こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。

かつての旅館・ホテルには、番頭がいました。社長や女将の意を汲み、現場を束ね、求人の段取りから人の育成まで引き受ける参謀です。その番頭がいなくなり、採用も育成も経営者が一人で抱える時代になりました。「求人を出しても応募が来ない」「採っても一、二年で辞める」。財務や集客より、人の問題こそが最大の悩みだという声を、いちばん多く聞きます。観光地という立地、季節による繁閑、住み込み、そして言葉では教えにくい「おもてなし」。宿の人事は、もともと一筋縄ではいきません。

この行き詰まりを助けてくれるのが、生成AI(ChatGPTなど)です。求人票の手直しから、仲居やフロントのキャリア設計、中抜け勤務を含む業務の棚卸しまで、経営者が一人では目を通しきれない情報を整理してくれます。この記事では、宿の採用・育成・定着に、生成AIをどう使うかを、そのまま使えるプロンプト(指示文)とともにお伝えします。番頭なき時代の、新しい参謀の使い方です。

宿の人事にAIを使ってみたい方へ 始める順番
  1. まず採用から。求人票の手直し、住み込みやリゾバ募集の文面づくりに効きます。→ 採用にAIを使うへ
  2. 次に育成・定着。仲居やフロントのキャリア設計、宴会や中抜けの業務棚卸しに。→ 育成・定着にAIを使うへ
  3. 限界を知って使う。AIは誤情報も書きます。最終判断は人の仕事です。→ AIの限界と鉄則へ

この記事のプロンプトは、【 】を自館の情報に置き換えれば、そのまま使えます。

和室でノートパソコンを使う女将
番頭なき時代、AIは宿の人事の参謀になる

なぜいま、宿の人事に生成AIなのか

宿の人手不足は、これから一段と厳しくなるでしょう。労働時間の規制は強まる一方で、旅館に多い中抜け勤務は、いずれ通りにくくなります。外国人材も、技能実習に代わる育成就労制度が二〇二七年に始まり、奪い合いは激しくなるばかりです。勘と経験だけで人の問題を切り盛りできる時代は、もう終わりかけています。

それでも、同じ温泉地のなかで、応募が集まる宿と、高い求人費をかけても人が来ない宿に分かれます。両方の求人票を並べて読むと、きまって同じ違いが浮かびます。来る宿の求人には、この宿で何を学べるのか、どう成長できるのかという「働く価値」が書いてある。来ない宿のそれは、業務内容が淡々と並ぶだけです。宿の場合はさらに、住み込みの暮らしぶりやまかない、土地の魅力といった、暮らし全体の見せ方も応募を左右します。こうした「自館に足りない視点」を、競合と引き比べて教えてくれる。そこがAIのありがたいところです。

採用にAIを使う

最も効果が見えやすいのが採用です。とりわけ求人票の手直しは、いますぐ無料で試せます。宿の事情(住み込み、季節雇用、職種の幅)に即したプロンプトを挙げます。

図表1:そのまま使える 宿の採用のためのプロンプト集 ※【 】を自館・競合の情報に置き換えて使います

① 競合の宿と求人票を比べ、欠けている訴求点を見つける
あなたは宿泊業専門の求人広告のプロです。次の二つの旅館の求人票を、求職者の視点で比較してください。 (1)当館の求人票:【ここに貼り付け】 (2)競合の宿の求人票:【ここに貼り付け】 当館に欠けている訴求ポイントを重要な順に5つ挙げてください。とくに「働く価値(何を学べるか・どう成長できるか)」と、住み込みの場合は寮・まかない・立地の魅力が伝わっているかを評価してください。
宿同士の比較で、独りよがりな原稿の弱点が見える。生活面の見せ方まで点検できるのが宿ならでは。
② 来てほしい層別に、求人票を書き分ける
次の旅館の求人票を、(1)地元で働きたい主婦・主夫のパート、(2)リゾートバイト希望の20代、(3)地方移住・Uターンを考える人、の3つに書き分けてください。それぞれが最も気にする点(勤務時間・寮や生活費・地元での暮らしなど)を前面に出してください。 【ここに今の求人票を貼り付け】
宿の人材プールは複数ある。層を絞って書き分けるほど刺さる。移住・リゾバ層は宿特有の有力な母集団。
③ 住み込み・季節雇用の募集文をつくる
温泉地の旅館で、夏の繁忙期(7〜9月)の住み込みスタッフを募集する求人文を作ってください。個室寮あり・3食まかない付き・Wi-Fiあり・未経験歓迎という条件を、若い世代に魅力的に伝わるように。仕事は接客・配膳・客室清掃です。
繁忙期やリゾートバイトの募集は宿に独特。生活コストの安さや観光地での暮らしを、AIが訴求文に変えてくれる。
④ おもてなし適性を見極める面接質問をつくる
あなたは旅館の採用担当です。未経験の仲居・客室係を採用する面接で、(1)長く続けてくれそうか、(2)おもてなしへの適性があるか、を見極める質問を5つと、「どんな答えなら良い兆候か」を作ってください。
言葉にしにくい「おもてなし適性」を、質問という形に落とせる。誰が面接しても一定の見極めができる。

自館の求人票は、競合の宿と比べて「働く価値」が伝わっていますか。

採用とAI活用について相談する

育成・定着にAIを使う

定着の問題は、多くの経営者が思うより根が深いものです。観光庁の調査では、宿泊業から他業界へ移った人の離職理由の第一位は「自分のしたい業務ができなかった」で、体力や仕事量を上回りました。業界のなかで移る理由でも、「スキルアップや能力を活かす機会が足りない」が上位に並びます。仕事を覚えたあとのマンネリ、先が見えない不安。辞める理由は、案外このあたりにあります。同じ調査では、研修をしている施設ほど離職率が低い傾向もうかがえます。仲居、フロントと、職種ごとに成長の道筋をどう描くか。ここでも、AIが下ごしらえを引き受けてくれます。

