人口減少時代に備えるためのホテル旅館の事業計画の作り方・考え方

皆さんこんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。

最近韓国からの観光客減少が大きなニュースとなっていますね。韓国人観光客をターゲットとしていたホテル旅館は、今期業績への影響で頭が痛いところと思いますが、訪日外国人(インバウンド)全体としては堅調に推移していくでしょう。ぜひ挽回したいところです。

一方で、観光業にとって差し迫る危機となっているのが、地方の人口減少問題です。国立社会保障・人口問題研究所の推計によりますと、今から30年後に総人口は2割近く減少すると言われています。人口減少問題は、あらゆる業界へ大きな影響をもたらしますが、特にホテル旅館業への影響は大きいでしょう。装置産業なので抜本的にビジネスモデルを変えることが容易ではないからです。

事業計画作りになぜか考慮されない人口減少という深刻な問題

ところが、新規オープンするホテル旅館の事業計画や金融支援を受けるための再生計画において、人口減少問題の影響を加味したものは殆ど存在しません。融資を受けるための事業計画は一般的に10年〜15年間ですが、30年後の市場(総人口)が2割近く減少するという前提をおいているものは見たことがありません。地域によっては6割近く減少すると言われていますので、本来無視できない水準でしょう。固定比率の高いホテル旅館は、売上計画を下方修正すると返済計画が成り立たなくなるため、影響を加味できない事情があるのでしょう。

ホテル旅館の経営者、後継者にとって、15年、30年というのは、そう遠くない未来です。今のうちから必要な対策を講じて、人口減少時代でも事業継続できる館を目指していくことが望ましいでしょう。

宿泊の需要変化へどう対応するか

人口減少により宿泊の内容や規模も変化が始まっています。ホテル旅館の経営者の中には、「高齢者社会に向かっているのでシニア層を狙っていけば売上維持できるのではないか」と意見を持つ方がいると思いますが、実際に売上に結びつけるためには緻密な戦略が必要です。

今後20年間の人口構成の変化を想定すると全国的に超高齢化社会が進むと思われる方が多いでしょうが、実際には85歳以上の高齢者を除き、若年層だけでなく60歳以上のシニア層も減少してしまう地域は少なくありません。例えば、秋田の総人口は今後20年間で30%減少すると予想されていますが、25歳から74歳までのホテル旅館のターゲット層となる顧客は38%も減少すると予想されています。下の図を見て頂けるとお分かり頂けるかと思いますが、0歳から84歳までの全ての年齢階層で人口減少すると予測されているのです。

都市圏では60代の大幅増加が予想されています。東京都の将来予測を見てみると、今後20年間で60歳から64歳の人口は38%増加、65歳から69歳の人口は48%増加すると予測されています。なぜ60代が増加するかというと理由は単純で団塊ジュニアの世代だからです。団塊ジュニアの世代は、今後子供が巣立ち、時間的・経済的余裕が出てくると思われるので重要ターゲットとして狙うことができるでしょう。

皆さんが保有・運営している地域や市場後背地(商圏)の人口がどうなるか知りたいのであれば、国立社会保障・人口問題研究所のホームページで公表されているので興味あれば見てみると良いでしょう。

リンクはこちら:国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)』

団体向けの宿泊宴会も内容や規模が変化するでしょう。東京都の人口推計でみると、40代から50代までの人口が大幅減少することから、グループサイズ(1件当たり人数)はより一層小型化すると予想されます。毎年・隔年で皆さんのホテル旅館を利用してくれる団体も参加人数は徐々に減少していくでしょう。会場サイズ、レイアウトを変更しやすいようリニューアルを行い、グループサイズの縮小を件数でカバーしていくことで売上維持を図りたいですね。

ブライダル(婚礼)事業を行っているホテル旅館の場合、婚礼事業の強化を目指して披露宴会場のリニューアルを図るよりも、宴会の件数アップのためのリニューアルに投資したほうが費用対効果を高めやすい可能性もあるので良く検討すると良いでしょう。

婚礼需要激減へどう対応するか

人口減少により最も影響が大きいと想定される事業分野は婚礼です。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2040年までの20年余りの間に若年女性人口(20〜39歳の女性)は、減少幅が大きい自治体で9割以上、少ない都市部であっても2割以上減少するとされています。地方都市で婚礼事業を行っているホテル旅館は、所在する地域の若年女性の将来人口を踏まえた上で、今後の事業プランや投資を検討する必要があります。

