こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。
近ごろ、「コンセプトホテル」という言葉をよく耳にするようになりました。アートをテーマにした宿、地域の文化を体験できる宿、本に囲まれて過ごす宿など、はっきりとした世界観を持ち、その世界観に惹かれた人が選んで訪れる施設のことです。
なぜ今、コンセプトホテルが注目されるのでしょうか。そして、自館に世界観を持たせたいと考えたとき、何から手をつければよいのでしょうか。本記事では、コンセプトホテルとは何かという基本から、世界観のつくり方、空間や体験への落とし込み、そして見落とされがちな「世界観と収益の両立」までを、現場でご相談を受けてきた経験を踏まえて整理していきます。
なお、格安・高単価といった料金路線の選び方と収支については、別記事「ホテル・旅館のコンセプト設計|もうかる施設は開業前の路線選択で決まる」で詳しく扱っています。本記事は、その土台となる「世界観・テーマとしてのコンセプト」に焦点を当てます。
この記事を読むとわかること
- 1コンセプトホテルとは何か、なぜ今増えているのか
- 2コンセプトホテルの代表的なタイプ(世界観の方向性)
- 3世界観をどう設計し、一貫させるかの手順
- 4内装・客室・空間・食・体験への落とし込み方
- 5「世界観倒れ」に陥らず、収益と両立させる考え方
目次 タップで開閉

コンセプトホテルとは、明確なテーマや世界観を中核に据えた宿泊施設のことです。アート、地域文化、本、自然、食など、何か一つの世界観を施設全体で表現し、その世界観に共感した客が、あえてその宿を選んで訪れるという構造を持っています。
ふつうのホテルや旅館が「立地」や「価格」「設備」で選ばれるのに対して、コンセプトホテルは「その世界観を体験したいから」という理由で選ばれます。言いかえれば、立地や価格の競争から一歩抜け出し、世界観そのものを商品にしているのがコンセプトホテルです。
注意「コンセプト設計」と「コンセプトホテル」は少し違う
経営の世界で「コンセプト」というと、格安路線か高単価路線か、といった料金や客層の路線選択を指すことがあります。本記事で扱う「コンセプトホテル」は、それとは少し角度が違い、テーマ性・世界観・体験価値に重きを置いた施設のことです。料金路線の選び方や収支については、別記事「ホテル・旅館のコンセプト設計」で詳しく解説しています。
「世界観」というと難しく聞こえるかもしれません。要は「この宿は何を大切にしているのか」を一つに決めること。まずはそう考えてみてください。
ここ十数年、観光市場では異業種からの参入が相次ぎ、国内外のマス層を狙った大型施設が全国で次々に開業してきました。けれども、人口減少や価値観の多様化を考えれば、幅広い層をまとめて狙う経営は、遠からず行き詰まると私は見ています。実際、似たような施設が並ぶと、結局は価格競争に陥りやすくなります。
そこで重みを増しているのが、幅広い層を追うのではなく、熱心に支持して繰り返し足を運んでくれるファン層を育てるという発想です。とくに中小規模の施設は、大手と比べてOTA(予約サイト)を通じた集客で不利になりがちで、価格競争に巻き込まれると利益が残りません。だからこそ、はっきりした世界観で固定のファンをつかむことが、経営の安定につながります。コンセプトホテルが注目されるのは、こうした時代の変化が背景にあります。
→では、コンセプトホテルにはどんなタイプがあるのでしょうか。世界観の方向性で整理してみましょう。
コンセプトホテルと一口に言っても、世界観の方向性はさまざまです。ご相談を受けてきた中で見てきたものを、代表的なタイプに整理すると、次のようになります。自館の立地や強みと照らし合わせながら、どの方向性が合いそうかを考える手がかりにしてみてください。
図表1 コンセプトホテルの代表的なタイプ
地域文化・歴史テーマ型
自然・アクティビティ型
アート・デザイン型
食・体験特化型
特定客層特化型
※ 複数のタイプを組み合わせる施設もある。大切なのは方向性を一つに絞り込み、施設全体で一貫させること。
どのタイプを選ぶにせよ、世界観の中心を一つに絞り込むことが肝心です。あれもこれもと欲張ると、結局どんな宿なのかが伝わらなくなります。次の章で詳しく見ますが、世界観は「誰に・何を・どんな体験を」を一本の筋で通すことで、はじめて力を持ちます。
コンセプトホテルは、むしろ規模の小さい施設のほうが効果を出しやすいという特徴があります。客室数が限られる宿が、幅広い客層を狙うと、設備もサービスも中途半端になりがちです。けれども世界観を一つに絞り込めば、限られた投資と人員を一点に集中でき、その世界観を求める客から強く支持されます。
大手チェーンが価格と利便性で勝負する一方、中小施設は世界観で勝負する。これが、規模で劣る施設が生き残るための、現実的で有力な道だと考えています。実際、高い評価を得ている小規模の宿の多くは、はっきりとした個性と世界観を持っています。





