旅館・ホテルの人手不足対策|採用・定着・省人化で解く完全ガイド
こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。
「募集をかけても応募が来ない」「採用してもすぐ辞めてしまう」「このままでは満室にできる日でも客室を絞らざるを得ない」。人手不足のご相談は、ここ数年で最も多くお受けするテーマの一つです。厚生労働省の統計では、全産業の有効求人倍率が1.2倍前後で推移するなか、接客・給仕の職種は2.5倍前後と、その約2倍の高さが続いています。会社同士で人材を奪い合う、厳しい市場です。
それでも、人材の確保に成功している宿は確かにあります。違いは、特別な手当の厚さではありません。「採用」だけを増やそうとせず、辞めない仕組みと、人を増やさずに回す工夫を同時に進めていること。この記事では、私が各地の宿のご相談を受けるなかで効果を確かめてきた打ち手を、優先順にお伝えします。
- 増員から考えない。まず「なぜ辞めるのか」を確かめます。穴の空いたバケツに水を注いでも満ちません。→ 辞めない宿のつくり方へ
- 募集の「数」より「中身」を変える。職種名・求人票・自社サイトを見直すだけで応募は増えます。→ 募集の見直し方へ
- 人を増やさずに回す。配置・レイアウト・サービスの設計で、必要な人数そのものを減らせます。→ 省人化の考え方へ
- 三つの蛇口を同時に。採用・定着・省人化は、どれか一つでは効きません。→ よくある質問へ
この記事は、上から順に読まなくても、必要なところだけで対処できるように作っています。

人手不足は「採用」だけでは解決しない
人手が足りないと聞くと、多くの宿はまず「募集を増やす」ことから動きます。けれども、採用した数と同じだけ辞めていけば、人数は一向に増えません。求人費だけがかさみ、現場は疲れ、また人が抜ける。この悪循環を断つには、入口(採用)だけでなく、出口(離職)と、そもそも何人必要かという設計(省人化)を、同時に見ることが欠かせません。
私はこれを「三つの蛇口」と呼んでいます。水を増やしたいとき、蛇口を一つひねるだけでは追いつきません。採用で水を入れ、定着で漏れを止め、省人化でそもそも必要な水量を減らす。三つを一度に動かして、はじめて水位は上がります。順番をつけるなら、効果が出るのが速く、費用もかからない「定着」から着手するのが定石です。
図表1:人手不足を解く「三つの蛇口」
辞めない宿をつくる ― 採用より先に手をつけること
能力と責任感のあるスタッフほど、休めず、辞めていきます。皮肉なことですが、現場でよく起きることです。定着は、特別な制度よりも、日々の運営の余白から生まれます。費用をかけずに今日から始められるものから、順に挙げます。
余裕を持った人員体制にする
目先の人件費を抑えようと最小限の人数で組むと、一人が急に休んだだけで現場が回らなくなります。フロントなら、シフトを組める最低人数より一名か二名、あえて余裕を持たせる。一見、経費が増えるように見えますが、定着率が上がって採用コストが下がり、ベテランが若手に教える時間が生まれ、管理職を育てる余白もできます。余白のない現場は、人を育てられず、人を失います。
有給休暇を取りやすくする
経営陣が思う以上に、従業員満足度を押し上げるのが有給の取得促進です。拘束時間の長い宿のスタッフには、とりわけ歓迎されます。「人件費が上がるのでは」とご心配なら、(a)月給・時給を世間相場まで上げる、(b)増員して労働時間を減らす、(c)休館日を設けて一斉に休ませる、といった複数の前提で損益を試算してみてください。閑散期を使えば、休ませるという選択が最も費用対効果が高いと分かるはずです。管理職が率先して取る、部署ごとに取得目標を掲げる、年初に有給カレンダーを作って希望日を書き込む。他業界では当たり前のこうした工夫を、「うちでは無理」と決めずに試す価値があります。
従業員満足度アンケートで「辞める理由」を先に知る
