ホテル旅館の飲料原価と売価見直し ― ABC分析と100円値上げの実務マニュアル

📍 この記事は ホテル旅館の経費削減完全ガイド のクラスター記事です

こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。本記事では、ホテル旅館の飲料原価と売価見直しについて、ABC分析・100円値上げの実務・客室冷蔵庫の収益化まで、現場で実践できる具体策をお伝えします。経営者の方・支配人の方・料飲部門ご担当者の方にお読みいただきたい内容です。

飲料原価は、食材原価と比べて見落とされがちなテーマです。しかし、食材原価を100円下げるのも、ドリンク1杯を100円上げるのも、利益への効果は同じです。むしろドリンクの売価見直しの方が、食材原価の削減よりずっと簡単に利益を増やせます。本記事では、私が長年お勧めしているABC分析と100円値上げの実務手順を、現場で支援してきた経験を踏まえてお伝えします。

この記事を読むとわかること

  • 業態別の飲料原価率の目安(温泉旅館・シティホテル・リゾート等)
  • ABC分析によるドリンクメニュー再構築の実務手順
  • 100円値上げを成功させる4ステップ
  • 棚卸資産回転率による在庫適正化の指標
  • 客室冷蔵庫の収益化アイデア(軽減税率8%の活用)
  • ストーリーのあるドリンクメニューで値上げを成功させる方法
  • 500円アップ運動 ― 宿泊客1人あたりの売上を伸ばす実践
📑 目次(クリックで開閉)

1. 飲料原価率のベンチマークと現状認識

想定読者 経営者・支配人・料飲部門責任者(調理長・板長は参考程度)
問題 飲料原価率が上昇傾向でも気づかず、過剰在庫が資金繰りを圧迫している
解決策 業態別ベンチマークと比較し、原価率の上昇要因と在庫量を点検する
効果 原価率1ポイント改善で年商3億円の旅館なら年間100万円規模の改善
ひとことで ウイスキーは仕入価格が数倍になっています。原価率の再計算が必須です

業態別の飲料原価率ベンチマーク

飲料原価率は業態によって異なります。私の経験上の目安を整理しました。

【図表C4-1】業態別 飲料原価率の目安

業態 飲料原価率の目安 特徴
温泉旅館(料飲一体型)25〜30%夕食時のドリンク需要が中心。地酒の品揃え次第
シティホテル(レストラン併設)28〜35%ワイン・ハードリカー比率で変動。バー部門で原価率高め
ビジネスホテル(朝食バー)20〜28%客室冷蔵庫・自販機が中心。回転率が鍵
リゾートホテル(オールインクルーシブ)30〜40%飲み放題プラン中心で原価率は構造的に高め
高級旅館・ラグジュアリー22〜28%高級酒の品揃えと売価設定で利益確保

自館の業態と比較して、飲料原価率が目安の上限を超えているなら、仕入単価の上昇か売価設定の見直し漏れが原因です。

仕入単価の上昇を見落としていないか

飲料原価率が上昇傾向にある施設は、仕入単価が大幅に上昇していないか伝票をチェックしてみてください。特にウイスキーのように、従前の数倍になったものがあります。

1品ごとに料飲原価率を算出し直して、ドリンクメニューの内容や価格を見直すことをお勧めします。多くの施設では、メニュー価格を据え置いたまま仕入単価が上昇しているため、知らず知らずのうちに原価率が悪化しています。

→ 次章では、ドリンクメニューを科学的に分析する「ABC分析」の手法と、ランク別の具体的なアクションをお伝えします。

2. ABC分析によるドリンクメニュー再構築

想定読者 経営者・支配人・料飲部門責任者
問題 ドリンクメニューが30〜50品もあり、何を優先的に見直せばよいか分からない
解決策 売上構成比でA・B・Cにランク分けし、優先順位を明確化する
効果 AランクとBランクから着手すれば、メニュー全体の80%をカバーできる
ひとことで Cランクのメニューを削減することで管理コストも下がります

ABC分析の基本

ABC分析は、売上構成比に基づいてメニューを3ランクに分類する手法です。ホテル旅館のドリンクメニュー管理においても極めて有効で、私が支援する施設では必ず導入をお勧めしています。

