ホテルの人手不足対策|人を増やす前にシフトと宴会の見直しで人件費を抑えた事例
「人が採れない」「採ってもすぐ辞める」「現場がいつも手いっぱいで、新しいことに手が回らない」。宿泊業の経営者の方とお話ししていると、こうしたお悩みを本当によく伺います。そして多くの場合、その解決策として最初に挙がるのが「人を増やす」ことです。
けれども、人を増やす前に一度立ち止まって確かめておきたいことがあります。それは、いまの忙しさが「人が足りないから」なのか、それとも「人の時間の使い方が整っていないから」なのか、という点です。
こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。今回ご紹介するのは、複数の部門を抱える地方都市のシティホテルで、当社が全社的な経営改善のお手伝いをした事例です。実際にはいくつものプロジェクトを立ち上げて取り組みましたが、本記事では、その中でも特に多くの施設の参考になると考える宴会部門の効率化と勤務シフトの見直しに絞ってご紹介します。当初の課題意識は「人手が足りない」というものでしたが、現場の働き方を見ていくと、問題の多くは人数そのものではなく、時間の使い方にありました。
※写真はイメージです。事例の施設とは関係ありません。
OVERVIEW
- 依頼者
- 地方都市のシティホテル(東北地方/客室・宴会・婚礼・法宴・レストランの複数部門を運営)
- ご相談の背景
- 慢性的な人手不足感と、現場の長時間労働・時間外の発生
- 当社の役割
- 勤務シフトの整地化と見直し、宴会オペレーションのタイムコントロール、部門間の業務融通の仕組みづくり
- 進め方
- 勤務実態の把握 → シフト基準の設計 → 実行支援 → 予定と実績の検証
- おもな成果
- 時間外労働の大幅な削減、人件費の圧縮、現場の負担軽減と採算の改善
※守秘のため、施設が特定されない範囲で内容を一部改変しています。
「人が足りない」の前に、起きていたこと
このホテルは、客室に加えて、宴会、婚礼、法事の会食、レストランといった複数の部門を持つ、いわゆるフルサービス型のシティホテルでした。地方都市にあって、地域の冠婚葬祭やビジネス需要を幅広く受け止めてきた、その土地になくてはならない一軒です。
ご相談をいただいた当初、経営者の方が最も強く感じておられたのは、現場の多忙でした。どの部門も日々の業務に追われ、長時間労働が常態化している。求人を出しても応募が集まりにくく、せっかく採用しても定着しない。だからこそ「人を増やしたいが、増やせない」という、宿泊業に共通の悩みを抱えておられました。
ただ、勤務の実態を拝見していくうちに、見えてきたことがあります。それは、働いている時間の長さが、必ずしも仕事の量に見合っていない、ということでした。
象徴的だったのが、朝の出勤です。このホテルでは、その日の予定にかかわらず、朝早くにほぼ全員がそろって出勤する形になっていました。一方で、宴会の開始時刻は日によってまちまちです。朝から出勤していても、実際に動き出すまでに長い手待ち時間が生じていました。さらに夜は、宴会場の都合で進行が遅くなると、そのまま時間外労働につながっていきます。
そして、これらを調整するための明確なシフトの仕組みがありませんでした。スタッフに示されていたのは、その日が出勤日か公休日か、という目安だけ。何時に出て、何時に上がるのか、その日の忙しさに応じてどれだけの人数を配置するのか、という肝心の部分が、定まっていなかったのです。
見直し前のシフト
- その日の予定にかかわらず、朝に全員がそろって出勤
- 宴会開始までの手待ち時間が長い
- 夜は宴会場の都合で進行が延び、時間外が発生
- 示されるのは「出勤日か公休日か」の目安だけ
- 退勤時刻が決まっておらず、長く残りがち
見直し後のシフト
- 一人ひとりの出勤・退勤時刻を明確に決める
- その日の宴会・宿泊の入りで配置人数を調整
- 忙しくなる時間に合わせて出勤時刻をずらす
- 手待ちの時間帯は休憩を組み込む
- 予定と実績を照らし、遅れた理由を振り返る
これは、決してこのホテルが特別だったわけではありません。人件費がうまくコントロールできていないホテルに共通して見られるのが、出勤日しか書かれていないシフト表です。当日のお客様の入り込みと連動しておらず、出勤時間も忙しさにあまり関係していない。長く営業を続けてきた施設ほど、こうした昔ながらの勤務慣行が残っているものです。
CASE 02まず、シフトを整える ― 出退勤時刻を決める
そこで当社が最初にご一緒したのは、人を増やすことでも、新しい施策を足すことでもなく、勤務シフトそのものを整えることでした。
具体的には、一人ひとりの出勤時刻と退勤時刻を、シフト表の上で明確に決めるところから始めました。あわせて、その日の宴会の入りや宿泊の状況に応じて、配置する人数のボリュームを変えるようにしました。忙しい日は手厚く、静かな日は薄く。当たり前のことのようですが、これが徹底されていない施設は驚くほど多いのです。
