ホテル・旅館の収益最大化を導くレベニューマネジメント ― 最新トレンドと現場知見で読み解く実務と判断の体系
価格と稼働のバランスを最適化し、施設の収益力を最大化する実務テクニックを解説します。
この記事を読むとわかること
- ①レベニューマネジメントの本質と全体像、業界で広がる最新動向
- ②ADR・OCC・RevPARの三指標を一体で読む実務的な手法
- ③業態別(都市・温泉・シティ・リゾート・小規模)の収益設計
- ④AI価格設定ツールの実用化と、人間が担うべき判断の役割
- ⑤旅館RM特有の構造的課題と、泊食分離による解決の方向
はじめに ― 稼働率は好調なのに、利益が残らないという声

こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。本記事は、レベニューマネジメントを基礎から応用まで実務的に整理したものです。海外RMシステムIDeaSやDuettoの動向、AI価格設定ツールの実用化状況、ChatGPTやClaudeを使った経営判断支援といった、業界で進行中の最新動向も織り込みました。
最近、多くの旅館・ホテル経営者から同じ声を聞きます。
「稼働率はコロナ前を上回ったのに、なぜか利益が残らない」
「客室単価も過去最高水準なのに、楽にならない」
「2025年6月以降、値引きしなければ予約が入らなくなった」
インバウンド需要が戻り、業界全体としては明るい雰囲気のはずなのに、現場の実感は厳しい。食材費・人件費・水光熱費が上がり続けるなか、宿泊料金だけ据え置きにしていると採算が合わなくなってきています。
2025年6月以降、状況はさらに変わりました。地域によっては宿泊単価の相場そのものが崩れはじめ、値引きしなければ予約が入らないという局面に入った施設も出てきています。レベニューマネジメントを「価格を上げる技術」と誤解したまま運用してきた施設ほど、この相場の変調に対応できず、収益が一気に悪化しています。
打開の鍵は、レベニューマネジメントの正しい理解と実践です。レベニューマネジメントは、価格を上げる技術ではありません。客室を埋める技術でもありません。価格と稼働のバランスを取りながら、施設の収益力を最大化する経営の実務技術です。AI価格設定ツールやサイトコントローラーが普及し、ダイナミックプライシングという言葉も広く知られるようになりましたが、技術が進化しても、本質を理解して実装した施設ほど安定的に収益を伸ばしているという事実は変わりません。ツールだけ導入して基本構造を理解していない施設は、最新ツールを使っても結果が出ないのです。
本記事は、経営者だけでなく、支配人や予約担当の方が読んでも理解できるように書いています。専門用語の意味は本文の中で説明し、業務の現場でどう活きるかもあわせて触れていきます。
この記事で扱う10のテーマ
- ◇ レベニューマネジメントとは何か ― 本質と全体像
- ◇ 経営判断を支える基本指標 ― ADR・OCC・RevPARの読み方
- ◇ 稼働率追いと高単価追いを超えるRevPAR思考
- ◇ 業態別RMの考え方 ― 都市・温泉・シティ・リゾート・小規模
- ◇ 現場で回せる実務手順
- ◇ 予約の積み上がりと取り消しを読む技術
- ◇ AI価格設定の実用化と人の判断の役割
- ◇ 客室収益を超えたTRM(施設全体の収益最大化)
- ◇ 旅館RMの特殊性 ― 1泊2食という商品設計を解く
- ◇ 経営者が陥りやすい判断パターン
→ ここまでが本記事の導入です。次章から、レベニューマネジメントの全体像と基本概念を整理していきます。
1章. レベニューマネジメントの全体像

レベニューマネジメントとは何か
レベニューマネジメント、業界ではRMと呼ばれます。需要と供給のバランスに応じて、価格と在庫、つまり販売できる客室数の枠を調整しながら、収益を最大化する管理手法のことです。もともとは航空業界で体系化された手法ですが、ホテル業界に取り入れられ、現在では旅館にも広く活用されるようになりました。
ここで強調しておきたいことが一つあります。レベニューマネジメントは値上げの技術ではありません。客室を埋める技術でもありません。目的はあくまで収益の最大化であり、価格と稼働のバランスを取りながら施設の収益力を高める経営の実務技術です。「とにかく値上げ」「とにかく稼働を上げる」という二極論を超え、収益というゴールに向かって両方の指標を統合的にコントロールする。これがRMの本質です。
航空業界からホテル・旅館への展開
なぜ航空業界で生まれた手法が、ホテル・旅館で使えるのか。両者の事業構造に、次のような共通点があるからです。
- ・客室数(座席数)が固定的で在庫を増やせない
- ・需要が季節・曜日・イベントで大きく変動する
- ・在庫(空室・空席)の価値は時間とともにゼロに近づく
- ・固定費が大きく、稼働率が利益に直結する
だからこそ、需要予測と価格調整で収益を最大化するという手法が、両業界で有効に機能します。装置産業特有の構造が、レベニューマネジメントの効果を大きくしているのです。
旅館への導入は、ホテル業界よりも遅れて進みました。1泊2食の商品設計や客室係配置といった旅館特有の運営構造が、価格と在庫の柔軟なコントロールを難しくしていたためです。それが最近では、複数の予約サイトの在庫・料金を一元管理するサイトコントローラー、宿泊管理システムであるPMSの導入により、旅館でもRMの実装が現実的になってきました。
需要予測・在庫管理・価格管理 ― RMを構成する三つの仕事
レベニューマネジメントを実装する現場の仕事は、大きく三つに分かれます。
一つ目は需要予測です。フォーキャストとも呼ばれます。過去のデータと外部要因、たとえば季節やイベント、インバウンド動向などから、将来の予約状況を予測する仕事です。経験と勘ではなく、データに基づいて先を読むのがRMの出発点となります。
二つ目は在庫管理、英語ではインベントリ・コントロールと呼ばれる仕事です。販売可能な客室を、どの販売チャネルに、どれだけ配分するか。具体的なチャネルとしては、楽天トラベル・じゃらん・Booking.comなどのOTA、自社サイト、電話予約、旅行代理店があります。それぞれの手数料率や客層を考えながら、配分を決めていきます。
