新型肺炎(コロナ)終息後に成功するホテル・旅館になるために取り組むべきこと

皆さんこんにちは、ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。観光業界に甚大な影響を与えている新型肺炎(新型コロナウイルス)も終息の目処が少しずつ見えてきました。自粛要請解除後に良いスタートダッシュが切れるよう本格的に準備を始めていきましょう。今回コラムでは、新型肺炎の終息後に更なる発展を遂げるための取り組みポイントを紹介しましょう。

新型コロナ終息後のホテル旅館の経営方針を決める

新型肺炎が終息しても売上がすぐに元どおりになるわけではありません。SARSやリーマンショック、9.11テロ後の宿泊業界の状況をみると、稼働率の上昇に7ヶ月〜1年、稼働率の回復に1年〜5年、平均客室単価の回復に3年〜5年、revPARの回復に4年〜5年かかっています。完全に回復するまでに数年かかると見ておいた方が良いでしょう

営業自粛期間を耐えることだけを目標とするのではなく、数年後を見据えて途中で資金繰りに支障をきたさないように潤沢な資金の調達、経費削減、返済の先送りに努めましょう。新型肺炎の発生前に既往債務の返済に苦労していた施設は、今回の新たな借入れの返済が重なり一層厳しい状況となります。本格的に営業再開する時までに、コスト構造を抜本的に見直して利益捻出に努めましょう。

終息後の宿泊客の回復は、客層によりまだら模様となることが予想されます。早期に回復が想定されるのが国内個人客です。自粛疲れによる旅行意欲の増大や景気刺激策により、国内旅行は終息後すぐに普段以上に活発になると考えられます。次に回復が予想されるのが国内法人客です。出張需要の回復は比較的早く始まると想定されますが、法人客全体の回復は個人需要よりも3ヶ月から6ヶ月遅くなると予想されます。

近隣アジアの観光客(インバウンド)は、外出規制が緩和された中国国内で観光地が大混雑したことを見ても、早期の需要回復が期待されます。渡航制限が解除されれば、1、2ヶ月で回復が始まるでしょう。場合によっては国内法人客の回復よりも早い可能性があります。欧米からの観光需要は、アジアから感染が始まったことから警戒され、本格的な回復は1年以上を要すると予想されます。

客層により売上回復に大きな差が発生すると想定されるため、従来の客層にこだわらず、獲得しやすいターゲット顧客へ軸足を移すことをおすすめします。

少なくとも6ヶ月分の資金を借り入れしておく

自粛要請が解除後されても、しばらくは低稼働・低単価による赤字で現預金減少が続くことが予想されます。資金繰りの心配が絶えない状況になると、前向きな経営改善策に取り組めなくなります。様々な制度融資を活用し十分な現預金を調達しておきましょう。

今回の新型コロナウイルスのような伝染病は、地震等の災害のように倒壊した施設・設備・機械などの復旧に多額の資金が必要とはなりませんが、正常化まで長期間を要します。新型肺炎流行前の宿泊者数・宿泊単価に戻るのに数年かかると予測する専門家もいます。

伝染病の影響が完全になくなるまで事業継続していくためには、十分な現預金の確保が必要です。少なくとも、償却前営業利益のマイナス分、元利金弁済分の6ヶ月分は確保しておきたいものです。金融機関によっては必要資金の3ヶ月分しか一度に融資してくれないことがあるので、本年2月、3月頃に借入れしたものの十分な額ができなかった施設は改めて融資申し込みすると良いでしょう。

2月の段階では、条件変更(リスケ)などを過去行った会社は融資を断られる場合が多かったのですが、3月に入ってからは融資の条件が緩和されました。一度断られたからといって諦めることなく再度申し込むと良いでしょう。融資条件も日を追うごとに条件の良いものが発表されていますので、最新の情報に基づいてより有利な融資制度を申し込みすると良いでしょう。融資制度については、経済産業省のサイトが最も情報が早いです。

日本政策金融公庫等のサイトは経済産業省よりも更新が遅れるので注意しましょう。

固定費の削減を行う

固定費を削減することで、新型肺炎流行前より売上が少ない状況が続いても赤字になりにくい財務体質となります。試算表や総勘定元帳の科目明細をチェックして、経費削減できるものがないか検討しましょう。削減検討の対象となる科目は、売上原価や業務委託費、消耗品費、リース料、通信費、支払手数料、広告宣伝費、光熱水費、修繕費、保守料などです。サブスクリプション型のサービスは、解約まで半年から1年要することもあるので、経費見直しする際には解約可能な月を調べておきましょう。

自粛要請解除後もしばらくは低稼働の日が多くなると予想されます。直接雇用している社員、パートアルバイトは、雇用調整助成金を活用して休業手当を支払う約束で出勤日数を減らし、可能な限り今後も雇用を維持することをお勧めします。