お客様が少ない日にまで大勢が長く働いていては、利益は残りません。日々のお客様の入り込みに合わせて勤務の量を決めることで、全体の労働投入時間を減らし、人件費を抑えていきます。
特に効くのが、退勤時刻を明示することです。ありがちなのが、出勤時刻しか指示していないケースです。「何時出勤」とだけ伝えると、退勤の目安がないために、どうしてもゆっくりと仕事を進め、職場に長く残りがちになります。退勤時刻をシフト表にきちんと書き込むだけで、働き方は引き締まり、人件費は確実に抑えられます。
また、忙しくなる時間に合わせて出勤時刻をずらすことも有効でした。たとえば、本当に忙しくなるのが昼からなのに全員が朝にそろって出勤していれば、その分だけ人件費はかさみます。持ち場が回る範囲で出勤を遅らせ、あるいは早めに上がってもらう。こうした調整の積み重ねが、無理な増員をせずに現場を回す土台になります。
※写真はイメージです。
宴会場の時間を、きめ細かく管理する
シフトの整地化と並んで、この案件で当社が最も力を入れたのが、宴会オペレーションのタイムコントロールです。宴会部門は、ホテルの中でも特に労働時間が膨らみやすい部門だからです。
集客を増やす取り組みは、もちろん大切です。ただ、せっかく集めたお客様を、長時間労働と疲弊した現場で迎えていては、利益も、働く人の意欲も残りません。とりわけ宴会部門は、人の手が一度に多く必要になり、時間も読みにくい。だからこそ、ここの運営を整えることが、施設全体の人手不足と採算に、大きく効いてくるのです。
宴会場の運営には、時間に関わる勘所がいくつもあります。会場のセットには、およそ1時間かかります。宴会が始まり、お客様が何時にお開きになるのか。そして、お客様が退室されたあと、次の宴会のために会場を作り替える、いわゆる「どんでん返し」を行い、次の宴会を迎える。この転換にかかる時間は、会場の規模や宴会の形式、人数によって変わりますが、退室後おおむね30分から1時間ほどが一つの目安です。1日に二つ、三つと宴会が続く日には、この転換の段取りひとつで、現場の動きはまるで変わってきます。これらの時間の組み立て方によって、必要な労働時間は大きく変わるのです。
TIME CONTROL
宴会場の一日を、時間で設計する
会場のセットはおよそ1時間。宴会がお開きになり、お客様が退室されたあと、30分から1時間ほどで会場を作り替える「どんでん返し」を行い、次の宴会を迎える。所要時間は会場の規模や宴会の形式(着席かビュッフェか)、人数によって変わるが、この一連の時間の組み立て方ひとつで、必要な労働時間は大きく変わる。手待ちが生じる時間帯には、休憩を組み込む。
このホテルでは、こうした時間の管理がきめ細かくは行われておらず、朝から大きな会議や宴会が続いた日には、長時間勤務がそのまま積み上がっていました。しかも、その負担を別の日で調整して埋め合わせる、ということもできていませんでした。
そこで、宴会場のセット時刻、お客様の退出時刻、どんでん返しの時間帯を、一つひとつ丁寧に設計し直しました。手待ちが生じる時間帯には、その間の休憩を組み込むことも考えます。宴会のセットが終わって入場までに間が空くのであれば、その時間に休憩をとってもらえばよいのです。
さらに重要だったのが、シフトを「予定」と「実績」の両方で把握する仕組みを入れたことです。予定よりも退勤が遅くなった日には、なぜ遅くなったのかをきちんと振り返る。準備に手間取ったのか、進行が押したのか、人の配置が合っていなかったのか。その理由を一つずつ分析し、次の日の組み立てに反映させていきました。こうして、現場は少しずつ、時間を意識して動けるようになっていきました。
※写真はイメージです。
部門の垣根を越えて、余力を融通する
シフトと時間の管理を整えていくと、次に見えてくるのが、部門ごとの繁閑のばらつきです。ある部門が手いっぱいの日に、別の部門には余力がある。けれども部門の壁があると、その余力は活かされません。
そこで、特に忙しい日には、部門の垣根を越えて人の手を融通し合う形を取り入れました。大きな会議や宴会の設営を、その部門だけで少人数で抱えるのではなく、手の空いている他部門から短い時間だけ応援に入ってもらう。多忙が続く特別な日には、部門をまたいで柔軟に動けるようにしておくのです。
この考え方は、業務そのものの整理とも結びついています。たとえばこのホテルでは、法事の会食に関する受付業務を、長らく別の受付部門が代わりに行っていました。受け付けた情報を改めて担当部門へ引き継ぐ手間が生じ、二度手間になっていたのです。そこで、受け付けから手配までを一つの部門で完結させるようにし、引き継ぎの手間をなくしました。
属人化の解消も同じ流れにあります。営業の動きが担当者個人の裁量に委ねられ、部門全体で共有されていない状態は、その担当者がいなくなった途端に大きな穴を生みます。主担当と副担当を置き、短い打ち合わせをこまめに重ねることで、一人に負担が集中することも、対応が途切れることも防げるようになります。
