こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。
すっかり冬めいてきましたね。紅葉シーズンで猛烈に忙しいホテル旅館の方も多いと思います。特に早番、遅番の方、くれぐれも体調管理にはお気をつけください。

さて、今回のテーマは、「インバウンドツアーはホテル旅館にとって儲かる?儲からない?」です。ちょうどタイミングを同じくして(マネたわけじゃないですよ笑)、旅行代理店の業界誌「トラベルジャーナル」が「インバウンドは儲からない?」という興味深い特集記事を書いています(詳しくは、「トラベルジャーナル」2017年11月13日号をご覧ください)。

インバウンドツアーに対する捉え方は、ホテル旅館業界も同じで、色々な経営者、運営者に聞くと賛否両論の状況です。当然受け入れ方針も様々です。

「インバウンドツアーを入れすぎると、日本人が来なくなっちゃうよ」
「インバウンドツアーは安すぎるからね。閑散期に空室があればやむなく受け入れるけど」
「インバウンド??うちはFIT(個人旅行)しか受け入れないよ」
という否定的な意見がある一方で、
「インバウンドツアーってどうすれば集客できるの?営業のやり方を教えてください」
「インバウンド専門のホテルを作ろうと思っている。儲かるよ」

という積極的な意見もあります。

果たしてどちらの意見が正しいのか?あるいは、儲かる条件、儲からない条件はあるのか?今回コラムでは、この謎を具体的な売上、利益の予想数値を示しながら解明してみましょう。

 

一般的な旅館がインバウンドツアー受け入れた場合の利益を規模別に大胆予想!

次のような旅館をイメージして、50室の中規模旅館と100室の大規模旅館とで収支がどうなるのか予想してみましょう。

【想定する旅館のイメージ】

  • 日本人客とインバウンドツアー6:4〜7:3くらいの比率で受け入れている
  • 1泊2食料金の平均は13,000円(日本人16,000円前後、ツアー10,000円前後)
  • 客室稼働率は80%
  • 1室あたり宿泊者数は2人(日本人は個人客が多い)

 

中規模旅館がインバウンドツアーに力を入れると大赤字、大規模旅館は果たして?

50室程度の中規模旅館がインバウンドツアーを受け入れすぎると大赤字という予想になりました。

なぜこのような状況になるかというと、日本人客(FIT客を含む)を基準にハード設備のグレードや人員配置、客室備品やアメニティを設定しているので、低単価なインバウンドツアーを受け入れているからといって、経費負担が下がらないからです。スタッフもインバウンドツアーの比率が高まってきたからといって安易に人員削減もできず(日本人の比率が高い時期は、スタッフ数が必要になりますよね)、アメニティもグレードの低いものにできないので、インバウンドを受け入れれば受け入れるほど赤字が大きくなるという状況になります。客室が空いているときに、ほどほどの受け入れが良さそうですね。

それでは100室程度の大規模旅館がインバウンドツアーに取り組んだら、どのような収支予想になるでしょうか見てみましょう。

収支予想によるとやや黒字ということが分かります。この収支予想は、あくまでも一般的な投資、経費をかけた場合ということなので、坪あたり総投資を160万円よりもずっと低くして、営業面積を増やし、スタッフ数や客室アメニティ、清掃費を削減すれば利益を出すことはできそうです。100室程度の旅館であれば、工夫次第で儲けを出せそうですね。

 

インバウンド専用の旅館を作ったらどうなる?儲けを大胆予想

それでは思い切ってインバウンド専用の旅館を作ったらどうなるでしょうか?収支を予想してみましょう。まずは中規模のインバウンド専用旅館から。

収支を見てみると、日本人とインバウンドツアーを両方受け入れている旅館とあまり変わらない結果となりました。収支を具体的に見てみましょう。売上をみると、1泊2食料金が9,500円と低いため3億円あまりしかありません。一方で、経費をみると人件費はずいぶん少なくなっています。インバウンドツアーの場合は、添乗員がチェックイン手続きや部屋割り、客室案内、レストラン案内などを手伝ってくれるので、ホテルスタッフは少人数で対応できるからです。また、食事も一般的な旅館のような品数の多いコース料理ではなく、手早く済ませられる御膳かミニコースを提供するケースが多いので、料飲サービススタッフも少なくて済むことも人件費の節約につながります。

