これからホテル旅館を買収しようと考えている方、事業拡大を考えている方必見!!ホテル旅館の専門家が実体験を踏まえて失敗しないM&Aのポイントを解説します!!(前編)

こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。今年の夏は家族を連れて仕事がてら10件近くのホテル旅館を泊まり歩いていました。普段当たり前のように仕事で宿泊するホテル旅館も家族を連れて行くと、違った発見があります。

この業界に関わっていると、新しく洗練された高級なホテル旅館が素晴らしい、自館はそれがないから負けているのだとクライアント様から話を聞くので先入観を持ってしまいがちですが、家族からの評判が良かったのは、新しい施設でも洗練された施設でも高級な施設でもなく、自分達と価値観があう施設でした。

改めて、「八方美人にならず、自分たちを評価してくれるお客様をターゲットとすること」が口コミ向上の定石だと確信した次第です。

世はホテル旅館のM&Aブーム

さて、今回はM&A戦略についてお話ししたいと思います。インターネットでM&Aと検索すると、血気盛んな業者のサイトばかり出てきて調子の良い事が沢山書かれている事がお分かりいただけます。ホテル旅館を含む観光業のM&Aはかつてないほど広がりを見せています。後継者難など現実的な問題への対応が迫られるケースが増加したことに加えて、オーナー経営者の価値観の変化、M&A仲介業者の隆盛、金融機関のフィービジネスへの積極化、審査基準の緩和等が要因と考えられます。

皆さんの会社にも多くの打診が寄せられていることと思います。事業拡大、発展のチャンスとなる成功事例もありますが、中には本業の業績悪化につながった失敗事例も出てきています。信頼する仲介者から紹介された案件だからといって油断してはいけません。今回コラムでは、M&Aを実施するにあたり失敗しないためのポイントを紹介したいと思います。

一目惚れしない

リゾート地にあるホテル旅館はハイシーズンに行くと大変魅力的に見えます。海がとても綺麗だったと、いわば一目惚れで購入を決定したオーナー経営者が、買収後赤字が拡大し損切りせざるを得なくなったケースが実際にあります。

あるオーナー夫婦が売却希望の出ているリゾートホテルに行ったところ、砂浜がとても美しく、また海水浴客の入り込みも多く活況だったこともあって買収を決意しました。しかし、買収後になって設備の老朽化が激しく、営業継続するためには多額の更新投資を必要とすることが発覚しました。また、オフシーズンは想像以上に宿泊客の落ち込みがひどく、資金繰りに窮するようになり、赤字補填のための役員貸付が膨むことになりました。

銀行と仲介会社の熱心な勧めもあり、売主からの提示条件を丸呑みして買収したものの、もともと経営している旅館にも悪影響を及ぼすようになったため数年で手放すことを決断することになりました。以前、物件を勧めてくれた仲介会社に連絡したところ、市況が悪化しており、当初の購入価格の半額まで下げないと買い手は見つからないだろうとの回答がありました。

このような失敗談は身内の恥なので世に広がることはありませんが、水面下で実際に起きていることです。事業拡大は直感も大切ですが、即断即決はリスクが伴います。信頼できる幹部や専門家を同行させて冷静な判断をすることが望ましいでしょう。

譲渡希望価格を鵜呑みにしない

M&A取引で重要な論点となるのが譲渡価格です。不動産取引と異なり明確な相場がない上に、価格決定に影響を与える要素が非常に多いと言えます。利害関係者によって適正と考える価格も異なります。売主や取引金融機関、仲介会社が主張する価格が妥当とは限らないので注意しましょう。

売主は、土地建物簿価を譲渡価格の目安とするケースが多いです。例えば、開業時の簿価が10億円、減価償却累計額が4億円と仮定すると、6億円以上が希望額となります。転売物件の場合には、購入額にリノベーション投資額を足して減価償却累計額を引いたものが目安となります。売主が不動産投資家の場合は、収益還元価格を目安にすることが多く、極端に割高な希望価格を提示されることがあるので注意が必要でしょう。

取引金融機関は、有利子負債に優先債権、譲渡に伴う諸経費を足した額以上というのが目安になります。譲渡代金で借り入れを完済してもらうことが前提となるからです。信用格付けが要管理以下で貸倒引当金を計上している場合には、借り入れ完済できない水準での売却を承認することもあります。

仲介会社は、同一の会社が売主、買主両方のアドバイザーとなる場合(双方代理)は、譲渡価格の妥当性よりも取引成立が優先されるので注意しましょう。相場より高くても売れると思えば買主に不利な条件でも取引させようとするインセンティブが働きます。反対に、値下げするならば即決すると買主が言えば売主に不利な条件でも売るよう説得することになります。

このように、売り手側の関係者間でも思惑に違いがあるため、価格の妥当性は買主が独自に検証することが大切です。検証の着眼点は、建物・設備の状態、将来の期待キャッシュフロー、更新投資の必要額、期待利回り、投資回収年数、買収資金の銀行返済年数です。これらの論点を考慮して事業計画を作れば、譲渡価格はいくら以下でなければ成り立たないか、自ずと算出することができるでしょう。

いかがだったでしょうか。参考になりましたか?続きは後編を見てください。

もしホテル旅館業・観光業でお困りのことがあればお気軽にご相談ください。皆さんのお役に立てることがあれば大変嬉しいです。

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