- 朝食が宿選びを左右する時代になった背景
- 朝食の満足度は何で決まるのか(味だけではない)
- 低い原価でも満足度が上がるメニューの工夫
- ユニークで顧客受けする食材の、具体的な仕入れ方
- ご当地・健康・フードロスという、いまの視点
- 人手をかけずに満足度を上げる運営
こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。今回は朝食バイキングをテーマに、低いコストで口コミ評価を上げる方法をお話しします。
朝食を楽しみにして宿を選ぶお客様は、とても多いです。最近は「朝食が美味しいホテル」のランキングが組まれ、朝食だけを目当てに宿を選ぶ人も増えました。OTA(予約サイト)の口コミでも、朝食は評価項目の一つとして重視されています。
ここで強調したいのは、朝食は夕食に比べて、低いコストで口コミ評価を上げやすい部門だということです。夕食は食材費も手間もかかりますが、朝食は工夫しだいで、原価を抑えながら満足度を高められます。今回は、その具体的な方法を整理します。なお、口コミの増やし方そのものは別の記事で扱っていますので、ここでは朝食に絞ってお話しします。
なぜいま、朝食で差がつくのか
この十数年で、お客様が朝食に求める水準は確実に上がりました。ビジネスホテルでも朝食バイキングを売りにするところが増え、チェーンによってはシティホテルや旅館に引けを取らない料理を出します。ご当地ラーメンや夜鳴きそばで知られるチェーンもあります。
朝食でホテルを選ぶ時代になり、各社は朝食を差別化の柱に位置づけています。逆に言えば、朝食に力を入れていない宿は、それだけで選ばれにくくなっているということです。
そして朝食には、もう一つ見落とされがちな利点があります。夕食より少ない投資で口コミ評価を動かせることです。夕食は素材や調理に大きなコストがかかりますが、朝食は提供の仕方やメニューの工夫で印象が大きく変わります。同じ一手間でも、朝食のほうが評価への跳ね返りが大きいといえます。
朝食の満足度は、何で決まるのか

朝食の満足度を上げようとするとき、多くの宿は料理の味を磨こうとします。もちろん味は大切ですが、お客様が朝食を評価するとき、見ているのは味だけではありません。
ある顧客満足度調査では、朝食を含むレストラン部門について、お客様が満足度を判断する要素の影響度が示されています。最も大きいのは料理の種類の豊富さで、全体のおよそ4分の1を占めます。次いで、空席の具合、スタッフの対応、提供時間、清潔さ、料理の補充具合と続きます。
ここから分かるのは、味そのものよりも、種類が豊富で、待たされず、料理が補充されていて、席に余裕があり、清潔であること。こうした体験全体が、朝食の評価を決めているということです。味の改善に取り組む前に、まずこれらが満たされているかを点検したほうが、評価は上がりやすいといえます。
低い原価でも満足度が上がる、メニューの工夫
味だけが評価ではないとはいえ、メニューは朝食の主役です。原価を抑えながら満足度を高められるメニューを、いくつか挙げます。
メニューを考えるうえで参考になるのが、弊社で料飲を担当する高階孝晴の考え方です。高階は、年間約80万人が訪れるとされる品川プリンスホテルの大型ビュッフェ「ハプナ」を手がけ、その後は大江戸温泉物語の最高料理顧問として、数多くの施設のバイキングを立て直してきました。バイキングの巨匠と呼ばれる料理人です。
その高階が大切にするのは、お客様にこれを食べに来たいと思わせられるか、という基準です。朝食は単なる付帯のサービスではなく、宿を選ぶ理由になりうる。そういう発想で組み立てると、力の入れどころが変わってきます。

| メニューの工夫 | 低い原価で満足度が上がる理由 |
|---|---|
| 郷土料理・名物料理 | 地元では日常的でも旅行者には新鮮。朝食に特色が出て、夕食への期待感を朝にもつなげられる |
| ライブキッチン | 出来たての臨場感そのものが価値になる。特別に高い食材でなくても満足度が上がる |
| セルフコーナー | 自分で作る楽しさが加わる。中身は普段のサラダ等と大きく変えなくてよく、人手も省ける |
| 健康・体質への配慮 | スムージーや手作りドレッシング、プラントベース、アレルギー表示。仕込みが軽く差別化になる |
| 主食(ご飯・パン)の質 | 毎日食べるものだけに良し悪しが伝わりやすい。銘柄米・炊き方は原価増が小さく効果が大きい |