特に熟慮したいのが長期間の投資回収を必要とするハード設備です。競合するホテル旅館やゲストハウスウエディングに対抗するために、金融機関から借り入れをして独立型チャペルを新設したものの、その後地域の人口減により施行組数が大幅に減少したため返済の目処が立たなくなったというケースが続発しています。金融機関は足元の業績を決算書で確認して融資を行うのであって、銀行から融資を受けられたからといって計画通りに実現できるお墨付きを得た訳ではないことに留意しましょう。

婚礼事業の投資プランを立てる際には、競合施設に対してどう対抗するかを検討する前に、商圏となりうる地域の施行組数がどう変化していくのか予想したほうが良いでしょう。若年女性人口の予測データ(政府データを利用)、婚姻率(自治体データを利用)、挙式施行率(概ね5割〜6割、ただしリゾート婚を除く)を組み合わせれば、皆さんのホテル旅館が所在する地域で今後どれだけの挙式披露宴が行われるか、大まかな予想を行うことが可能となります。その組数に対して獲得できそうなシェア率(施行組数)と組単価を掛ければ売り上げ見通しや収支予想を出すことができるでしょう。

収支予想の結果、投資回収に7年以上かかるようであれば本当に必要な投資なのか再度検討し、難しいようであれば婚礼事業を意図的に縮小させていくことを検討しましょう。

レストランの客層変化へどう対応するか

人口減少によってレストラン部門にどのような影響がもたらされるかは、立地や現状の客層により異なります。有名温泉地や市場後背地に恵まれた立地にあるホテル旅館であれば、レストランの売上は宿泊客数と比例する傾向にあるので、宿泊の需要変化にしっかりと対応し宿泊客数を落とさなければ、レストラン売上げが大きく減少することはないでしょう。

売上減少が懸念されるのは、狭い商圏で地元客向けに営業しているホテル旅館内レストランです。地元客をターゲットにしたランチバイキングやディナーバイキングは将来売上げを大幅に落とす可能性があります。バイキングはファミリー客の利用が多い傾向にあるので、皆さまのホテル旅館が立地している地域で20代〜40代の人口減少幅が大きい場合には、レストランのメニュー構成やコンセプトが将来の人口変化に耐えうるか検討することが望ましいでしょう。

宿泊宴会と同様にレストランにおいても、20年後に60代となる団塊ジュニアが有望なターゲットとなるでしょう。小規模な法事・慶事会席や同窓会、自治会の集まり等のニーズをより獲得しやすくするため、テーブル間のパーテションを導入したり、グループ利用可能な個室を作ったりすることが有効と考えられます。東京都では54歳までの人口は減少傾向にありますが、55歳以上の人口は増加すると予想されています。50代、60代のニーズをうまくつかめれば人口減少問題の影響を最小限にすることができるでしょう。

人口減少の大きい地域では、地元の飲食店はオーナーの高齢化や後継者難を契機に次々廃業していく可能性が高いでしょう。地元飲食店の法事・慶事や会合等のニーズの受け皿となれれば一定の客数増が見込めるでしょう。

人口減少をホテル旅館の事業計画に反映させる手法

5年以上の事業計画を作成する場合には、売上計画に人口減少問題の影響を加味したほうが良いでしょう。最も簡便的な方法は、現状の宿泊客の世代別構成比に人口増減率を掛け合わせるというものです。例えば、自館顧客の世代別構成比が30代以下=2000人(20%)、40代=3000人(30%)、50代=2000人(20%)、60代=2000人(20%)、70代以上=1000人(10%)と仮定します(全体で10000人)。世代別構成比は宿泊台帳から大まかに把握すれば良いでしょう。

次に、各世代の今後10年間の増減率を把握しましょう。国立社会保障・人口問題研究所のホームページに市町村別の人口予測が掲載されているので、自館顧客の代表的な出発地を参考にして予測します。今回の例では、30代以下=10%減、40代=20%減、50代=10%増、60代=20%減、70代以上=20%増と仮定します。この増減率を世代別構成比に掛けあわせて合計すると将来の宿泊客数を予測することが可能です。

計算式は、30代以下2000人×90%+40代3000人×80%+50代2000人×110%+60代2000人×80%+70代以上1000人×120%=9200人となり、10年後に8%宿泊客数が減少すると予想できます。もちろん、景気動向や地域の観光需要、自館の競争力によって将来の売上は変化しますが、人口減少問題だけの影響により自館の宿泊客数がどの程度増減するか正確な見通しをたてることができるでしょう。

金融機関などの外部関係者向けに提出する売上計画には、人口減少問題の宿泊客数への影響について算式を用いながら言及しておくと良いでしょう。人口減少問題は景気動向や競争環境の変化等と異なり、近い将来確実に起こる問題なので目を逸らすことなく対処するための準備を着実に進めておくことをおすすめします。

いかがだったでしょうか?ご参考になれば幸いです。