ホテル旅館コンサルタント・青木康弘が、オールインクルーシブの向き不向きの見極めから、含めるサービスの設計、料金の決め方、損益への影響、地域共創までを実務に即して解説します。

「滞在中、財布を気にせず楽しめる」。

こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。

そんな安心感を売りに、宿泊料金に飲食やアクティビティを含める「オールインクルーシブ」を採り入れる旅館・ホテルが増えてきました。海外リゾートでは一般的な料金体系ですが、日本でもここ数年で急速に注目され、高付加価値層やファミリー層を中心に支持が拡大しています。

ただ、私がご相談を受けてきた中での所感を率直に申し上げると、オールインクルーシブは「単なる値上げ」として導入すると、かえって利益率を落とす結果になりかねません。特に、これまで別注料理やドリンクの販売を収益源としてきた施設では、何も考えずに料金へ組み込むと、提供コストばかりが増えてしまいます。

成功の鍵は、自館に向いているかを見極めたうえで、含めるサービスを丁寧に設計し、滞在全体を「価格以上の価値がある体験」に磨き上げることです。今回は、オールインクルーシブの基本から、導入の適否診断、料金の決め方、そして損益計算書がどう変わるかのシミュレーションまでを、順を追って整理しましょう。

オールインクルーシブは支持を広げる有力な選択肢ですが、向き不向きがあり、設計を誤ると利益を損ないます。本記事では、自館に合った進め方を判断できるよう、損益シミュレーションも交えて実務に即して整理します。

この記事を読むとわかること
  • オールインクルーシブとは何か、なぜ今注目されているのか
  • 自館がオールインクルーシブに向いているかを見極める視点
  • 収益拡大の源泉と、含めるサービスの料金の決め方
  • 導入前後で損益計算書がどう変わるか(簡易シミュレーション)
  • 囲い込みではなく「地域共創」として設計する方法

オールインクルーシブは「値上げ」ではなく「価値づくり」である

この章をひとことで言うと

オールインクルーシブは料金を上げる手段ではなく、滞在価値を高めた結果として単価や満足度を上げる「価値づくり」である。

本題に入る前に、一つだけ前提を共有させてください。オールインクルーシブは、単に料金を引き上げるための手段ではありません。滞在全体を価値ある体験に変え、その結果として宿泊単価や満足度を高める「価値づくり」の取り組みです。

ここを取り違えると、失敗します。これまで一杯ずつ料金を頂いていたドリンクや、別注で出していた料理を、ただ宿泊料金に足し込んだだけでは、お客様には「高くなった」としか映りません。提供する側もコストが増えるだけで、利益はむしろ薄くなります。

大切なのは、「何を含め、何を含めないか」を設計し、含めたサービスを価格以上の価値があると感じてもらえる水準に磨くことです。本記事は、その判断と設計を支えるための実務的な手引きです。なお、宿泊料金と食事料金を分ける「泊食分離」とは考え方が逆方向に見えますが、いずれも一泊二食という固定的な形を見直し、自館に合った滞在価値を設計するという点では地続きの取り組みです。

→ では、そもそもオールインクルーシブとはどういう仕組みなのか。基本から確認しましょう。

オールインクルーシブとは何か

この章でわかること
  • オールインクルーシブの基本的な仕組み
  • なぜ今あらためて注目されているのか
  • 泊食分離との関係

滞在中の飲食やアクティビティを料金に含める仕組み

オールインクルーシブとは、宿泊料金に夕朝食や軽食、ドリンク、館内のアクティビティの利用が含まれ、滞在中は追加料金を気にせず過ごせる仕組みのことです。チェックイン後は、ラウンジのドリンクも、館内の体験プログラムも、原則として追加の支払いなく楽しめます。

海外のリゾートでは以前から一般的な料金体系ですが、日本では数年前から注目を集め始めました。特に、明朗な会計を好む高付加価値層や、子ども連れで追加料金を気にせず過ごしたいファミリー層を中心に、支持が広がっています。