郷土料理・名物料理
消費者に朝食で食べたい料理を尋ねると、郷土料理・名物料理という答えが多く返ってきます。夕食に比べて朝食の口コミ評価が低い宿は、朝食に特色がないことが原因であることが多いです。その土地の名物を一品加えるだけで、県外から来たお客様には新鮮に映ります。長崎の皿うどん、山口のフグ雑炊のように、地元では日常的な料理が、旅行者には満足度の高い体験になります。
ライブキッチン
目の前で焼くオムレツや、出来たてを提供するコーナーは、いまや朝食の定番になりました。出来たてという臨場感そのものが、料理の価値を高めます。
バイキングを長く手がけてきた高階も、作り置きを並べるのではなく、目の前で仕上げて出すことにこだわります。湯気や音、香りといった五感に訴える演出が、同じ食材でも満足度を大きく変えると言います。ライブキッチンは、その考え方を形にしたものです。仕込みを工夫すれば、特別に高い食材を使わなくても、満足度を上げられます。
お客様が自分で作るセルフコーナー
サンドイッチを自分で作るコーナーは、その一例です。薄切りのパン、はさみやすく切った野菜、ハムやチーズ、数種類のソースを並べます。中身は普段のサラダコーナーとそれほど変わらなくても、自分で作る楽しさが加わります。パンを数種類用意すれば、コーナーとしての魅力も増します。作り方のおすすめを写真やイラストで添えると親切です。
健康・体質に配慮した一品
健康を気づかうお客様は多いです。野菜と果物のスムージーは、仕込みが簡単で、パートスタッフでも対応できます。手作りの低糖質・低カロリーのドレッシングを数種類そろえるのも、評価につながります。最近は、肉や卵を使わないプラントベースの料理や、アレルギーに配慮した表示を求める声も増えています。和食中心の旅館でも、一品として取り入れるなら板前も抵抗なく協力してくれるでしょう。
主食(ご飯・パン)の質
ご飯とパンは、どの宿でも必ず出します。当たり前すぎて意識されにくいのですが、お客様が家庭で毎日食べているものだけに、味の良し悪しはすぐに分かります。ご飯が美味しくないと、それだけで全体の印象が下がりかねません。地元の銘柄米を使う、炊き方にこだわる、専任の担当者が炊きあがりを確かめる。こうした工夫は、原価への跳ね返りが小さいわりに、評価への効果が大きい部分です。
ユニークで顧客受けする食材を、どう仕入れるか

