監修:高階孝晴(弊社料飲担当/元・品川プリンスホテル ブッフェレストラン「ハプナ」料理長)
こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。
ホテル・旅館の満足度を最後に決めるのは、多くの場合、食事です。口コミでも、朝食や夕食の評価は予約の決め手になります。一方で料飲部門は、メニュー開発、お品書きづくり、原価管理、人の教育と仕事の幅が広く、人手不足の影響をいちばん受けやすい部門でもあります。
今回は、この料飲の仕事に生成AIをどう活かすかをお話しします。本稿は、弊社で料飲分野を担当する高階孝晴の監修を受けています。高階は品川プリンスホテルのブッフェレストラン「ハプナ」で料理長を務め、その後は全国の温泉ホテルの食の再生を、メニュー開発とスタッフ指導の両面から手がけてきました。一施設の名物料理をつくるだけでなく、複数の施設で同じ品質を再現する「仕組みづくり」を専門にしてきた料理人です。その視点を織り込んでお伝えします。
- メニュー開発のたたき台を、AIと練る。プロンプトと生成結果の例。→ ポイント①へ
- お品書きの多言語化と、アレルゲン表記。任せてよい範囲と、命にかかわる一線。→ ポイント②へ
- レシピの標準化 ──「頭の中の味」を文書にする。本稿の核です。→ ポイント③へ
- 原価と発注 ── 計算はAI、値付けは人。→ ポイント④へ
気になるポイントだけ、つまみ読みでも役立つように作っています。
ポイント① メニュー開発のたたき台を、AIと練る
季節のフェア、宴会の献立、朝食の新しい一品。メニューの企画は、料飲の仕事の華であると同時に、日々の業務に追われて後回しになりがちな仕事です。ここで生成AIが、たたき台づくりの相棒になります。
数秒でこの水準のたたき台が出ます。ここから「②を会席の一品に直して」「原価をもう少し抑えて」と対話で磨いていきます。大事なのは、AIの案をそのまま採用しないことです。地元の仕入れ先で本当にその食材が揃うか、厨房の動線で実演が回るか、自館の客層に合うか。最後は料理人の舌と経験で決めます。AIは発想の幅を広げる道具であり、味を決める舌は持っていません。

ポイント② お品書き・メニュー表 ── 多言語化と、アレルゲン表記
出来上がった献立を伝える仕事でも、AIは力を発揮します。お品書きの英語・中国語・韓国語への翻訳は、料理名の説明を添えて依頼すれば、海外のお客様に伝わる自然な表現で下書きを作ってくれます。「鴨の治部煮」のような料理は、直訳ではなく「何をどう調理した料理か」を説明する形に直してくれるのが、いまのAIの強みです。
アレルゲン表記の下書きにも使えます。レシピを読み込ませ、特定原材料の含有を洗い出させれば、表記づくりの時間は大きく縮みます。ただし、ここはハブ記事でもお話しした、いちばん重い線引きの場所です。工程のどこまでをAIに任せ、どこから人が引き受けるのか。図にすると、次のようになります。
含有の可能性がある食材を一覧化。見落とし防止の網になる
メニュー表・お品書き用のアレルゲン表示と多言語版の素案
納品書・パッケージの表示・調味料の中身まで、現物で確かめる
同じ鍋・揚げ油・まな板。現場を知る人にしか判断できない
命にかかわる確認の責任は、AIに渡せない
AIの洗い出しは「下書きと見落とし防止の網」。赤い線から下の確認と責任は、必ず人が担います。
料飲部門の生産性と品質の安定、ご一緒に考えます。
料飲部門の改善を相談するポイント③ レシピの標準化 ──「頭の中の味」を、文書にする
ここからが、本稿でいちばんお伝えしたい話です。多くの施設で、料理の品質はベテランの頭の中にあります。「だしの加減は長年の勘」「仕込みの手順は背中を見て覚えろ」。それで回っているうちはよいのですが、その人が休めば味が揺れ、辞めれば味が消えます。
監修の高階は、全国の施設の食を立て直す中で、一貫して「同じ品質を誰がつくっても再現できる仕組み」にこだわってきました。
高階孝晴名人芸を名人芸のままにしておくと、その人が休んだ日に味が揺れ、辞めた日に味が消えます。分量・温度・手順・盛り付けを言葉と数字に落とせば、どの施設でも、新人でも、同じ水準を出せます。施設を横断して食の品質を保つには、これしかありません。

