最初の緊急事態宣言が解けた、2020年の初夏のことでした。
観光で立つ沖縄は、入域客の急減という、それまで経験のない事態のただ中にありました。先行きが読めないなかで、業界全体が「とにかく値下げをしてでも、客足を取り戻したい」という空気に傾きかけていた時期でもあります。そうした局面で、一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)様より、県内のホテル事業者様に向けた人材育成セミナーの動画制作をご依頼いただきました。
このとき当社が考えたのは、ただひとつでした。この危機の渦中で、経営者の方々に本当に届けるべき助言は何か。不安に寄り添うだけの言葉でも、安易な値下げを後押しする話でもない、混乱の先を見据えた視点を、二つのテーマに込めることにしたのです。
- 依頼者
- 一般財団法人 沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)様
- 対象
- 沖縄県内のホテル・宿泊事業者(人材育成オンラインセミナー受講者)
- 業務内容
- 事業者向け研修動画2テーマの企画・資料作成・撮影・編集・納品
- 当社の役割
- テーマ設計、講師(登壇)、資料制作、撮影・編集、mp4納品までの全工程内製
- 実施時期
- 2020年(資料作成は同年6〜7月/動画は同年7月下旬に公開)
- 主な成果物
- 研修動画2本(各約20分)/配信用mp4
- 公開先
- OCVB 人材育成オンラインセミナー(webinar.ocvb.or.jp)
研修動画
動画の尺
納品まで
を一貫して内製
01.不安のただ中で、何を伝えるか
沖縄は、観光に経済を大きく依存する地域です。それまでは訪日観光客の順調な増加に沸き、国内外の大型イベントを控えて、さらなる需要の伸びが期待されていました。その前提が、感染症の拡大によって一夜にして崩れたのです。入国制限と緊急事態宣言が続くなかで、宿泊事業者の多くが、目の前の資金繰りと、見通せない先行きの両方に向き合っていました。
こうした局面で外部の専門家に求められるのは、不安をなぞって共有することではありません。むしろ、混乱で視野が狭くなりがちな時期にこそ、一歩引いた視点と、回復後を見据えた打ち手を示すことだと当社は考えています。OCVB様とのお打ち合わせでも、「いま耐えるための話」ではなく「回復したときに勝ち残るための話」を、という方向で認識が一致しました。
そこで二つのテーマを設定しました。一つは、価格をどう守るかという経営の根幹に関わる話。もう一つは、人の流れと流通の構造変化を、どう先回りして読むかという話です。いずれも、目先の対症療法ではなく、回復局面で効いてくる視点を選びました。
02.テーマ① 危機のときこそ、価格を下げない
一本目のテーマは、アフターコロナ・ウィズコロナの時期に気をつけるべき、ホテルの価格マネジメントと価格戦略です。需要が急に落ち込むと、経営者の多くが、まず価格を下げて客足を取り戻そうとします。短期的には自然な判断に見えますが、当社はこの局面でこそ、安易な値下げに慎重であるべきだとお伝えしました。
理由は単純です。一度下げた価格は、容易には戻せないからです。周辺施設も追随して価格競争が起きれば、エリア全体の単価が緩やかに沈み、再投資の原資が細っていきます。設備やサービスの更新が遅れれば、単価を引き上げる根拠もまた失われる。出口の見えにくい循環に入ってしまうのです。
FIG.01
需要が落ち込んだ局面での、価格判断の分かれ道
危機の局面では、まず値下げで客足を取り戻そうとする動線(左)に流れがちです。しかし一度下げた価格は戻しにくく、価格競争と再投資余力の縮小という出口の見えにくい循環に入りやすいものです。研修動画では、提供価値そのものを見直して価格を守る考え方(右)を、当時の市場予測とともにお伝えしました。あくまで判断の型を示した概念図です。
では何をすべきか。動画では、価格そのものをいじる前に、誰に何の価値を提供しているのかを見直すこと、そのうえで価格を守る、あるいは適正化していく道筋を、当時の国内・海外の回復予測とともに整理しました。県外移動の解除後、需要がどの順序で戻ってくるのかを見立て、回復の波に合わせて単価をどう設計し直すか。具体的な他社の動きも交えながら、できるだけ平易に解説しています。
03.テーマ② 人と流通の構造変化を、先回りして読む