バイキングには、個別に料理を出す形式にはない強みがあります。料理の内容を、毎日でも変えられることです。その日に手に入った食材を使えるので、仕入れの自由度が高いのです。この強みを活かすと、ユニークで満足度の高い食材を、原価を抑えながら調達できます。具体的な方法を挙げます。
| 仕入れ先 | 手に入るもの | ねらい |
|---|---|---|
| 直売所・JA | 地元野菜、規格外品 | 鮮度・物語・低い原価 |
| 漁協・市場 | 鮮魚、未利用魚 | 安く珍しい魚を確保 |
| 道の駅・物産 | 地域の名産・加工品 | ご当地色を出す |
| 契約農家・生産者 | 独自食材、契約栽培 | 他館にない差別化 |
地元の生産者から直接仕入れる
地元の農家や漁港、生産者から直接仕入れると、利点が三つあります。鮮度が高いこと、中間のマージンがかからず安いこと、そして産地や生産者を伝えることで物語が生まれることです。誰がどこで育てたかをひと言添えるだけで、同じ食材でも受け取られ方が変わります。まずは近隣の直売所やJA、漁協に足を運び、取引できる生産者を探すとよいでしょう。
規格外品や未利用の食材を活かす
形が不ぞろいで市場に出にくい規格外の野菜や、市場価値が低く捨てられがちな未利用魚は、安く仕入れられます。バイキングは毎日内容を変えられるので、こうした食材を使いやすい形式です。煮物やスープ、ライブキッチンの一品にすれば、見た目の不ぞろいは気になりません。安く仕入れて手をかけ、価値に変える。これはフードロスの削減にもつながり、コストと環境の両面で利点があります。
旬のものを、地場でまとめて仕入れる
旬の食材は、安くて味が良いものです。地場で旬を迎えたものをまとめて仕入れ、その時期に使い切る。季節ごとに朝食のメニューを見直す習慣をつけると、仕入れも組み立てやすくなります。
素材で仕入れて、自館で仕上げる
できあいの加工品を高く買うより、素材を安く仕入れて自館で調理するほうが、原価は下がり、満足度は上がります。先ほどのライブキッチンが、その典型です。素材の段階で仕入れ、出来たてに変えることで、仕入れ値の安さを満足度の高さに転換できます。
生産者と組んで、独自の食材をつくる
一歩進めるなら、特定の生産者と契約し、自館向けの食材を育ててもらう方法もあります。手間はかかりますが、他館にはない独自の食材が手に入り、話題にもなります。地域との関係づくりにもつながります。
仕入れは、原価とメニューの質を同時に左右する要です。何を仕入れるかが決まれば、朝食の半分は決まったようなものだといってもよいでしょう。料飲全体の原価率の考え方は料飲原価率の記事にまとめていますので、あわせてご覧ください。
いまの朝食に欠かせない、三つの視点
最近の朝食には、以前はなかった視点が求められるようになりました。
ご当地・地域性
地元の食材や郷土料理を前面に出す宿が増えています。ここでしか食べられないという体験が、宿を選ぶ理由になります。地元客の比率が高い場合や、お客様の年齢層が幅広い場合には、全国各地の料理をテーマにしたキャンペーンを組むのも、客数アップにつながります。
健康とウェルネス
発酵食品や野菜を中心にした朝食、プラントベースの料理など、健康を意識したメニューへの関心が高まっています。健康をテーマに掲げた朝食を売りにするホテルも出てきました。
フードロスの削減
バイキングは、その仕組み上どうしても食べ残しが出やすく、食品ロスの大きな原因とされています。終了時間が近づいても料理を切らせないため、過剰に準備しがちだからです。ここに取り組むことは、廃棄コストの削減という直接の効果に加えて、環境に配慮する宿としての評価にもつながります。利用者数に応じて補充量を調整する、食べ残しの出にくい小皿で提供する、食べきれなかった料理を持ち帰ってもらう取り組み(mottECOなど)を取り入れる、といった方法があります。フードロスの削減は、コストを下げながらブランド価値を高められる、数少ない一石二鳥の取り組みです。経費削減を続ける仕組みづくりはこちらの記事も参考になります。
人手をかけずに、満足度を上げる

人手不足のなかで朝食の質を上げるには、人手をかけずに満足度を高める工夫が要ります。
先ほどの満足度の要素を思い出してください。待たされないこと、料理が補充されていること、席に余裕があること。これらは味と同じくらい評価を左右していました。そして、いずれも料理の腕ではなく、運営の工夫で改善できます。
たとえば、混み合う時間帯には、利用の少ない部門ではなく朝食会場にスタッフを集めます。朝食を待つお客様には、待っている間にドリンクを提供します。料理が空にならないよう、補充のタイミングを決めておきます。下げ膳の際にひと声かける。料理を出す厨房から会場までの動線を短くする。こうした積み重ねが、人を増やさずに満足度を上げます。
セルフコーナーやライブキッチンも、見方を変えれば省人化の手段です。お客様自身が手を動かすことが楽しさになり、その分、スタッフの手間は減ります。人手をかけずに満足度を高めるという発想は、これからの朝食づくりの軸になります。
おわりに
いかがだったでしょうか。朝食は、夕食より少ないコストで口コミ評価を上げやすい部門です。鍵になるのは、味だけを追うのではなく、種類の豊富さ、待たせない運営、清潔さ、補充といった体験全体を整えること。そして、ユニークな食材の仕入れと、ご当地・健康・フードロス削減という、いまの視点を取り入れることです。
弊社アルファコンサルティングでは、朝食をはじめとする料飲部門の見直しや、口コミ評価の改善、人手をかけない運営づくりについてお手伝いしています。特定の予約システムや仕入れ業者と利害関係を持たない立場から、率直に申し上げます。