パートアルバイトに休業手当を支払わずシフトに入れずに人件費を少しでも削減したいという経営者の考えは確かに合理的ですが、従業員も人です。無給で休ませた場合、終息後に協力してくれと依頼しても応じてくれない可能性があることに留意しましょう。雇い止めをしたという悪評は地域に広がり、今後人材募集しても人が集まりにくくなるというリスクもあります。また、優秀な人材から転職してしまい運営レベルが下がることも懸念されます。終息後の運営体制を視野に入れながら労務管理の方針を決めることをお勧めします。

コストに応じて料金体系を決める

強い自粛要請によりホテル旅館の多くが休業に入る前は、一部地域では過剰な値引き競争が進み、1泊三千円台まで落ち込むこともありました。緊急事態宣言が解除されても、すぐに宿泊客が元の水準に戻るわけではなく、少ない顧客を各施設が取り合うことになりそうです。無理なダンピング合戦とならないよう気をつけましょう。宿泊者一人あたりの変動費、固定費を把握し、変動費を下回るような宿泊単価にならないよう、最低料金を決めておきましょう。もし、限界利益(売上高から変動費を引いたもの)がゼロに近いならば、休業を続けた方が損失は少ないといえます。すぐに再開業することにこだわらず、様子見をしてからでも良いでしょう。

顧客ターゲットを変更する

新型肺炎に敏感な客層とそうでない客層がいます。新型肺炎の終息見通したったら、風評にあまり敏感ではない層からターゲットにしていくことをおすすめします。例えば、一人旅、若い女性グループ、アウトドア志向の客、ゴルフ客、若いファミリー、カップル、学生グループがこれに当てはまります。この客層は、新型肺炎が流行している中でも旅行する人が比較的多く見られました。終息の目処が立てば、戻りは早いでしょう。

一方で、老人会やスポーツ団体、一般団体、インバウンド、宴会団体は、終息してもしばらくは低迷が続くと予想されます。参加者の一人でも反対意見があれば催行されず、またビザ発給再開から予約、宿泊、売上計上までリードタイムも長いからです。

宿泊プランは、素泊まりや一泊朝食、長期滞在プランが販売しやすいでしょう。終息後もしばらくは、不特定多数の宿泊客との接触が想定される食事会場利用を前提としたプランは敬遠されるでしょう。季節も良くなってくることですし、BBQなど屋外をイメージさせる食事会場のアピールや、近隣の屋外アクティビティ施設と連携したプラン第三者との接触が少ないイメージを持たれやすい貸切露天風呂付きプランが販売しやすいでしょう。

ターゲットとする商圏は近隣を中心に狭い方が良いでしょう。消費者行動が変わり、公共交通機関を避けて自家用車で行ける観光地や施設が好まれている傾向にあるからです。近場の顧客を狙った方が効果的な集客をしやすいといえます。広告を広範囲に渡って出稿しても費用対効果を得るのは難しいでしょう。離島に立地する施設を除き、近隣商圏をターゲットとした宿泊プランづくりをお勧めします。

一般客室は売り止めして、露天風呂付客室や離れ、ヴィラなどプライベート性の高い客室のみ販売するという方法もあります。連泊のみ、素泊まりのみのお客様をターゲットとすれば、最低限のスタッフで運営維持に必要な売上を効果的に確保することできるでしょう。

業務の合理化、人材トレーニングを実施する

新型肺炎が終息してもしばらくは、低稼働・低単価が見込まれるため、少人数で施設運営を行う必要に迫られることになります。このような時に有効なのがマルチジョブです。一人のスタッフが複数部門を掛け持ちできれば、シフトに入れるスタッフは少人数で済みます。生産性向上にもつながるので今のうちから取り組みましょう。

しばらく低稼働が見込まれるにも関わらず、1日のシフト投入スタッフ数が売上減少幅ほど減らないのであれば、業務効率に問題がないか確認しましょう。調べ方は簡単です。部署別、時間帯別の業務内容、成果物を作業レベルで書き出します。そうすると全く利用されていない報告書作成に時間を取られていたり、複数の部署で類似した作業をしていたりという問題を発見することができます。平常時だと業務の無駄を指摘しても現場スタッフに聞き入れてもらいにくいので、今のうちに問題点を洗い出して業務内容や進め方を見直すよう指示することをお勧めします。

教育訓練を行うのも良いでしょう。スタッフを自宅待機ばかりさせるのではなく、雇用調整助成金を活用して教育訓練することをお勧めします。支給基準を満たす研修を行った場合には補助金が加算されるからです。研修テーマは、webマーケティングやコーチング、語学、リーダーシップ能力開発等が良いでしょう。補助金の対象となるかどうか線引きが難しいところがあるので、研修プランを作ったら最寄りの労働局へ事前に相談しておくことをお勧めします。

