値上げできるホテルは、「ひとつ上の宿」と比べられている
こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。
宿泊料金は、自館の魅力や努力だけで決まるわけではありません。お客さまが予約のときに頭の中で並べる「比較する相手」が、自館の上げられる価格帯を決めているのです。
値上げを進められる施設は、この比べられる相手を、意図して一段上の格へ引き上げています。本稿では、地域相場の仕組みと、比べられる相手を引き上げる考え方、そして安易な値下げがなぜ値上げの芽を断つのかを解説します。これは、別稿でお話しした料金の基本設計の続編にあたります。
別稿「単価1,000円の差が、20年で1億7,500万円を生む」では、値上げできないホテル・旅館に共通する5つの設計上の盲点を取り上げました。今回はそのうち、最も外部環境に左右され、かつ経営判断が問われる「競合のベンチマーク」に焦点を当てます。
この記事を読むとわかること
- 1料金が自館の努力だけでは決まらない理由
- 2自館がいま、誰と比べられているのか
- 3比べられる相手を「一段上の宿」へ張り替える方法
- 4値下げで客を奪う宿が、二度と値上げできなくなる構造
- 5地域の相場は、誰がつくっているのか
こんなお悩みはありませんか
以下の項目に2つ以上当てはまる方は、本記事を最後までお読みになることをお勧めします。
□ 料金を、自館の設備やサービスの「原価」から積み上げて決めている
□ 自館がどの施設と比較されているか、把握できていない
□ 近隣の格下の宿に価格を合わせ、値づけが伸び悩んでいる
□ 集客のために値下げをしたが、その後値上げに戻せなくなった
□ 地域の相場が上がっても、自館だけ取り残されている気がする
▶ 本記事で、比べられる相手と地域相場の動かし方を整理しましょう。
本稿の背景 ― 共同セミナーと動画のご案内
本稿で解説する料金設計の考え方は、レベニューマネジメントと宿泊予約・インターネット販売を専門とする平川哲也氏(株式会社ベースアップ代表取締役)と、観光経済新聞社のセミナーで共同で取り上げた内容にもとづいています。平川氏は、大手ホテルチェーンでのマーケティングや宿泊予約の実務を経て、宿泊販売支援の現場で東日本のおよそ1,000施設のインターネット販売の支援を統括し、2022年に株式会社ベースアップを創業した、料金設計と販売運用の専門家です。
とりわけ地域相場は、その地域を代表する大型施設の価格設定によって形づくられます。
良い料理を出し、清潔な客室を整え、心のこもった接遇を尽くす。それでも思うように単価が上がらない。そう感じている経営者は少なくありません。理由は、宿泊料金が自館の中だけで完結しないからです。
宿泊料金は、観光市場の需給、観光地としての立地、そして地域の相場という外部要因に大きく左右されます。とりわけ地域相場は、その地域を代表する大型施設の価格設定によって形づくられます。代表的な施設が値上げに保守的であれば、地域全体の天井が低く抑えられ、いくら自館が努力しても、その天井に阻まれてしまうのです。
逆に言えば、地域の相場が上向けば、自館も上げやすくなります。料金を考えるとき、自館の損益計算書だけを見ていては不十分で、自館が「どの市場に属していると見られているか」という視点が欠かせません。その鍵を握るのが、次章で述べるベンチマーク、すなわち比較される相手です。

→ 次章では「あなたの宿は、誰と比べられているか」を取り上げます。
進捗:第1章/全5章 ■■□□□□□□□□ 20%
ここまで読了:約2分 / 残り約7分
この「どこと比べられるか」が、上げられる上限を決めてしまうのです。
お客さまは予約のとき、必ず複数の施設を見比べます。予約サイトの一覧を眺め、写真と価格と口コミを並べ、自分の中で「この宿は、あの宿と同じくらいの格だ」と位置づけてから、価格の妥当性を判断します。このとき頭の中で並べる相手こそが、ベンチマークです。
そして、そのベンチマークが、自館の許容される価格帯を決めます。同じ地域に、価格帯の異なる施設が4軒あるとしましょう。
図表1:同一商圏における価格帯別ポジショニングの例(1泊2食・2名1室の目安)
| 施設 | 価格帯の目安 | 市場での位置づけ |
|---|---|---|
| A施設 | 90,000円〜 | 地域の最上位・相場の基準をつくる存在 |
| B施設(自館) | 55,000円前後 | 2番手・上位を狙える位置 |
| C施設 | 38,000円前後 | 中位・価格と価値の均衡 |
| D施設 | 26,000円前後 | 価格訴求で集客する位置 |
ここで自館がB施設だとして、お客さまにC施設と同じグループだと認識されているのか、それともA施設に近いと見られているのか。この「どこと比べられるか」が、上げられる上限を決めてしまうのです。
