こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。

生成AIの活用について、これまで口コミ返信、動画、販促と、すぐに始められる使い方を紹介してきました。今回は少し毛色の違う、けれども経営者の方にこそ読んでいただきたい話です。生成AIを経営に活かす前に、先に手を付けるべきものがあります。自館の数字です。

ある宴会場併設ホテルで、74の業務を生成AIで効率化できるか調べたところ、興味深いことが分かりました。フロントや販促では効果の大きい業務が並んだ一方、経理・財務には、効果がとくに大きい業務が一つもなかったのです。これは、経理にAIが不要だという意味ではありません。数字の仕事は、AIに「任せて終わり」にできない、という意味です。そして、もう一つ大事な点があります。AIに数字を読ませる以前に、読ませられる数字になっているか、という問題です。

数字に課題を感じている経営者・幹部の方へ この記事のポイント
  1. AIに読ませる数字が、そもそもあるか。どんぶり勘定では、AIも答えようがない。→ ポイント①へ
  2. 部門別のKPIを決める。AIへの「質問の土台」になる。→ ポイント②へ
  3. 数字が部門別に分かれていれば、AIはこう使える。プロンプトと生成結果の例。→ ポイント③へ
  4. それでも、数字の判断はAIに任せない。順序を間違えないこと。→ ポイント④へ

気になるポイントだけ、つまみ読みでも役立つように作っています。

財務分析のチャートと電卓が並ぶ机上
AIに数字を読ませる前に、読ませられる数字になっているか

ポイント① AIに読ませる数字が、そもそもあるか

生成AIは、与えられたデータを整理し、傾向を要約するのが得意です。けれども、与えるデータが粗ければ、返ってくる答えも粗くなります。入れるものが悪ければ、出てくるものも悪い。AIの世界で昔から言われてきた原則です。

宿泊施設で言えば、こういうことです。施設全体の売上と費用しか分からない「どんぶり勘定」の試算表をAIに渡しても、出てくるのは「全体的に売上が落ちています」という、分かりきった要約だけです。宿泊・宴会・婚礼・レストランといった部門別に数字が分かれていて、はじめてAIは意味のある分析を返せます

図表1 AIに渡す数字のかたちで、返ってくる答えが変わる
どんぶり勘定の試算表を渡すと

・施設全体の売上と費用だけ

・AIの答え:「全体的に売上が落ちています」── 分かりきったことしか返らない

↓ 数字を部門別に分けると
部門別の数字を渡すと

・宿泊/宴会/婚礼/レストラン、それぞれの売上・費用・KPI

・AIの答え:「宴会の組数は前年並みだが、1組あたりの人数が減少」── 手を打てる粒度で返る

業績が予算を割ったとき、「全体的に悪い」とひとくくりにせず、どの部門の何が崩れたのかを特定できる数字の持ち方が土台になります。

業績が予算を割ると、多くの経営者はまず宿泊部門の稼働率や客室単価に目を向けます。けれども実際には、宴会・婚礼・レストランといった付帯部門の悪化が全体を圧迫していることも少なくありません。「全体的に売上が落ちている」とひとくくりにせず、事業別に数字を分けて原因を特定する。この視点は、AIがあってもなくても、経営の基本です。

数字を分けて見ることの意味がよく分かる統計が、一つあります。日本旅館協会の最新の営業状況統計では、黒字旅館の平均客室単価は55,336円。赤字旅館の60,313円より、むしろ低いのです。「単価が高ければ儲かる」は思い込みで、利益は単価ではなく、部門ごとの収支の構造から生まれます。だからこそ、合計の数字ではなく、分けた数字を見る必要があるのです。

ポイント② 部門別のKPIを決める ── AIへの「質問の土台」になる

数字を見る物差しが、部門別のKPI(重要業績指標)です。たとえば、次のようなものです。

図表2 部門別KPIの例 ── まずはこの程度で十分
部門主なKPI(月別で記録する)
宿泊稼働率/客室単価/販売経路別の比率
一般宴会組数/1組あたりの人数/単価/総取引額
婚礼見学会の来場数/成約率/披露宴単価
レストラン喫食率/時間帯別の客数/料理単価/席の回転率

部門ごとに3〜5個で十分です。「これが崩れたら危ない」という指標に絞り、月別の記録を続けることが大切です。

KPIを決めて月別に記録しておけば、過去数年分との比較で、どの指標に異変が起きているかが浮かび上がります。そしてこのKPIこそ、生成AIに投げかける「質問の土台」になります。指標が決まっていれば、AIへの依頼は具体的になり、返ってくる分析も鋭くなります。

