こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。

前回のコラムの中で、「団体のお客様から個人のお客様まで様々な客層に対応した典型的なホテル旅館のコンセプトである『団体・個人バランス型路線』では、平均的な努力をしても利益を上げることはできない」ことを説明しました。

それでは、「格安・高稼働路線」「高単価路線」はどうでしょうか?どちらのコンセプトが売上・利益をアップできるでしょうか? どちらの路線も現実にありうるものですよね。今回コラムでは、この2つを比較していきましょう。

 

  • 団体・個人バランス型路線

団体のお客様から個人のお客様まで様々な客層に対応した典型的なホテル旅館

 

  • 格安・高稼働路線

低価格で何度でもご利用いただける大衆向けのホテル旅館

 

  • 高単価路線

主に個人客を対象とした、ワンランク上ながら手に届く価格のホテル旅館

 

感覚的に判断すると失敗するホテル旅館のコンセプト

「格安・高稼働路線」か「高単価路線」と言ったコンセプトの選択は、情緒的かつ感覚的に行われていることが多いです。

「周りに格安旅館チェーンが進出してきたから、当社も値下げしないとお客さんが来ない」

「うちの地域の旅館組合は、表では最低価格を決めようと言っているけど、裏では値下げ合戦を行って客の取り合いだ。だからうちも値下げしないとお客さんが取られてしまう」

「安いものが流行る時代だ。だから旅館も安くすればお客が沢山来るだろう」

「うちは高いと言われるがオープン以来値下げはしていない。値下げしない理由だって?理由はないよ」

感覚的に判断したことが、たまたま時機が良く業績好転のきっかけとなれば良いですが、実際には裏目に出ることもあります。「なぜ頑張っているのに利益が出ないんだ」と悩まれているホテル旅館の経営者、運営者は少なくないです。

どのホテル旅館のコンセプトが良いか、収支予想を計算して見ると分かる

この悩ましい決断は、収支予想を計算してみると簡単に答えを出すことができます。前回コラム同様、具体的な数字で見ていきましょう。

総売上高は、バランス路線では、客室稼働率60%、1泊2食料金15,000円と設定しています。団体客、個人客をバランスよく獲得するパターンなので1室あたり宿泊者数は3名です。これは、団体客が4〜5人/室、個人客が2人/室なので平均をとると3名程度になるという意味です。

格安・高稼働路線では、客室稼働率90%、1泊2食料金10,000円と設定しています。格安路線では三世代やファミリー客の比率が一般的に高まる傾向にあるので1室あたり宿泊者数は3名のままです。

高単価路線では、客室稼働率60%、1泊2食料金23,000円と設定しています。この価格帯だと、シニア夫婦やカップルの比率が一般的に高まる傾向にあるので1室あたり宿泊者数は2名と設定しています。

3つのコンセプトを比較しやすいように、売上水準はほぼ同じような設定にしています。

売上原価が少なく済むのは、高単価路線

夕食単価、夕食単価は、3つのコンセプトによって異なります。2食分の料金は次の通りです。

  • 団体・個人バランス型路線:9,000円(夕食7,000円、朝食2,000円)
  • 格安・高稼働路線:6,000円(夕食4,500円、朝食1,500円)
  • 高単価路線:10,000円(夕食8,000円、朝食2,000円)

原価率は、3つのコンセプトで共通です。夕食35%(ドリンク込)、朝食40%となっています。このコラムを読んでくれている方の中には、「高単価路線の方が高い食材を使っているので食材原価は高いのではないか」と想像する方がいるかもしれませんが実際には異なります。部屋の部分の料金を高く設定しているので、結果的に売上原価は最も安くなります。

人件費などの経費は3つのコンセプトで大きく変わらないが内訳は大きく異なる

人件費は、格安・高稼働路線は客数が多くなるので、調理部スタッフの人数を1人多めに見込んでいますが、それ以外はほぼ一緒です。コンセプトによって人員数が大きく変わることはありません(夕食もバイキングで提供したり、アクティビティ施設が併設されていたりすると人件費は大きく異なります)。

業務委託費(清掃費)、水道光熱費、アメニティ費についても、格安・高稼働路線は宿泊するお客様の数が多い分だけ、他のコンセプトよりも経費が多くかかることが分かります。格安・高稼働路線は、お客様がホテル旅館に支払う料金は格安となりますが、ホテルが業者に払う経費は安くはならないのです。

コンセプトでこれだけ変わるホテル旅館の利益

これまで、初期投資、総売上、売上原価、経費を見てきました。3つのコンセプトの儲けはそれぞれどれだけ得られるでしょうか?計算結果を見てみましょう。

バランス路線は、前回コラムで説明した通り、銀行借り入れ後の利益がマイナス、つまり事業継続できないことが分かりますが、他の路線はどうでしょうか? 格安・高稼働路線の返済後利益の欄をみるとマイナス額が大きくなっていることが分かります。つまり、バランス路線よりも悪化しているのです。一方で、高単価路線をみてみると、返済後利益は4千万円以上のプラスとなっています。このことから、3つのコンセプトで最も利益獲得が期待できるのは、「高単価路線」であることが分かります。

 

もちろん、議論を単純化するために一般的なホテル旅館の数値で計算しているので、「うちのホテル旅館と違う」という意見もあるでしょう。この議論は、実際のケースに当てはめてみないと正確な判断はできません。

 

それでも、この比較表を見れば、「値下げ競争に勝って稼働率アップに成功しても、なぜか手元に残るお金が少ない(もしくは赤字になってしまっている)」という悩みを抱えているホテル旅館の経営者、運営者が、「なぜ赤字になっているのか」、メカニズムを客観的に理解することができるでしょう。

 

「格安・高稼働路線をとっている格安旅館チェーンは成功しているのではないか?」という意見もあるでしょうが、このような業態がとっているやり方は中古物件だからこそ上手くいく話です。このようなチェーンホテルは、バブル期に高額の建設費をかけて贅沢に作ったホテル旅館を中古で安く取得しており、初期投資が極めて安く済むから成り立つのです。重い借入金の残った中堅規模のホテル旅館が同じ路線をとっても、立地に優位性があるか商才を持っていないと到底採算を取ることはできません。

現状で我慢するか?新たな設備投資をするか?ホテル旅館の二つの選択肢に対する明快な答え

今回の比較表は、運営を続けて設備の商品力が落ちてきたホテル旅館の経営者、運営者が、

「このまま我慢してリニューアル投資をせず経費を節約しながら運営を続けるか?」

「ここで思い切ってリニューアル投資をして、客単価アップを目指していくか?」

という二つの選択肢について明快な答えを与えてくれます。

 

すなわち、我慢してリニューアルをせず客単価を落とすということは、いわば格安路線に向かうということであり、仮に高稼働であったとしても将来行き詰まるリスクが高いということが分かります。「投資を我慢して経費を切り詰めて利益を出すという方針は、ホテル旅館業では失敗につながる」というのは重要な示唆です。

 

一方で、銀行から追加融資を受けて、思い切ってリニューアル投資をしても、単価アップに成功することができれば十分に利益を出すことが可能(=返済を行うことが可能)ということが分かります。古いホテル旅館で我慢せずに(本当は我慢しているのはお客様ですが)、戦略的なリニューアル投資を行うことをお勧めします。

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