なぜ今あらためて注目されているのか

オールインクルーシブが広がってきた背景には、利用者と施設、双方のニーズが合致したことがあります。

  • 利用者側 ― 明朗会計と安心感 ― 料金が分かりやすく、滞在中に財布を気にしなくてよいという体験は、旅行の満足度を一段と高めます。会計のたびに支払う煩わしさがないことも好まれています。
  • 施設側 ― 売上管理の簡素化と省力化 ― 追加販売に依存しない収益モデルを作れれば、売上の見通しが立てやすくなります。事前精算によってフロントやレストランの業務を省力化できる利点もあります。

追加販売の積み重ねに頼らずに収益を組み立てられるため、収益基盤はむしろ安定しやすくなります。満足度が高まれば、口コミ評価やリピーターの獲得にもつながります。

泊食分離との関係 ― どちらも一泊二食を見直す取り組み

一見すると、宿泊と食事を分ける「泊食分離」と、すべてを料金に含める「オールインクルーシブ」は、正反対の取り組みに見えます。しかし両者は、一泊二食という日本旅館の固定的な形を見直し、自館に合った滞在価値を設計し直すという点で、根は同じです。

たとえば、食事を選択制にする泊食分離を入り口にしながら、館内の滞在時間を充実させるためにドリンクや体験を含めていく、という組み合わせもあり得ます。どちらが正解という話ではなく、自館の客層と強みに合った形を選ぶことが大切です。

ご相談の現場では、「近隣の人気施設がオールインクルーシブを始めたので、うちも追随したい」という声をよく聞きます。しかし、別注のドリンクや料理が主要な収益源になっている施設が安易に真似ると、収益を損ないかねません。まずは自館の収益構造を確かめることをお勧めします。

→ それでは、オールインクルーシブで具体的にどんな効果が期待できるのかを見ていきましょう。

オールインクルーシブで期待できる効果

この章でわかること
  • 利用者にとっての価値
  • 施設にとっての収益・運営面の効果

オールインクルーシブがもたらす効果を、利用者側と施設側に分けて整理しましょう。

利用者にとっての価値

利用者にとって最大の魅力は、滞在中の追加料金を気にせず楽しめるという安心感です。料金が明朗で、何にいくらかかるかを心配せずに過ごせることは、旅の満足度を大きく高めます。この安心感こそが、満足度の向上やリピート率、ひいては宿泊単価の引き上げにつながっていきます。

施設にとっての効果

施設側にとっての効果は、収益面と運営面の両方にあります。

  • 宿泊単価の引き上げ ― サービスを含めた付加価値の高い商品として、積極的な値付けが可能になる
  • 稼働率の改善と再来訪 ― 明朗会計と高い満足度が、稼働率の改善とリピーター獲得につながる
  • 売上管理の簡素化 ― 追加販売に依存しないため、売上の見通しが立てやすくなる
  • 運営の省力化 ― 事前精算によって、フロントやレストランでの伝票処理・集計業務を減らせる
  • 付帯設備の有効活用 ― 使われていなかったラウンジや談話室を、滞在価値を生む空間に再生できる

一見すると、ドリンクや軽食といった別注の売上は減るように見えます。しかし、宿泊単価の上昇、稼働率の改善、再来訪率の向上によって、施設全体の収益はむしろ高まることが多いのです。目先の別注売上ではなく、滞在全体の価値で稼ぐ構造へと転換するのが、オールインクルーシブの本質です。

