ホテル旅館の宿泊料金体系の見直しを考える経営者・運営者のための日本型泊食分離の進め方(後編)

ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。前編に引き続き、ホテル旅館の宿泊料金体系の見直しを考える経営者・運営者のための日本型泊食分離の進め方を解説したいと思います。前編を見ていない方はこちらをクリックして先に読んでください。

料金体系はシンプルにすることが大切

1人単位の料金体系から部屋単位の料金体系へと移行する際に、両方の料金体系のいいとこ取りしたものにしたいとクライアント様から相談を受けることがありますが、複雑になるのでやめた方が良いです。

例えば、客室基本料金1万円、1人宿泊するごとに2千円加算するというような料金体系です。宿泊者数と変動費(リネン・アメニティ費、清掃費、水道光熱費など)を連動させることができ、一見理にかなっているように思えますが、料金体系が複雑となります

客室基本料金に加算する料金は一律ではありません。大人、小人、乳幼児と加算料金を分ける必要があります。添い寝の場合は、加算料金は不要なのではないかと考えるお客様もいるでしょうから、加算対象の線引きを明確にしなければなりません。シーズナリティを考慮すると更に複雑化します。

料金体系に問題がないか否かは、スタッフが電話越しにお客様に容易に説明でき、お客様の理解がすぐに得られるかどうかで判断すると良いでしょう。説明に10分以上時間を要したり、チェックイン時にお客様から質問や不満が相次いだりするような料金体系は良いものとは言えません。正式に移行する前に不具合がないかチェックしましょう。

シーズナリティは客室料金のみ設定する

泊食分離移行後の基本的な料金体系が決まったらシーズナリティを検討しましょう。

すでに営業中の日本旅館ならば、過去2年程度の毎日の部屋タイプ別の客室稼働率と宿泊単価データから客室料金の上限・下限を導き出すと良いでしょう。月や週、曜日、部屋タイプごとの稼働率のばらつき、休前日・祝祭日の稼働率の高さなどを分析することで妥当な客室料金を推測することができます。

客室料金はシーズナリティによって柔軟に変更することが望ましいですが、夕朝食は年間同一料金の方が良いでしょう。夕朝食料金を時期によって変えてしまうと、料飲原価のコントロールがうまくいかないからです。

泊食分離の導入で成功するホテル旅館、失敗するホテル旅館

政府が泊食分離を推進し、近隣の日本旅館で導入されたからといって、皆さまのホテル旅館も一様に導入するべきかと言うとそうではありません。あくまで各館の強み・弱みや実情に合わせて判断することが望ましいと言えます。判断基準は次の通りです。

①料飲部門が強みとなっているか

夕朝食の口コミ評価点が地域平均より高く、料飲部門のFL比率が一定水準以下(適正利益が得られる水準)であれば無理に泊食分離する必要はありません。現状のまま夕朝食つきプランを販売し続けた方が高収益を維持できるでしょう。

料飲部門のFL比率(料飲売上に対する料理原価+料飲に関わる人件費の割合)は65%未満を目安とすると良いでしょう。

逆に、夕朝食の口コミが低評価、料飲部門のFL比率65%以上のいずれかが当てはまるのであれば、泊食分離を検討した方が収益改善につながる可能性があります。特に、夕朝食の魅力で集客するのが困難であったり、料飲部門の人手不足や人件費高騰が課題であったりするならば、前向きに検討した方が良いでしょう。

②客室稼働率が一定水準以上あるか

客室稼働率が一定水準以上あれば無理に泊食分離する必要はありません。客室稼働率の目安は年平均で70%以上を目安にすると良いでしょう。

客室稼働率が低くなる要因の一つに、「多様な宿泊ニーズに対応できていない」というものがあります。都市部の宿泊や連泊、周遊、ご当地グルメ目的、ビジネス目的の観光客は、夕朝食プランを希望しない可能性が高くなる傾向にあります。

食事付きプランの販売にこだわるよりも、ご当地グルメの魅力を紹介したり、地元タクシー会社と提携して味めぐりプランを販売したりする方が客室稼働率アップにつながるでしょう。

③日帰り宴会客が多いか

日帰り宴会や観光バスの立ち寄りが多いのであれば無理に泊食分離する必要はありません。地元固定客や旅行代理店から料飲部門に対して高評価を得ている証拠です。素泊まりで客室販売すると、従前のような高評価が得られなくなる可能性があるので注意しましょう。

いかがだったでしょうか?皆さんの参考になれば幸いです。