二本目のテーマは、航空券販売の仕組みの変化が、ホテルにどう波及するかという話でした。沖縄への主な交通手段は飛行機です。当時、大手航空会社が個人向けパッケージツアーの運賃の組み立て方を、需要に応じて価格が動くダイナミックパッケージの方向へと刷新しました。一見すると航空業界の内側の話に見えますが、これは旅行者の動き方そのものを変える変化でした。
旅行の予約のされ方が変われば、旅行者がいつ・どの価格帯で・どんな組み合わせで宿を選ぶかも変わります。旅行会社などの隣接業界がこの変化をどう捉えているのか、そしてホテルはどんな備えをすべきなのか。動画では、外部環境の変化を脅威としてただ警戒するのではなく、自社の予約導線や価格設計を見直す機会として捉え直す視点をお示ししました。
感染症は確かに大きな衝撃でしたが、業界を取り巻く環境は、それとは別の次元でも刻々と動いています。逆境のなかで起きる構造変化を、待つのではなく取りに行く。二本のテーマに共通していたのは、この姿勢でした。
04.なぜ「動画」で、なぜ「外部の専門家」だったのか
この二つのテーマを、集合研修ではなく配信用の動画で届けたことには、当時の事情に照らした合理性がありました。人が集まりにくい時期に、県内各地の事業者へ、同じ内容を均質に、しかも繰り返し視聴できる形で届けられる。動画は、地域全体の学びの底上げに適した手段だったのです。実際、当社が担当した二本は7月下旬に公開され、視聴者数は順調に増えていると伺っています。
そして、こうした地域横断の情報発信は、特定の事業者の立場に寄らない中立的な第三者だからこそ担いやすい役割でもあります。当社は、特定の金融機関・運営会社・建設会社と利害関係を持たない独立した立場で、依頼者の利益を最優先に助言を行っています。だからこそ、県内の多様な事業者に向けて、誰かに都合のよい話ではなく、それぞれの経営判断に資する内容を、公平にお伝えすることができました。
当社は長年にわたり、業界紙でのコラム執筆を通じて、宿泊業の現場で起きていることを継続的に観察してきました。その積み重ねがあるからこそ、危機の渦中でも、目先の動揺に流されない視点を提供できたと考えています。
05.企画から納品まで、すべてを内製する
研修動画の制作にあたっては、テーマの設計から最終的なmp4の納品まで、すべての工程を当社内で完結させました。外部の制作会社に切り出すと、伝えたい内容と映像表現の間に溝が生まれがちです。経営の中身を理解している者が、そのまま資料を作り、語り、編集まで手がけることで、専門性を損なわずに分かりやすさを両立させることを狙いました。
依頼者と狙いをすり合わせ、受講者である事業者にいま必要な論点を絞り込みます。資料作成時点の国内・海外の回復予測や市場動向など、最新の情報を織り込みます。
限られた尺で要点が伝わるよう、構成と図解を設計します。専門的な内容を、現場の経営者がそのまま使える具体性に落とし込みます。
講師としての登壇・解説を収録します。内容を理解している者が語ることで、台本の棒読みにならない、納得感のある解説になります。
視聴しやすい長さ(各約20分)に編集し、配信用のmp4として納品します。納品形式は配信環境に合わせて柔軟に対応します。
この一貫体制によって、企画から納品までを約1.5〜2ヶ月で仕上げました。テーマの数や尺、納品形式は、ご要望に応じて調整できます。会場での講演から、配信用動画の制作まで、目的に合わせた形でお引き受けしています。
─── 沖縄の、ある時期の話として読まれているかもしれません。けれども
本記事をお読みになりながら、ご自身の地域や施設に重ねた方も、少なくないのではないかと思います。需要が読みにくい局面での価格の守り方、外部環境の変化への備え、そして従業員や地域事業者の学びの場をどう作るか。これらは、平時にも危機時にも変わらず問われ続ける課題です。
当社は、こうした研修・情報発信のご支援にとどまらず、価格戦略や経営改善そのものへの支援まで、宿泊業の課題に幅広くお応えしています。次の章では、これまでどのような立場の方から、どのようなご相談を頂戴してきたかを整理いたします。
06.この一本が、地域に残したもの
当社が担当した二本は、OCVB様の人材育成オンラインセミナーの中で、他のテーマの動画と並んで公開され、継続的に活用されています。一度の集合研修であれば、その日に会場へ来られた方にしか届きません。動画として残したことで、必要なときに、必要な事業者が、何度でも学び直せる地域の資産になりました。
