- ライバルは同業だけではない、という視点
- 淘汰を経て、グランピングが選ばれ続けている理由
- 生き残るグランピングの分かれ目――立地と体験
- ホテル・旅館が学ぶべき要素(人手をかけずに単価を上げる、ほか)
- 道の駅に学ぶ、物販と日帰りの集客
- 新設より「発想の移植」という、現実的な選択
こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。今回は、ホテル・旅館の集客のヒントを、異業種から学ぶという視点でお話しします。
自館のライバルを思い浮かべるとき、多くの経営者は近くにある同じ価格帯のホテルや旅館を挙げます。お互いに切磋琢磨するのは良いことです。ただ、お客様の側から見ると、選択肢は同業のホテル・旅館だけではありません。リゾートホテルやペンション、ビジネスホテルに加えて、価格やサービスの体系がまったく違うキャンプ場や貸別荘も、同じお客様を取り合う相手です。なかでも、この数年で大きく変わったグランピングは、よく見ておきたい存在です。
ライバルは同業だけではない
お客様は、世帯収入でいつも同じ価格帯の宿を選ぶわけではありません。都会に住む家族が、あるときは1泊3万円の高級旅館に泊まり、別のときは1泊数千円のバンガローに泊まる。これは珍しいことではありません。目的や気分によって、泊まる場所を使い分けています。
だとすれば、優良な旅館・ホテルのプランや料理を真似るだけでは、集客の効果はいずれ頭打ちになります。同じ土俵の中で少し良くしても、お客様の選択肢はもっと広いからです。家族やグループがどう休日を過ごしているか、何が流行っているかを知るには、集客に成功している異業種を見るのが近道です。
グランピングはなぜ選ばれ続けるのか
グランピングは、コテージやキャビンなど、しっかりした宿泊施設を備えたキャンプ場のことです。新型コロナのとき、密を避けて自然の中で過ごせる宿泊として一気に広まりました。
その後、旅行の選択肢が元に戻り、あえてグランピングを選ぶ理由が問われる時期に入りました。数が増えすぎたこともあって、いまは施設による差がはっきり出ています。SNSで話題になる施設や、高級路線の施設には予約が集まる一方、これといった特徴のない施設は苦戦しています。ブームが落ち着いた後も生き残った施設が、確実にファンを掴んでいるという状態です。市場そのものは、いまも年8%前後の成長が見込まれています。
洗練された施設が選ばれている理由を整理すると、次のようになります。
- 自然の中で過ごす非日常の時間
- テントを張る手間がなく、ホテル並みの快適さで過ごせる気軽さ
- 写真に撮りたくなる、SNS映えする空間
- 焚き火、星空、地元食材のバーベキューといった、その場でしかできない体験
- 環境への配慮や、地域とのつながり
利用するのは、20代から30代を中心としたカップルや家族、女性同士の旅で、最近は結婚式での利用もあります。共通するのは、泊まること自体より、そこで過ごす時間や体験を買っているという点です。
淘汰の分かれ目(1)――立地に強みがあるか
グランピングの成否を分ける、もう一つの大きな要因が立地です。グランピング施設は簡易な構造のため、どこにでも設置できます。しかし、どこに置いても成り立つわけではありません。生き残る立地には、二つの条件があると私は考えています。
一つは、非日常を感じさせる空間であることです。周囲の景観、つまり借景が優れていれば、それだけで集客の力になります。逆に、ただの空き地では、よほど交通の便が良くない限り、お客様を呼ぶのは難しいでしょう。
もう一つは、滞在の満足を高める施設とつながっていることです。たとえば、道の駅や温浴施設の敷地に作るグランピングは、とても魅力的です。お客様は手軽にキャンプのような体験をしながら、食事は道の駅や温浴施設で済ませ、日帰りの温泉にも入れます。施設どうしが補い合うことで、滞在全体の満足度が高まります。
裏を返せば、こうした強みのない立地、ただ空き地に建てただけの施設は、淘汰されやすいといえます。どこにでも作れるということは、参入障壁が低いということでもあります。誰でも参入できるからこそ、立地に強みがなければ、似たような施設の中に埋もれてしまいます。
淘汰の分かれ目(2)――設備ではなく体験
私はこれまで、補助金を使ってグランピングに乗り出した施設を、数多く見てきました。そこで分かったのは、生き残ったのは立派な設備を入れた施設ではなく、体験と世界観を作り込んだ施設だったということです。
コテージやテント、家具といったハードは、お金をかければ誰でも揃えられます。しかし、そこで何を体験できるのか、どんな客層に向けた世界観なのかというソフトの部分は、簡単には真似できません。ブームのときに設備だけを真似て参入した施設の多くは、特徴を出せないまま価格競争に巻き込まれ、淘汰されていきました。これは、ホテル・旅館がリニューアルや新規開業を考えるときにも、そのまま当てはまる教訓だと考えています。
ホテル・旅館がグランピングから学ぶべきこと
グランピングの人気からは、ホテル・旅館がそのまま取り入れられる要素がいくつもあります。
| 学ぶべき要素 | 中身 |
|---|---|
| 体験を売る | 焚き火、星空、地元食材のバーベキューなど。「場所」ではなく、そこで過ごす「体験」に価値を置く |
| 手間を省く | 準備や後片付けの面倒をなくす。予約から滞在まで気軽に済み、必要なものが揃っていること自体が価値になる |
| 人手をかけず単価を上げる | 調理や配膳を最小限にしながら高単価を得る。人手不足の時代にこそ学ぶべき核心 |
| ターゲットを絞る | 万人向けをやめ、来てほしい客層に狙いを定める。その世界観が高い支持につながる |