三つ目は価格管理、プライシングです。需要予測に基づいて、日々の販売価格を決定します。最近よく耳にするダイナミックプライシングは、需要に応じて価格を変動させる手法のことで、この価格管理の一手法にあたります。
ダイナミックプライシングがRMそのものだという誤解をよく耳にしますが、これは正確ではありません。RMという大きな枠のなかに、需要予測・在庫管理・価格管理があり、ダイナミックプライシングは価格管理の中の一つの手段に過ぎないのです。
[図表C2-1] レベニューマネジメントを構成する三つの仕事
| 要素 | 仕事の内容 | 代表的なツール・手法 |
|---|---|---|
| 需要予測 | 将来の予約状況を予測する | PMS分析・需要予測ツール・過去データ分析 |
| 在庫管理 | 客室を販売チャネルへ配分する | サイトコントローラー・チャネルマネージャー |
| 価格管理 | 日々の販売価格を決定する | ダイナミックプライシング・AI価格設定 |
ダイナミックプライシングだけを導入しても、需要予測と在庫管理が機能していなければRMは回りません。三つの仕事はセットで初めて意味を持ちます。
「価格設定ツールを入れたのに業績が上がらない」という相談の多くは、この三点セットのうち需要予測か在庫管理が抜けていることが原因です。
RMが効く施設、効きにくい施設
レベニューマネジメントの効果が出やすい施設と、出にくい施設があります。
効果が出やすいのは、平均稼働率が70%を超え、週末には満室日が増えるような施設です。需要が高い時期に価格を上げて収益を最大化し、需要が低い時期に集客施策を打って稼働を確保する。この基本パターンが機能する施設では、RMはよく効きます。
逆に、需要が極端に低い時期が長く続く施設では、RMの効果は限定的です。むしろRMを重視しすぎると、競合施設との値下げ競争に巻き込まれ、地域の単価相場を下げてしまう恐れがあります。観光経済新聞コラムでも度々お伝えしているとおり、競合が安売りしている状況での過度なRM実施は、地域全体のダンピングを助長することにつながりかねません。
この場合に取り組むべきは、RMではなく、大胆な差別化と顧客層の絞り込みです。RMはあくまで、ある程度の需要が見込める施設でこそ威力を発揮する技術なのです。
次の問いに、いくつ「はい」と答えられるでしょうか。
- ・平均稼働率は70%を超えていますか
- ・週末は満室日が月に4日以上ありますか
- ・地域内に同等クラスの競合施設は2〜3軒以内ですか
- ・自館の差別化要因(料理・温泉・立地など)を明確に言えますか
三つ以上当てはまる施設は、RMがよく効きます。二つ以下の施設は、RM以前に差別化・客層絞り込みから取り組むほうが先決です。
→ RMの全体像を捉えたところで、次は経営判断を支える基本指標の話に移ります。ADR・OCC・RevPARという三つの数字を、どう読み、どう使うかを見ていきます。
2章. 経営判断を支える基本指標 ― ADR・OCC・RevPARを使いこなす
ADR ― 客室平均単価
ADRは、Average Daily Rateの頭文字をとった指標で、日本語では客室平均単価と呼ばれます。客室がいくらで売れたかの平均を示す指標で、客室売上を販売した室数で割って算出します。
例えば、ある月の客室売上が3,000万円、その月の販売室数が1,500室なら、ADRは2万円になります。客室単価という言い方をすることもあります。
ADRは、施設の価格帯を測る指標です。同じ施設でも、繁忙期と閑散期で大きく変動し、ターゲット顧客層によっても異なります。インバウンド比率の高い施設ほど、為替動向の影響も受けます。
OCC ― 客室稼働率
OCCは、Occupancyの頭文字をとった指標で、客室稼働率を意味します。客室がどれだけ埋まったかを示す指標で、販売室数を総室数で割って算出します。
例えば、40室の施設で、ある月の販売室数が900室なら、その月のOCCは900÷(40×30日)=75%となります。シンプルでわかりやすい指標です。
OCCは、施設の稼働状況を測る指標です。需要の高さや集客力、価格設定の適切さなど、複数の要素が組み合わさって決まります。OCCだけを見ても、価格が適正かどうかは判断できません。
RevPAR ― 販売可能客室1室あたりの収益
RevPARは、Revenue Per Available Roomの頭文字をとった指標で、販売可能な客室1室あたりの収益を示します。RMで最も重視される総合指標です。計算式はADR×OCC、または客室売上を総室数で割ったものです。
例えば、ADRが2万5,000円、OCCが75%なら、RevPARは2万5,000円×75%=1万8,750円となります。これは、施設全体の収益力を一目で表す数字です。
RevPARが大事なのは、ADRとOCCの両方を統合して評価できるからです。ADRだけ高くてもOCCが低ければRevPARは伸びませんし、逆にOCCだけ高くてもADRが低ければRevPARは伸びません。RMの目的は、このRevPARを最大化することにあります。
[図表C2-2] 三つの基本指標の関係
| 指標 | 意味 | 計算式 | 計算例(40室・OCC75%・ADR25,000円) |
|---|---|---|---|
| ADR | 客室平均単価 | 客室売上÷販売室数 | 25,000円 |
| OCC | 客室稼働率 | 販売室数÷総室数 | 75% |
| RevPAR | 1室あたり収益 | ADR×OCC | 18,750円 |
業態別のRevPAR水準
業態によって、達成可能なRevPARの水準は大きく異なります。自館のRevPARを評価するときは、同じ業態の水準と比較することが重要です。
[図表C2-3] 業態別のRevPAR水準(目安)
| 業態 | RevPAR水準 | 備考 |
|---|---|---|
| 都市部ビジネスホテル | 8,000〜13,000円 | 稼働率重視、ADRはやや低め |
