働き方改革したら利益が減った!と悩まないための本音で考えるホテル旅館の働き方改革(3)
こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。前回に引き続き、本音で考えるホテル旅館の働き方改革のポイントについて紹介していきたいと思います。
現場任せでは一向に進まない 経営者が対処すべき問題
労働生産性を向上させるためには、現場主導の改善だけでなく、経営者の積極的な関与と決断が必要な場面が出てきます。次の点に留意しましょう。
①業務の廃止・簡素化は経営者の決断が必要となる
全ての業務は何らかの歴史的な背景と目的があって開始されているものです。無駄だと思っていながら止められない業務の多くは、顧客や組織の思想・哲学に関わるものであることが多いです。馴染みのお客様が離反しないか心配したり、先代から続けていることを自分の代で反故にすべきでないという心情が働いたりすることが、改革の妨げになります。過去の非効率な習慣を断ち切るためには、経営者の決断が必要になります。
②生産性向上がスタッフにとってプラスになることを理解してもらう
人は今のやり方を変えることには抵抗感があるので、まずは現場のスタッフにとって歓迎される改善から着手すると進めやすくなります。例えば、物品の搬送や宴会場のレイアウト変更、深夜早朝の業務などの重労働を減らすことはスタッフに歓迎されるでしょう。部門によっては、自分の仕事をなくすことにもつながるため、別の活躍の場を用意するなどの配慮も欠かせないと言えます。
③組織図や持ち場を見直す
自分の役割や使命に誠実なスタッフほど、組織の縦割り意識を持ち、セクショナリズムの原因になりがちです。そのため、業務効率化を進めるためには組織図の見直しが必要となります。ホテル旅館でマルチタスク化を推進していくためには、組織の括りを大きくしていくことが望ましいでしょう。また、部門ごとに働く場所が離れていると心理的な壁ができやすいので、持ち場を近づけてお互いに相談しやすい環境を作ることをお勧めします。
業務の廃止、簡素化を進めるために、事前に「業務棚卸表」を作っておくと良いでしょう。例えば下表のようなシートを各担当者へ配り集計すると効率的に業務ごと部署ごとの所要時間を把握することができます。
スタッフのやる気アップにつながらない働き方改革は無意味
労働生産性とスタッフのモチベーションとは密接な関係があります。スタッフのモチベーションが下がると、仕事で成果が出にくくなります。例えば、客室清掃係は定型化した作業が多く、やる気をもって入社してくれたスタッフも数ヶ月でマンネリ化しがちです。日々の仕事が有意義なものとなるよう、次のような施策を取り組んでみましょう。
①清掃スタッフへ直接口コミ投稿できるようにする
清掃は大変な仕事ですが、お客様から直接感謝される機会が少ないためにモチベーションを維持しにくいものです。ITを活用することにより、清掃スタッフへ直接口コミ投稿できる仕組みを作ってみましょう。
やり方は簡単です。まず、webフォームでアンケートを作成し、回答の送付先が清掃スタッフになるよう設定します。次に、お客様がスマートフォンで投稿しやすいようにQRコードを登録します。清掃スタッフは担当した客室にQRコードが印刷されたPOPを配置しておきます。こうすることで、お客様は清掃スタッフに直接メッセージを送ることが可能となります。
感謝のメッセージを受け取ればモチベーション向上につながり、クレームがあれば自分ごととして改善に努めるようになるでしょう。
②担当客室数に応じて報奨をあげる
スタッフの能力によって清掃作業のスピードや仕上がりに大きな差が発生します。待遇が同じだと有能なスタッフから不満が出やすくなります。担当客室数、清掃の出来に応じたポイント制を導入してスタッフのモチベーション向上を図ることをお勧めします。
例えば、1日あたりの対応客室数や、清掃スタッフへの直接口コミ投稿の内容によってポイント付与数を調整し現金と交換できるという制度が良いでしょう。優秀なスタッフには異なる色のユニフォームやバッジを着用してもらうことで模範になってもらうのも良いと言えます。清掃スタッフが向上心をもてるような制度設計が望ましいでしょう。
未払い残業代で弁護士事務所に駆け込まれないよう注意する
働き方改革に対する関心の高まりによって、サービス残業に対する世間の目が厳しくなってきています。過払金請求に次ぐビジネスチャンスとして弁護士事務所が目をつけてきており、実際に未払い残業代請求を受けたホテル旅館は少なくありません。トラブルにならないよう次の点に気をつけましょう。
①固定残業代制が適切に機能しているかチェックする
労働時間が長くなりがちなホテル旅館では、基本給や諸手当の中に残業代を含むという取り決めをしているケースがあります。運用の仕方を間違うと、サービス残業と受け取られるリスクがあるので注意が必要です。
固定残業代として認められるためには、固定残業代を除いた基本給の額、固定残業代に含まれる労働時間数と計算方法、超過分支払いの合意等が定められている必要があります。また、就業規則・雇用契約書・給与明細等に固定残業代が残業代の支払いに充当されていることが明示されている必要があります。皆さんのホテル旅館で適切に運用されているか確認することをおすすめします。
②勤怠の実態把握を行う
調理部門は出勤から退勤までの時間が長く、途中の中抜け時間も厳密に把握しにくいことから、労使間のトラブルになった時の未払い残業代の請求額が大きくなりがちです。スタッフの手元にタイムカードがなくても、手帳に勤務時間や業務内容について詳細に記録していれば認められることがあります。サービス残業は旅館・ホテルの必要悪であり仕方がないと放置せずに、正確な労働時間の把握に努めましょう。
クラウド式または電子式のタイムカードに変更した上で、毎日の労働時間をチェックし、出退勤・中抜けの時間は妥当か、過重労働になっていないか、非効率な業務をしていないか等抜き打ちでチェックすることをおすすめします。
いかがだったでしょうか?ご参考になれば幸いです。続きもアップしてきますので是非見てください。
最近、ホテル旅館の働き方改革についてご相談を受けることが多くなりました。人手不足解消の目的から働き方改革したいけど具体的な進め方がわからないという方はお気軽にご相談ください。