人件費以外の経費項目で特色があるのは、送客手数料、アメニティ費です。送客手数料は、海外のツアー会社か日本国内のランドオペレーターになり、一般的な手数料率は10%です(送客手数料を計上せず、手取りの収入を売上計上している旅館もあります)。アメニティ費は日本人むけと異なり、随分簡素なものを置くケースが多いので安く済みます。

このように、日本人客と比べて、経費は随分安く済ませることも可能ですが、1泊2食料金が低いために利益を出すことは難しそうです。このことは100室規模の大旅館でも同じ結果になります。予想結果を見てみましょう。

人件費などの固定費は安く済みますが、スケールメリットを活かしても通常の経費のかけ方では黒字化は難しそうですね。大胆な経費抑制を行って、やっと銀行の借金が返せる状況のようです。

 

インバウンドツアーは本当に儲からない??

ここまで読まれた方は「インバウンドツアーはやっぱり儲からないんだ!」と思ったに違いありません。今、同じような投資額、宿泊単価、経費構成でやっている旅館で利益を出しているのは、給与を低く抑えているか、食材原価を限界まで落としているか、減価償却をやらないか、修繕や設備投資を先送りしているかのいずれかでしょう。相当な無理をしてやっと運営していると予想されます。

一方で、インバウンドツアーを受け入れて儲けている会社も実際にあります。どんな場合だと利益を出すことができるのでしょうか?今回は2つのケースを検討してみましょう。

中古旅館を買収、改装してインバウンドツアー専用旅館を作る

古くなった旅館を買い取って、少しだけ内装や調度品などをリニューアルして、インバウンドツアー専用の旅館を作ったら儲けはどうなるでしょうか。今回のケースでは、坪単価40万円と仮定します(50室の旅館で総投資は約4億5千万円)。

この場合だと、借入金の毎年の返済が少ない分だけ利益を出すことができます。1泊2食9,500円ならば多少古くても文句は出ないでしょう。大規模修繕や耐震改修の心配がありますが、その問題がクリアできれば儲けは出せそうですね。

宿泊主体型ホテルを作って、インバウンドツアー専用とする

都市部に宿泊主体型ホテル(宴会場がなく、宿泊者用のレストランなど最小限の設備を備えたホテル)を作って、インバウンドツアーの受け入れを行ったら儲けはどうなるでしょうか?ちなみにホテルの建設投資は、主要都市の好立地を想定し下記の通りとしました。

  • 容積率 600%
  • 建ぺい率80%
  • 敷地面積 150坪(坪単価600万円)

主要都市の好立地ということなので、土地の坪単価は600万円と少々お高めですが、旅館と違って1室あたりの面積が20㎡でも大丈夫なことと、総面積に対する客室面積の割合(総面積のうち、宿泊売上になる面積の割合)が60%と、同じ面積で旅館ならば50室の規模にしかならないところ、宿泊主体型ホテルならば100室作れるというところで効率性は非常に高いことが分かります。

収支自体は100室規模の海外ツアー専用旅館と変わらないので説明は割愛しましょう。気になる収支を見てみると、大幅黒字であることが分かります。宿泊主体型ホテルでインバウンドツアーを受け入れるならば随分儲かりそうですね。

ここまで読んでくれてどう思われましたか?イメージ通りでしたか?イメージと違う部分がありましたか?私自身、この収支予想を作りながら感じたことは、「総投資と収支のバランスが利益を決定する」という当たり前のことです。この考えからすると、団体向けに作った旅館がビジネスホテルとインバウンドツアーを取り合うのは、いかに賢明でない方針か分かります。そもそも建物にかけているお金(と作るために借りたお金)の額が全然違うのだから、同料金でやっても割りに合いません。

感覚的にインバウンドは儲かる?儲からない?論争をするのではなく、具体的な投資額、収支の数字を比較して見て、しっかりとした数字の根拠に基づいて経営判断することをお勧めします。

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