| シティホテル(料飲あり) | 12,000〜18,000円 | 客室・料飲のバランス型 |
| 観光地温泉旅館 | 15,000〜25,000円 | 1泊2食でADRが高め |
| リゾートホテル | 14,000〜30,000円 | 繁閑差が大きい |
| 高級旅館(1泊3万円以上) | 30,000〜80,000円 | ADR重視、客層を絞る |
三指標を一体で捉える
RMの本質は、ADRとOCCを別々に見るのではなく、RevPARで統合して捉えることにあります。ADRだけを上げようとすると、OCCが下がってRevPARが落ちることがあります。逆にOCCだけを上げようとすると、ADRが下がってやはりRevPARが落ちます。
経営者・支配人・予約担当のいずれの立場でも、埋めるか、高く売るかという二択ではなく、RevPARをどう最大化するかを考えることが、RMの出発点になります。
→ 三つの指標を理解したところで、次章では実際の経営判断の場面で起こりがちな「稼働率追い」「高単価追い」の罠と、その超え方を整理します。
3章. 稼働率追いと高単価追いを超える ― RevPARで経営を捉え直す

稼働率追いの罠
とにかく埋めようという発想で値下げを重ねると、OCCは上がってもADRが下がります。結果としてRevPARは伸びません。現場には今月も満室だったという達成感がありますが、経営の数字には反映されないという矛盾が起こります。
さらに深刻なのは、OTAの安い順表示に組み込まれて、価格競争から抜け出せなくなるケースです。一度安売り施設として認識されると、上位顧客層が戻ってこなくなり、価格を戻すことも困難になります。現場で見聞きしてきた中で、最も立ち直りが難しい失敗パターンの一つです。
稼働率は95%なのに、利益は前年比マイナス。なぜか分からない(地方ビジネスホテル支配人)
予約は満室。でも一泊あたりの利益は半分になっている(温泉旅館経営者)
高単価追いの罠
逆方向の罠もあります。うちは高品質だから高単価で売るという発想で、高単価プランばかりに絞ると、OCCが落ちて高単価な空室だらけになります。これも結果としてRevPARは下がります。
特に注意したいのは、地域水準を大きく上回るADR設定です。地域の競合施設のADRが2万円のところで、自館だけ3万円で売り出しても、よほどの差別化要因がなければ顧客は他施設に流れます。差別化要因がサービス品質だけでは、顧客の判断材料として弱いことが多いのです。
RevPAR思考とは何か
稼働率を追うか、単価を追うか。この二択は、どちらも不正解です。RMが問うのは、ADR×OCC、すなわちRevPARをどう最大化するかという視点です。
片方の指標だけを見て価格を動かすのは、危険な判断につながりやすい。例えば、繁忙期に埋まっているからもう少し値下げしても良いかと判断するのは、稼働率視点の罠です。RevPAR視点で見れば、繁忙期こそ価格を上げてRevPARを最大化すべき時期です。
逆に閑散期に単価を維持したいから高めの価格のままと判断するのは、高単価追いの罠です。RevPAR視点で見れば、閑散期は適切に価格を下げて稼働を確保し、RevPARの落ち込みを抑えるべき時期です。
[図表C2-4] 稼働率追い・高単価追い・RevPAR思考の比較
| 判断軸 | 短期の症状 | 中期の影響 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 稼働率追い | OCC上昇・ADR低下 | 上位顧客の流出、価格戻し困難 | OTA安い順表示で抜け出せず |
| 高単価追い | ADR上昇・OCC低下 | 繁忙期取りこぼし、稼働低迷 | 高単価な空室が常態化 |
| RevPAR思考 | 両指標を統合判断 | 繁閑に応じた価格コントロール | 収益力が安定的に向上 |
値上げを判断するときの三つの基準
値上げを検討するとき、何を基準に判断すべきか。経営者の方々にお伝えしているのは、次の三つです。
- ・地域水準のADRと比べて、自館がどの位置にあるか
- ・自館の稼働率が、繁忙期にどこまで上がっているか(90%超なら値上げ余地あり)
- ・ターゲット顧客層が、価格よりも価値(差別化要因)で選んでくれているか
三つすべてが値上げに有利な状況であれば、慎重に進めていく余地があります。逆に、地域水準より既に高い、稼働率も中途半端、価値で選ばれていない状態で値上げに踏み切ると、稼働を一気に落とすリスクが高まります。
値上げは段階的に進めることが鉄則です。一度に20%超の値上げは、稼働を急落させるリスクがあります。
値上げするときは、必ず付加価値(料理のグレードアップ、サービス追加、客室設備の充実など)と組み合わせます。
繁忙期だけ値上げするのか、通期で値上げするのかも、計画的に判断する必要があります。
→ RevPAR思考の全体像を押さえたところで、次は業態別の具体的な考え方に移ります。都市部ビジネス、温泉旅館、シティ、リゾート、小規模宿。それぞれの収益構造に応じた打ち手を整理します。
4章. 業態別レベニューマネジメントの考え方
レベニューマネジメントの基本は同じですが、業態によってRMの効かせ方は大きく異なります。本章では、都市部ビジネスホテル、温泉旅館、シティホテル、リゾートホテル、小規模宿という五つの業態について、それぞれの特性に応じたRMの考え方を整理します。
都市部ビジネスホテルのRM
都市部ビジネスホテルは、平日のビジネス需要と週末の観光・インバウンド需要を組み合わせるRMが基本です。客室タイプはほぼ均一で、料飲売上の比率は低く、客室売上が収益の中心となります。
RMの実装も進んでおり、サイトコントローラーとPMSによるデータドリブンな運用が一般的です。価格変動の幅も大きく、繁忙期と閑散期で2倍以上の差がつくことも珍しくありません。
鍵となるのは、平日と週末の二極化に対応した価格戦略です。平日はビジネス需要に応じた標準料金、週末は観光・インバウンド需要を見据えた強気の価格設定。曜日別の需要パターンを正確に把握することが、RMの基本動作となります。
温泉旅館のRM
