こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。
 
ホテル旅館の開発や運営は、コンセプト作りが大切とよく言われています。
 
コンセプトとは、商品やサービス、企画の全体を貫かれた観点や思想、テーマを指す言葉です。ホテル旅館業界においては、その館がターゲットとする顧客層の嗜好に合わせて、建物や設備、内装、調度品、サービス、料理、広告などに一貫性を持たせることを言います。
 
ただ、このコンセプト、ただ作りさえすれば良いというものではありません。コンセプトの内容によって、もうかるホテル旅館、もうからないホテル旅館として、オープン前から運命付けられてしまいます。何故ならば、コンセプトによって、ホテル旅館が獲得できる顧客層、客単価、客数、経費が決まってしまうからです。このことは、予想収支を作成して比較してみるとよく分かります。
 
そこで今回は、平均的な規模の旅館について、次のようなコンセプトを3パターン設定し、それぞれどれだけの売上・利益を獲得することができるか分析してみましょう。
 

  • 団体・個人バランス型路線
    団体のお客様から個人のお客様まで様々な客層に対応した典型的なホテル旅館
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  • 格安・高稼働路線
    低価格で何度でもご利用いただける大衆向けのホテル旅館
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  • 高単価路線
    主に個人客を対象とした、ワンランク上ながら手に届く価格のホテル旅館

 

二兎を追えるようで収益的には厳しいバランス型路線

おそらく古い旅館の半数以上がこのコンセプトに当てはまるでしょう。バランス路線というのは結果的に二兎を追う形になっただけで、元々は団体客向けのホテル旅館でした。団体客の減少に伴い、その穴を埋めるために個人客を獲得した結果、団体、個人の両方を集客するやり方となったのです。このやり方は、団体旅行の全盛期に十分な利益を獲得し借入金の返済が進んでいるホテル旅館であれば、経費のやりくりで現在や今後の収支を成り立たせることは可能でしょう。
 
しかしながら、新たに、バランス型のコンセプトのホテル旅館を作っても、すぐに収支が成り立たない(収益で銀行の借入金を返すことができない)状況に陥ることが予測できます。具体的な数字で見てみましょう。

 

ホテル旅館の建設コストは客室数と客室面積、総面積に対する割合、坪当り投資額、1室当り投資額で概算金額を出すことができる


 
設計事務所やゼネコンに相談しなくても、おおよその投資額は素人でも予想することができます。知っておきたいのが、客室数と客室面積、総面積に対する割合、坪当り投資額、1室当り投資額です。まず、建設したいホテル旅館の客室数を決めます。今回の損益シミュレーションでは50室としています。面積は1室当り30㎡としています。水回りや押入れなども含めた広さなので和室の畳数と単純比較はできないですが、シティホテルのツインルーム程度の大きさです。
 
総面積に対する客室面積の割合は40%としています。ホテル旅館は、大浴場やレストランなど共有部分が多いためこの数字が低めです。シティホテルだと50%程度、宿泊特化型のビジネスホテルだと70%程度と言われています。1室あたり面積×客室数を総面積に対する客室面積の割合(%)で割り戻すと、延床面積を出すことができます。
 
坪当り投資額は、安いビジネスホテルだと坪100万円くらい、高級シティホテルだと170万円くらいです(土地代除く)。坪当り投資額に延床面積を掛けると、総投資額を出すことができます。今回のケースは計算を簡単にするために土地代金込みの総投資額としています。

 

売上高は、客室数と営業日数、客室稼働率、客室単価(ADR)、1室当り宿泊人数(同伴係数)、夕食単価、朝食単価、その他売上の比率を決めれば予測できる

売上高は、客室数と営業日数、客室稼働率、客室単価(ADR)、1室当り宿泊人数(同伴係数)、夕食単価、朝食単価、その他売上の比率を決めれば予測することができます。今回は平均的な旅館の数値を置いています。
 

  • 客室数:50室
  • 客室稼働率:60%
  • 1室当り宿泊者数:3人
  • 1泊食事付き料金:1,5000円

 

 

売上原価は、夕食、朝食の原価率を決めれば簡単に出せる

夕食と朝食では原価率の設定が異なりますので、それぞれ決めましょう。今回のケースでは下記の通りとしています。この原価は宿泊料金ではなく、夕食単価、朝食単価に対する原価なので間違えないようにしましょう。
 

  • 夕食原価35%
  • 朝食原価40%

 

 

経費の主なものは、人件費、業務委託費、水道光熱費、送客手数料、アメニティ費、租税公課、広告宣伝費、修繕費、その他経費である

人件費は、夕食を提供する旅館業態の場合、売上に対して30%を超えることが当たり前ですが、今回のケースでは、最小人員で対応するということで売上に対して25.2%に抑えてあります。業務委託費は、客室や共有部分の清掃外注費です。広いお部屋ですし共有部分も加味して1室当り1,000円と設定してあります。その他の項目については平均的にかかると思われる金額を設定してあります。
 

 

普通の努力では赤字となってしまうバランス型

これまで旅館として、ごくごく一般的な売上、費用を算出しましたが、下の表のように、売上から原価と経費、借入金(元利金)を返済するとマイナスになってしまうことが分かります。平均的な旅館を新たに作っても採算が全く合わないということです。もちろん、立地に優れ、非常に優れた商才を持った社長や女将、番頭がいる旅館であれば高収益を実現しているケースもあります。しかしながら、平均的な努力では黒字化は難しいことは良く分かると思います。
 

 

バランス型と聞くと、団体客も個人客も獲得できるので、黒字経営が実現できるように感じますが、実際は異なります。今の時代に、平均的な旅館を作る投資家もいないと思いますが、いかに黒字化するのが難しいコンセプトであるかがよく理解いただけると思います。
 
次回のコラムでは、「格安・高稼働路線」、「高単価路線」の2つの具体的な収支予想をお見せしながら、儲かるコンセプトはどのようなものか議論を深めていきたいと思います。
 
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