、それを踏まえて計画全体の骨格を組み立てていきます。
計画には決まった型がある。型に沿って作り、公的機関が示す数値の目安(5年で債務超過解消・3年で黒字化)を物差しにする。
では、経営改善計画はどのような構成で作ればよいのでしょうか。金融機関や公的機関に提出することを前提とすると、標準的な構成があります。これに沿って組み立てると、作りやすく、相手にも説明しやすくなります。
外部環境分析や内部環境分析を加えることもあります。ページ数の目安は、本格的な計画で30〜40ページ程度です。
計画の数値が、どの程度の水準を目指すべきかについては、公的な目安があります。中小企業活性化協議会(国が各都道府県に設けた、再生支援の公的機関。後の章で詳述)が金融支援を伴う再生計画を支援する際には、原則として次のような数値基準を満たす計画の作成を求めています。
中小企業活性化協議会実施基本要領 別冊2「再生支援実施要領」(中小企業庁)。小規模な事業者には別途の基準があります。最新の基準は中小企業庁の公表資料をご確認ください。
この目安は、自館の計画が現実的かどうかを測る物差しになります。たとえば、5年たっても債務超過が解消しない、3年たっても黒字化しない計画は、金融機関の同意を得るのが難しくなります。逆に言えば、この水準を満たせる見通しが立つなら、立て直しの道は十分にあるということです。なお、この基準をすぐには満たせない場合でも、将来の本格的な再生に向けて、まずは3年を限度とする暫定的なリスケジュール計画から始める道も用意されています。
構成や数値基準以上に大切なのは、計画に実現可能性があることです。立派な体裁の計画より、確実に実行できる計画のほうが、はるかに信頼されます。金融機関や公的機関に計画を出すと、後で必ず実施状況を確認されます。見栄を張ってできるかどうか分からないことを多く掲げるより、確実にできることだけを載せたほうが、結果として信頼を積み重ねられます。実際、公的機関が支援する再生計画でも、計画は『債務者の自助努力が十分に反映されたもの』であることが前提とされています。
→ 構成が見えたら、計画の心臓部である数値計画に入ります。再生の成否を分ける、ある一つの指標が鍵になります。
金融機関が最も重視するのは「償却前営業利益」。本業がどれだけ現金を生むかが、再生できるかどうかを分ける。
経営改善計画の数値計画で、最も重視される指標があります。償却前営業利益(営業利益に減価償却費を足し戻した、本業が生む現金に近い数字)です。なぜこの指標が鍵になるのか、少し踏み込んで説明しましょう。
私自身、経営改善計画を作った後のモニタリング会議に何度も立ち会ってきました。モニタリング会議とは、計画を作った後、その実績を毎月(あるいは四半期ごとに)金融機関に報告する会議のことです。計画は作って終わりではなく、実行できているかを継続して確認されるのです。
そして、その会議の場で銀行から真っ先に説明を求められるのが、償却前営業利益です。『今月の償却前営業利益は計画どおり出ていますか』『計画を下回ったのはなぜですか』と、ここを必ず確認されます。売上や個別の経費よりも、まずこの指標を見るのです。私の現場での経験からも、償却前営業利益が金融機関にとっていかに重要な指標であるかが、はっきりと分かります。
金融機関が改善計画を支援するかどうかを判断するとき、最終的に見るのは『この施設は、本業でどれだけ現金を生み出せるのか』という一点です。表面上は赤字でも、減価償却費という現金が出ていかない費用を足し戻すと、相応の現金を生んでいる施設は珍しくありません。返済の原資になるのは、利益ではなくこの現金だからです。
具体例で考えてみましょう。あくまで仕組みを説明するための架空の例です。
ある温泉旅館の例です。借入金10億円、売上高5億円、営業利益はマイナス1,000万円。表面上は赤字です。ところが減価償却費が5,000万円あるため、償却前営業利益は4,000万円あります。本業では現金を生めているわけです。この施設なら、立て直しの道筋を描ける可能性があります。