図表2:そのまま使える 宿の育成・定着のためのプロンプト集

⑤ 職種別に、宿ならではのキャリアパスを描く
次のスタッフについて、3年後・5年後のキャリアパスと、段階的な育成計画(半年ごと)を作ってください。旅館の職種に即した将来像(例:仲居→接客リーダー→女将候補、フロント→主任→支配人、調理→部門責任者→料理長)を示してください。 ・職種と経験:【例 仲居、入社2年】 ・得意分野:【例 常連客の顔と好みを覚えるのが得意】 ・本人の希望:【例 いずれ後輩をまとめたい】
「この宿で女将候補になれる」といった具体的な将来像が、定着を生む。面談のたたき台になる。
⑥ 宿特有の業務を棚卸しし、やめられる仕事を見つける
次は当館の現在の業務リストです。これらのうち、廃止または簡略化できる業務を理由とあわせて挙げてください。とくに中抜け勤務、宴会の準備・配膳、客室清掃、送迎、布団の上げ下げなど、人手のかかる業務に着目してください。あわせて、生まれた時間で取り組むとよい新しい業務も提案してください。 【ここに業務リストを貼り付け】
宿は人手のかかる業務が多い。AIに棚卸しを手伝わせると、聖域化した無駄や、過剰なサービスが見えてくる。
⑦ 語学が苦手なスタッフ向けに、接客チートシートをつくる
英語が苦手な旅館スタッフ向けに、チェックイン・お食事案内・大浴場の説明でよく使う接客フレーズを、英語と「読み仮名」付きで20個作ってください。やさしい表現で、丁寧すぎないものにしてください。
インバウンド対応の不安は離職や採用難の一因。AIで現場の言葉の壁を下げると、既存スタッフの戦力化につながる。

AIの限界と、使うときの鉄則

便利な道具ですが、万能ではありません。番頭の代わりがそっくり務まるかといえば、そうはいきません。生成AIは、もっともらしい誤りを、すらすらと書いてしまうことがあります。鵜呑みにすれば、判断を誤ります。お客様の表情から本音を察することも、常連客との長い信頼を築くことも、地元の金融機関と腹を割って話すことも、AIにはできません。最後に責任を持って決めるのは、いつも人です。AIは選択肢と根拠を並べるところまで。決めるのは女将や経営者の仕事——この線引きだけは、忘れないでください。

使うときの鉄則:① スタッフや応募者の氏名・住所・評価などの個人情報は入力しない(「Aさん」などに置き換える)。② AIの出した文章や計画は、事実と自館の方針に照らして人が必ず確認してから使う。③ いきなり完成を求めず、「もう少し具体的に」「別の案も」と対話で詰めるほど、自館に合った答えに近づく。

よくある質問

Q. パソコンが得意ではありません。それでも使えますか。

A. 使えます。生成AIは、検索窓に話し言葉で頼むだけで動きます。難しい設定は要りません。この記事のプロンプトの【 】を自館の情報に置き換えて貼り付けることから始めてください。まずは求人票の手直しが、いちばん試しやすい入口です。

Q. 住み込みやリゾートバイトの募集文も作れますか。

A. 得意な領域です。寮・まかない・水道光熱費・立地の魅力といった生活面の条件を、若い世代に響く言葉に変えるのは、AIが力を発揮するところです。図表1の③のプロンプトを使い、季節や条件を自館に合わせて書き換えてください。

Q. 仲居やフロントの育成にも役立ちますか。

A. 役立ちます。職種ごとのキャリアパスと段階的な育成計画を、AIにたたき台として作らせられます(図表2の⑤)。「女将候補」「支配人」「料理長」といった宿ならではの将来像を示してやると、より具体的な計画になります。スタッフとの面談で使うと、定着の力になります。

Q. AIの答えをそのまま使って大丈夫ですか。

A. そのままは危険です。生成AIは、もっともらしい誤情報を書くことがあります。数字や制度、自館の方針に関わる内容は、必ず人が確認してから使ってください。個人情報を入力しないことも鉄則です。

Q. 採用や育成以外にも使えますか。

A. 使えます。インバウンド客への多言語の接客フレーズづくり(図表2の⑦)、口コミへの返信文、シフトや業務の見直しなど、応用範囲は広いです。お客様の口コミ対応への活用は別稿「悪い口コミへの対応」で解説しています。いずれも、お客様や金融機関との信頼づくりといった「人にしかできない仕事」を置き換えるものではない、という前提は共通です。

さいごに

いかがだったでしょうか。番頭がいた時代は、採用も育成も、その人の頭のなかの勘と経験で回っていました。その番頭がいなくなったいま、役割を一人で背負う女将や経営者にとって、生成AIは頼れる相棒になります。求人票の一字一句から、仲居やフロントのこの先の道筋、人手のかかる仕事の見直しまで、目の届ききらない部分を整理し、根拠とともに選択肢を示してくれる。肝心なのは、材料はAIに出させ、最後は自分の目で確かめ、自分の責任で決めることです。この線さえ守れば、人手で苦労するいまだからこそ、AIは心強い味方になってくれます。

弊社アルファコンサルティングでは、ホテル・旅館の経営に特化し、特定の業者と利害関係を持たない独立した第三者の立場から、生成AIの業務活用をお手伝いしてきました。求人票や採用の改善、職種別の育成・定着の仕組みづくり、宿特有の業務の棚卸しなど、それぞれの宿の実情に応じて、AIをどう使えば効果が出るかを具体的にご提案します。

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