当社が大切にしているのは、その場かぎりの励ましではなく、経営者がご自身で判断を下すための材料を残すことです。価格を下げるべきか、守るべきか。外部環境の変化に、どう構えるか。最終的に決めるのは経営者ご自身ですが、その判断の質を支える視点を、地域全体に均質に届けられたことに、本業務の意義があったと考えています。
07.こんなご相談を、これまで頂戴してきました
研修・情報発信のご支援に限らず、宿泊業の人材育成や経営の立て直しに関するご相談は、立場の異なるさまざまな方からお預かりしています。代表的な五つの立場と、よく頂戴するご相談の輪郭を、参考までに整理しておきます。
旅館・ホテルを経営される方
経営の専門的な判断を、身内や従業員だけで抱えるのは難しい。価格や投資の考え方を、外部の視点で整理し、社内にも共有できる形にしたい。
価格戦略・経営改善の助言に加え、その考え方を従業員と共有するための勉強会や研修もお引き受けします。経営者ご自身の意思決定を、外から支える役割を担います。
自治体の観光振興・経済政策ご担当の方
管内の宿泊事業者の底上げを図りたいが、個々の施設を回るには限りがある。地域全体に均質に届く学びの仕組みを作りたい。
本件のような事業者向けセミナーの企画・登壇・動画制作に加え、地域の観光戦略や上質化施策の検討まで、地域全体の歩調を揃える業務を支援します。
観光協会・DMO・業界団体の運営にあたる方
会員事業者向けの研修や情報発信を企画したいが、テーマ設定や講師の選定、配信の手立てまで自前で揃えるのが難しい。
テーマ設計から登壇、配信用動画の制作までを一貫してお引き受けします。特定の事業者に偏らない中立的な立場で、会員全体に資する内容を整えます。
外部環境の変化への対応に悩む施設経営者の方
流通や予約の仕組みが変わり続けるなかで、自社だけで先を読み切るのが難しい。何に備えるべきかを、専門家と整理したい。
市場や流通構造の変化を読み解き、自社の価格設計・予約導線の見直しにつなげる助言を行います。必要に応じて、社内研修の形でも共有します。
ホテルオペレーター・運営本部の方
複数施設の現場スタッフに、価格マネジメントや収益管理の考え方を、均質に浸透させたい。
収益管理・価格戦略をテーマとした研修プログラムの設計から、配信用教材の制作までをご支援します。現場で実際に使える水準の具体性を重視します。
もし以上のいずれかが、ご自身や所属組織の現在の状況に近いと感じられましたら、次の章でご紹介する業務メニューも参考にしていただけるかもしれません。
08.ご相談いただける業務メニュー
当社が観光・宿泊産業向けに提供している業務のうち、本記事のテーマに関わるものを、ご相談の進め方の見当がつくよう整理しました。「自分の状況なら、どこからご相談できるか」をイメージしていただくための、ごく簡易な見取り図です。
いずれも、目的や対象の規模に応じて関与の形を柔軟に調整しています。「研修から始めるべきか、経営改善そのものから入るべきか分からない」というご相談も多く頂戴しており、その整理自体を初回相談でお手伝いしています。
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価格マネジメントや収益管理の考え方を、より詳しく解説した実務記事をご用意しています。お問い合わせの前に、当社の関心や視点を確認いただくのにご活用ください。
危機の局面で、経営者にいちばん必要なのは、慰めの言葉ではありません。動揺で視野が狭くなりがちなときに、一歩引いた視点と、回復後を見据えた判断材料を差し出すこと。それも、誰かに都合のよい話ではなく、経営者ご自身の判断に資する形で。中立的な第三者の専門家だからこそ担える役割が、たしかにあると考えています。
株式会社アルファコンサルティング 代表 青木康弘学びの場づくりから、経営の支援まで。
初回相談(無料・オンライン可)では、お考えの研修・情報発信の狙いや、経営上の課題を整理し、当社がどう関与できるかをその場でご一緒に考えます。本記事のテーマに沿うご相談であれば、次のような論点を扱うことができます。
- 事業者向け・従業員向けセミナーのテーマ設計と進め方
- 配信用研修動画の企画・制作の進め方と納品形式
- 需要が読みにくい局面での価格戦略・収益管理の考え方
- 研修から経営改善の実行へ、どうつなげるかの見当
会場での講演、配信用動画の制作、地域・団体向けの人材育成プログラムまで、目的に合わせて柔軟に対応いたします。まずはお気軽にご相談ください。
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