一方、同じ規模でも償却前営業利益が2,000万円しか出せない施設だと、話は変わります。残った借入金を返すのに長い年数がかかり、金融機関は支援に慎重になります。極端に言えば、支援を受けられるかどうかの分かれ目は、償却前営業利益をどれだけ生み出せるかにかかっているのです。だからこそ、モニタリング会議でも真っ先に確認されるわけです。
もう一つ知っておきたいのが「実態債務超過額(時価で資産・負債を評価し直したときの、負債が資産を上回る額)」です。先ほど触れた『5年以内に実質的な債務超過を解消する』という目安は、この実態ベースの数字を指しています。
金融支援(借入金の圧縮など)を受ける場合、その上限は原則として実態債務超過額までとされています。これを超える支援は『過剰支援』とされ、実現性は低くなります。ですから、借入金の総額そのものは、再生の成否を決める本質ではありません。借入が多くても、本業で現金を生めていれば道はありますし、逆に借入が比較的少なくても現金を生めなければ厳しい。金融機関が見ているのは残高の大きさではなく、返していける力なのです。
旅館・ホテルでこの実態債務超過の話がよく出るのは、土地・建物の時価が帳簿価額(簿価)を下回るケースが多いからです。一部の都市型施設を除けば、地方の施設では土地・建物の実際の価値が簿価を大きく下回ることが少なくありません。実態を正確に把握することが、現実的な計画づくりの出発点になります。
| 指標 | 意味 | なぜ重視されるか |
|---|---|---|
| 償却前営業利益 | 本業が生む現金に近い数字 | 返済原資をどれだけ生めるか。モニタリングで毎回確認される |
| 実態債務超過額 | 時価で見た負債超過の額 | 受けられる金融支援の上限の目安。5年での解消が目標 |
償却前営業利益や実態債務超過額の試算は、専門的で分かりにくい部分です。弊社では、自館の数字をもとに財務シミュレーションを行い、金融機関に説明できる数値計画づくりをお手伝いします。一人で抱え込まず、まずはご相談ください。
経営改善・資金繰りについて無料で相談する→ 数値計画の土台ができたら、その数字を実現するための具体策に移ります。まずは経費削減からです。
立て直しはまず経費削減から。ただし削りすぎると、稼ぐ力まで失う。質を保ったまま無駄を削るのがコツ。
立て直しの局面では、まず経費削減から着手するのが定石です。売上の回復は相手(市場)があって時間がかかりますが、経費は自社の判断で動かせる部分が大きいからです。ただし、やり方を誤ると売上まで落としてしまいます。主要な費目ごとに、進め方と注意点を整理しましょう。
人件費は経費に占める割合が大きく、削減の対象になりやすい費目です。しかし安易な人員削減や賃金カットは、短期的には利益を改善しても、優秀な人材の流出を招きます。
実際、長年にわたる人件費削減の結果、業界から経験豊富な中堅層が流出し、現場が高齢者と若手ばかりになった施設は少なくありません。今は人材獲得競争が激しく、宿泊業のスタッフは低賃金でも仕方がない、という考えは通用しなくなっています。
人件費に手をつけるなら、賃金を下げる発想ではなく、業務そのものを効率化して必要な労働時間を減らす方向で考えるべきです。具体的には、スタッフ一人ひとりの業務内容と所要時間を洗い出し、部署ごと・時間帯ごとの繁閑を把握します。『忙しい』と不満が出る時間帯は実は一瞬で、それ以外は人員が余っている、ということがよくあります。動線の改善や業務のマニュアル化、配置の見直しによって、賃金を下げずに人件費の総額を抑えるのが王道です。
料飲材料費の削減は、料理長との対話が欠かせません。料理長は自由に創作し満足してもらえる料理を出したいと考えるのが自然で、一方で原価への意識が薄くなりがちです。質を落とさずに原価を下げるには、いくつかの工夫があります。
気をつけたいのは、調理人に原価低減を指示すると、食材のグレードを安易に落としてしまいがちなことです。原価を下げても、料理の口コミ評価や売上が下がっては逆効果です。あくまで質を保ったまま無駄を削るのが目的です。なお、月次の在庫確認は不正の抑止にもつながります。
水光熱費の削減には、これといった特効薬はありません。使われていない部屋の冷暖房や水の出しっぱなしがないかを、チェックリストを使って漏れなく確認していく地道な積み重ねです。
