こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。
生成AIについて、私が観光経済新聞で初めて取り上げたのは、ChatGPTが世に出て間もない頃でした。当時はまだ、口コミへの返信やお詫び文の下書きといった、ごく初歩の使い方を紹介する程度でした。それから数年がたち、状況はずいぶん変わりました。今では生成AIを、宿泊施設のほとんどの業務で使えるようになっています。
一方で、経営者の方からは「結局どこまで使えるのか」「任せて大丈夫なのか」という戸惑いの声もよく聞きます。今回は、宴会場を併設するホテルの業務を例に、生成AIをどこに使い、どこは経営者が自分でやるべきか、その線引きをお話しします。
- 74の業務を仕分けると、使いどころが見える。39業務がすぐ始められると分かりました。→ ポイント①へ
- 任せてよいのは「言葉をつくる作業」。文章・翻訳・要約が入り口です。→ ポイント②へ
- 手放してはいけないのは「数字と、安全への責任」。お金とアレルギーは人が判断。→ ポイント③へ
- 線引きはひとつ。言葉は任せ、判断と責任は持つ。→ ポイント④へ
気になるポイントだけ、つまみ読みでも役立つように作っています。
ポイント① 74の業務を、効果と難しさで仕分けてみる
生成AIを取り入れるときは、ツールをやみくもに試すのではなく、まず自館の業務を一つずつ書き出して、どこに使えるかを見ていくのがよいと思います。ここでは、宴会場を併設するホテルを例に、その業務を見ていきます。
予約・レベニュー、フロント・接遇、客室・清掃、料飲・宴会、営業、団体対応、経理・財務、総務・人事、企画・広報、購買、経営管理という11の部署にわたって、合計74の作業項目を書き出し、それぞれについて「効果の大きさ」と「導入の難しさ」の二つの面から評価しました。
評価をまとめたものが、次の表です。縦が効果の大きさ、横が導入の難しさを表します。左上、つまり効果が大きくて取り組みやすい業務ほど、先に手をつけるとよい、という見方になります。
| 難しさ 低 (取り組みやすい) | 難しさ 中 | 難しさ 高 | |
|---|---|---|---|
| 効果 大 | 16件|OTAの説明文・プラン名、館内案内やFAQの多言語化、予約・海外予約への返信メール、口コミ返信、会議の議事録、清掃基準の標準化、営業資料・お礼状ほか | 3件|教員向けの事前学習教材、口コミ・アンケートの要約(お客様の声の分析)、AIに拾われやすいFAQ・ページづくり | 1件|勤務シフトの作成(希望と公休の調整) |
| 効果 中 | 20件|行程表・しおり・案内状、お品書き・メニュー説明、求人票、社内通知、研修教材、周辺観光の案内ほか | 19件|アレルギー物質の抽出(最終確認は人手)、稼働・客室単価レポートの要約、予算と実績の差異コメント、補助金申請書の下書きほか | 2件|需要予測・予約の動きの分析、部門別損益の分析補助 |
| 効果 小 | 2件|見積書・発注文の下書き | 10件|在庫・発注メモ、点検記録の整理、勤怠データの集計ほか | 1件|請求書と入金の照合(誤りに注意) |
※赤系のセルが、本文で述べる「経営者が手放してはいけない」領域にあたります。
このうち、効果が大きくてすぐに始められる業務は、39ありました。数年前には考えられなかったほど、使える場面が広がっています。ただ、大事なのは、思いついた業務をいくつか試すことではありません。業務の全体を見渡したうえで、どこから手をつけるかの順番を決めることです。これは、経営の目がなければできない作業です。
ポイント② 任せてよい仕事 ──「言葉をつくる作業」
効果が大きく、すぐに始められると評価した業務には、はっきりした共通点があります。どれも、文章をつくる仕事だということです。
たとえば、OTAの施設説明文やプラン名、館内案内やFAQの多言語化、海外からの予約への返信メール、口コミへの返信の下書き、会議の録音からおこす議事録、会議資料のたたき台。もう少し進んだものでは、お客様アンケートや口コミをまとめて読み込ませてお客様の声を要約させたり、検索エンジンや生成AIに拾われやすい形のページをつくらせたりすることもできます。こうした作業で、生成AIは大きく役立ちます。部署ごとに、主な使い方を整理すると次のようになります。

このように、依頼の背景と望む仕上がりを添えて指示すると、そのまま使える水準の文章が数秒で返ってきます。こうした「言葉をつくる作業」が、生成AIの主戦場です。