どのタイプが正解、というものではありません。自館の立地や強みと相性のよい方向を選ぶことが、いちばんの近道です。
→世界観の方向性が見えてきたら、次はそれを具体的にどう設計するかです。つくり方の手順を見ていきましょう。


世界観づくりの出発点は、ありきたりに聞こえるかもしれませんが、「誰に・何を・どんな体験を提供するか」を一本の筋で通すことです。ターゲットとなる客層を、まず具体的に思い描きます。その人がこの宿で何を感じ、どんな時間を過ごすのか。そこまで具体的に描き切ることが、第一歩になります。
図表2 世界観を設計する流れ
誰に提供するか
どんな価値観・嗜好を持つ客に来てほしいかを、具体的に思い描く。
何を中心に据えるか
地域文化・自然・アート・食など、世界観の中心となるテーマを一つに絞る。
どんな体験に変えるか
そのテーマを、宿泊客が五感で味わえる「体験」に落とし込む。
施設全体に一貫させる
内装・客室・食・サービス・発信まで、すべてを世界観でそろえる。
ここで大切なのは、世界観を「飾り」で終わらせないことです。ロビーに少し和風の装飾を置いた、というだけでは世界観とは言えません。その世界観が、宿泊客の過ごす時間そのものを変えているかが問われます。
世界観の中心に据えるテーマとして、私がとくにお勧めしているのが、その土地ならではの物語や文化です。地域の歴史、祭礼、伝統工芸、食文化、ゆかりの文人や芸術——こうした資源は、他館には真似のできない、その宿だけの世界観をつくる土台になります。
たとえば、地域で活動するアーティストや地元出身の作家と連携し、館内に作品を展示したり、制作の様子を宿泊客が体験できるようにする取り組みがあります。古くから、文豪が旅館に逗留して執筆に励み、その土地の空気を作品に映してきました。宿泊施設が創作や文化の場となることは、もともと日本に根付いた伝統でもあります。それを現代の宿づくりに生かすのは、自然な発展だといえます。
演劇や地域の芸能を取り入れる宿もあります。館内での短編劇や朗読、地元の神楽や民俗芸能と結びつけた宿泊プランは、土地の歴史や文化を「体験できる物語」に変えて伝える力を持ちます。観光客にとっては単なる娯楽ではなく、その土地そのものを記憶に刻む体験になります。こうした物語性のある世界観は、価格ではなく共感で選ばれる宿をつくります。
→世界観が定まったら、それを空間や体験にどう落とし込むかが次の課題です。具体的に見ていきましょう。