基本的なランク分けの基準は以下の通りです。

【図表C4-2】ドリンクメニューABC分析 ― ランク別アクション表

ランク 売上構成比 注文頻度 取るべきアクション
A上位70%高頻度値上げ余地を検証。原価率を再計算し、競合価格と比較して50〜100円アップを試す
B上位70〜90%中頻度ストーリー強化で単価アップ。地元の銘酒・季節カクテルに置き換えて値上げ
C残り10%低頻度仕入れ停止または定番からの削除を検討。在庫滞留の原因となっていないか確認

ドリンクメニューを丸ごと見直すのは大変ですが、ABC分析で優先順位をつければ取り組みやすくなります。まずはA・Bランクの値上げから着手し、Cランクは思い切って絞り込むのが定石です。

ランク別の具体的なアクション

Aランク(売上の70%を占める主力商品)― 値上げ優先

生ビール・ハイボール・定番カクテルなど、注文頻度が圧倒的に高いメニューが該当します。これらは多少の値上げをしても顧客の心理的抵抗が比較的小さいため、最初に値上げの対象とします。

Aランクのメニューは、競合の飲食店・他の旅館ホテルとの価格比較を行い、市場相場より低ければ50〜100円の値上げを検討してください。値上げの根拠を「グラスのグレードアップ」「使用ブランドの変更」など付加価値の説明と組み合わせると、顧客の納得感が高まります。

Bランク(売上の20%を占める準主力)― ストーリー強化

地酒・ワイン・季節カクテルなど、選んで注文される客層が一定数いるメニューです。これらはストーリー性のある演出で単価アップを図ります。たとえば「契約酒蔵限定の純米吟醸」「地元産フルーツを使った季節限定カクテル」など、メニュー説明文と提供時のスタッフ声かけを工夫します。

Cランク(売上の10%以下のロングテール)― 整理対象

月に数杯しか出ない、在庫が長期間滞留している、特定のスタッフしか作れない、といった条件に該当するメニューは、思い切ってメニューから削除します。在庫資金が解放され、メニュー管理の手間も削減できます。

→ 次章では、ドリンク値上げを実際に進めるための、具体的な4ステップの実務手順をお伝えします。

3. ドリンク値上げの実務 ― 100円値上げ4ステップ

想定読者 経営者・支配人・料飲部門責任者・ホールスタッフ
問題 値上げをしたいが顧客離れが怖く、何から始めれば良いか分からない
解決策 原価率再計算→新メニュー設計→スタッフ研修→実施の4ステップで進める
効果 ドリンク100円値上げで年商3億円の旅館なら年間300万円規模の利益改善
ひとことで 見落としがちなドリンク類の売価。100円の値上げは食材原価100円削減と利益効果が同じです

なぜドリンク値上げが効果的なのか

近年の食材原価高騰により、同じレシピで食材選定すると原価率上昇が避けられない状況になっています。食材のレベルを維持しながら原価低減するのが限界にきている施設は多いでしょう。

見落としがちなのが、ドリンク類の売価です。食材原価を100円下げるのも、ドリンク1杯を100円上げるのも、利益への効果は同じです。

しかも、ドリンクの値上げは食材原価の削減と異なり、料理の質を下げるリスクがなく、調理部門の合意形成も不要です。経営判断だけで進められる、極めて取り組みやすい施策なのです。

100円値上げを成功させる4ステップ

【図表C4-3】ドリンク100円値上げの導入手順

Step アクション 具体的な作業
1原価率の再計算過去半年の仕入伝票で現在の仕入単価を確認。1品ごとに原価率を再算出し、現在の売価で許容範囲か判定
2新メニューの設計A・Bランクの値上げ幅を決定。同時に魅力的なドリンクメニュー(地酒・季節カクテル等)を新規追加
3スタッフ研修ホールスタッフ向けに新メニューの説明研修。「お勧めの一言」をマニュアル化し、声かけのタイミングも統一
4実施と効果測定繁忙期を避けて切り替え。1ヶ月後に1人あたりドリンク売上を前年同月と比較し、効果を検証

ストーリーのあるメニュー開発の具体例

100円の値上げを受け入れてもらえるよう、魅力的なドリンクメニューの開発やホールスタッフからの声かけを実施すると良いでしょう。地元の銘酒や季節のカクテルなど、ストーリーのあるメニューは値上げが受け入れられやすい傾向にあります。