→ ただし、この効果はどんな施設でも得られるわけではありません。次に、自館が向いているかを見極めましょう。

自館はオールインクルーシブに向いているか

この章をひとことで言うと

オールインクルーシブは万能策ではない。別注売上への依存度・滞在の形・地域資源・客層の四つで適否を見極める。

この章でわかること
  • オールインクルーシブが向いている施設の特徴
  • 向きにくい施設の特徴
  • 導入前に確認すべきこと

ここが本記事で最も大切な章の一つです。オールインクルーシブは、すべての施設に当てはまる万能策ではありません。向いている施設と、慎重になるべき施設があります。

図表1 オールインクルーシブの適否診断
観点向いている施設慎重に検討すべき施設
別注売上への依存度別注のドリンクや料理が主要な収益源になっていない別注料理・ドリンク販売が大きな収益の柱になっている
滞在の形連泊や長時間滞在が多く、館内で過ごす時間が長い宿泊は素泊まり中心で、館内滞在が短い
地域資源近隣に酒蔵・ワイナリーや体験プログラムなど、組み込める資源がある周辺に連携できる資源が乏しく、すべて自館で抱える必要がある
客層明朗会計を好む個人客・ファミリー・高付加価値層が中心日帰り宴会や団体客が主体で、料飲の外販が重要

最も注意したいのが、別注売上への依存度です。これまでドリンクや別注料理の販売を主要な収益源にしてきた施設が、そのまま料金に組み込むと、利益率が低下する恐れがあります。こうした施設では、含めるサービスの範囲を絞る、平均消費量に見合った料金を設定するなど、設計に一段の工夫が必要です。

「流行っているから」で導入しない

オールインクルーシブは注目度が高く、近隣施設の導入を見て焦る経営者は少なくありません。しかし、自館の収益構造や客層に合わないまま導入すると、コストばかりが増えて利益を損ないます。流行ではなく、自館の収益構造に照らして判断することが先決です。

自館にオールインクルーシブが向いているか、判断に迷っていませんか?

別注売上の構成や客層をもとに、導入の適否を客観的に診断します。

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→ 向いていると判断できたら、次は「何を含めるか」の設計です。

何を含めるかを設計する

この章をひとことで言うと

すべてを無制限に含める必要はない。含める範囲を賢く絞り、価格以上の価値があると感じてもらえる水準に磨く。

この章でわかること
  • オールインクルーシブに含める対象の考え方
  • 「価格以上の価値」に磨くという発想

導入を決めたら、次に考えるのが「何を含め、何を含めないか」です。すべてを無制限に含める必要はありません。むしろ、含める範囲を賢く設計することが、収益と満足度を両立させる鍵になります。

含める対象の三つの柱

一般に、オールインクルーシブに含める対象は、次の三つに整理できます。

図表2 オールインクルーシブに含める三つの柱
1
ドリンク
ラウンジやレストランでのソフトドリンク、アルコールなど。最も導入しやすく、効果も実感されやすい対象。
2
軽食・デザート
ウェルカムスイーツ、湯上がりのドリンクや夜食、ラウンジでの軽食など。原価を抑えやすく、「気が利く宿」という印象を残せる。
3
アクティビティ・体験
星空観察、地域の文化体験、館内のワークショップなど。差別化の効果が大きい一方、企画と人材が必要になる。

すべてを一度に揃える必要はありません。自館の客層と立地に合うものから選び、無理のない範囲で始めるのが現実的です。

「価格以上の価値」に磨く

含めると決めたサービスは、「価格以上の価値がある」とお客様に感じてもらえる水準まで磨くことが大切です。たとえば、ただソフトドリンクを並べるのではなく、地元の素材を使ったドリンクや、その土地ならではの軽食を用意すれば、原価をそれほどかけずに満足度を高められます。

逆に、ありふれた既製品をただ無料で置いただけでは、「含まれているのが当たり前」と受け取られ、価値として認識されません。何を含めるかと同じくらい、それをどう魅力的に見せるかが重要なのです。

→ 含める対象が決まったら、いよいよ料金の決め方です。ここがオールインクルーシブの収益の核心に触れます。

料金の決め方 ― 収益拡大の源泉は宿泊単価の上昇

この章をひとことで言うと

オールインクルーシブの収益拡大の源泉はコスト削減ではなく、宿泊単価そのものの上昇にある。

この章でわかること
  • オールインクルーシブの収益拡大が、どこから生まれるのか
  • 含めるドリンク・軽食のコストはどの程度か
  • 平均的な消費量をもとにした値付けの考え方