世界観を体験に変えるうえで、まず見直したいのが、ラウンジや談話室といったパブリックスペースです。多くの宿では、こうした空間がロビー周辺に形式的に置かれているだけで、夜は施錠されていたり、手入れが行き届かず活用されていなかったりします。けれども、ここを「世界観を体験する舞台」として作り込むと、他館との差別化に大きく効いてきます。
たとえば、ある宿では、使われていなかった読書室を改装し、その地域の文化に関する資料や地元アーティストの作品を展示するギャラリー兼ラウンジに再生しました。地域の文化に自然と触れられる空間として、静かな人気を集めています。また別の宿では、団体客の減少で使われなくなったロビーの応接セットを撤去し、ゆったりしたソファと読書灯を配し、フリードリンクをセルフで楽しめる静かなくつろぎ空間に作り変えました。チェックアウト後の余韻を過ごす場所として定着しています。
世界観は、パブリックスペースだけでなく、客室や食、スタッフのサービスまで一貫させて初めて力を持ちます。客室の内装やしつらえに世界観のモチーフを取り入れる、食事で地域の食材や物語を伝える、スタッフが世界観の背景を語れるようにする。こうした細部の一貫性が、宿泊体験全体を一つの世界として完成させます。
客室では、テレビの扱いも見直す余地があります。若い層を中心にテレビを見る習慣が薄れており、その代わりに動画配信サービスに対応した環境を求める声が増えています。モニターやプロジェクターを備え、配信サービスを楽しめる客室を整える宿も増えてきました。世界観に合わせて、こうした設備のあり方を考えるのも一案です。
予算に限りのある中小施設であっても、「空間」と「体験」を丁寧に積み重ねれば、大手にはない個性と魅力を生み出せます。大きな投資を一度にするのではなく、小さな工夫を重ねて唯一無二の宿をつくっていく。これがコンセプトホテルづくりの現実的な進め方です。
事例
世界観を突き詰めた宿 ― MOKU ISESHIMA(三重県志摩市)
ここまで述べてきた「世界観で選ばれる宿」を体現した一例として、三重県志摩市の「MOKU ISESHIMA(モク伊勢志摩)」が挙げられます。弊社が事業計画を手がけた施設の一つです。
この宿は、伊勢志摩国立公園内に位置する、1日1組限定のオーベルジュです。禅語の「冷暖自知(れいだんじち)」——水の冷暖は自分で手を入れて初めてわかる——を世界観の核に据え、「体験しなければわからない」価値を前面に打ち出しています。国立公園内で鮨を味わえる希少性、英虞湾の自然と溶け合うインフィニティプールや露天風呂、賢島港からクルーザーで渡るチェックインなど、立地と体験のすべてが一つの世界観で貫かれています。
注目したいのは、世界観を一つに絞り込み、客室数を極限まで抑えている点です。1日1組という思い切った絞り込みは、本記事で述べた「規模が小さいほど世界観が効く」「誰のための施設かを絞り込む」という考え方を、突き詰めた形だといえます。幅広い客を追うのではなく、その世界観に強く共感する客に深く刺さる。これが、価格ではなく体験価値で選ばれる宿のつくり方です。


→ただ、世界観づくりには、ありがちな失敗もあります。次の章で、つまずきやすい点を見ておきましょう。
コンセプトホテルづくりで最も多いつまずきは、世界観が経営者やデザイナーの自己満足で終わってしまうことです。つくり手のこだわりが強すぎて、肝心の「誰のための世界観か」が抜け落ちてしまうのです。
世界観は、それを求める客がいて初めて価値になります。どれほど凝った世界観でも、ターゲットとなる客層の心に響かなければ、ただの独りよがりです。自分が作りたい世界観ではなく、来てほしい客が体験したい世界観を起点に考えること。これを外すと、お金をかけたのに反応が薄い、という結果になりかねません。





じつは、これがいちばん多い失敗です。つくり手の思い入れが強いほど、独りよがりになりやすい。だからこそ、一度立ち止まって客の目線で見直すことが大切です。
もう一つ多いのが、施設の一部だけを世界観に沿って作り込み、その部分だけが施設全体から浮いてしまうという失敗です。たとえば、これまで中価格帯のファミリーや団体を主力にしてきた施設が、一部の客室だけを洗練された世界観で改装すると、施設全体のイメージと整合せず、せっかくの客室が思うように売れないことがあります。
改善策としては、改装した部分の世界観を、施設全体に浸透させていくことです。プロモーションや館内の演出を、新しい世界観に合わせてそろえていく。予算が許すなら、ほかの客室やパブリックスペースも同じ方向性で改装するのが理想です。予算の制約で全面改装が難しい場合は、改装部分を過度な高単価路線にせず、宿泊定員を増やしてグループ向けに販売するなど、稼働を確保する工夫も有効です。
注意世界観と料金路線は、セットで考える
世界観をつくり込むほど、それにふさわしい料金路線を選ぶ必要があります。世界観は高級志向なのに料金は格安、あるいはその逆では、ちぐはぐな印象を与えてしまいます。世界観と料金・収支の路線をどう整合させるかは、別記事「ホテル・旅館のコンセプト設計」で詳しく扱っています。
→世界観倒れを避けられたとして、最後の課題は「収益との両立」です。世界観をどう利益につなげるかを考えます。
世界観は、つくって終わりではありません。それを客単価や収益につなげて初めて、経営として成り立ちます。世界観のある宿は、単なる宿泊ではなく「体験」を売ることができます。そして体験には、宿泊料金とは別の価値が乗せられます。
たとえば、地域の食材や物語を盛り込んだ食事、文化体験のプログラム、世界観に沿った特別なプランは、いずれも追加の単価を生みます。値下げで客を集めるのではなく、体験の価値で適正な料金をいただく。これが、世界観を収益に変える基本の考え方です。
世界観のもう一つの効果は、ファンを育てられることです。その世界観に共感した客は、リピーターになり、口コミで新たな客を呼んでくれます。ファンが増えれば、OTA(予約サイト)への依存や広告費を減らせ、価格競争からも抜け出せます。これは、手数料や広告費に利益を削られがちな中小施設にとって、経営を安定させる大きな力になります。
観光の未来を支えるのは、幅広いマス層ではなく、熱心なファンだと私は考えています。はっきりした世界観を持ち、その世界観を求める客に選ばれ、ファンとして育てていく。世界観と収益は、対立するものではなく、両立させるべきものです。そのためには、世界観づくりと同時に、料金設計や収支の見通しも併せて考えることが欠かせません。