生成AIは、この「言葉と数字に落とす」作業の強力な助手になります。
いつもの仕込みのついでに、スマホで録音するだけ。現場の負担を増やさない
分量・温度・時間・手順・盛り付けの項目に構造化する
「だし汁の量が記録にありません」「火加減の指定が抜けています」── 抜けの検出が得意
味の最終判断は、料理長が握ったまま
写真を添えれば、外国人スタッフの教育にも使える
何日もかかっていたマニュアルづくりが、録音と対話で進みます。味の「判断」は人に残し、味の「再現」を仕組みにします。


ポイント④ 原価と発注 ── 計算はAI、値付けは人
料飲の数字でも、AIは下ごしらえを担えます。メニューごとの食材原価の計算、月次の原価率の集計、売れ数と仕込み量の記録の整理。こうした作業をAIに任せれば、原価率が動いたときに「どのメニューが原因か」を素早く掴めるようになります。仕込み量の予測精度が上がれば、食材ロスの削減にも直結します。
ただし、ここでも線引きがあります。原価率の目標をどこに置くか、そして売価をいくらにするかは、AIではなく人が決める仕事です。食材原価率の目安は業態でまったく違います。温泉旅館や高級旅館の会席とビジネスホテルの朝食では、適正な水準が倍以上違うこともあります。自館の業態・客層・提供方法を踏まえた値付けは、損益全体を見渡した経営判断です。AIの計算は速くて正確ですが、その数字に意味を与えるのは人です。
ハブ記事の線引き「言葉と素案は任せる、判断と責任は人」と、まったく同じ構図です。
名人芸は、仕組みに。
味と命と値付けは、人に。
よくある質問
Q. AIにメニューを考えさせると、どこの施設も同じ料理になりませんか。
A. たたき台のまま使えば、そうなります。地元の食材、自館の客層、料理人の持ち味で磨き込むのが前提です。AIは発想の幅を広げる道具で、個性をつくるのは人です。
Q. レシピをAIに読み込ませても、大丈夫ですか。
A. レシピは施設の財産です。入力内容が学習に使われない設定や、法人向けの契約を選ぶことが基本です。看板料理の核心部分は、どこまで文書化するか自体を経営判断として決めてください。
Q. アレルゲン表記は、AIに任せてよいですか。
A. 下書きまでです。最終確認は、原材料表示と仕入れ実物にあたって必ず人が行います。調理工程での混入の判断も含め、命にかかわる確認はAIに任せられません。
Q. 何から始めればよいですか。
A. お品書きの多言語化か、よく出る一品のレシピ文書化からです。どちらも今日から試せて、効果がすぐ見えます。
さいごに
いかがだったでしょうか。料飲は、ホテル・旅館の満足度の核でありながら、名人芸と人手に頼り続けてきた部門です。生成AIは、その名人芸を「再現できる仕組み」に変える助手になります。ただし、味とアレルギーと値付けという三つの判断は、これからも人の仕事です。



弊社アルファコンサルティングでは、特定の食材業者やシステム会社と利害関係を持たない中立の立場から、料飲部門の収益改善とメニュー戦略を、高階孝晴とともに、ホテル・旅館それぞれの施設に合わせてお手伝いしています。
初回相談無料です。料飲部門の生産性や品質の安定に課題のある方は、どうぞお気軽にご相談ください。