離職率の高さに悩むなら、辞めてから理由を聞くのでは遅い。お客様への満足度調査と同じように、従業員にもアンケートを取ります。会社満足度・仕事満足度・職場満足度・待遇満足度の四つを測れるよう、三十から四十項目で設計するとよいでしょう。匿名にして本音を引き出し、自由記述欄を大きく取る。多くの宿で「休みがほしい」という声が最も多く挙がります。声を集めるだけで終わらせず、給与水準が地域相場より低ければ見直し、業務負担が重ければ簡素化する。改善した事実は、そのまま求職者への「働きやすい職場だ」という説得材料にもなります。
定着への投資は、採用費の節約として返ってきます。ハローワーク以外で正社員を一人採るには、数十万円単位の求人費を覚悟しなければなりません。辞めなければ、その費用は丸ごと不要になります。定着を「コスト」ではなく「最も利回りの高い採用策」と捉え直すことをお勧めします。
自館の離職の本当の理由が、つかめていますか。
従業員満足度調査について相談する募集の「数」より「中身」を変える
求人を出しても応募が来ない。その多くは、募集の量ではなく中身に原因があります。採用とは、企業が応募者を選ぶ場ではなく、数ある就職先のなかから応募者に自館を選んでもらう場です。客室のネット販売と同じことが、求人市場でも起きています。ライバルは同業他館だけでなく、異業種にも及びます。
近年は最低賃金が毎年大きく上がり、2025年度の全国平均は1,121円と、初めてすべての都道府県で千円を超えました。賃上げが続くと、都市と地方の時給差は縮まり、給与の高さだけでは人を引き寄せにくくなります。だからこそ、休みの取りやすさや働き方の柔軟さといった、お金以外の魅力で選ばれる宿づくりが、これまで以上にものを言います。費用をかけずに応募を増やせる見直しから挙げます。
人を増やさずに回す ― 省人化という三つ目の蛇口
採用も定着も、すぐには効きません。並行して、そもそも何人必要かという設計を見直します。人を減らすのではなく、少ない人数でも質を落とさず回せる形に組み替える、という発想です。
館内のすべての部署を充足させようとすると、慢性的な人手不足から抜け出せません。収益に響きにくい持ち場は思い切って省人化します。たとえば高級小規模旅館なら、フロントはチェックイン前後だけ手厚くし、それ以外は売店やラウンジと兼任で一名体制にする。一人が複数の持ち場を担えるよう、フロントと売店のレジを近づけるなど、レイアウトそのものを見直すのも有効です。空いた人手は、夕朝食やお出迎え・お見送りといった、満足度に直結する場面へ重点的に振り向けます。
「おもてなしを最優先にしない」というと語弊がありますが、付加価値につながる部分だけ人が担い、それ以外は合理化する、という意味です。接客スタッフに恒常的な残業や休日出勤を強いれば、離職が続き、かえって営業の継続が難しくなります。料理も、完璧を求めるほど人手が要ります。一汁三菜のシンプルな朝食で高評価を得ている宿は、いくらでもあります。手間の量と評価は、必ずしも比例しません。
どこから手をつけるか ― 施策の早見表
図表2:人手不足対策 優先度の早見表 ※費用と効果は目安。閑散期の活用で「定着」の費用対効果が最も高くなりやすい
| 蛇口 | 打ち手 | 費用 | 効きの速さ |
|---|---|---|---|
| 定着 | 有給を取りやすくする/余裕ある人員体制 | 小 | 速い |
| 定着 | 従業員満足度アンケートと改善 | 小 | 中 |
| 採用 | 職種名の変更/求人票の見直し | 小 | 速い |
| 採用 | 自社サイトに求職者向けページ | 中 | 中 |
| 省人化 | 配置のメリハリ/マルチジョブ化 | 小 | 中 |
| 省人化 | 動線・レイアウトの改修 | 大 | 遅い(改装時) |