温泉旅館は、1泊2食という商品設計が特徴的で、料飲売上の比率が高く(30〜50%)、客室稼働と料飲オペレーションが密接に絡みます。RMだけでなく、料飲の食材原価管理も収益に直結する業態です。
客室タイプも多様で、和室・露天風呂付・特別室といった価格帯のバリエーションが大きい。同じ施設内に1泊2万円〜10万円までの幅がある旅館も少なくありません。客室タイプ別のRMが重要になります。
鍵となるのは、客層別の販売チャネル戦略です。富裕層は自社サイトや高級OTA、ファミリー層は楽天トラベル・じゃらん、インバウンドはBooking.comやExpediaといった、客層別のチャネル設計が、温泉旅館RMの肝です。
客室を埋めると料飲オペレーションが回らない。逆に料飲に合わせると稼働を落とす(温泉旅館支配人)
1泊2食のセット料金だと、価格構造が見えにくくRMが難しい(中規模温泉旅館経営者)
シティホテルのRM
シティホテル(料飲あり)は、宿泊・宴会・婚礼・レストランという複数の収益源を持ちます。客室収益だけでなく、宴会・婚礼・レストランの総合的な収益最大化が課題となります。これはTRM(後述)の考え方が特に有効な業態です。
客層も多様で、ビジネス・観光・インバウンド・MICE・婚礼関連といった多様な需要が並存します。それぞれの客層に応じた価格設定とチャネル戦略が必要です。
鍵となるのは、客室と料飲の連動管理です。宴会・婚礼が入る日には、関連宿泊の確保を優先する。レストランの稼働が低い日には、宿泊プランに料飲をセットして、料飲売上を底上げする。客室単独でなく施設全体の収益で考える視点が、シティホテルRMの中心になります。
リゾートホテルのRM
リゾートホテルは、繁閑差が大きいことが最大の特徴です。夏休み・年末年始・GW・連休といった繁忙期と、平日の閑散期で、稼働率が3倍以上違うことも珍しくありません。
繁忙期はADRを高く取り、稼働率に頼らず収益を最大化する。閑散期はターゲット客層を絞ったプロモーションで稼働を確保する。この繁閑メリハリ運用が、リゾートホテルRMの基本です。
最近では、オールインクルーシブ(宿泊・食事・アクティビティを全て込みの価格設定)を採用するリゾートホテルも増えています。これは追加販売に依存しない収益モデルで、価格の見通しが立ちやすく、客室単価も底上げできるという特徴があります。
小規模宿のRM
客室数が10〜20室の小規模宿は、サイトコントローラーやPMSの導入が経営規模に対して負担が大きい場合があります。しかし、データ管理が手作業中心であっても、RMの考え方は同じです。
小規模宿で特に大切なのは、客層の絞り込みと自社予約比率の向上です。OTAに依存すると手数料負担が重く、価格競争に巻き込まれやすい。自社サイトとリピーター施策で、OTA以外の客層を確保することが、小規模宿RMの肝です。
- ・ターゲット客層を明確に絞る(富裕層・体験重視・特定の嗜好など)
- ・OTAと自社予約のバランスを意識する(自社予約比率を上げてOTA手数料を削減)
- ・リピーター施策を継続的に行う(会員プログラム・ニュースレター・SNS)
- ・繁忙期に強気の価格設定をして、稼働ではなく単価で稼ぐ
→ 業態別の考え方を踏まえたところで、次は現場で実際に回すための実務手順を整理します。誰が、いつ、何を、どう判断するか。五つのプロセスに分けて見ていきます。
5章. 現場で回せるレベニューマネジメントの実務手順

本章では、レベニューマネジメントを現場で実際に回すための実務手順を、五つのプロセスに分けて整理します。経営者の方には、現場が何をやっているか・やるべきかを理解する材料として、支配人や予約担当の方には、明日からの実務として活用していただける内容です。
プロセス1 ― 現状の把握
RMの出発点は、自館の現状を正確に把握することです。最低限、次のデータを毎週・毎月確認します。
- ・ADR・OCC・RevPARの月次推移(過去24ヶ月以上)
- ・チャネル別の予約数・売上・単価(OTA・自社・電話・代理店)
- ・客室タイプ別の販売実績
- ・客層別(個人・団体・インバウンド・ビジネス)の構成
- ・競合施設の価格動向
PMSやサイトコントローラーから出力できるデータがほとんどです。重要なのは、データを取り出すだけでなく、毎週のミーティングで確認する習慣を作ることです。
プロセス2 ― 競合の把握
楽天トラベル・じゃらん・Yahooトラベル等のOTAで、競合施設の予約サイトを確認します。同一エリア・同等クラスの施設を3〜5施設選び、以下を毎日チェックします。
- ・競合の販売価格(平日・週末・繁忙期)
- ・競合の客室在庫状況(満室日・空室日のパターン)
- ・競合の口コミ点数と内容
- ・競合のプラン構成と特徴
サイトコントローラーで競合の価格を自動取得する仕組みもありますが、最も確実なのは自社スタッフが毎朝主要OTAをチェックすることです。価格情報は経営判断の出発点となります。
プロセス3 ― 需要予測の立案
過去のデータと外部要因から、3ヶ月先までの需要予測を立てます。月次・週次・日次の三段階で、徐々に精度を上げていく運用が現実的です。
外部要因として考慮するのは、季節要因(連休・大型連休・夏休み・年末年始)、地域イベント(花火大会・祭り・コンサート・MICE)、インバウンド動向(為替・国際情勢・LCC就航状況)、競合動向(競合の価格設定・新規開業)などです。
PMSの分析機能や需要予測ツール(IDeaS・Duetto・Pricepoint・MagicPrice等)を活用すると、ブッキングカーブの精度が上がります。ブッキングカーブとは、宿泊日に向けて予約が積み上がっていく曲線のことで、過去のパターンと比較することで、需要予測の精度が高まります。
プロセス4 ― 価格と在庫の配分
需要予測に基づいて、日々の販売価格と在庫配分を決定します。価格は、需要が高い日には強気で、低い日にはターゲット客層を絞った設定にします。在庫配分は、サイトコントローラーで一元管理します。OTA・自社予約・電話予約・旅行代理店の各チャネルに、どれだけの客室を割り振るか。OTAは集客力が高いものの手数料負担が重いため、自社予約比率を上げる仕組み(リピーター施策・会員プログラム)も並行して進めます。