体験を売る
お客様は、客室という場所だけでなく、そこで過ごす体験にお金を払います。焚き火を囲む、星を眺める、地元の食材を自分で焼く。こうした体験を一つでも用意できれば、宿泊の価値は大きく変わります。豪華な料理を出せば喜ばれる時代ではなくなりました。料理がシンプルでも、その土地ならではの体験やストーリーがあれば、十分な魅力になります。世界観で選ばれる宿のつくり方は、コンセプトホテルの記事もあわせてご覧ください。
手間を省いて気軽にする
グランピングが支持されるのは、自然を楽しみたいけれど準備や後片付けは面倒だ、という気持ちに応えているからです。予約から滞在まで手間がかからないこと、必要なものがすべて揃っていることは、それ自体が価値になります。料理や体験を込みにした料金の考え方は、オールインクルーシブの記事が参考になります。
人手をかけずに単価を上げる――ここが核心
私がグランピングから最も学ぶべきだと考えるのは、この点です。グランピングは、食材や飲み物を持ち込みや備え付けにすることで、調理や配膳のスタッフを最小限にしながら、高い単価を得ています。団体の宴会も、スタッフを多く配置せずに受け入れている施設があります。
多くのホテル・旅館が人手不足に苦しむなか、料理人や客室係を増やすことを前提にした従来のやり方は、これから先、続けるのが難しくなります。グランピングは、サービスの量を減らしても、体験の質を上げれば、単価も満足も下がらないことを示しています。SNS映えのような表面的な部分よりも、この収益構造のほうが、ホテル・旅館にとってはるかに重要な学びだと、私は考えています。
人手をかけずに単価と満足を両立させる。これが、人手不足に向き合うホテル・旅館にとって、いちばんの学びだと考えています。
ターゲットを絞る
選ばれている施設は、万人向けをやめて、特定の客層に狙いを定めています。誰に来てほしいかをはっきりさせ、その人たちが喜ぶ世界観をつくることが、結果的に高い支持につながります。
道の駅から学ぶ、物販と日帰りの集客
もう一つ、見ておきたい異業種が道の駅です。まったく違う業態に見えますが、客室がないことを除けば、地元産品の売店、飲食店、カフェ、温浴施設、足湯、アクティビティなど、ホテル・旅館とよく似た機能が揃っています。

道の駅は全国で1200を超え、施設どうしの競争も厳しくなりました。専門家を入れてコンセプトやデザイン、品揃えに特色を出したり、日帰りの温浴やアクティビティを充実させたりする施設が増えています。
自館で日帰り入浴を受け入れていて、近隣のお客様の利用が多いなら、道の駅の運営を参考にする価値があります。よく行われている工夫を挙げます。
- 館オリジナルのタオルをフロントで販売し、タオル代を含めた入館料にする
- 基礎化粧品や充電器、下着など、コンビニで買えるような日用品を売店に置く
- お客様の動線上に、飲料やアイス、カプセルトイの販売機を置く
- 湯上がりどころで軽食を注文できるようにする
- 自宅用に持ち帰る物産を販売する
- 月間のイベントカレンダーをつくる
日帰り入浴は、昼間の空いた時間に人手をかけずに収入を得る方法として有効です。ただ、やり方を間違えると、ただの銭湯の代わりになってしまいます。宿泊のお客様との区分を意識しながら、入館したお客様を売上につなげる工夫が必要です。
新設すべきか、それとも発想を取り入れるか
ここで一つ、注意したいことがあります。グランピングが儲かると聞いて、すぐに自館でも新設しようと考える経営者がいます。しかし私は、安易な参入には慎重であるべきだと考えています。
グランピング施設は、簡易な構造で建設費を抑えられ、人手もかからないぶん、参入する側も増えます。特徴のない施設が増えれば、いずれ価格競争に巻き込まれます。先に述べたとおり、淘汰されたのはまさにそうした施設でした。流行に乗って設備を建てること自体が目的になってしまうと、同じ道をたどりかねません。
もし新設を考えるなら、まず立地を冷静に見てください。先ほど述べた二つの強み、つまり非日常を感じさせる景観があるか、滞在の満足を高める施設とつながっているか。どちらもない空き地に建てるのであれば、参入障壁の低さもあって、淘汰される側に回る恐れが高いといえます。
多くのホテル・旅館にとって現実的なのは、新設よりも、その発想を既存の施設に取り入れることだと考えています。体験を売る、手間を省く、人手をかけずに単価を上げる、ターゲットを絞る。これらは、いまある客室やサービス、宴会や日帰り入浴にも応用できます。自館の強みと結びつかない多角化は、社内を疲れさせるだけに終わりがちです。新しい建物を建てる前に、いまある施設で何ができるかを考えることをお勧めします。業態の見直しそのものを検討する場合は、老朽化施設の建て替え・業態転換の記事や、コンセプト設計の記事が参考になります。
おわりに
いかがだったでしょうか。グランピングは、一時の流行で終わらず、淘汰を経て、選ばれる施設が確実にファンを集めるようになりました。その分かれ目は、立地に強みがあるか、そして立派な設備ではなく体験と世界観をつくり込めたかにありました。なかでも、人手をかけずに単価と満足を両立させるという考え方は、人手不足に向き合うホテル・旅館にとって、大きなヒントになります。
グランピングや多角化を勧める声は、外からたくさん聞こえてきます。ただ、特定の建設会社や運営会社と利害関係を持たない立場から申し上げると、大切なのは流行に乗ることではなく、自館の強みとお客様が求めるものを結びつけることです。弊社アルファコンサルティングでは、異業種の事例も踏まえながら、自館の強みを活かした集客や、新しい体験づくり、業態の見直しについてお手伝いしています。