外国人材も有力な選択肢です。技能実習に代わる育成就労制度が2027年に始まり、特定技能への移行を前提に、外国人材を育てて長く働いてもらう仕組みへと変わります。受け入れには相応の体制が要るため、別記事で制度の要点と準備を整理しました(育成就労・特定技能の実務ガイド)。IT・自動化(セルフチェックイン、PMSなど)も同様に有効ですが、いずれも定着と設計が整わない宿に入れると、教育負担や運用の混乱でかえって人手を奪います。まずは費用のかからない配置の見直しから始め、その次の段でDXを検討するのが順序です(宿泊DX・省人化ガイド)。
よくある質問
Q. 採用してもすぐ辞めてしまいます。何から見直すべきですか。
A. 採用ではなく定着からです。入社後の「思っていたのと違う」を防ぐには、面接時に実際の現場を見せ、仕事内容を平易な言葉で正確に伝えること。入社後はブラザー・シスター制度のように先輩が伴走する仕組みが効きます。あわせて従業員満足度アンケートで、辞める前に不満をつかんでおくことをお勧めします。
Q. 求人を出しても応募がまったく来ません。
A. 募集の量より中身を疑ってください。職種名を「運営スタッフ」等に変える、待遇と休日を前面に出す、求人票に残業・有給の実績値を書く、自社サイトに働く人の顔が見える求職者向けページを設ける。この四つだけで応募は変わります。広告会社のライター任せにせず、自館の言葉で書くことが肝心です。
Q. 賃上げの原資がありません。お金をかけずにできることは。
A. 費用のかからない打ち手は数多くあります。有給の取得促進、配置のメリハリ、職種名の変更、求人票の書き直し、面接時の現場案内は、いずれも追加費用がほぼ不要です。むしろ、定着が進めば数十万円単位の採用費が浮きます。定着は最も利回りの高い投資とお考えください。
Q. 外国人材を入れれば解決しますか。
A. 有力ですが、万能ではありません。2027年に技能実習へ代わって始まる育成就労制度では、特定技能への移行を見据えた受け入れが前提となり、教育・住環境・在留資格の管理など相応の体制が要ります。定着の仕組みと省人化の設計が整わないまま採用数だけ増やすと、教育負担で現場がかえって疲弊します。土台を整えたうえで、補完的に検討するのが堅実です。
Q. 結局、最初の一手は何にすべきですか。
A. 従業員満足度アンケートです。自館の漏れ(辞める理由)がどこにあるかを確かめずに対策を打つのは、穴の見えないバケツを直すようなもの。最も費用がかからず、定着・採用・省人化のどこに力を入れるべきかが見えてきます。
さいごに
いかがだったでしょうか。人手不足は、危機感を煽るニュースばかりが多く、具体的な解決策に踏み込んだ話は驚くほど少ないものです。けれども、五倍を超える求人倍率のなかでも人を確保できている宿は、確かに存在します。違いは、採用・定着・省人化という三つの蛇口を、同時に、地道に回しているかどうか。なかでも、費用をかけずに最も速く効くのは定着です。まず自館の漏れを知ることから始めてみてください。定着の具体的な進め方は、「採用と定着の完全ガイド」で、満足度の測り方から休みの取らせ方まで順を追って解説しています。
弊社アルファコンサルティングでは、ホテル・旅館の経営に特化し、特定の業者と利害関係を持たない独立した第三者の立場から、宿の課題に専門的な視点を添えてきました。従業員満足度調査の設計と分析、求人ブランディング、人材マネジメント向上計画(HR計画)の策定、省人化を見据えた配置・運営の見直しなど、それぞれの宿の実情に応じたお手伝いが可能です。
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三つの蛇口で、さらに深く
まず読みたい採用と定着の完全ガイド採用と定着の実務を、満足度の測り方から休みの取らせ方まで順を追って。このクラスターの中心となる一本です。描いた構想を、
ともに、かたちに。
こうしたい、こう変えたい——経営者が描いた構想を、ともにかたちにしていくのが弊社の役割です。数多くの経営に寄り添ってきた立場から、依頼者の望むかたちを、いちばんに考えます。
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