サイトコントローラーで予約を一元管理しているのに、その情報を紙に印刷して現場に回し、客室の割り付けを手書きで修正している施設は、いまだに少なくありません。最新のPMSやサイトコントローラーを導入していても、運用設計が古いままでは、システム投資の効果はほとんど出ません。技術と運用のミスマッチは、レベニューマネジメントを実装する上で最大の落とし穴の一つです。
プロセス5 ― 実績の振り返り
月次で実績を振り返り、需要予測との差異を分析します。予測と実績の差は、なぜ生じたのか。その原因を毎月議論することで、次の月の予測精度が上がります。これがRMの学習サイクルです。
振り返りで見るのは、月次のRevPAR推移、チャネル別の予約成果、客層構成の変化、競合の価格動向と自館の対応、予約取消率と要因、客室タイプ別の販売バランスなどです。営業企画と予約担当が共有する月次会議の議題として、この振り返りを定例化することをお勧めします。
[図表C2-5] RM実務の五つのプロセス
| プロセス | 頻度 | 担当者 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 現状の把握 | 毎週・毎月 | 予約担当・営業企画 | ADR・OCC・RevPAR・チャネル別実績の確認 |
| 競合の把握 | 毎日 | 予約担当 | OTA上の競合価格・在庫・口コミチェック |
| 需要予測の立案 | 毎週・毎月 | 営業企画・支配人 | 3ヶ月先までの需要予測と価格戦略策定 |
| 価格と在庫の配分 | 毎日 | 予約担当・営業企画 | サイトコントローラーで一元管理 |
| 実績の振り返り | 毎月 | 支配人・営業企画・経営者 | 予測との差異分析、次月への学習 |
→ 実務手順の全体像を押さえたところで、次はRMの肝となる「予約の積み上がりと取り消しを読む技術」を取り上げます。データを根拠にして判断するための具体的な見方です。
6章. 予約の積み上がりと取り消しを読む技術
予約の積み上がり(ピックアップ)を読む
ピックアップとは、宿泊日に向けて予約が積み上がっていく状況のことです。過去のパターンと比較することで、現時点の予約状況が「先行している」のか「遅れている」のかを判断できます。
例えば、ある宿泊日の30日前時点で、過去3年の平均オンハンド(現時点の予約済み室数)が20室だったとします。今年は同時点で15室しか入っていなければ、5室分の遅れです。これは価格を下げて稼働を確保すべきタイミングかもしれません。
逆に、過去平均20室のところ、25室入っていれば、5室分の先行です。これは価格を上げて単価を底上げできるタイミングです。ピックアップを読むことで、価格判断の根拠が感覚からデータに変わります。
予約の取り消し(ウォッシュ)を読む
ウォッシュとは、予約済みの客室がキャンセル・No-Showによって取り消しになる割合のことです。客層やチャネル、リードタイムによってウォッシュ率は大きく異なります。
業態・季節別の取消発生率を把握することが基本です。例えば、インバウンドOTA経由の予約は取消率15%、直前予約は取消率3%というように、チャネル別・客層別の取消パターンが見えてくると、適切なオーバーブッキング判断が可能になります。
オーバーブッキングとは、想定取消率を見込んで、総室数を上回る予約を受け付ける運用のことです。例えば、40室の施設で取消率10%が見込まれる日には、44室の予約を受け付ける、というやり方です。ただし、実際の取消が想定を下回ると、お客様に客室をご用意できないリスクがあります。慎重な運用が必要です。
積み上がりと取り消しを読む実務
実務的には、PMSやサイトコントローラーから次のデータを毎週確認します。
- ・90日先・60日先・30日先の予約状況(オンハンド)
- ・過去3年同時期との比較(ブッキングカーブ)
- ・チャネル別・客層別の取消率
- ・リードタイム別の予約傾向
データを取り出すこと自体は難しくありませんが、それを毎週の会議で議論し、次週の価格・在庫配分の判断に活かすことが、RMの真髄です。データを取り出して終わりになっている施設が多いのですが、活用してこそ意味があるのです。
単月のデータだけを見て判断する。少なくとも過去3年分の同時期と比較する必要があります。
全体の数字だけを見る。チャネル別・客層別に分解しないと、本当の原因はわかりません。
オーバーブッキングを過剰に進める。お客様にご迷惑をかけるリスクは、収益の上振れより重大です。
→ 予約データの読み方を学んだところで、次は最新トレンドであるAI価格設定の話に移ります。AIの強みと限界、そして人が担う判断の役割を整理します。
7章. AIによる価格設定の実用化と、人の判断の役割

AI価格設定ツールの現状
海外では、IDeaSやDuetto、Atomize、Pricepointといった専門的なRMシステムが、ホテル業界で広く使われています。これらは需要予測から価格提案まで、AIが行うツールです。日本でも、メトロエンジン・ホテリスタ・MagicPrice・空(KUU)といった国産のAI価格設定サービスが普及してきました。
AI価格設定ツールの基本動作は、次の通りです。過去の予約データ、競合価格、外部要因(季節・イベント・天候)を学習し、需要予測を立てる。その予測に基づいて、客室タイプ別・日付別の推奨価格を提案する。承認すれば、サイトコントローラー経由で各OTAに価格を反映する。
AI価格設定の強み
AIの強みは、人間では処理しきれないデータ量を扱えることです。複数のOTAの価格を毎日複数回チェックし、競合の動きに合わせて自館の価格を微調整する。こうした作業は、人手では時間がかかりすぎて現実的ではありません。AIなら24時間365日、自動で実行できます。
需要予測の精度も、人間の経験則を超える場合があります。ブッキングカーブ、競合価格、外部要因、過去パターンを総合的に分析するAIの予測は、特に大規模施設では大きな効果を発揮します。
AI価格設定の限界