| 部署 | 主な使い方(効果が大きく、始めやすいもの) |
|---|---|
| 予約・販売 | OTAの説明文やプラン名づくり、館内案内の多言語化、海外からの予約への返信メール |
| フロント・接客 | 問い合わせへの一次回答の下書き、多言語の館内案内・FAQ・指さしシート、チェックイン案内の翻訳 |
| 客室・清掃 | 清掃基準やチェックリストの文書化・標準化、外国人スタッフ向けの手順書 |
| 営業 | パンフレット・営業資料の文案、旅行会社向けの受け入れ案内、教育旅行の提案資料や専用ページ、お礼状の下書き |
| 口コミ・広報 | 口コミ返信の下書き、口コミやアンケートの要約(お客様の声の分析)、Googleの店舗情報の説明文・投稿 |
| 会議・社内 | 会議の録音からおこす議事録、会議資料や報告資料のたたき台、業務マニュアルの整備 |
フロントから営業、広報、社内会議まで、ほぼすべての部署に使いどころがあります。
いずれも下書きや素案をつくる作業で、最後に決めることそのものではありません。文章を一から書く手間、外国語に直す手間、たくさんの声を読む時間。こうした手間のかかる作業を生成AIに任せれば、その分、スタッフはお客様への対応や、企画を練る時間にあてられます。
ベテランの頭の中にしかなかった段取りを、文章にして残すことにも役立ちます。清掃の基準、接客のマニュアル、業務の手順書。こうしたものを形にしておけば、人が替わっても仕事の質を保ちやすくなります。人手不足が続く宿泊業では、地味でも効いてくる取り組みです。
自館のどの業務に生成AIを使えるか、棚卸しから始めませんか。
AIの使いどころを相談するポイント③ 経営者が手放してはいけない判断 ── 数字と、安全への責任
ここからが、今回いちばんお伝えしたいところです。生成AIがこれだけ使えるようになった今だからこそ、「使ってはいけないところ」をはっきりさせておきたいと思います。
先ほどの仕分けで、はっきりしたことがあります。経理や財務の業務は7つ調べましたが、「すぐに始めてよい」と言えるものは一つもありませんでした。請求書と入金の照合などは、生成AIがもっともらしい誤りを出しやすく、お金の正確さをAIに任せるのは危ないからです。
同じことが、料金の決め方、需要を読んだうえでの値づけ、部門ごとの損益をどう見るかといった場面にも言えます。AIに過去のデータを要約させ、傾向を示させることはできます。けれども、「この週末の値段をいくらにするか」「この赤字の部門をやめるか、立て直すか」を決めるのは、施設の体力や将来の見通しを踏まえた経営の判断です。ここは手放してはいけません。

アレルギー対応 ── AIに下書きさせ、人が責任をもって確認する
もう一つ、わかりやすい例があります。料飲部門でのアレルギー対応です。メニューに含まれるアレルギー物質、いわゆるアレルゲンを抜き出す。料理の成分と照らし合わせて確認する。食べられない食材を除いた代替メニューを考える。こうした作業は、生成AIの得意とするところで、実際に手間を大きく減らせます。
けれども、アレルギー対応は、お客様の命にかかわることもある、責任の重い仕事です。生成AIの出力には、もっともらしく見えて事実と違う誤りが混じることがあります。表示すべき品目を一つでも見落とせば、重大な事故につながりかねません。
ですから、ここでもAIに任せきりにはできません。AIが抜き出したアレルゲンや代替案は、あくまで下書きとして受け取り、最後は人が原材料の表示や仕入れ先の情報と照らし合わせて確認し、責任をもって判断する。この一手間を、決して省いてはいけません。
契約書の要点を整理させたり、補助金の申請書の下書きをつくらせたりするのにも、AIは役立ちます。ただ、その契約が自館にとって損でないか、その補助金の条件に本当に当てはまるか。これを最後に見極めるのは、専門家と経営者の仕事です。AIの答えをうのみにして出せば、条件を満たさず通らなかったり、不利な契約を結んでしまったりすることがあります。
もう一つ、大事な前提があります。AIに経営の数字を分析させる前に、そもそも自館の数字が整理されているか、ということです。稼働率も、客室の単価も、部門ごとの原価もあいまいなまま問いかけても、返ってくる答えもあいまいです。まず足元の数字をそろえることが先で、これはAIの話より前にある、経営そのものの仕事です。
ポイント④ 線引きの考え方は、ひとつだけ
ここまでをまとめると、線引きの考え方はひとつだけです。
