こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。

「採用してもすぐ辞めてしまう」「そもそも、いい人が採れない」。人手不足に悩む旅館・ホテルの経営者から、最も多く伺うお悩みです。求人を出しても応募が来ない。やっと採用しても、数か月で辞めてしまう。その繰り返しに疲れている、という声を本当によく聞きます。

ここで一つ、お伝えしたいことがあります。「人が採れない」ことと「人が辞める」ことは、別々の問題に見えて、実は同じ根から来ていることが多いのです。今回は、生成AIを使って採用と定着の本当の課題を可視化し、その根を断つ方法をご紹介します。

前回は決算書の話で、人件費率を決めているのは総労働時間の設計だとお伝えしました。その人をどう配置し、どう定着させるか。今回はその出発点となる、人の見極めの話です。

この記事を読むとわかること
  • 1「採れない」と「辞める」が同じ根から来ている理由
  • 2離職の本当の原因=採用時に見ていない性格・気質の不一致
  • 3採用代行や求人媒体が定着まで踏み込めない構造
  • 4会議の発言から各スタッフの性格を読む4点分析プロンプト
  • 5求人票×退職理由で採用できない構造を暴くプロンプト

離職の本当の原因は、採用時に見ていない「性格・気質」にある

この章の要点
  • 履歴書・面接・経験年数は見るが、性格・気質・適性は見ていない
  • 離職の本当の理由は「自分はここに向いていない」という感覚
  • 向き不向きは本人の能力でなく配置の問題。配置設計が人件費率も左右する

人を採用するとき、私たちは何を見ているでしょうか。履歴書や職務経歴書で経歴・資格・スキルを確認し、面接で第一印象や話し方を見て、業界での経験年数を参考にする。多くの宿が、こうした項目で採否を決めています。

しかし、ここに大きな見落としがあります。採用時に「性格・気質」を見ていないのです。内向的か外向的か。慎重に動くタイプか、まず行動するタイプか。論理で考えるか、感情を大切にするか。そして何より、その人の性質が、任せようとしている仕事に合っているか。これらは履歴書にも面接の短い時間にも、ほとんど現れません。

図1:採用時に「見ているもの」と「見ていないもの」
見ているもの
履歴書・職務経歴(経歴・資格・スキル)
面接での第一印象・話し方
業界での経験年数
見ていないもの
性格・気質(内向/外向、慎重/行動)
考え方(論理型/感情型)
適性と業務の一致度(向いているか)
右側(見ていないもの)こそが、定着を左右する。スキルが高くても、性質と仕事が合わなければ「自分はここに向いていない」と感じて辞めていく。

離職の本当の理由は、待遇や人間関係そのものよりも、「自分はここに向いていない」という感覚であることが少なくありません。接客が得意でない人を最前線に立たせれば、本人も苦しく、いずれ辞めていきます。これは本人の能力の問題ではなく、配置の問題です。性格・気質を見ずに採用し、向いていない仕事に就けてしまうことが、離職の根本にあるのです。

前回お伝えした人件費率の話を思い出してください。黒字旅館と赤字旅館の人件費率の差は5.8ポイントでした。この差を生むのは人の配置設計です。そして配置設計の出発点が、一人ひとりの性格・気質を見極めることなのです。採用と定着は、決算書の数字とも地続きでつながっています。

この分析は、採用代行や求人媒体には頼みにくい

採用がうまくいかないとき、多くの経営者は求人媒体や採用代行会社に相談します。応募を集めることに長けた相手だからです。ただ、ここにも前回・前々回と同じ、立場による限界があります。

図2:採用の「入り口」と「出口」、誰がどこを見ているか
求人媒体
収益の源
広告の掲載料・応募/採用の成果報酬
届きにくい所
採用後の定着(出口)は収益に直結しない
採用代行会社
収益の源
応募を集め採用に至らせること
届きにくい所
採れた人が向いた仕事に就けたかまでは見届けない
独立コンサル(弊社)
収益の源
課題の特定と打ち手の設計支援
届きにくい所
入り口から定着の出口まで一続きで見る
媒体も代行も誠実に仕事をしている。ただ収益が「入り口」にあるため、「もっと好条件で出しましょう(=掲載費増)」が合理になりやすい。

媒体や代行の収益は、応募の入り口にある

求人媒体の収益は、求人広告の掲載料や、応募・採用が発生したときの成果報酬から生まれます。採用代行会社も同様に、応募者を集め、採用に至らせることが業務であり、収益の源です。

