ホテル旅館が銀行から抱かれやすいマイナスイメージと銀行を味方につけるための5つのポイント(ホテル旅館経営者、運営者、経理、オーナー向け)

こんにちは、ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。

弊社は、ホテルの新規開業から再生まで様々なサポート事業を行なっておりますが、仕事の性質上、銀行とやりとりさせて頂く機会がとても多いです。銀行はホテル旅館の建設・運営資金の提供者として欠かせない存在ですが、銀行の担当者が業界に詳しいとは限りません。業界について理解が乏しいと、日常取引や融資、金融サポートの場面で間違った判断や指導を受けることもあります。意にそぐわないと、融資を断られたり、否定的な内容の調書を書かれたりして後々の取引に悪影響を及ぼすケースもあります。

今回コラムでは、銀行の担当者がホテル旅館に対して抱きやすいマイナスイメージとその解決策を紹介したいと思います。

インバウンドにより大幅売り上げアップできるという誤解

連日マスコミ報道で訪日観光客の動向やその購買行動について紹介されておりますので、取引銀行の担当者との面談でも話題になることが多いです。「あなたの会社ももっとインバウンドに力を入れて借入金をきちんと返済できるようになるべきだ」と指導を受けるケースも見受けられます。

実際には、観光業界への影響はまだら模様です。インバウンドの効果により業容拡大や資金繰りの改善に成功したホテル旅館もある一方で、売上へのプラス影響をほとんど期待できない地域もあります地域への入り込みの見通しや、海外出張を伴う営業体制・受け入れ態勢整備の可能性、メリットとデメリットを整理した上で説明することをおすすめします。

売り上げの何倍もの借り入れを返済できるという誤解

ホテル旅館は客室数で売上げ・利益の限界が自ずと決まってくるため、現状の規模で借入金が完済できるかどうかは容易に見当がついてしまいます。新築の施設を除けば、現実的に返済できる借入金は売上げの1.2倍〜1.5倍が限界です。2倍を超える借入金の返済は極めて困難と言えるでしょう。借入金が売上げの3倍以上あれば営業利益率10%を誇る高収益ホテル旅館でも経常赤字に陥ってしまいます。完済どころか日々の資金繰りに苦労し、いずれは法的整理や私的整理を選択せざるをえなくなります。

銀行の審査部門・企業支援部門の担当者が、ホテル旅館の収支構造に疎かったり、自分が担当者の時に手間のかかる稟議を出したくなかったりする場合には、売上げの2倍以上の借入金があっても完済を前提とした事業計画の提出を求めてきます。「あなたの会社はもっと頑張れるはずだ」という指導の裏側には、金融支援を先送りしたい銀行の思惑が見え隠れします。担当者の発言の意図を読み、先送りされそうだったら赤字の事業計画を出すくらいの覚悟を持ちましょう。

優秀な番頭役を得るべきだという誤解

銀行担当者がホテル旅館の経営者によく言うアドバイスの一つに、「優秀な番頭役を作りなさい」というのがあります。確かに、オーナー社長・女将と一般社員との橋渡しや、部門間の調整等、優秀な番頭役がいれば得られる効果は大きいですが、実際に人材に恵まれているホテル旅館はごく一部です。

番頭役と期待して業界OBを採用しても既存幹部との協調に苦労したり、幹部候補生と期待した若手が次々に退職したりという問題を抱える館が多いのが実態です。銀行の指導により人件費削減し待遇が悪化した館では、番頭役どころか日常業務をこなすスタッフ不足に悩んでいるのが現実と言えます。番頭役を得る努力を行うよりも、平均点以上のスタッフに一人でも多く永年勤続してもらえるよう職場環境や待遇の改善を行うことが望ましいでしょう。

設備投資はコントロールできるという誤解

金融機関向けの事業計画では、設備投資支出(修繕費や資本的支出)を少なめに見積もることが多いです。返済計画を成り立たせるために必要な利益額は決まっているため、売上げや諸費用は必要利益額から逆算して予算化されます。売上げや食材原価、人件費、水道光熱費、送客手数料等は過去の実績と乖離した予算にするわけにはいかないので、修繕費が調整弁になりがちです。

現実には、設備投資支出が最も予算コントロールの難しい費用と言えます。空調や給排水、ボイラーの交換部品が生産終了している場合には修理対応は難しく、高額の取り替え費用がかかります。

無理な返済計画を組んでいる場合には、資金繰り破綻のリスクもあります。銀行や会計事務所の指導により作成した事業計画だから大丈夫だと鵜呑みにせず、予想外の設備投資支出があっても資金繰りに問題がないか検証しましょう。

経費は徹底的に削減すべきという誤解

銀行担当者から厳しく指導を受ける項目の一つに「経費削減」があります。ホテル旅館の経営者ならば、経費削減について銀行担当者から指摘や指導を受けたことは少なからずあるでしょう。あらゆる支出を点検し抑制していくことで利益を生み出すことができるという考え方は正しいですが、やり方を間違えるとホテル旅館の売上げを落とす原因となります。

弊害が出やすいのが、人件費や広告宣伝費です。人件費は経費に占める割合が大きいため、バブル崩壊以降、積極的に削減の指導が行われてきた経費です。人員リストラや賃金カットは短期的な利益改善には効果がありましたが、ホテル旅館業から優秀なミドル層が流出し、今や従業員は高齢者と若者ばかりという館が散見されるようになりました。

賃金水準が類似する飲食・サービス業では、都市部の募集時給が1000円を優に超えるようになり人材獲得合戦が激化しています。ホテル旅館のスタッフは低賃金でも仕方がないというのが通用しなくなっています。今後はさらなる人員不足に備えベースアップ予算を確保するとともに、従業員動線の改善やIT投資などにより少人数でも運営できるよう仕組みを見直すことが望ましいでしょう。

広告宣伝費も徹底的に削減されてきた経費です。テレビ・ラジオ等の媒体利用は経費負担が重いことから取りやめるのはやむをえないにしても、まったく広告宣伝費を使わずに自館を知ってもらうのは非常に難しい状況にあります。ユニークな取り組みによって、広告宣伝費を使わなくてもテレビ取材を受けて知名度アップに成功している館はありますが、自館で通用するとは限りません。

広告宣伝費は、売上げに対して最低1%程度の予算は確保しておきましょう。広告宣伝費のアップに加えて販売促進費も予算化できれば、目玉となる料理の提供やイベントの開催もできるようになります。銀行担当者には、売上げアップ施策の一環として実施するということをよく理解してもらいましょう。

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