青木康弘AI導入のご相談をいただいたとき、最初に行うのはツール選びではなく、数字と業務の棚卸しです。この順番を逆にした施設ほど「AIは使えない」という結論になりがちで、もったいないと感じています。言葉をつくる作業は任せてよい。
けれども、判断と責任は手放さない。
言葉をつくる作業はAIに任せ、判断と責任は人が持つ。この一線が、生成AIをうまく使う分かれ目です。
生成AIは、優秀な下書き役だと思えばちょうどよいでしょう。下書きなら何枚でも、何か国語でも、すぐに用意してくれます。けれども、それを世に出すかどうかを決めるのは経営者であり、責任を負うのも経営者です。ですから、AIがつくった文章や数字には、出す前に必ず人の目を通す。この一手間を省かないことが、うまく使うこつになります。
特定のツールを売りたいわけでも、特定のシステムを入れさせたいわけでもない立場だからこそ、申し上げます。施設の規模や業態によっては、無理に高度な仕組みを入れる必要はありません。まずは、効果が大きくてすぐ始められるものから着実に取りかかり、手ごたえを見ながら少しずつ広げていく。遠回りに見えて、これがいちばん確実です。
よくある質問
Q. 生成AIは、ホテルのどんな仕事に使えますか。
A. 文章をつくる仕事に広く使えます。OTAの説明文、多言語の案内、口コミ返信、会議の議事録、会議資料のたたき台など。本記事では74の業務を調べ、39がすぐに始められると分かりました。
Q. 反対に、AIに任せてはいけない仕事は何ですか。
A. お金と安全にかかわる判断です。料金の決定、損益の解釈、契約や補助金の最終的な見極め、そしてアレルギー対応の確認。AIの出力は下書きとして受け取り、最後は必ず人が判断します。
Q. アレルギー対応に、AIは使えますか。
A. アレルゲンの抽出や代替メニューの案出しには使えます。ただし命にかかわるため、最後は必ず人が原材料の表示と照らし合わせて確認します。AIの答えをうのみにしてはいけません。
Q. 何から始めればよいですか。
A. 効果が大きくて、すぐ始められるものから。口コミ返信やOTA文の下書きなど、文章づくりが入り口です。手ごたえを見ながら、少しずつ広げていきます。
Q. 高度な仕組みを入れる必要がありますか。
A. 規模や業態によっては不要です。まずは無料・低コストのツールで、身近な業務から。大切なのは、AIに任せる前に、自館の数字をそろえておくことです。
さいごに
いかがだったでしょうか。生成AIは、もう「使えるかどうか」を考える時期は過ぎました。これからは「どこに使い、どこは人がやるか」を見極めることが大切になります。この見極めこそ、経営コンサルティングの仕事だと考えています。
弊社アルファコンサルティングでは、特定のシステム会社やツールと利害関係を持たない中立の立場から、施設ごとに業務を一つずつ見直し、生成AIを「どこに、どこまで使うか」を決めるお手伝いをしています。AIを取り入れる前の段階として、経営数値の整理や、収益構造の見直しからご一緒することもできます。
初回相談無料です。生成AIをどう取り入れるべきか迷われている経営者の方は、どうぞお気軽にご相談ください。
目的別 ── 仕事別のくわしい使い方(クラスター記事)
本稿は全体像です。それぞれの仕事の具体的な手順とプロンプト例は、以下の記事で詳しくお話ししています。
▍集客を伸ばす
ホテル・旅館の動画づくりと生成AIスマホ実写から、古い写真を動かす活用まで。
生成AIで、販促を自走させるプラン企画と媒体別発信、年間販促カレンダー。
口コミ返信とお詫び文、どこまで任せるか全件返信のワークフローと、お詫びの3段構成。
お客様は、AIに宿を尋ね始めたAI時代の「見つけられ方」と、いま打てる手。
インバウンド対応に、生成AIをどう使うか説明する翻訳、想定問答、館内図の丸ごと多言語化。
▍現場と人を強くする
厨房と生成AI(高階孝晴 監修)メニュー開発から、レシピの標準化まで。
採用と人づくりに、生成AIをどう使うか求人原稿・応募対応・受け入れ教育。
「AIを使える人」を、社内にどう増やすか部署別の入り口設計と、定着の5ステップ。
会議と社内文書に、生成AIをどう使うか録音から議事録まで6手順。幹部の時間を取り戻す。
▍数字をつかむ
生成AIより先に、自館の数字をつかむ部門別KPIと、AIで数字を速く見る順序。
予約・レベニュー業務に、生成AIをどう使うか高価なシステムがなくても、週30分の価格ルーティンで。
