働き方改革したら利益が減った!と悩まないための本音で考えるホテル旅館の働き方改革(4)

こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。前回に引き続き、本音で考えるホテル旅館の働き方改革のポイントについて紹介していきたいと思います。

例外対応を有料化して、タダ働きを減らす

歩行者交通量が多い観光地や都市部に立地するホテル旅館は、日中のお客様対応によって労働生産性が落ちることがあります。宿泊売上アップに直接的に結びつかないサービス提供のためにスタッフ配置しているケースがあるからです。

影響度を把握するためには、料飲サービス以外の顧客応対スタッフのシフトを確認すると良いでしょう。シフト表から時間帯別の投入人数を合計し、グラフ化すると分かりやすくなります。すると、チェックアウトからチェックインまでの中間時間帯に多くのスタッフを投入していることがあります。ランチ・売店等の営業によって収益アップにつながっていれば良いですが、そうでない場合には無償のサービスによって生産性が悪化している可能性があります。次のような施策を検討してみましょう。

①例外対応の有料化

お客様が対価を払っても受けたいサービスならば有料化を検討してみましょう。例えば、アーリーチェックインの有料化です。日中に来館されるお客さまの中には、早く客室を利用したいと考える方がいます。特に訪日外国人は思いがけない早い時間に到着することがあります。

このような場合は、積極的にアーリーチェックインを提案することをお勧めします。時間当たりの利用料金を定めた上で、フロント係がいつでも予約状況、客室清掃状況を確認できるようにしておけば良いでしょう。レイトチェックアウトも同様です。客室稼働に余裕があれば、10時までのチェックアウトを急かすのではなく、有償で時間延長の提案をすることをお勧めします。

②例外対応の値上げ

お客様から対価を頂いているサービスであっても、スタッフの負荷に見合わなければ値上げを検討しましょう。例えば、宅配便の発送業務の値上げです。場所と手間がかかる割に実質無償で対応していることが多い業務です。

もし日中のスタッフの負担になっているのであれば、思い切って値上げすることをお勧めします。業者への支払額に取扱手数料を上乗せする形式であれば受け入れてもらいやすいでしょう。

ホテル旅館業の古い慣習を思い切って撤廃する

スタッフが労働時間の削減に消極的である場合には、旧態依然とした雇用慣行、賃金制度が原因となっている可能性があります。次のような問題があれば、生産性向上に取り組む前に諸規程の見直しを検討しましょう。

①時給または日給月給をとっている

勤務時間に応じて給与が払われる時給制、日給月給制をとっている場合は、生産性向上が収入減につながるのではないかとスタッフが心配し協力が得にくいことがあります。特に長時間労働が恒常化している場合は、残業代が生活給化している可能性が高く、自主的な削減を求めるのは難しいでしょう。

このようなケースでは、生活に必要な額を目安として月給制に移行することを検討しましょう。時間外手当の支払いによる人件費上昇が懸念されるのであれば、固定残業代を含む賃金体系にすると良いでしょう。

②奉仕料・指名料の慣習が残っている

奉仕料や指名料を客室係が直接受領する制度はモチベーション向上策として有効ですが、生産性向上には逆効果となることがあります。会社の都合より自身の都合を優先した方が、収入が増える可能性が高いからです。実際に、お客さまの入り込みに関係なく出勤日数を増やしたり、担当するお客様を選べたりすると分配額が増える可能性が高くなります。

このようなケースでは、お客様からの金銭的評価だけでなく、生産性向上への取り組み姿勢を給与査定の際に重視すると良いでしょう。会社の指示やシフトに従い、他のスタッフと協力して効率的に業務を進めるスタッフを積極的に評価すれば、非協力的なスタッフの姿勢も変わってくるでしょう。

皆さんのホテル旅館がマルチジョブを推進するならば、部署やスタッフ間の雇用形態・待遇の格差是正は不可欠なものです。生産性向上の取り組みをきっかけとして、旧態依然とした雇用慣行を見直すことをお勧めします。

稼げるときに稼げるホテル旅館になって生産性を向上させる

労働生産性を測る指標として最も重要なものが人時生産性です。売上を総労働時間で割ることで算出できます。生産性向上というと総労働時間の削減に目が向きがちだが、売上アップでも向上させることが可能です。次のような施策を行って安定的な売上拡大を目指しましょう。

①3〜2ヶ月前のオンハンド(手持ち予約)目標を重視する

宿泊日より1ヶ月を切ってしまうと値下げや高額のリスティング広告など、生産性低下につながる施策しか取れなくなってしまいます。予約見通しが芳しくない時は、数ヶ月前から料金調整やプロモーションを行うことが望ましいでしょう。

②価格変更は1ヶ月前より少し前に実施する

需要動向に合わせた料金変更は1ヶ月前に実施するホテル旅館は多いです。同じタイミングで値下げを行ってもマーケットの相場が下がってしまっているので予約増につながりにくいでしょう。もし値下げを実施するならば1ヶ月前より少し前に行うことが望ましいでしょう。

下表はあるエリアの自社の平均客室単価と周辺ホテル旅館の単価が宿泊日60日前から当日まで、どのように変化したのかデータ分析したものです。このグラフを見ると一目瞭然で、30日前のタイミングで周辺ホテルの多くが価格調整していることが分かります。宿泊需要が限られる中で他ホテルよりも顧客獲得するためには、価格変更のタイミングを少し前倒して需要を先取りすることがポイントになることが分かります。

宿泊日まで1週間を切ってくるとだぶついた客室は値下げが加速していきます。こうなると叩き売りしか対策が無くなります。このような状況に陥らないように、値下げや販売促進は宿泊日の少なくとも1ヶ月半〜2ヶ月前までに実施することをお勧めします。

Changes in room rates

下図はいくつかのホテル旅館の望ましい予約カーブのイメージを示しています。業績良好なホテル旅館は、3ヶ月前から順調に予約を積み上げていることが分かります。加えて、価格競争が激化する5週間前〜9週間前までに早いペースで予約を伸ばしていることが分かります。1ヶ月を切ると予約の伸びは鈍化していきます。

booking curve

③基準となるホテル旅館を決めて価格調整を行う

地域に同業他館が多い場合には、類似する館をいくつか抽出し日別の平均料金を算出したものを参考に価格調整すると良いでしょう。もともとの料金に拘りすぎると他館の料金変動についていけず収益機会を逃すことになるので注意しましょう。

④地域の客室在庫情報を集計する

地域の同業他館の客室在庫量を日別に集計すると、例年に比べて動きの良い日、悪い日を簡単に把握することができます。正確な在庫量を把握することは難しいですが、特定のOTA在庫を集計するだけでもトレンドを把握するのには十分でしょう。在庫量が少ない日は低価格プランを終売し、反対に在庫量が多い日は日にち限定プラン等を投入するなどの対策が望ましいと言えます。

⑤エリアのイベント情報を取得する

需要動向に影響を与えるイベントの入込予測は、イベント情報を取りまとめているwebデータベースを利用すると良いでしょう。チケットぴあやイベントバンク、観るなび、ウォーカープラスなどのwebサイトが有効です。

いかがだったでしょうか?ご参考になれば幸いです。

このような価格調整を効率よく行うためには、web上のデータを自動取得し、集計するプログラムを作ることが早道です。皆さんのお知り合いにエンジニアがいなければ、弊社でも対応可能ですのでお気軽にご相談ください。

また、働き方改革以外にもホテル旅館の新規開業、運営、集客、再生、M&Aなどのサポートを行っておりますので、お気軽にご相談ください。