一方で、AI価格設定にも限界があります。まず、過去データに基づく予測なので、過去にないパターン(コロナ禍のような未曾有の事態、急激な為替変動、地震等の災害)には対応しきれません。
新規開業時や、市場環境が大きく変わった時期は、過去データが少ないためAIの予測精度が下がります。コロナ禍のような未曾有の事態には、AIの判断が機能しないケースもありました。
価値設計と価格の整合性も、AIだけでは判断しきれません。自館の料理・サービスに見合う価格はいくらかという問いは、施設の価値を理解した人の判断が必要です。
人の判断とAIの役割分担
AIと人の役割分担は、次のように整理できます。
[図表C2-7] RMにおけるAIと人の役割分担
| 役割領域 | AIが担う | 人が担う |
|---|---|---|
| データ処理 | 大量データの処理・予測・学習 | AIの提案を確認 |
| 価格更新 | サイトコントローラーへの自動反映 | 承認権限の保持 |
| 経営戦略 | 戦略を所与として最適化 | ターゲット顧客・価格帯方針の決定 |
| 価値設計 | 価値判断は不可 | 料理・サービス・設備の磨き上げ |
| 新規施策 | 過去データから学習 | 新規施策の企画と効果検証 |
AI価格設定ツールを導入しても、経営判断は経営者の仕事です。AIの提案を鵜呑みにするのではなく、経営戦略に照らして判断する。この姿勢を持たない施設では、AIツールを導入しても効果が出にくいのが現状です。
生成AIによる経営判断支援
近年は専用のAI価格設定ツールとは別に、ChatGPT・Claude・Geminiといった汎用生成AIを経営判断の補助に使う動きも広がってきています。自館の口コミデータ、競合の予約サイトをPDF化したもの、自社の決算書のPDFを生成AIに読み込ませて、「当館が競合他館に負けている構造的な理由を整理して」と問えば、人間が数時間かけて行っていた競合分析が数分で出てきます。
価格設定の文脈では、競合の価格・写真・口コミ・予約導線という4つの指標を横断的に整理させ、自館の弱点と打ち手を炙り出すといった使い方が現実的な選択肢になってきました。
ただし、生成AIが整えてくれた分析結果を、自館の客層・スタッフ体制・価値設計に合わせて翻訳するのは経営者の仕事です。出力された素材を設計図に落とし込めるかどうかが、AI活用の成否を分けます。これは専用ツールでも汎用AIでも同じ構造で、ツールの優劣ではなく、使う側の経営者の翻訳力が問われる時代に入ってきました。
→ AIと人の役割分担を踏まえたところで、次は視野を広げて、客室収益を超えた施設全体の収益最大化、つまりTRMの考え方に移ります。
8章. 客室収益を超えて ― 施設全体の収益最大化を考える
TRM(Total Revenue Management)とは
TRMは、Total Revenue Managementの略で、施設全体収益管理と訳されます。客室だけでなく、レストラン・宴会・スパ・物販などを含めた施設全体の収益を最大化する考え方です。
従来のRMは客室収益(Room Revenue)に焦点を当てていましたが、ホテル・旅館の収益は客室だけでは完結しません。レストランや宴会、スパや物販まで含めた総収益(Total Revenue)で施設の収益力は決まります。
TRMの考え方は、客室・飲食・宴会・物販の各部門を、別々の利益単位として見るのではなく、施設全体の収益最大化という共通目標に向けて最適化するものです。
総滞在価値で施設を捉える
TRMで重要な概念が、総滞在価値(Total Customer Value)です。これは、お客様が滞在中に支払う総額のことで、宿泊料金だけでなく、レストラン・バー・物販・スパ・アクティビティへの支出を含みます。
客室を安く売っても、滞在中に料飲やスパで多く支出していただければ、施設全体の収益は確保できる。逆に、客室を高く売っても、滞在中の追加支出が少なければ、施設の収益は上がりません。客室単独で見るのではなく、お客様一組あたりの総支出で考えることが、TRMの出発点です。
TRMが特に有効な業態
TRMは、特に料飲売上の比率が高い業態で効果を発揮します。具体的には、温泉旅館・シティホテル(料飲あり)・リゾートホテル・高級旅館などです。
ビジネスホテルや小規模宿は料飲売上の比率が低いため、TRMよりも客室RMの徹底のほうが優先順位が高くなります。とはいえ、最近では朝食提供・カフェ・物販を強化してTRMを進めるビジネスホテルも増えています。
TRMを実装する三つのポイント
TRMを実装する際の三つのポイントは、次の通りです。
- ・部門別収益と総収益の両方を月次で把握する仕組みを作る
- ・宿泊と料飲のセットプラン、宿泊と物販のセットプランを設計する
- ・部門間の利益相反(客室を埋めると料飲が回らない等)を経営判断で調整する
TRMは、客室RMより複雑で、組織横断の取り組みが必要になります。経営者の強いリーダーシップと、各部門責任者の連携が、TRM成功の鍵です。
→ TRMという施設全体の視点を持ったところで、次は旅館RMという、本記事の最重要差別化テーマに入ります。1泊2食という商品設計を解き、泊食分離と滞在価値最大化の方向性を整理します。
9章. 旅館レベニューマネジメントの構造 ― 1泊2食という商品設計を解く

旅館RMが難しい本当の理由
旅館でRMの実装が難しい理由は、1泊2食という商品設計にあります。客室と料飲がセットになっているため、客室単独でのRM判断が難しく、料飲の食材原価・人件費が固定的にかかるため価格の柔軟性が低い。これが旅館RMの構造的な難しさです。
観光経済新聞コラムでも度々お伝えしているとおり、1泊2食の商品設計は、価格と稼働の柔軟なコントロールを難しくしています。料金変動の幅を広げにくく、客層拡大も難しい。インバウンド客や週末利用者など、料金体系が異なる客層を取り込むのが構造的に難しいのです。
1泊2食の商品設計が抱える課題
1泊2食の商品設計には、次のような課題があります。
- ・料飲原価が固定的にかかり、客室単独の価格変動幅を取りにくい
- ・夕食を取らない客層(インバウンド・周辺観光重視)を取り込めない
- ・料飲オペレーション(調理・配膳)の制約で稼働を上げにくい