オールインクルーシブの料金設計を考えるうえで、最も大切な点を先にお伝えします。オールインクルーシブの収益拡大の源泉は、コストの削減ではなく、宿泊単価そのものの上昇にあります。ここを理解しているかどうかで、設計の成否が分かれます。

収益拡大の源泉は「宿泊単価の上昇」

オールインクルーシブが収益を押し上げる仕組みは、大きく二つあります。

図表3 収益拡大を生む二つの源泉
安心感が高い料金を許容させる
「滞在中はすべて含まれている」という明朗会計の安心感は、それ自体が価値。お客様は追加料金を気にせず過ごせるなら、と高めの宿泊料金を受け入れやすくなる。
客層が上がり客単価が高まる
オールインクルーシブは中間層から上の客層に好まれる業態。価格より体験や快適さを重視する層が集まり、客層が上がって客単価の高い顧客を集客できる。

つまり、オールインクルーシブは「コストを切り詰めて利益を出す」のではなく、より高い単価を許容してくれる、より良い客層を集めることで収益を伸ばす取り組みなのです。値付けにあたっては、この単価上昇こそが収益の柱であることを、常に念頭に置く必要があります。

含めるドリンク・軽食のコストは限定的

一方で、オールインクルーシブにすることで増えるコストは、意外なほど限定的です。具体的には、夕朝食以外のドリンクや、滞在中の軽食・デザートが追加でかかりますが、その原価は1名あたり800円から1,500円程度にとどまるのが一般的です。

理由は、お客様の消費量が平均で見れば限られているからです。たとえば、ある大型施設の例では、ドリンクを自由に楽しめる仕組みにしても、1名あたりのアルコールの原価は200円台、ソフトドリンクは200円弱という水準にとどまっていました。全員が上限まで飲むわけではないため、平均で見ればコストは想像よりも抑えられるのです。

図表4 収益力の正体:単価の上昇分がコスト増を大きく上回る
宿泊単価の上昇数千円規模
増える料飲コスト800〜1,500円程度
=
差額が利益として残るこれが収益力の正体

ここがオールインクルーシブの収益力の正体です。宿泊単価は数千円規模で引き上げられるのに対し、増えるコストは800円から1,500円程度。単価の上昇分が追加コストを大きく上回るため、その差が利益として残るのです。

平均的な消費量をもとに値付けする

含めるドリンクや軽食の料金を見込む際は、利用実態に見合った値付けが大切です。飲み放題を導入したからといって、すべてのお客様が大量に飲むわけではありません。飲まない方も、少し飲む方もいます。施設全体での平均的な消費量を踏まえて料金を設定すれば、過度なコスト増にはつながりません。

特に、団体客の減少などで飲み放題の注文率が下がっている施設では、オールインクルーシブ化が収益改善につながることがあります。平均的な消費量を織り込んだ料金にすることで、飲まないお客様に不公平感を与えずに、料飲の売上を底上げできるためです。

値付けの基本は、引き上げた宿泊単価が、増える料飲コスト(1名あたり800円から1,500円程度)を十分に上回るように設計することです。次の章では、この設計が損益計算書全体にどう表れるかを、具体的な数字で確かめます。

→ では、この設計が損益計算書にどう表れるのか。実際の数字でシミュレーションしてみましょう。

導入前後の損益はどう変わるか ― 簡易シミュレーション

この章をひとことで言うと

50室の温泉旅館を例に、導入前後の損益計算書を比較。単価上昇が利益を押し上げる構造を数字で確かめる。

この章でわかること
  • オールインクルーシブ導入前後で、損益計算書がどう変わるか
  • 売上・原価・利益が動く仕組み
  • 設計を誤った場合に、損益がどう悪化するか

ここまでの考え方を、損益計算書の形で具体的に見てみましょう。文章だけではイメージしにくい「結局、利益はどう変わるのか」を、数字で確かめます。これは私がご相談の現場で、経営判断の材料としてお示ししているものです。