再燃期への対策をあらかじめ準備しておく

新型肺炎のような伝染病は一旦終息してもウイルスが消滅するわけではありません。再燃期といって、再度流行するリスクがあります。それまでに有効なワクチンが実用化されていれば良いですが、そうでない場合は再びメディアで大きく取り上げられホテル旅館の集客に悪影響を及ぼす可能性があります。いつ再燃期が来てもスムーズに対応できるよう今のうちに準備しておきましょう。

主な取り組み事項は次の通りです。

  • 再燃期の営業方針を決めておきましょう。自粛レベルに応じて、どこまでの営業を行うか決めておくと経営判断に悩むことがないでしょう。例えば、露天風呂付き客室の販売と屋外バーベキュー、通販事業だけ行うなど決めておくと良いでしょう。
  • 追加の運転資金がどの程度必要か計算しておきましょう。本コラムの最後で、ニューズレター申し込みされた方を対象としてコロナ終息後の収支、資金繰り、返済計画が簡単に作れるテンプレートを提供しています。こちらを活用して必要額を算出しておくと良いでしょう。
  • 従業員と共通認識をもっておきましょう。特に再燃期には先行きの不透明さから不安になる従業員が続出することが予測されます。伝染病は再燃するリスクがあることを十分理解してもらいましょう。
  • 取引先と共通認識をもっておきましょう。急な対応が必要となった場合に、取引先とスムーズに商談ができるように、営業マンと電話以外の連絡手段(SNSやメッセンジャーなど)を決めておくと良いでしょう。
  • 事業継続計画(BCP)を作っておきましょう。事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)とは、企業が地震や大災害、伝染病の大流行などの緊急事態に備えて、普段から「緊急時にどの事業を継続させるのか?」、「そのために何を準備し、どのように継続するのか?」などを検討し、事業を継続するための対策などを取りまとめた計画のことをいいます。中小企業庁がBCP策定のマニュアルやガイドライン「中小企業BCP策定運用指針」を提供しているので、こちらの資料を参考に作成すると良いでしょう。

中小企業BCP策定運用指針

この指針は、中小企業へのBCP(緊急時企業存続計画または事業継続計画)の普及を促進することを目的として、中小企業関係者や有識者の意見を踏まえ、中小企業庁が作成したものです。指針には、中小企業の特性や実状に基づいたBCPの策定及び継続的な運用の具体的方法が、わかりやすく説明されています。
この指針に沿って作業すれば、サンプルのような書類を完成することができます。

長期戦に耐えられるか財務診断を行う

政府の支援策が大幅に拡充されたことにより、短期的な資金繰りの目処をつけて落ち着いている施設は多いでしょう。しかしながら、売り上げ回復に長期間を要することで借入金が加速度的に膨らむことが見込まれるのであれば、長期戦に耐えられるか財務診断しましょう。

借入金が膨らみやすいのは、土地建物を賃借して施設運営しているホテル・オペレーターです。料飲原価や水道光熱費、消耗品費、リネン費、清掃費、送客手数料等の変動費は休業によって大幅に削減することができます。人件費も雇用調整助成金を活用すれば、支出を最小限にすることができます。税金も納税猶予や来年度以降の減免が用意されています。

一方で、地代家賃は営業の状況に関係なく毎月高額の支払いを迫られます。宿泊主体型ホテルの場合、売上予算に対して3割を超えることも珍しくありません。中規模の施設でも年間賃料が1億円を超えることもあります。短期的には賃料引き下げや保証金の充当によって経費抑制できるケースもあるが、賃借人も銀行返済があるため賃料引き下げを継続するのは現実的に困難でしょう。

このような状況になると、ホテル・オペレーターは賃料を支払う原資を確保するために多額の借入れを続けなければならなります。終息後の利益で挽回できるのであれば良いですが、そうでない場合は撤退した方が傷は浅く済む可能性があります。今後の事業収支、資金繰り、返済について財務シミュレーションを行い、事業継続すべきか撤退すべきか経済的に合理性のある判断を行うことをお勧めします。

いかがだったでしょうか?新型肺炎(コロナ)終息後の今後の施設運営を行う際の参考になれば幸いです。

次のようなことでお困りであればお気軽にご相談ください(相談完全無料)

  • 新型肺炎で多額の借入を背負ってしまい立ち行かない
  • 終息後にスムーズに業績改善していくためのポイントが分からない
  • 今後の資金繰りが不安なので、もっと借入をしておきたい
  • 今後どのような経営方針が望ましいのか専門家の意見を聞きたい