実際に効果が高いメニュー開発の例を整理しました。

  • サワーシロップの転用: カシスシロップ+ソーダで「カシスソーダ」、カシス+ウーロン茶で「カシスウーロン」など、ノンアルコール・ドリンクを簡単に提供
  • モヒート系の導入: モヒート原液+ソーダで簡単提供。ライム・ミントを添えれば売価アップ可能
  • ノンアルコール梅酒: 飲食店用の梅酒味の原液を使い、ロック・ソーダ割りで提供。客層拡大に有効
  • ハイボールの品揃え拡大: ジンジャー・レモン・ライム・梅シロップ・コーラ・カシス・柚子シロップを組み合わせて多様化
  • 日本酒の飲み比べセット: 4合瓶や300mlボトルより、飲み比べセットの方が売上が伸ばしやすい。原酒は一升瓶で入手して原価率も低減

私が現場でお勧めしている取り組みが、500円アップ運動です。宿泊客1人あたり500円のドリンク売上をアップする目標を、ホールスタッフ全員で共有します。年間6万人の宿泊なら、これだけで年間3,000万円の売上増加です。

ドリンク値上げと料飲部門の収益改善を伴走支援します

  • ABC分析の実施支援(Excelテンプレート提供)
  • 業態別の値上げ幅の検討と新メニュー設計
  • ホールスタッフ向けの声かけ研修と効果測定
  • 客室冷蔵庫の収益化施策の立案

初回相談は無料です(オンライン相談可)

▶ 飲料原価と売価見直しを相談する

→ 次章では、ドリンク値上げと並んで重要な「在庫管理」について、棚卸資産回転率の運用をお伝えします。

4. 在庫管理と棚卸資産回転率

想定読者 経営者・支配人・料飲部門責任者・経理担当者
問題 飲料在庫が1ヶ月分以上あり、資金繰りを圧迫しているが対策が打てない
解決策 棚卸資産回転率で在庫目安を決め、過剰在庫の原因を特定する
効果 在庫適正化で資金繰り改善+ロス削減で年間100万円規模の効果
ひとことで 在庫1ヶ月分以上は赤信号。仕入過剰・売れないメニュー滞留・客室冷蔵庫の品揃えミスのいずれか

在庫1ヶ月分以上は赤信号

原価率以上に気をつけなければならないのが、飲料の在庫量です。

飲料在庫が1ヶ月分以上あるならば、3つの原因のいずれかに集約されます。

  • 仕入過剰: ロット仕入れでまとめ買いしている、需要予測ができていない
  • 売れないメニューの滞留: Cランクメニューの食材が回転していない
  • 客室冷蔵庫の品揃えミス: 客層に合っていない品揃えで、お客様が手を出さない

どれに該当するかで対処法は変わります。必要以上の在庫は資金繰りにも悪影響を与えますので、仕入れを必要最小限にするよう見直しましょう。

棚卸資産回転率の計算と運用

在庫管理の指標として有用なのが棚卸資産回転率(在庫が効率的に売れているかを示す指標)です。計算式は以下です。

棚卸資産回転率 = 年間仕入額 ÷ 平均棚卸高

飲料の場合、回転率の目安は年間12〜24回(月1〜2回転)

食材在庫の回転率(年間36〜52回)と比べて、飲料の回転率はやや低めです。それでも年12回(月1回転)を下回るなら、過剰在庫の可能性が高いと判断してください。

回転率を改善する具体策は、(1) 需要予測に基づく週次仕入計画の作成、(2) Cランクメニューの整理、(3) 客室冷蔵庫の品揃え見直しの3点です。順を追って取り組むことで、半年〜1年で在庫水準を半減できる施設もあります。

→ 最後に、見落とされがちな収益源「客室冷蔵庫」を、軽減税率8%の活用とあわせて差別化要素として活かす方法をお伝えします。

5. 客室冷蔵庫の収益化 ― 軽減税率8%の活用

想定読者 経営者・支配人・料飲部門責任者
問題 客室冷蔵庫の在庫が動かず、滞留・破棄のロスが発生している
解決策 客層に合った品揃え+軽減税率8%適用のPOPで需要喚起
効果 客室冷蔵庫の活用で年間50〜150万円規模の収益増・客室係の負担軽減も実現
ひとことで 客室内冷蔵庫のソフトドリンクは軽減税率8%適用。お得感を明示すれば需要が増えます