以下は、50室規模の温泉旅館を想定した、年間の簡易シミュレーションです。あくまで一定の前提を置いた試算例であり、実際の数値は施設の立地・客層・コスト構造によって変わる点は、あらかじめお断りしておきます。

モデル施設の前提

シミュレーションの前提を整理します。

  • 施設規模 ― 50室の温泉旅館で、客室は2名利用が中心
  • 導入前 ― 一泊二食2万1,000円に別注(ドリンク等)平均2,000円が加わり、1名あたりの単価は2万3,000円。客室稼働率65%。料飲原価は食事3,500円と別注分で1名あたり4,200円程度
  • 導入後 ― 別注として提供していたドリンク等が含めるドリンク・軽食に置き換わり、単価を2万8,000円へ引き上げ。稼働率72%へ。料飲原価は食事3,500円に含めるドリンク・軽食1,500円が加わり1名あたり5,000円(導入前からの増加は800円程度)。事前精算で人件費率は34%から33%へ

損益計算書の比較

この前提で、年間の損益計算書を並べると次のようになります。

図表5 オールインクルーシブ導入前後の損益計算書(年間・百万円)
項目導入前導入後増減
売上高546736+190
売上原価(料飲ほか)111146+35
人件費186243+57
営業費(送客手数料等)6588+23
エネルギー費4966+17
その他経費3344+11
GOP(償却前営業利益)102148+46
固定費(地代・減価償却・租税)7070±0
営業利益3278+46
あくまで一定の前提を置いた試算例。数値は百万円単位で丸め。固定費は金額固定として試算。

注目していただきたいのは、売上の伸びと、その中身です。売上高は1億9,000万円増えていますが、その大半は宿泊単価の引き上げ(1名2万3,000円から2万8,000円へ)によるものです。一方、オールインクルーシブで増えた料飲原価は、ドリンクや軽食の追加分として1名あたり800円程度(年間で約3,200万円)にとどまっています。

ここがオールインクルーシブの収益構造の核心です。引き上げた宿泊単価が、増える料飲コストを大きく上回るため、売上の伸びの多くが利益として残ります。営業利益は4,600万円増え、営業利益率は6%前後から11%前後へと改善しています。

注意したいのは、この改善が「原価を切り詰めた」結果ではないことです。売上原価率は導入前後とも20%でほぼ変わっていません。利益を生んでいるのは、あくまで宿泊単価の上昇です。コスト削減ではなく、より高い単価を許容してくれる良い客層を集めることこそが、オールインクルーシブの収益力の源泉なのです。

これは「うまくいった場合」の試算であることに注意

この試算は、宿泊単価の引き上げと客層の向上、稼働率の改善が、いずれもうまく実現できた場合の姿です。これらは自動的に達成されるものではなく、適否の見極めと丁寧な設計、そして滞在価値を高める努力があって初めて実現します。前提が崩れれば、結果も変わります。

設計を誤ると、損益はこう悪化する

では、設計を誤るとどうなるか。最も典型的なのは、オールインクルーシブにしたものの、肝心の宿泊単価を引き上げられなかったケースです。安心感や客層の向上という価値を打ち出せず、ドリンクや軽食のコストだけが増える状態です。同じモデル施設で試算すると、次のようになります。

図表6 設計を誤った場合の損益(年間・百万円)
項目導入前失敗例増減
売上高546522△24
売上原価(料飲ほか)111129+18
GOP(償却前営業利益)10274△28
営業利益324△28
宿泊単価をほとんど引き上げられず、料飲コストだけが増えた場合の試算例。

この失敗例では、含まれることになったドリンクや軽食のコストが増えた一方、肝心の宿泊単価はほとんど上がっていません。その結果、営業利益は2,800万円減り、営業利益率は6%前後から1%未満へと大きく低下しています。

成功例と失敗例を分けるのは、宿泊単価を正当に引き上げられるかどうかです。そしてそれは、「すべて含まれる」という安心感と、それにふさわしい滞在価値を、お客様に提供できるかにかかっています。だからこそ、流行に飛びつくのではなく、自館がその価値を打ち出せるかを見極めることが大切なのです。