一方で、設備の老朽化が原因で効率が悪化している場合は、削減ではなく投資の問題です。ボイラーや配管の劣化で光熱費が高騰しているケースはよくあります。この場合はしっかり設備投資を行うことが、結果的に費用を下げます。
経費削減で最も警戒すべきは、削りすぎて施設の強みや稼ぐ力まで失ってしまうことです。とくに弊害が出やすいのが人件費と広告宣伝費です。広告宣伝費をまったく使わずに自館を知ってもらうのは難しく、売上に対して最低でも1%程度は確保したいところです。経費削減はあくまで利益を残すための手段であって、目的ではありません。短期の数字のために中長期の収益力を削ってしまわないよう、バランスを意識してください。
→ 経費を整えたら、次は売上の回復です。限られた資金でも成果が出やすい施策があります。
再生局面ではお金が限られる。大きな投資をかけず、口コミ評価を上げる施策から着手するのが鉄則。
経費削減が一段落したら、売上の回復に取り組みます。再生局面では資金が限られているため、大きな投資をかけずに成果が出やすい施策から着手するのが鉄則です。これまで多くの施設で実際に効果が大きかった施策を、いくつか紹介しましょう。
再生局面でとりわけ重要なのが口コミです。資金が限られるなかで売上を伸ばすには、施設の清潔さと接客の質を高め、良い口コミが生まれる状態をつくることが最も費用対効果が高い。良い口コミは新たな予約を呼び、売上・利益が増えれば次の投資に回せる、という好循環が生まれます。逆に、清潔感の欠如は一発で評価を落とします。素晴らしい料理を出しても、客室や水回りに前泊者の痕跡が残っていればクレームになります。清掃マニュアルを整え、抜き打ち点検を行う体制を作りましょう。
アクションプランで陥りがちなのが、方針のないまま『食材原価の低減』のような抽象的なテーマだけを並べてしまうことです。同じテーマでも、仕入先への値引き要請、仕入先の変更、レシピの変更、ロス率の削減など、具体的な方法はさまざまです。
ここで『決め打ち』は禁物です。値引き要請が通るかは相手次第ですし、新しい仕入先が見つかる保証もありません。成果が上がるか不確実なものは、対外的なアクションプランに載せないことをお勧めします。金融機関に提出すれば後で必ず実施状況を確認されます。確実にできることだけを載せたほうが、信頼を得られます。
→ 計画と施策が固まったら、いよいよ金融機関との向き合い方です。ここには知っておくべき機微があります。
リスケの段階と再生の段階で、銀行の見方は正反対になる。理屈を知って、争わず賢く付き合うのが得策。
経営改善計画は、金融機関に支援をお願いするための土台です。ここでは、長年の現場経験から見えてきた、金融機関と向き合ううえでの勘どころをお伝えします。
知っておくと混乱せずに済むのが、返済猶予(リスケ)の段階と、抜本的な再生の段階とで、銀行の見方が正反対になることです。
返済猶予の段階では、銀行は『設備投資を極力減らし、経費を徹底的に削って、その分を返済に回してほしい』と指導します。ところが、債務の圧縮を伴う本格的な再生計画の段階に入ると、『売上計画を達成するために、集客のための投資は積極的に行ってほしい』と、まるで逆のことを言われます。この転換に戸惑う経営者は少なくありません。
これは担当者の立場の違いから来ます。返済猶予の段階では債権の回収を優先するため投資は歓迎されませんが、再生計画の段階では『再生した成功事例』として見せたいため、投資が前向きに受け止められるのです。理屈が分かっていれば、慌てずに対応できます。
取引金融機関が複数あり個別交渉が難しい場合などには、債権者と債務者が一堂に会して返済について話し合う『バンクミーティング(複数の取引銀行を集めて行う調整の会議)』が開かれることがあります。進め方次第で今後の取引が有利にも不利にもなるため、メイン銀行とよく相談して臨むことが大切です。
資料の準備や依頼事項の整理は、経験豊富な専門家の協力を得て進めるのが望ましいでしょう。会社だけで対応すると、金融の知識不足から不利な条件を受け入れてしまうことがあるためです。
金融機関との関係で、私がいつもお伝えしているのは『争わないこと』です。『昔は協力してやったのに今は厳しい』という思いを持つ経営者は多いのですが、銀行には銀行の事情(金融庁や審査部の厳しいチェック)があります。こちらから争いを仕掛けると溝が深まるばかりで、設備資金や運転資金が必要なときに調達できなくなります。理不尽だと声を荒げるより、冷静に賢く付き合うほうが、結局は自館のためになります。