客室冷蔵庫は見過ごされた収益源

多くの施設で客室冷蔵庫が活用しきれていません。「お客様が使わないから」「在庫が滞留するから」と諦めている経営者も多いのですが、品揃えとアピール方法を見直せば、立派な収益源になります。

特に重要なポイントが、客室内冷蔵庫にあるソフトドリンクを宿泊客が消費した場合、軽減税率が適用され消費税が8%となることです。

通常の食事・売店での提供は消費税10%ですが、客室冷蔵庫からの消費は軽減税率8%が適用されます。これは法律上の事実ですが、認識している消費者は極めて少ないのが現状です。

実践方法

客室冷蔵庫を収益化するための具体的なステップは以下です。

  • 品揃えの充実: ソフトドリンク・ビール・ハイボール缶・地元の銘酒(小瓶)などを客層に合わせて配置
  • POPの設置: 「客室冷蔵庫のソフトドリンクは軽減税率8%適用でお得です」と明示
  • メニューブックへの記載: 客室内の案内冊子に、冷蔵庫の品揃えと価格を見やすく掲載
  • 客室係の声かけ: チェックイン時の案内で、軽減税率の点もさりげなくアピール
  • セルフ精算の導入: 客室係の手間を省きつつ、お客様も気軽に利用できる体制づくり

客室冷蔵庫を充実させてお客様自身で取ってもらう形にすれば、お得感をアピールできるだけでなく、客室係の負担軽減にもつながります。

よくあるご質問

Q1. ABC分析を行うのに必要なデータは?

過去6ヶ月〜1年分のドリンクメニュー別の販売数と売上金額が必要です。POSシステムから抽出できれば理想ですが、難しい場合は伝票の手集計でも構いません。最初は主要20品目に絞って実施し、慣れてきたら全メニューに拡大する方法でも問題ありません。

Q2. 値上げで客離れが心配です

100円程度の値上げで離脱する客層は、もともと価格重視で別の施設を探していたお客様です。むしろ、ストーリー性のあるメニューを追加することで、お酒に詳しい客層・地酒愛好家など、別の客層を取り込めるケースが多いです。実施直後の1〜2ヶ月は様子を見ながら、必要に応じて修正してください。

Q3. 軽減税率8%の説明をすると会計が複雑になりませんか?

POS側で客室冷蔵庫の売上を別カテゴリで管理すれば、複雑にはなりません。会計事務所に依頼して、月次試算表上で軽減税率対象売上を別計上できるよう設定してもらいましょう。インボイス制度対応の観点からも、適切な区分管理は必須です。

Q4. ホールスタッフへの研修はどう進めるべきですか?

最初は朝礼で15分程度の説明から始め、新メニューの試飲と背景知識(地酒の蔵元・カクテルの由来等)を共有します。お客様への声かけは、強引な売り込みではなく「本日のお勧めは○○です」という自然な提案形式を統一マニュアル化してください。

Q5. 食材原価管理についても知りたい

食材原価管理については、別記事「ホテル旅館の食材原価管理 ― 仕入日計表の作り方から業者選定まで実務マニュアル」で詳しく解説しています。仕入日計表のExcel設計例から業者選定の評価基準まで、現場で使える内容です。

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本記事は「ホテル旅館の経費削減完全ガイド」のクラスター記事です。経費削減全般の戦略・他の勘定科目(食材原価・人件費・OTA手数料・水光熱費等)については、ピラー記事をご参照ください。

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さいごに

いかがだったでしょうか?飲料原価と売価見直しは、料理の質を下げるリスクがなく、調理部門の合意形成も不要な、極めて取り組みやすい施策です。ABC分析・100円値上げ・在庫管理・客室冷蔵庫の収益化の4本柱で取り組むことで、年商3億円の旅館なら年間300〜500万円規模の利益改善が現実的に可能です。

弊社アルファコンサルティングでは、ホテル・旅館の料飲部門の収益改善支援を、これまで多数の施設で実施してきました。観光経済新聞でのコラム連載は2009年4月から17年に及び、業界の構造的な変化と現場の実態の両方を踏まえた、実践的なご支援を強みとしております。

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