こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。
 
ホテル旅館の顧問先に訪問すると、たまに疲れたスタッフをお見かけします。
 
声をかけると「いやー、先ほど、すごい剣幕で怒っていたお客様がいて、、、対応が大変で疲れてしまいました」との回答。
 
社長に聞くと、「こういうトラブルはたまにあります。多分モンスター宿泊客だと思います」との素っ気ない回答。
 
確かに、「あのお客様はクレーマー」だと選別して割り切ってしまえばそれまでですが、ホテル旅館側の対応がまずかった(失敗した)ケースも少なからずあるでしょう。ホテル旅館の言い分に関係なく、ネットで非常に悪い口コミを書かれたり、会社や家族へお話をされたりというリスクもあります。
 
今回はそのような顧客トラブルを未然に防ぐ方法について考えてみましょう。

 

夜遅くチェックインするファミリー客の対応は丁寧に

旅館のチェックインは15時から始まるのが一般的ですね。昼間にチェックインして、温泉に入ってからお部屋でゆっくり過ごして、ご馳走を食べるというのを楽しみにしているお客様が多いでしょう。
 
ところが、予定時間を大幅に遅れて来館されるお客様がたまにいます。フロント係は、ノーショー(事前連絡無しのキャンセル)ではないかと気を揉んでいますし、レストランのサービス係は料理がスタートできないことを心配しています。あまり遅くになると、板前が帰ってしまうホテル旅館もあるでしょう。お客様の来館が遅れるということは、各部署のスタッフにも負担がかかっています。
 
一方で、遅くなるお客様にも何か事情があったかもしれません。せっかくの家族旅行なのに、道に迷ってしまい到着が遅れたのかもしれません。子供がぐずっていたのかもしれません。家族喧嘩になったのかもしれません。とても険悪な雰囲気の中で、お父さんが必死にハンドルを握ってホテル旅館へやってきたのかもしれません。
 
そんな事情を知らず、夜遅くに来館されたお客様に対して、「ご夕食のラストオーダーの時間を過ぎてしまいましたので、ご夕食のご用意ができません」とマニュアル通りの答えをしたらどうでしょうか?恐らく怒ってしまいますね。その怒りは増幅して、お部屋やお風呂、朝食など様々なところに対して不満を持つでしょう。
 
当然、帰ってからも怒りは収まらず口コミに「最低のホテル旅館だった」と書くに違いありません。
 
でも、全てについて対応が最悪だったかというと、そうではありません。夜遅く来館した時に、フロントスタッフが悪気なく言った言葉と態度に全ては起因しているのです。
 
ホテル旅館のオペレーション(運営)上の都合やルールを一方的に押し付けるのではなく、お客様の事情に耳を傾けて、「夜遅くなったけど、やっと辿り着けて良かった」と安心感を与えるような接客を心掛けたいものですね。
 

ビジネスホテルに予約なしで訪れる女性客

予約なしで、一人でふらっとフロントに訪れる女性客がたまにいらっしゃると思います。
 
正直、心配なお客さまですよね。いきなりフロントに現れるということは、ご家族と喧嘩でもされたとか何か事情があるのでしょう。ちょっと気性が荒くなっている方もいます。急に来られても、部屋が空いてなかったら、お断りするしかありません。
 
「あいにく、今日はご予約でいっぱいです」
 
普段の対応ならば、このような断り方で良いでしょう。しかしながら受け止める側の方が、普通の心理状態ではない場合が多いので、感情的になって、クレーマーみたいになっている方をお見かけすることがあります。
 
フロントスタッフの目には、一人の女性しか映っていないですが、その女性の後ろには、家族や会社の同僚、はたまた、SNSのフォロワーがいるかもしれません。スタッフとのやり取りをいろんなところで拡散されてしまいます。
 
「申し訳ありません、今日は、ご予約でいっぱいなのです。せっかくお越し頂いたのに、本当に申し訳ありません。」
 
と笑顔で、「申し訳ない」を連発するのです。多分、その女性は、家庭や会社で理不尽な対応を受けて、謝ってほしい!!という気持ちでいっぱいなのです。そして、併設するカフェの割引券などをお渡しして、また、是非、お越しください。と再度、笑顔を振りまくのです。そこまでされて嫌な気はしません。ちょっとカフェで休むか、ロビーでボーっとして時間を潰して帰るでしょう。
 