→ 自力での改善や金融機関との交渉に加えて、活用できる公的な支援制度があります。次の章で相談先を整理します。
公的機関の代表が中小企業活性化協議会。ただし運用には実態もある。取引銀行の数で、相談先の選び方が変わる。
自力での改善に限界を感じたとき、あるいは金融機関との関係づくりに不安があるとき、公的な支援制度が選択肢になります。ここは経営者の関心が高い一方、誤解も多いところなので、最新の制度を踏まえつつ、運用の実態も率直にお伝えします。
その中心になるのが、中小企業活性化協議会(産業競争力強化法に基づき各都道府県に設置された公的機関)です。中小企業庁の委託を受けて運営されています。2022年4月に、それまでの中小企業再生支援協議会と経営改善支援センターが統合してできたものです。
公認会計士・弁護士・中小企業診断士など、事業再生の実務経験が豊富な専門家で構成され、中小企業の『駆け込み寺』とも呼ばれます。借入金の返済などで悩み、自力で経営改善計画を作るのが難しい事業者を対象に、計画策定の支援や、金融機関との調整を行っています。2022年からは飲食業・宿泊業向けの支援も強化されています。
協議会が関わる計画策定支援には、状況に応じた2つの制度があります。
いずれも、認定経営革新等支援機関(国に認定された税理士・会計士・コンサルタント等の専門家)の支援を受けて計画を作る際に、その費用の3分の2を国が補助する仕組みです。なお、早期経営改善計画策定支援事業の通称は、2025年4月にそれまでの『ポストコロナ持続的発展計画事業(ポスコロ事業)』から『バリューアップ支援事業(Vアップ事業)』へと変更されました。補助の上限額や要件は改定されることがあるため、利用を検討する際は、中小企業庁や最寄りの協議会の最新の公表情報を確認してください。
ここからは、私が現場で見てきた率直なところをお伝えします。協議会は制度上は中立・公正な機関ですが、運用の実態としては、必ずしも完全に中立とは言い切れない面もあるというのが正直なところです。
理由の一つは、協議会の担当者に地方銀行のOBが入っていることが少なくないからです。そのため、担当者によっては金融機関寄りの立場で物事が進められることがあります。また、協議会に所属する地銀OBの方が、再生に関わる案件を持ち込むよう金融機関に働きかけ、結果として事業者の意思に必ずしも沿わない形で協議会に案件が持ち込まれてしまう、というケースも、現実には少なからず見受けられます。
ですから、『協議会に相談すれば何とかなる』と単純に考えるのではなく、よく調べたうえで、相談するかどうかを判断するのが賢明です。協議会には協議会の運用ルールがあり、必ずしも事業者の思いどおりに進むとは限らない、という前提を持っておいてください。
では、どういう場合に協議会を使うのが有効なのでしょうか。一つの実務的な目安が、取引している金融機関の数です。
取引銀行が少ない場合は、協議会の運用ルールに縛られるよりも、コンサルティング会社や弁護士事務所が任意の立場で関与したほうが、柔軟に対応でき、結果的に良い結果につながることも多いのです。まずは自館の取引銀行の数を確認したうえで、協議会に相談するか、直接交渉で進めるかを検討するのがよいでしょう。
どちらの道を選ぶにせよ、相談の順序には注意が必要です。資金繰りが厳しくなったら、まずは取引のある金融機関に相談するのが基本です。金融機関が事情を知らないうちに、いきなり公的機関へ相談してしまうと、金融機関が不快に感じてしまうことがあるからです。まず金融機関、その先で必要に応じて公的機関や専門家、という順序を意識してください。
なお、より深刻な局面では、事業再生ADRやREVIC(地域経済活性化支援機構)といった選択肢もあります。いずれにせよ、これらの制度をうまく使えば、直接の資金調達は難しくても、元本返済の猶予などの金融支援を受けられる可能性があり、立て直しに向けた時間を確保できます。