- ・料金構造が見えにくく、価格と価値の対応が顧客に伝わりにくい
これらの課題は、旅館業の伝統的な商品設計に由来するものですが、現在の市場環境では、構造的な改革が求められる場面が増えてきています。
解決の方向 ― 泊食分離
1泊2食の商品設計の課題に対する解決策の一つが、泊食分離です。泊食分離とは、客室料金と料飲料金を分けて販売することで、顧客がそれぞれを選択できるようにする商品設計の考え方です。
泊食分離を進めることで、客室単独の販売が可能になり、料金変動の柔軟性が増します。インバウンド客や周辺観光重視の客層など、夕食を取らない顧客を取り込めるようになります。料飲オペレーションの制約も和らぎ、稼働を上げやすくなります。
ただし、泊食分離を進める際には、地域全体での足並みを揃えることが重要です。自館だけが泊食分離に踏み切っても、地域の競合施設が1泊2食を維持している場合、価格比較が難しくなる懸念があります。地域の旅館組合での議論と協調が、泊食分離成功の鍵です。
[図表C2-8] 1泊2食と泊食分離の比較
| 項目 | 1泊2食(従来型) | 泊食分離(選択型) |
|---|---|---|
| 料金体系 | 客室と料飲のセット価格 | 客室と料飲を分けて販売 |
| 客層 | 国内旅行客中心 | 国内+インバウンド+周辺観光 |
| 料金変動 | 幅を取りにくい | 客室単独で変動可能 |
| 料飲オペレーション | 全室分の調理が必要 | 予約数に応じて調整可能 |
| 価値の伝わり方 | セット価格でわかりにくい | 客室と料飲の価値が明確 |
旅館RMの軸 ― 滞在価値の最大化
旅館RMの真髄は、単に客室の販売を最大化することではなく、お客様の滞在価値を最大化することにあります。これは8章で述べたTRMの考え方と一致します。
観光経済新聞コラムでも触れていますが、宿泊客の自由時間に提供される体験やサービスは、宿泊全体の印象を決定づける要素です。チェックイン後や夕食後の自由時間に、地域の食文化を活かした無料サービス(例えば、味噌こんにゃくスティック、焼きまんじゅう、煎餅焼き体験など)を提供することで、満足度が上がり、口コミ評価やリピーター獲得につながります。
滞在価値を高める要素は、料理・温泉・客室・サービス・地域体験の総合です。RMはあくまで価格と稼働のコントロール技術であり、滞在価値の磨き上げと並行して進めることで、本当の効果が出てきます。
小規模旅館でも実践できるRM
客室数が10〜20室の小規模旅館でも、RMの考え方は実践できます。サイトコントローラーやPMSの導入が経営規模に対して負担が大きい場合でも、エクセルでの予約管理と毎週のミーティングで、最低限のRMは回せます。
小規模旅館で特に重要なのは、客層の明確化と、自社サイト経由の予約比率向上です。OTAに依存すると手数料負担が重く、価格競争に巻き込まれやすい。自社サイトとリピーター施策で、OTA以外の客層を確保することが、小規模旅館RMの肝です。
→ ここまで全体像と実務、業態別の考え方、AI活用、TRM、旅館RMと積み上げてきました。次章では、経営者が陥りやすい五つの判断パターンを整理し、自館に当てはまっていないかを点検します。
10章. 経営者が陥りやすい五つの判断パターン ― RM運用の落とし穴
競合の価格に追随するだけになっている
最も多く見られるのが、競合施設の価格を見て安いほうに合わせるだけの判断です。
隣の旅館が下げたから、うちも下げる。OTAで自館より安い施設があるから、価格を見直す。という思考は、一見合理的に見えます。しかし、これでは利益はコントロールできません。価格の主導権を競合に握られ、相手の動きに振り回される状態です。
自館の価値判断軸を持つことが、この落とし穴を避ける鍵となります。うちの料理・サービス・設備で、この価格は適正かを、競合価格とは独立に判断する力が必要です。競合の価格は参考情報の一つに過ぎず、自館の価値設計に基づく価格こそが本当の根拠です。
高単価プランへの偏りで稼働を落とす
逆方向のパターンとして、高単価プランに過度に偏るケースもよく見ます。
客単価を上げたいという思いから、高単価プランばかりを強化する。ADRは上がりますが、結果として高単価な空室が増え、RevPARが落ちる。OCCの低下が、結局はRevPARを押し下げます。
単価帯のバランスを取ることが大切です。エントリープランから最上位プランまで、価格帯ごとにターゲット客層を想定し、それぞれの稼働を見ながら全体最適を図る。これがRMの王道です。
OTAの価格競争から抜け出せなくなる
OTAでの価格競争に巻き込まれるという落とし穴も、頻繁に見られます。
OTAは安い順表示で、ユーザーに低価格施設を見せやすい仕組みです。この表示順位を上げるために、自館の価格を下げ続ける施設がいます。短期的には予約が入りますが、自館のブランドが安い施設として認識され、抜け出せなくなります。
価値以下で売る前に、付加価値で勝負する。これがOTA価格競争を避ける基本姿勢です。自社予約比率を上げる取り組み(リピーター施策・会員プログラム)も並行して進める必要があります。OTA手数料の詳しい削減手法については、関連記事「OTA手数料削減の実務」で解説していますので、あわせてお読みください。
価格変動の意図がスタッフに共有されない
需要に応じた価格変動を導入したものの、ゲストへの説明が不足しているという見落としもあります。
「先月は2万円だったのに、今月は2万8千円。理由を聞いてもスタッフが答えられない」というケースです。これでは、お客様の納得感が得られません。リピーターほど不信感を持ちます。
価格変動の根拠を、顧客向けにシンプルに説明できるようにしておくことが必要です。「繁忙期は人気が高く、混雑回避のため」「閑散期は静かな環境を楽しんでいただくため」といった、顧客視点の説明が大切です。
オーバーブッキングの管理が機能していない
オーバーブッキング(売り越し)の管理不足も、重大な落とし穴です。
想定取消率を見込んで総室数を上回る予約を受け付ける運用は、収益最大化には有効ですが、実際の取消が想定を下回ると、お客様に客室をご用意できないリスクがあります。