→ 収益構造を確かめたところで、運営面に目を向けましょう。オールインクルーシブは省力化にもつながります。

省力化とコスト管理

この章をひとことで言うと

事前精算で会計業務を減らせる一方、常時提供には運営負担が伴う。省力化とコスト管理の両面を押さえる。

この章でわかること
  • 事前精算による省力化の効果
  • コスト管理で押さえるべき点

オールインクルーシブは、収益面だけでなく、運営の効率化にもつながります。一方で、コスト管理を怠ると負担が増える側面もあるため、両面を押さえましょう。

事前精算で業務を省力化する

オールインクルーシブの大きな利点の一つが、チェックイン時に精算を完結できることです。滞在中の飲食やサービスが料金に含まれているため、都度の会計が発生しません。これにより、各部門での伝票処理や、フロントでの集計業務を大きく減らせます。

レストランでも、お客様ごとにプラン内容を確認したり、追加注文を会計したりする手間が省けるため、配置する人員を抑えられます。結果として人件費の削減につながるだけでなく、スタッフが会計業務から解放され、接客そのものに専念できるようになります。これはサービス品質の向上にも直結します。

コスト管理で押さえるべき点

一方で、ドリンクや軽食を常時提供するには、相応の運営負担が伴います。アクティビティを組み込むには、新たな企画や人材も必要です。これらのハードルは、施設の規模を問わず共通します。

コストを抑える工夫としては、夕食よりも食材原価率の低い軽食でも満足してもらえるよう、提供の仕方を工夫することが挙げられます。お客様が軽食で十分に満足すれば、食材コストの抑制につながります。提供する品目を、原価が安く、スタッフが簡単に準備でき、地元らしさも演出できるものに絞り込むことも有効です。

ある施設では、ラウンジでのドリンク提供をすべてセルフサービスにしたところ、配膳の手間がなくなっただけでなく、お客様が自分のペースで自由に過ごせると好評でした。省力化とお客様満足は、両立できることが多いのです。

→ ここまでの内容を、実際に進める順序に沿って整理しましょう。

段階的な導入ステップ

この章をひとことで言うと

いきなり全面導入しない。ドリンクのセルフ化から始め、地域連携を交えながら段階的に広げる。

この章でわかること
  • 無理なく始めるための導入の順序
  • 小さく始めて広げる重要性

オールインクルーシブは、いきなり全面的に導入する必要はありません。むしろ、段階を踏んで始めるほうが、自館への影響を確かめながら無理なく広げられます。

図表7 オールインクルーシブ 段階的な導入ステップ
1
ドリンクのセルフ化
夕朝食時のドリンクをセルフサービスにし、自由に楽しめる仕組みを整える。最も手軽な第一歩
2
ラウンジで軽食提供
ラウンジで軽食やデザート、ソフトドリンクを提供。使われていない空間の再生も兼ねる
3
地域連携の体験を組込む
地域の事業者と連携し、体験プログラムを宿泊プランに組み込む。自館だけで抱え込まない
4
本格的なプランへ
効果を見ながら、ドリンク・軽食・体験を組み合わせた本格的なプランへ

特に大切なのは、すべてを自館で抱え込もうとしないことです。地域の事業者の協力を得ることで、無理なくサービスの幅を広げられます。小さく始めて、お客様の反応とコストへの影響を確かめながら、段階的に広げていく。この慎重さが、結果的に成功への近道になります。