会議室で資料を前に打ち合わせをするビジネスパーソン
月次会議の物差しを決めておく。それがそのまま、AIへの質問の土台になる

ポイント③ 数字が部門別に分かれていれば、AIはこう使える

部門別の数字とKPIが揃ったら、生成AIは月次の頼れる整理役になります。たとえば、次のように依頼します。

▸ プロンプトの例(入力)── 月次データの要約
# 役割:あなたはホテル・旅館の経営分析の補佐役です。# データ:過去24か月の月次・部門別売上と主要KPI(添付)。# 依頼:部門ごとに傾向を3点ずつ要約してください。前年同月比で目立つ変化があれば、その指標を指摘してください。# 注意:原因の断定はせず、「考えられる仮説」として挙げてください。
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▸ 生成結果(AIの回答・要旨)
AI宴会施行組数と単価は前年並みですが、1組あたりの人数が3か月連続で前年を下回っています。団体の構成変化が仮説として考えられます。レストラン昼の客数は堅調な一方、夜の客数が減少傾向です。営業時間帯や提供内容の検証が論点になりそうです。宿泊稼働は維持されていますが、特定の販売経路への依存度が上がっています

一件ずつ帳票を眺めるだけでは見えにくい変化が、こうして言葉になって返ってきます。会議資料のたたき台づくりや、月次の振り返りが、ぐっと速くなります。

注意が一つあります。財務データや顧客情報を外部のAIサービスに入れる際は、データの取り扱いルールを必ず確認してください。入力した内容が学習に使われない設定や、法人向けの契約形態を選ぶことが基本です。個人名などは伏せてから渡す配慮も要ります。

自館の数字、部門別に分かれていますか。数字の土台づくりから、ご一緒に。

数字の土台づくりを相談する

ポイント④ それでも、数字の判断はAIに任せない

ここまでお読みいただくと、冒頭の調査結果の意味が見えてくると思います。経理・財務に「効果がとくに大きい業務」がなかったのは、数字の仕事の本質が、整理ではなく判断だからです。

AIは、傾向の要約や異変の指摘という「下ごしらえ」を担えます。けれども、その数字をどう解釈し、どの部門に手を打ち、どこに投資するか。料金を上げるか、赤字の部門をやめるか。これらは、施設の体力と将来を見据えた経営判断であり、責任を伴います。ハブ記事でお話しした線引きの、いちばん太い線がここにあります。

図表3 順序を間違えない ── 数字とAIと、人の役割
1まず、数字を部門別に分ける
宿泊・宴会・婚礼・レストラン。部門別の売上とKPIを月別でつかめる状態にする。
2次に、AIで集計と要約を速くする
傾向の整理、異変の指摘、会議資料のたたき台。下ごしらえはAIに任せる。
3最後の判断は、人が下す
解釈と意思決定、投資と撤退、料金。責任を伴う判断は、経営者の仕事。

この順序が守られたとき、生成AIは経営の確かな味方になります。

青木康弘青木康弘経営再生の現場では、最初の一週間を数字の整理に充てます。部門別に分けた途端に打ち手が見えてくる、ということが少なくありません。AIは、この整理を大幅に速くしてくれます。

数字は部門別に。下ごしらえはAIに。
判断は、人が下す。

よくある質問

Q. 部門別の数字が出せていません。何から始めるべきですか。

A. 売上の部門別集計からです。会計ソフトの部門設定や、レジ・予約システムの集計区分を見直すだけでも、第一歩になります。完璧を目指さず、まず宿泊と料飲を分けることから始めましょう。

Q. AIに財務データを入れても、安全ですか。

A. サービスと設定によります。入力内容が学習に使われない設定や法人向け契約を選び、個人名は伏せるのが基本です。判断に迷う場合は、データを要約・匿名化してから渡す方法もあります。

Q. AIが指摘した「異変」は、信じてよいですか。

A. 仮説として受け取ってください。AIの指摘は出発点であり、裏付けは現場の事実確認で取ります。数字の解釈と意思決定は、人の仕事です。

Q. KPIは、いくつ持てばよいですか。

A. 部門ごとに3〜5個で十分です。多すぎると追えなくなります。まず「これが崩れたら危ない」という指標に絞り、月別で記録を続けることが大切です。

さいごに

いかがだったでしょうか。生成AIの話題は、つい「何に使えるか」に目が向きます。けれども、経営に活かすうえで先に問うべきは、「自館の数字が部門別に分かれているか」です。部門別の数字とKPIという土台があってこそ、AIの整理は速さを増し、最後の判断を下す経営者の目も鋭くなります。

弊社アルファコンサルティングでは、特定のシステム会社やツールと利害関係を持たない中立の立場から、部門別損益やKPIといった数字の土台づくりを、ホテル・旅館それぞれの施設に合わせてお手伝いしています。

初回相談無料です。自館の数字に不安のある方は、どうぞお気軽にご相談ください。

数字の土台があってこそ、AIは活きる。まず自館の数字から。

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