オーバーブッキングを行う場合は、過去の取消パターンを正確に把握した上で、慎重に運用する必要があります。万一の場合に備えて、代替施設の確保や補償ルールも整備しておくことが必須です。
[図表C2-9] 経営者が陥りやすい五つの判断パターンと回避策
| 落とし穴 | 症状 | 回避策 |
|---|---|---|
| 競合追随 | 競合の価格に追随、主導権喪失 | 自館の価値判断軸を持つ |
| 高単価偏重 | 高単価プランばかり、OCC低下 | 単価帯のバランス設計 |
| OTA価格競争 | 安売り施設として認識される | 自社予約比率の向上、付加価値勝負 |
| 説明不足 | スタッフが価格変動を説明できない | 顧客視点の説明準備 |
| OB管理不足 | 客室不足のリスク発生 | 過去取消データに基づく慎重運用 |
経営者の判断軸を持つこと
これら五つのパターンに共通するのは、自館の価値判断軸を持っていないことです。
競合に振り回される、流行に流される、ツールに任せきりにする。こうした姿勢では、RMはうまく機能しません。自館の価値、ターゲット顧客、目指す姿を明確にした上で、その軸に沿って判断する。これが、RM運用の最重要ポイントです。
経営者がこの判断軸を持ち、支配人・予約担当と共有することで、RMは初めて組織として回るようになります。RMは技術ではなく、経営判断の体系なのです。
→ 経営者が陥りやすい判断パターンを押さえたところで、最後にアルファコンサルティングのご支援内容についてお伝えします。
11章. アルファコンサルティングの伴走支援

弊社アルファコンサルティングでは、ホテル・旅館のレベニューマネジメント設計支援、運用体制の構築支援、現場スタッフの教育・トレーニング、サイトコントローラー・PMS・AI価格設定ツールの導入アドバイス、需要予測モデルの構築、業態別RM戦略の策定、生成AIを活用した競合分析・経営判断支援まで、幅広くご支援しています。
海外RMシステムの動向や生成AIによる経営判断支援といった最新トレンドへの精通と、20年超のコンサルティング経験に基づく現場知見の両方を持ち合わせている点が特徴です。観光経済新聞では2009年4月から17年にわたるコラム連載を継続しており、業界の構造的な変化と現場の実態の両方を踏まえた、実践的なご支援を強みとしております。
ご支援できる主なテーマ
- ・レベニューマネジメント体制の構築・運用設計
- ・ADR・OCC・RevPAR分析と価格戦略の策定
- ・業態別RM戦略(都市部・温泉・シティ・リゾート・小規模)
- ・旅館の泊食分離・滞在価値最大化の設計
- ・サイトコントローラー・PMS・AI価格設定ツールの導入アドバイス
- ・生成AIを活用した競合分析・経営判断支援
- ・予約担当・支配人向けのRM教育・研修
- ・月次RM会議の運用支援(オンライン・オンサイト)
ご支援の進め方
まずは現状の課題と目指す姿のヒアリングから始めます。施設の業態・規模・客層・現在のRM体制を踏まえて、ご支援の方向性をご提案します。初回相談は無料です。
ご支援の期間は、課題の規模により3ヶ月から1年程度が一般的です。短期集中型のRM体制構築から、長期伴走型の経営支援まで、施設のニーズに応じて設計いたします。お気軽にご相談ください。
よくある質問(Q&A)
本記事の内容に関連して、経営者や支配人の方々からよくいただく質問をまとめました。実務の参考にしていただければ幸いです。
Q1RMはどの規模の施設から取り組むべきですか?
A客室数20室以上で、平均稼働率が60%以上ある施設であれば、本格的なRMの導入が現実的です。20室未満の小規模宿でも、エクセルでの予約管理と毎週のミーティングで、RMの考え方は実践できます。重要なのは規模ではなく、価格と稼働を統合的に判断する姿勢を経営層が持てるかどうかです。
Q21泊2食の旅館でも本当にRMは機能しますか?
A機能します。ただし、ホテル業界とは異なる工夫が必要です。本記事9章で詳しく解説していますが、客室タイプ別のRMと客層別のチャネル戦略が鍵となります。最近では泊食分離を進める旅館も増えており、料金変動の柔軟性が高まっています。
Q3AI価格設定ツールを導入すれば人手は不要になりますか?
A不要にはなりません。AIは需要予測と価格提案を高速で行いますが、価値設計と経営戦略の判断は人間にしかできません。AIの提案を鵜呑みにせず、経営戦略に照らして判断する姿勢が必要です。AIは判断材料、決定するのは人という役割分担を理解することが、AI活用の成否を分けます。
Q4競合の価格をどう調査すればよいですか?
A楽天トラベル・じゃらん・Yahooトラベルなどの主要OTAで、同一エリア・同等クラスの施設を3〜5施設選び、毎日チェックする運用が基本です。サイトコントローラーで自動取得する仕組みもありますが、最も確実なのは自社スタッフが毎朝OTAをチェックすることです。
Q5オーバーブッキングはどの程度まで許容できますか?
A施設の特性と過去の取消パターンによります。一般的には、過去3年分の同時期・同チャネルの取消率を基準に、安全率を見込んで設定します。インバウンドOTA経由の予約は取消率15%程度、直前予約は取消率3%程度といった違いを把握することが重要です。万一の場合に備えて、代替施設の確保と補償ルールも整備しておく必要があります。
Q6小規模宿でもPMSやサイトコントローラーは必要ですか?
A客室数10〜20室の小規模宿では、必須ではありません。エクセルでの予約管理でも、RMの考え方は実践できます。ただし、OTA手数料の削減・自社予約比率の向上といった取り組みを進めるには、PMSやサイトコントローラーの導入が現実的な選択肢となります。投資額と運用負担を見極めて判断することをお勧めします。
Q7RM導入後、効果が出るまでどの程度かかりますか?
A施設の現状によりますが、一般的には3〜6ヶ月で初期効果が見え始め、1年〜2年で安定的な収益向上が実現します。重要なのは、月次のRevPAR推移を継続的に追跡し、需要予測と実績の差異を毎月議論する学習サイクルを回すことです。