重要なのは、このベンチマークはあらかじめ決まっているわけではなく、施設の側で動かせるという点です。次章で、その動かし方を見ていきましょう。

青木康弘(ホテル旅館コンサルタント)
自館の料金を、自館の努力だけで決めようとすると、たいてい行き詰まります。お客さまは必ず他館と見比べている。誰と比べられているかを把握し、その相手を一段上へ張り替える。値づけは、この視点を持つだけで景色が変わります。
「自館が、誰と比べられ、どの相場に置かれているか」――客観的に整理したい方へ。
料金設計について相談する→ 次章では「比べられる相手を、一段上へ引き上げる」を取り上げます。
進捗:第2章/全5章 ■■■■□□□□□□ 40%
ここまで読了:約4分 / 残り約5分
逆に避けたいのは、「お得感」や「他より安い」を訴求することです。
値上げを進める要点は、ひとことで言えば、お客さまに比べられる相手の格を引き上げることです。先の例で言えば、自館(B施設)を、C施設と同じ括りで見られる位置から、A施設に近いと感じてもらえる位置へと押し上げていく作業です。
具体的な打ち手は、いくつもあります。予約サイトや自社サイトに載せる写真の質を上位施設の水準に引き上げる。説明文の言葉を、価格の安さではなく、提供する体験や空間の価値を語るものに変える。食事、しつらえ、滞在時間の過ごし方といった、自館ならではの価値を前面に出す。これらは大きな設備投資を伴わずとも、見せ方を整えるだけで着手できます。
逆に避けたいのは、「お得感」や「他より安い」を訴求することです。安さを売りにした瞬間、お客さまの頭の中で自館は下位グループに位置づけられ、そこから抜け出すのは容易ではありません。値上げを目指すなら、訴求の軸を価格から価値へ移すことが出発点になります。
もちろん、誰に向けて価値を語るのかが定まっていなければ、この見直しは空回りします。自館がどの客層を満足させる施設なのかを明確にし、その層が見比べる施設群のなかに、自館を意識して位置づけていく。ターゲットを定めることと、比べられる相手を引き上げることは、表裏一体なのです。
→ 次章では「値下げで客を奪う宿は、二度と値上げできなくなる」を取り上げます。
進捗:第3章/全5章 ■■■■■■□□□□ 60%
ここまで読了:約5分 / 残り約4分
そして地域の相場まで押し下げ、結局は自らの首を絞めることになるのです。
単価が伸び悩むと、つい逆の誘惑に駆られます。価格を下げ、下位の施設から客を奪う戦略です。これは短期的には、確かに集客できます。けれども、長期で見れば、値上げの芽を自ら摘む選択になりかねません。
図表2:値上げ路線と値下げ路線がもたらす長期の違い
| 観点 | 値上げ(上位へ位置づける) | 値下げ(下位から客を奪う) |
|---|---|---|
| 短期の集客 | 緩やかに進む | 即効性がある |
| 客室単価 | 上昇する | 低下する |
| スタッフ | 価値提供に習熟する | 安売りでの集客に慣れる |
| 地域相場への影響 | 維持・向上に寄与 | 押し下げてしまう |
| 長期の値上げ余地 | 広がっていく | 同ランクに固定され失う |
価格を下げて集めたお客さまは、やがて自館を下位グループの宿として記憶します。スタッフも安売りでの集客に慣れ、価値で勝負する力を失っていきます。そして地域の相場まで押し下げ、結局は自らの首を絞めることになるのです。
ここで一点、補っておきます。閑散期に予約状況を見ながら戦術的に価格を調整することと、恒常的に値下げ路線へ舵を切ることは、まったく別の話です。前者は健全な運用ですが、後者は自館のポジションそのものを下位へ固定してしまいます。混同しないことが肝心です。
→ 次章では「地域の相場は、代表する施設がつくる」を取り上げます。
進捗:第4章/全5章 ■■■■■■■■□□ 80%
ここまで読了:約7分 / 残り約2分
だからこそ、地域を代表する規模や知名度を持つ施設ほど、過度な稼働率の追求を控え、相場の維持と向上にリーダーシップを発揮することが望まれます。
ここまで地域相場を所与のものとして述べてきましたが、相場は天から降ってくるものではありません。その地域を代表する施設の価格判断が、相場そのものを形づくります。
だからこそ、地域を代表する規模や知名度を持つ施設ほど、過度な稼働率の追求を控え、相場の維持と向上にリーダーシップを発揮することが望まれます。
一つの代表施設が安売りに走れば、地域全体の天井が下がり、周辺の施設も値上げできなくなります。逆に、代表施設が毅然として適正な単価を保てば、地域の相場に底ができ、ほかの施設も続きやすくなります。値上げは一館だけで完結する話ではなく、地域ぐるみで取り組むことで、より確かなものになるのです。
地域の業界団体や観光協会の場で、料金についての勉強会を開き、相場を引き上げる機運を共有することも有効でしょう。単価の改善は、自館の利益にとどまらず、地域の観光産業全体を持続可能にする取り組みでもあります。