辛い時に優しくされた女性は、必ず、恩返しに来ます。アポなし女性は、広告媒体だと思って接してあげてください。
 

繁忙期に口コミが下がってしまうホテル旅館

長蛇の列に並んで、やっと自分の番が来た時、迎えてくれたフロントスタッフに笑顔がないことがあります。フロントの方も繁忙期で疲れているのでしょう、無表情な場合が多いです。そんな時こそ、笑顔で「お待たせしました」の一言が必要です。
 
一流のホテル旅館でも、意外にこの一言と笑顔がないスタッフをたまに見かけます。日本人は辛抱するのが得意で、行列を許せる民族なので、待たされるのは許すのです。しかし、気遣いがないと不満を持ちます。一流のホテル旅館に泊まる人ほど、恰好をつけたがる人が多いのです。人前で、ギャーギャー怒ったりしません。金持ち喧嘩せずということわざもありますから、静かにしていますが、静かな客は、本当に怖い客です。そのお客様は、二度と来ないと思ってください。物静かな人には、友達も多いので、多数のお客様を失うことになります。

 

他部署のミスでも自然に謝ることができるスタッフを育てましょう

ホテル旅館では、設備の故障やリネン類の不足など、様々なトラブルが発生するもの。そんなクレームを最も受けやすいのがフロントスタッフです。
 
他部署に連絡して、すぐに対応要請を依頼しますが、繁忙時間だったり行き違いがあったりすると、うまく対応できない時もあります。そうすると、同じお客様から、再度クレームがきます。今度は、かなりきつめになっています。
 
そのスタッフの責任ではなくても、そこは、とにかく謝るしかありません。申し訳ありません、すぐ担当部署に連絡したのですが、再度連絡いたします。本当にご不便おかけしますと謝るしかないのです。   申し訳なさそうに、心配そうに謝るのです。大体のお客様は、「まぁ、あなたのせいじゃないけど」って言ってくれます。トラブルに、一生懸命対応してくれるスタッフの姿をお客様は見ています。

 

従業員満足度を上げればクレーマー顧客は減らせる

ホテル旅館業界は空前の人材不足になっています。
 
有効求人倍率も、あのバブル時を上回ると報道されています。今は、まさに売り手市場です。様々な業界の人手不足、担い手不足が深刻化しています。人材が集まらず、倒産する企業すら出てきているのです。
 
ホテル旅館業界も他人ごとではありません。中抜け勤務やシフト勤務など、不規則な長時間勤務を取っているケースが多いですし、様々な場面で臨機応変な対応を求められる仕事です。ホテル旅館の経営者や運営者は、お客様以上にスタッフを大切にしなければならない時代になりました。
 
松下幸之助氏はこんな言葉を残しています。 「松下電器は何をつくるところかと尋ねられたら、松下電器は人をつくるところです。併せて電気器具もつくっております。こうお答えしなさい」と自社のスタッフに伝えていたそうです。自己の利益ばかりを追いかけず、会社の従業員の成長を大切にして、育てる姿勢。企業は、人間を育てて、一流の社会人を作るところ、ということですね。
 
ホテル旅館の仕事はすぐに覚えられる。どうせすぐに辞めるのだから、人事制度を作ったり毎年昇級したりしてもしょうがないと、悲観的な考え方を持ったホテル旅館の経営者や運営者は少なくありません。
 
しかし、その考え方が通用するのは、求人広告を出せばすぐに全国から応募があり、また住み込みで献身的に働いたスタッフがいた時代です。団体客相手に流れ作業で仕事をすれば良いという時代は遠い過去の話になりました。
 
顧客クレームを未然に防ぐためには、このコラムで言及したような、お客様の気持ちへの配慮ができ、クレーム対応について豊富な経験を積み重ねたベテランスタッフの存在が不可欠です。そのような人材を採用して長く働いてもらうためには従業員満足度を上げていく必要があります。
 
一見遠回りのようですが、従業員満足度を上げることこそが顧客クレームを減らす最も効果的な施策といえるでしょう。
 
(本コラムは、橋本真雪さんに執筆協力頂きました)