→ 段階的に広げる先で意識したいのが、地域との結びつきです。これがオールインクルーシブの独自性を決めます。

地域共創として設計する ― 囲い込みとの違い

この章をひとことで言うと

オールインクルーシブは囲い込み経営の再来ではなく、地域と共に滞在価値を高める仕組みとして設計する。

この章でわかること
  • オールインクルーシブを地域共創として設計する考え方
  • かつての囲い込み型経営との違い

オールインクルーシブを単なる館内サービスの充実にとどめず、地域と結びつけて設計すると、施設の独自性は格段に高まります。

地域の資源を取り込む

たとえば、地元の酒蔵やワイナリーと連携し、食事会場でその造り手のストーリーを紹介したり、フリードリンクの銘柄を充実させたりすれば、顧客満足度を高めつつ、売店での売上拡大にもつなげられます。観光資源が乏しい地域でも、地元の工場などと連携して産業観光やナイトタイムツーリズムを組み合わせれば、新たな魅力を生み出せます。

また、地域のレストランと食事券で提携したり、アクティビティを外部の事業者に委託したりすれば、宿泊業と地域産業の双方に利益をもたらす仕組みを築けます。特に中小規模の施設ほど、地域との結びつきを強みに、独自のオールインクルーシブを展開できる余地が大きいのです。

囲い込み経営の再来にしない

ここで、歴史を振り返っておきたいことがあります。かつて日本の宿泊業には、囲い込み型経営の時代がありました。高度経済成長期の大型旅館は、宴会場やクラブ、カラオケを館内に整え、団体客の消費を館内に留めようとしました。効率的ではありましたが、地域の商店や飲食店の発展を阻害し、地元から反発を招いた歴史があります。

囲い込み型経営(過去)
宴会場・クラブ・カラオケで館内消費を留める。効率的だが、地域の発展を妨げ、地元から反発を招いた。
VS
地域共創型(これから)
酒蔵・農園・地域レストランと協働し、土地ならではの体験を提供。宿と地域が共に成長する。

今日の旅行者は、その土地らしさや体験価値を強く求めています。オールインクルーシブは、お客様を館内に閉じ込める囲い込み経営の再来であってはなりません。地域と共に成長するための仕組みとして設計してこそ、これからの時代に支持されます。地元食材を活かした料理、酒蔵や農園との協働、伝統芸能や職人技の体験などを積極的に取り入れることで、他施設との差別化が可能になるのです。

中小施設こそ地域共創が強みになる

大型施設は、多様な付帯施設を組み合わせた総合的な滞在価値を打ち出しやすい一方、中小施設は地域の特性を活かした手づくり感を強みにできます。規模の大小ではなく、自館のブランドや立地特性に合った設計こそが、地域内で選ばれる存在になる道です。

→ 最後に、オールインクルーシブは導入してからの数値管理で成果が大きく変わります。

導入後の数値管理 ― 含めて終わりにしない

この章をひとことで言うと

導入後は消費量・原価率・単価・稼働・リピート率をモニタリングし、含めるサービスと料金を磨き続ける。

この章でわかること
  • オールインクルーシブ導入後に見るべき数値
  • 継続的に見直す姿勢の大切さ

オールインクルーシブは、導入して終わりではありません。導入後の数値をモニタリングし、設計を磨き続けることで、その効果は大きく変わります。

見るべき数値

導入後は、次のような数値を継続的に確認しましょう。

  • 1名あたりのドリンク・軽食の消費量(想定した平均値と実態がずれていないか)
  • 料飲部門の原価率(含めたサービスのコストが想定内に収まっているか)
  • 宿泊単価・客室稼働率(オールインクルーシブ化で狙いどおり改善しているか)
  • リピート率・口コミ評価(滞在満足度が高まっているか)

これらの数値を定点観測すれば、含めるサービスの内容や料金が適切かどうかを判断でき、設計の見直しに活かせます。たとえば、想定よりドリンクの消費量が多ければ提供方法を調整し、逆に体験プログラムの参加率が低ければ内容を見直す、といった具合です。

現状の経費配分を定期的に総点検する

最後に、これは私がご相談の現場で必ずお伝えしていることですが、現状の経費の使い方が、本当にお客様の体験価値を高めているかを、定期的に総点検していただきたいのです。料理に偏っていないか、使われていない設備に費用がかかっていないか。経費をかけている割にお客様が満足していないと感じるなら、その配分を組み替える余地があります。オールインクルーシブは、その組み替えを促す良いきっかけにもなります。