世界観づくりは、決して大手だけのものではありません。むしろ小さな宿こそ強みを出せる領域です。自館らしさを、一緒に形にしていきましょう。
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よくある質問
Q小さな旅館でもコンセプトホテルにできますか。
Aむしろ小規模施設のほうが向いています。客室数が限られる宿が幅広い客層を狙うと、設備もサービスも中途半端になりがちです。世界観を一つに絞り込めば、限られた投資と人員を集中でき、その世界観を求める客から強く支持されます。高い評価を得ている小規模の宿の多くは、はっきりした個性と世界観を持っています。
Q世界観のテーマは、どう決めればよいですか。
A自館の立地や強み、その土地ならではの資源から考えるのが王道です。地域の歴史・文化・食・自然・ゆかりの人物など、他館に真似のできない資源を世界観の中心に据えます。大切なのは、テーマを一つに絞り込み、施設全体で一貫させることです。あれもこれもと欲張ると、どんな宿なのかが伝わらなくなります。
Q大きな投資をしないと、コンセプトホテルにはできませんか。
A必ずしも大きな投資は必要ありません。使われていないラウンジを世界観の舞台に作り変える、地域の作家の作品を展示する、食や体験で物語を伝えるなど、小さな工夫の積み重ねでも世界観はつくれます。大規模改装よりも、空間と体験を丁寧に積み重ねることのほうが大切です。
Q世界観をつくったのに、思うように客が増えません。
A世界観が自己満足に陥っていないかを確認してください。つくり手のこだわりが強すぎて、来てほしい客が体験したい世界観になっていないことがあります。また、施設の一部だけを作り込んで全体から浮いている場合も、反応が鈍くなります。世界観をプロモーションや館内全体に浸透させ、ターゲット客層の視点で見直すことをお勧めします。
Q世界観のある宿は、本当にもうかるのですか。
A世界観そのものが利益を生むわけではなく、体験価値で客単価を上げ、ファンを育てて価格競争から抜け出すことで、収益につながります。世界観のある宿は宿泊だけでなく体験を売ることができ、追加の単価を乗せられます。ただし、世界観と料金路線がちぐはぐだと収益につながりません。世界観づくりと料金設計は、セットで考える必要があります。
Q料金路線(格安・高単価)の決め方も知りたいです。
A格安・高単価・バランス型といった料金路線の選び方と収支の比較は、別記事「ホテル・旅館のコンセプト設計|もうかる施設は開業前の路線選択で決まる」で詳しく解説しています。本記事の「世界観づくり」と、料金路線の選択を併せて考えることで、世界観と収益を両立させやすくなります。
さいごに
いかがだったでしょうか。コンセプトホテルとは、はっきりした世界観を持ち、その世界観に共感した客に選ばれる施設のことです。幅広い層を追うのではなく、世界観でファンを育てることが、これからの中小施設の生き残りにつながります。ただし、世界観は自己満足で終わらせず、体験価値で客単価を上げ、収益と両立させることが欠かせません。
弊社アルファコンサルティングでは、コンセプトづくりや世界観の設計から、それを収益につなげる料金設計・事業計画の策定支援まで、一貫してご支援しております。世界観と収益を両立させる宿づくりを、観光経済新聞コラム連載17年の業界知見に基づいて一緒に整理いたします。特定の金融機関や業者と利害関係を持たない独立した立場から、依頼者の利益を最優先したご提案をいたします。
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