協議会か、直接交渉か。自館にとってどちらが有利かは、取引銀行の数や状況によって変わります。弊社は特定の金融機関と利害関係を持たない独立した立場から、自館に合った相談先の選定をお手伝いします。判断に迷ったら、まずはお気軽にご相談ください。
自館に合った相談先を一緒に考える→ ここまでは自力での改善と支援制度の話でした。次の章では、それでも立ち行かないときの選択肢に触れます。
尽くしても立ち行かないときは抜本再生という道がある。痛みの小さい私的整理から検討し、決断は早いほど資産も雇用も守れる。
本章は法律実務に深く関わる専門的な領域です。ここでは全体像と、経営者として知っておくべき要点に絞ってお伝えします。具体的な手続きは、必ず再生に強い専門家にご相談ください。
経費削減や売上改善、返済猶予を尽くしても立ち行かない場合には、より踏み込んだ『抜本再生』を検討することになります。
抜本再生とは、過大な債務を法的整理または私的整理(裁判所を使う手続きと、使わずに当事者間で進める手続き)という手法で整理し、損益を正常化させて事業の持続可能性を高めることです。多くの場合、金融機関の支援が不可欠で、スポンサー(支援企業)が関与するM&Aを伴うこともあります。
手法のうち、私的整理は心理的にも事業への影響の面でも痛みが小さいため、まず検討されます。私的整理は対象を金融機関などに限定し、非公開で進められるため、取引先への支払いは続けられ、これまで積み上げた信用を失わずに済むのが大きな利点です。
近年、私的整理の枠組みとして整備されたのが『中小企業の事業再生等に関するガイドライン』です。2022年4月に施行され、その後一部改定されています。これは中小企業の実態に合わせた、新しい準則型の私的整理手続きを定めたものです。
このガイドラインには、事業を残すための『再生型』と、円滑な廃業のための『廃業型』の2つの類型があります。従来の枠組みと比べて、債務超過の解消期間を実質的に長く見るようになり、経営者の退任を必ずしも求めないなど、中小企業が使いやすいよう配慮されています。
抜本再生で経営者が最も不安に感じるのが、連帯保証の問題です。多くの場合、経営者は会社の借入金の連帯保証人になっており、会社の債務が整理されても、保証債務が経営者個人に残ってしまうのではないかと心配されます。
ここで活用できるのが『経営者保証に関するガイドライン』です。これは2013年に全国銀行協会と日本商工会議所などがまとめたもので、自己破産とは異なり、金融機関の同意のもとで保証債務を整理する仕組みです。法的な破産ではないため、資格の制限や信用情報への登録もありません。
さらに、自己破産で手元に残せる現金(自由財産99万円)に加えて、『インセンティブ資産』として一定期間の生計費や華美でない自宅を残せる可能性があります。早期に決断したほうが手元に残せる資産が増えうる、という考え方も示されています。ただし、誠実な情報開示など一定の要件を満たす必要があり、自宅が華美と判断されれば対象外になることもあります。詳細は専門家に確認してください。
抜本再生を決断すべき時期は、資金繰りが決め手になります。抜本再生には弁護士・会計士などの専門家費用がかかり、スポンサーを探す場合はその期間の赤字を補う資金も要ります。私的整理でも、手続きの完了までには早くても9か月、長ければ1年程度かかります。そこから逆算して、資金が尽きる前に動き出さなければなりません。
経営者にとって抜本再生の決断は、心情的に非常に重いものです。多くの方が決断を先延ばしにします。お気持ちは痛いほど分かります。しかし、抜本再生には、育ててきた事業が残り、従業員の雇用が引き継がれるという大きな意味があります。早めの決断と相談こそが、事業の存続、雇用、そして地域経済を守ることにつながります。資金が尽きてからでは、選べる道が極端に狭まってしまうのです。
→ 最後に、こうした取り組みを成功させる経営者に共通する条件をお伝えします。
立て直しに成功する経営者は、計画を人任せにせず、社員を巻き込み、自分の言葉で語る人。
最後に、これまで数多くの立て直しに伴走してきたなかで、うまくいく経営者に共通する条件をお伝えします。
第一に、計画を人任せにしないことです。計画の骨子は経営者自身が考え、自分の言葉で語れることが大切です。数値的な根拠や資料作成は経理担当に任せてよいのですが、立て直しの方針そのものを他人任せにすると、金融機関に見透かされます。