よくあるご質問

Q. オールインクルーシブにすると、利益が減ってしまいませんか?

含めるサービスを無計画に増やせば、利益は減ります。しかし、平均的な消費量に見合った料金を設定し、何より宿泊単価を正当に引き上げられれば、施設全体の収益はむしろ高まることが多いです。鍵は、単なる値上げにせず、安心感と滞在価値で高い単価を許容してもらう「価値づくり」として設計することです。

Q. 別注のドリンクや料理の売上が、当館の主要な収益源です。導入すべきでしょうか?

その場合は慎重な検討が必要です。別注売上が大きな柱になっている施設が安易に料金へ組み込むと、利益率が低下する恐れがあります。含めるサービスの範囲を絞る、平均消費量に見合った料金にするなど、設計に一段の工夫が求められます。まずは収益構造を確認することをお勧めします。

Q. 小規模な旅館でも導入できますか?

できます。むしろ中小施設は、地域の特性を活かした手づくり感を強みにできます。すべてを自館で抱え込まず、地元の事業者と連携し、ドリンクのセルフ提供など手軽なところから段階的に始めるとよいでしょう。

Q. 飲み放題を含めると、たくさん飲む人が出てコストが膨らみませんか?

実際には、すべてのお客様が大量に飲むわけではありません。施設全体で見れば、1名あたりの消費量は想像よりも抑えられることが多いです。含めるドリンク・軽食の追加原価は1名あたり800円から1,500円程度に収まるのが一般的で、引き上げた宿泊単価で十分に吸収できます。

Q. オールインクルーシブと泊食分離は、どちらを選ぶべきですか?

どちらが正解という話ではなく、自館の客層と強みによります。食事を選択制にしたい施設は泊食分離、滞在価値を高めて単価を引き上げたい施設はオールインクルーシブが向きます。両者を組み合わせることも可能です。

Q. 導入後、どのくらいで効果が見えますか?

宿泊単価や稼働率への効果は比較的早く表れますが、リピート率や口コミ評価の改善には時間がかかります。導入後は数値を継続的にモニタリングし、含めるサービスや料金を調整しながら、設計を磨いていくことが大切です。

さいごに

いかがだったでしょうか。オールインクルーシブは、明朗会計の安心感を武器に支持を広げている、有力な選択肢です。一方で、単なる値上げとして導入すると、かえって利益率を落としかねません。

成功の鍵は、自館が向いているかを見極め、含めるサービスを丁寧に設計したうえで、安心感と滞在価値によって宿泊単価を正当に引き上げることです。シミュレーションで見たとおり、収益拡大の源泉は宿泊単価の上昇にあり、増える料飲コストはそれを大きく下回ります。さらに、地域と結びつけて設計すれば、他施設にはない独自性が生まれます。自館の実情に合った形で進めれば、オールインクルーシブは収益構造を大きく改善する力を持っています。

オールインクルーシブの導入を、自館に合った形で進めたい方へ

弊社アルファコンサルティングでは、特定の金融機関や業者と利害関係を持たない独立した立場から、依頼者であるオーナー様の利益を最優先に、オールインクルーシブの導入をご支援しています。観光経済新聞でのコラム連載を17年続けてきた中で蓄積した知見をもとに、自館に合った進め方を一緒に考えます。

  • 導入適否の診断 ― 別注売上の構成・客層・地域資源の実態から、オールインクルーシブが向いているかを客観的に診断します
  • 料金設計・損益シミュレーション ― 宿泊単価の設計と、導入前後の損益見通しの作成を支援します
  • 地域連携を含めた滞在価値の設計 ― 酒蔵や地域事業者との連携を含め、自館らしいオールインクルーシブを一緒に設計します

「自館がいまどの段階にいるのか分からない」「何から手をつければよいか整理したい」という段階でも構いません。早めにご相談いただくほど、選べる選択肢は多くなります。

初回相談は無料です。

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