→ ここまでの要点を、よくあるご質問で補足します。
進捗:第5章/全5章 ■■■■■■■■■■ 100%
ここまで読了:約9分 / 残り約1分
よくあるご質問
Q格上の施設と比べられるようにすると、かえってお客さまが離れませんか。
Aやみくもに価格だけを上げれば、その懸念はあります。しかし、提供する価値を磨き、その価値が伝わる見せ方を整えたうえで価格を上げれば、単価と評価はむしろ両立します。下位グループに張り付いたままのほうが、長期的にはずっと危険だとお考えください。
Qうちは地域で中位です。どうすれば上位の施設と並べて見てもらえるのでしょうか。
Aまず、地域の上位施設が何を価値として打ち出しているかを徹底的に研究することをお勧めします。設備の差は一朝一夕には埋まりませんが、写真や説明文の見せ方、滞在体験の設計、特定の客層への絞り込みといった工夫で、補える部分は想像以上に大きいものです。
Q値下げは一切してはいけないのでしょうか。
Aそうではありません。閑散期に予約状況を見て戦術的に価格を調整するのは、健全な運用です。問題なのは、恒常的に値下げ路線へ舵を切り、自館のポジションを下位へ固定してしまうことです。一時的な調整と、恒常的な路線とを区別してください。
用語の整理
この記事で出てきた主な用語
ベンチマーク
自館を比較・評価するための基準となる競合施設や指標。
ポジショニング
同一商圏のなかで、自館が価格・価値の面でどの位置を占めるか。
地域相場(ADR)
その地域・商圏における客室単価のおおよその水準。代表する施設の値づけが相場を形づくる。
さいごに
いかがだったでしょうか。値上げできるかどうかは、自館の努力の量だけでなく、お客さまに誰と比べられているか、そして地域相場のどこに位置しているかによって決まります。比べられる相手を一段上へ引き上げ、安易な値下げを避け、地域の相場づくりにも目を向ける。この三つの視点が、値上げを現実のものにします。
弊社アルファコンサルティングでは、特定の業者と利害関係を持たない独立した立場から、料金設計の見直しやポジショニングの再構築、収益改善のご支援を行っています。依頼者の利益を最優先に、客観的な数値分析にもとづいてお手伝いいたします。
料金設計やポジショニングの見直しについて、初回相談は無料です。自館がいま誰と比べられているか、どこまで引き上げられるか、まずは気軽にご相談いただければと思います。
読了後の3ステップ ― 今日からできること
1. 自館が比べられている相手を特定する
予約サイト上で、お客さまが自館と並べて見ている施設を洗い出しましょう。
2. 比べられる相手を「一段上」へ
価値を磨き、格上の施設と並ぶ位置取りを目指しましょう。
3. 値下げ路線に頼らない
安易な値下げで客を奪う設計から抜け出す方針を固めましょう。
どこから手をつければよいか分からないときは、現状の点検からご一緒できます。

弊社アルファコンサルティングでは、特定の業者と利害関係を持たない独立した立場から、料金設計の見直しや収益改善のご支援を行っています。客観的な数値分析にもとづき、依頼者の利益を最優先にお手伝いします。
株式会社アルファコンサルティング 代表 青木康弘あわせて読みたい関連記事
旅館・ホテルの料金設計|単価1,000円の差が、20年で1億7,500万円を生む値上げできない宿の見えない真因。料金設計5つの盲点の全体像を解説した親記事です。料金ランクの数と差率|値上げできる宿は、料金を「何十段階」にも刻んでいる価格設計の土台となる、段階数と一段ごとの差率の決め方を具体的な数字で解説します。部屋タイプの差額|「一律プラス4,000円」が、繁忙日の利益を逃している上位の部屋をいくら高く売るか。差額を「率」で設計する考え方を解説します。レベニューマネジメント完全ガイド|需要に応じた価格運用の基本整えた料金を、日々どの日にどう当てるか。価格を最適化する運用の考え方を整理します。自館の競合と相場、一度整理してみませんか
「値上げしたいが踏み切れない」「どこから手をつければよいか分からない」――そうした段階からのご相談を歓迎します。中立的な立場から、自館の料金設計を客観的に点検します。
- 料金設計(段階数・差率・部屋タイプ・人数帯)の点検
- 需要に応じた価格運用(レベニューマネジメント)の設計支援
- 競合・地域相場をふまえたポジショニングの整理
- 収益改善に向けた客観的な数値分析
初回相談は無料です。自館の料金設計に取りこぼしがないか、まずはお気軽にご相談ください。
料金設計について無料相談描いた構想を、
ともに、かたちに。
こうしたい、こう変えたい——経営者が描いた構想を、ともにかたちにしていくのが弊社の役割です。数多くの経営に寄り添ってきた立場から、依頼者の望むかたちを、いちばんに考えます。
初回無料相談を申し込む初回相談無料 ・ 秘密厳守 ・ 全国対応