つまり彼らの関心は、採用の「入り口」に集中しています。応募をいかに増やすか、いかに採用まで結びつけるか。ここが彼らの仕事です。一方で、採用した人がその後どう定着するか、向いた仕事に就けているかという「出口」までは、媒体や代行の収益には直接つながりません。これは彼らが不誠実だという話ではなく、収益構造がそうなっているということです。

だから「もっと好条件で出しましょう」が合理になる

この構造があるため、採用がうまくいかないと相談すると、「給与条件を上げましょう」「もっと目立つ広告枠に出しましょう」という助言になりがちです。これは媒体の掲載料を増やす方向であり、媒体にとっては合理的です。しかし、それが宿の根本的な解決になるとは限りません。

そもそも採れない理由が、求人票の見せ方や、自館の求める人材像と現場の実態のずれにあるのなら、広告費を積んでも、向いていない人を採用してまた辞められる、という繰り返しになりかねません。入り口にお金をかけ続けても、出口が抜けていては、人は定着しないのです。

だから、中立の第三者の目が要る

求人媒体も採用代行も、それぞれの役割の中で誠実に仕事をしています。問題は、採用の入り口から定着の出口までを一気通貫で見て、自館の利益だけを基準に課題を読み解いてくれる存在が、出入りの相手の中にはいないことです。

私どもアルファコンサルティングは、特定の求人媒体や採用代行会社と利害関係を持たない独立した立場から、採用と定着の両方を一続きの問題として捉え、率直に申し上げます。次にご紹介するAIの分析も、この役割を補ってくれる道具です。AIは広告枠を売る必要がありません。ただデータを見て、なぜ採れないのか、なぜ辞めるのかを淡々と分析します

会議の発言から、各スタッフの性格と最適な接し方を読む

木製テーブルを囲み、ノートパソコンや資料、グラフを手にビジネス会議に取り組む人々を真上から捉えた様子
会議での発言には、その人の思考のクセや得意・不得意が色濃く現れる。

まず、すでにいるスタッフをどう見極めるかです。性格・気質は履歴書に現れませんが、実は日々の発言の中に、すべて現れています。とりわけ会議での発言には、その人の思考のクセや得意・不得意が色濃く出ます。これをAIに分析させます。

手順は録音・文字起こし・分析の3段階

まず社内会議を録音し、文字起こしします。最近は議事録作成のためのAIツールが普及しており、録音から自動で文字に起こせます。次に、その文字起こしデータをAIに読み込ませ、分析のプロンプトを投げる。これだけです。

1
録音する
社内会議を録音(目的を伝えたうえで)
2
文字起こし
議事録AIツールで自動でテキスト化
3
分析させる
文字起こしをAIに読み込ませプロンプトを投げる
プライバシーへの配慮
会議を録音する際は、スタッフに「議事録の作成と、より良いチームづくりのために録音する」と目的をきちんと伝える。隠れて録音することは信頼を損なう。開かれた形で運用することが前提である。

4点を分析させるプロンプト

文字起こしデータができたら、次のプロンプトを投げます。

PROMPT 01 — 4点分析
COPY
1以下は社内会議の文字起こしデータです。
2各参加者の発言を分析して、以下の4点を
3参加者ごとに整理してください。
4① 性格・思考スタイル(論理型か感情型か、慎重型か行動型か)
5② 得意分野と苦手分野
6③ 経営者の方針を伝える際の効果的な方法
7④ この人物が能動的に動くための具体的な一言
図3:4点分析で見えてくること(出力イメージ)
性格・思考スタイル
論理型か感情型か、慎重型か行動型か
得意分野と苦手分野
強みと弱みを発言から特定
方針の伝え方
この人に響く説明の仕方
動かす一言
能動的に動いてもらう具体的な声かけ

このプロンプトで、AIは各スタッフの人物像を立体的に描き出してくれます。「この人は慎重型なので、新しい取り組みは理由を丁寧に説明すると動きやすい」「この人は行動型なので、細かく指示するより任せた方が力を発揮する」といった、一人ひとりに合った接し方が見えてきます。同じ言葉で全員に指示しても、響く人と響かない人がいるのは当然です。相手に合わせて伝え方を変える、その手がかりが得られます。

MBTIを併用すると、相互理解が進む

もう一つ、手軽な方法があります。MBTI(16Personalities)という性格タイプの診断です。スマートフォンで10分ほど、無料でできます。スタッフ自身に受けてもらい、結果を共有し合うと、お互いの違いを理解するきっかけになります。