第二に、社員を巻き込むことです。経営改善計画は、盛り込んだ施策を社員一丸となって実行して初めて成果に結びつきます。実行のリーダーである経営者の姿勢が、現場の本気度を左右します。
実際、運営の立て直しに成功した施設では、経営数値を社員に開示し、部門ごとに責任者が数値を管理する体制に変え、研修で人材を育て、現場が『自分たちの力で改善していく』という意識に変わったことが、黒字転換の決め手になっていました。経営者一人の力ではなく、組織全体の力が立て直しを実現するのです。
業績が厳しいときこそ、目先の利益と効率だけに目を奪われがちです。しかし、お客様を知り尽くすこと、社員の信頼を得ることといった、一見遠回りに見える積み重ねが、将来の確かな武器になります。
基本的な計画であれば、本コラムで紹介した手順に沿って自社で作ることは可能です。ただし、金融支援を伴う本格的な計画や、複数の金融機関との調整が必要な場合は、専門家の支援を受けたほうが確実です。認定経営革新等支援機関の支援を受ければ、費用の一部に国の補助も活用できます。
むしろ早い段階での相談をお勧めします。近年は『早期着手』が重視されており、状態が軽いうちのほうが選べる手段が多く、立て直しもしやすくなります。資金繰りに少しでも不安を感じたら、その時が相談のタイミングです。
誠実に情報を開示し、立て直しの意思を示せば、金融機関も支援を検討します。むしろ問題を隠したまま事態が悪化するほうが、信頼を損ないます。最新のガイドラインでも、事業者からの情報開示を理由に不利な対応をしないことが金融機関に求められています。
借入金の総額の大きさそのものは、再生の成否を決める本質ではありません。重要なのは、本業でどれだけ現金(償却前営業利益)を生み出せるかです。借入が多くても本業で稼げていれば、立て直しの道はあります。一度、専門家に現状を見てもらうことをお勧めします。
返済猶予は一時的な時間稼ぎです。その間に経営改善を進め、本業の現金を生み出す力を回復させることが目的です。猶予を受けている間に計画を着実に実行し、改善の実績を示せれば、金融機関の評価は回復していきます。
施策の内容や施設の状況によりますが、経費削減は比較的早く効果が表れます。売上の回復は相手があるため時間がかかり、口コミ評価の改善などは数か月から取り組んで徐々に効いてきます。計画は1年単位で進捗を確認しながら、粘り強く実行することが大切です。
一概には言えません。協議会は公的機関ですが、運用面では必ずしも完全に中立とは言い切れない面もあります。一つの目安として、取引銀行が3行以上あって個別交渉が難しい場合は協議会の調整力が有効に働きやすく、2行以下であれば各銀行に直接相談し、コンサルや弁護士の協力を得て進めたほうが柔軟で有利なこともあります。よく調べたうえで判断するのが賢明です。
もちろんです。近年は円滑な廃業を支援する『廃業型』の枠組みも整備され、経営者保証ガイドラインを活用すれば手元に一定の資産を残せる可能性もあります。早めに相談するほど、経営者ご自身の再起にも配慮した形での整理がしやすくなります。
いかがだったでしょうか。経営改善計画は、難しそうに見えて、骨格はシンプルです。まず資金繰りで現在地を知り、窮境の原因を掴み、確実に実行できる計画を立てる。そして、争わずに金融機関と向き合い、必要に応じて公的な支援を活用する。この順序を踏めば、立て直しの道筋は見えてきます。
そして何より大切なのは、早く動くことです。状態が軽いうちほど選べる手段は多く、痛みも小さい。資金が尽きてからでは、打てる手が限られてしまいます。
弊社アルファコンサルティングは、特定の金融機関や業者と利害関係を持たない独立した立場から、依頼者であるオーナー様の利益を最優先に、宿泊業の経営改善・事業再生をご支援しています。観光経済新聞でのコラム連載は17年になり、現場で積み重ねてきた知見をもとに、次のようなお手伝いができます。
「自館がいまどの段階にいるのか分からない」「何から手をつければよいか整理したい」という段階でも構いません。早めにご相談いただくほど、選べる選択肢は多くなります。
初回相談は無料です。