部門の壁を越えて人と業務を動かせるようにしておくこと。これは、限られた人数で施設を回していくための、いわば備えです。
CASE 05整えた先に生まれた成果
シフトの整地化、宴会場のタイムコントロール、そして部門間の融通。これらを積み重ねた結果、現場には明確な変化が生まれました。
最も大きかったのは、時間外労働の大幅な削減です。朝の手待ちや夜の間延びが解消され、その日の忙しさに応じて人が配置されるようになったことで、無駄に職場に残る時間が減りました。労働時間が減れば、人件費も下がります。人件費の削減は、そのまま採算の改善につながりました。実際、勤務シフトを入り込みに合わせて整えるだけで、投入時間を二割以上削減できた例も、これまでにあります。
そして見落とされがちですが、この変化はスタッフにとっても歓迎すべきものでした。労働時間が減ることは、現場の負担が軽くなることでもあります。
終わりの見えない長時間労働は、定着しない大きな理由の一つです。だからこそ、時間を整えることは、人件費の問題であると同時に、人が辞めずに働き続けられる職場をつくる問題でもあるのです。
CASE 06人を増やす前に、見直しておきたいこと
ここまでの事例を踏まえて、人手不足にお悩みの経営者の方に、一般論としてお伝えしたいことを整理しておきます。
売上を増やそうとするとき、多くの施設はまず宿泊部門のネット予約対策に向かいます。それ自体は正しい取り組みです。けれども、人手不足や現場の多忙にお悩みであれば、その前に一度、運営体制そのものに目を向けていただきたいと思います。とりわけ宴会のような、人手と時間のかかる部門の段取りを整えることは、集客策と同じか、それ以上に効く打ち手になり得ます。
人を増やすという判断は、最後の手段として持っておくのがよいと考えます。その前に、まず「人の時間がどう使われているか」を点検すること。出退勤の時刻を明確に決め、その日の忙しさに応じて人数を調整し、時間のかかる作業はきめ細かく管理する。この基本を丁寧に行うだけで、多くの施設では、無理な増員をせずに現場が回るようになります。
なぜ「人を増やす」を最後にするのか。理由は二つあります。一つは、いまは募集をかけても人が集まりにくく、増やすこと自体が難しいからです。もう一つは、時間の使い方が整わないまま人を増やすと、非効率な働き方ごと人数が増え、かえって人件費の負担だけが重くなりかねないからです。先にシフトを整えておけば、本当に必要な人員の数も正確に見えてきます。
もちろん、勤務慣行の見直しには痛みも伴います。長年続けてきた働き方を変えることには、現場からの抵抗もあります。朝そろって出勤する習慣も、退勤時刻を決めないやり方も、当人たちにとっては当たり前になっているからです。経営者おひとりで、あるいは社内だけで進めようとすると、「前からこうしているから」という声に押し戻されてしまうことも少なくありません。だからこそ、外部の視点を一つ加えることに意味があります。社内では当たり前になってしまっている勤務慣行を、第三者の目で「これは本当に必要ですか」と問い直す。その役割を、私たちのような外部の専門家が担うことができます。
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地方のシティ・ビジネスホテル経営者
現場は毎日忙しそうなのに、利益が残らない
宴会や宿泊の繁閑が大きく、人件費がコントロールしにくい施設。シフトの整地化で、忙しさに合った人員配置に変えていけます。
宴会・婚礼を持つフルサービス型ホテル
宴会のある日は、どうしても長時間労働になってしまう
セット・退出・どんでん返しの時間設計と、部門をまたいだ応援体制で、特定の日に偏る負担をならしていけます。
人の採用・定着に悩む経営者
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終わりの見えない働き方こそ離職の一因。時間を整えることは、人件費の問題であると同時に、人が働き続けられる職場づくりでもあります。
本件で当社が担った業務
人を増やす前に、できることがあります
「人が足りない」と感じたとき、その忙しさが本当に人数の問題なのか、それとも時間の使い方の問題なのか。まずはそこを見極めることから始めてみませんか。当社は、特定の業者や金融機関と利害関係を持たない独立した立場から、経営者の側に立って一緒に考え、手を動かします。
- 勤務シフトの見直し・人件費の適正化についてのご相談
- 宴会・婚礼部門の長時間労働の改善についてのご相談
- 人手不足・現場の多忙にお悩みの施設の体制づくり
描いた構想を、
ともに、かたちに。
こうしたい、こう変えたい——経営者が描いた構想を、ともにかたちにしていくのが弊社の役割です。数多くの経営に寄り添ってきた立場から、依頼者の望むかたちを、いちばんに考えます。
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