ただし注意したいのは、診断結果で人を決めつけないことです。「この人はこういうタイプだから」と型にはめるのではなく、「人によって心地よい働き方は違う」という前提を全員で共有するための道具として使う。そう位置づけると、チームの相互理解が深まります。

求人票と退職理由から「採用できない構造」を暴く

次に、採用の入り口の問題です。多くの経営者がやっていないことがあります。自館の求人票と競合の求人票を、並べて比較したことがあるでしょうか。そして、退職した人たちの退職理由を、一つの構造として分析したことがあるでしょうか。

AIに読み込ませる4つのデータ

用意するのは4つです。

図4:AIに読み込ませる4つのデータ
1自館の現行求人票
採用条件・待遇・求める人材像を文書化
2競合施設の求人票
求人サイトで誰でも閲覧できる
3過去3年の退職理由
退職者がなぜ辞めたかの記録
4在籍スタッフのアンケート
現場の声を簡単な形で集める

採用できない構造を暴くプロンプト

PROMPT 02 — 採用構造の分析
COPY
1添付した自館の求人票と競合の求人票を比較し、
2応募者の目線で自館の求人票の弱点を指摘してください。
3あわせて、退職者の退職理由と在籍スタッフの
4アンケート結果を照合し、繰り返し出てくる不満の
5構造を整理してください。
6そのうえで、採用と定着を改善するために
7今すぐ変えられることと、時間がかかることに
8分類して示してください。

このプロンプトで、AIは応募者の目線から自館の求人票の弱点を指摘します。給与・待遇の見せ方、働き方の伝え方、求める人材像の書き方。競合と並べることで、自館の何が見劣りしているかが浮かび上がります。同時に、退職理由と在籍者の不満を照合し、繰り返し現れる不満の構造を整理してくれます。

採用と定着は同じ根 ― 分析を打ち手に翻訳する

ここで、冒頭の話に戻ります。「人が採れない」理由と「人が辞める」理由は、実は同じ根から来ていることが多いのです。

図5:採用と定着の悪循環
求人票の言葉と
現場の実態がずれる
入社後に
ギャップを感じる
早期離職で
人手が不足
急いで求人を出し
またミスマッチ
この悪循環の根を断たない限り、広告費をいくらかけても人は定着しない。入り口と出口は一続きである。

たとえば、求人票では「アットホームな職場」と書いているのに、実際には人手不足で一人あたりの負担が重い。この実態と求人の言葉のずれが、採用後のギャップを生み、早期離職につながります。そして辞める人が出るからまた人手が足りなくなり、さらに求人を急いで、ミスマッチが起きる。この悪循環の根を断たない限り、広告費をいくらかけても人は定着しません。

AIが示してくれた弱点や不満の構造を、自館の現実に落とし込んで打ち手に変えるのは、経営者ご自身の仕事です。「今すぐ変えられること」――たとえば求人票の言葉を実態に合わせて書き直す、面接で性格・気質を確かめる質問を加える――は、明日からでも着手できます。「時間がかかること」――職場環境の改善や、配置設計の見直し――は、優先順位をつけて中長期で取り組む。この仕分けと実行こそが、経営者にしかできない翻訳の仕事です。

採用と定着を別々の問題として、それぞれに対症療法を重ねるのではなく、同じ根の問題として一気通貫で設計し直す。AIは、その全体像を見える化してくれる道具です。

おわりに

いかがだったでしょうか。3回にわたってお届けしてきたAI実践シリーズも、今回が最終回です。口コミ、決算書、そして今回の人材。いずれも、表面の数字や印象の裏にある本当の課題を、AIの力で可視化し、自館の打ち手に翻訳していくという点で共通しています。

人の問題は、採用の入り口と定着の出口を一続きで捉え、一人ひとりの性格・気質を見極めることから始まります。会議の発言や求人票という、すでに手元にあるデータを、AIは経営の手がかりに変えてくれます。

弊社アルファコンサルティングでは、特定の求人媒体や採用代行会社と利害関係を持たない独立した立場から、依頼者の利益を最優先に、採用と定着の課題整理をご支援しています。応募の入り口にも、定着の出口にも目を配り、両方を一続きの問題として第三者の目で率直にお伝えできるのが私どもの役割です。観光経済新聞でのコラム連載は17年になり、現場で積み上げてきた知見をもとに、自館に合った改善の設計図づくりをお手伝いします。

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