こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。

レベニューマネジメント(RM)と聞くと、「大手の話」「高価なシステムが要る」「専任の担当者がいないと無理」と感じる方が多いと思います。実際、本格的なレベニューマネジメントシステム(RMS)は月額数万円から数十万円。小規模な施設では、導入をためらって当然です。その結果、価格は「勘と度胸」で決まり、繁忙日を安く売ってしまったり、閑散日に手を打てないままになったりしています。

先に申し上げると、RMSが自動でやっていることも、中身は①データの整理、②需要の把握、③価格の提案の三つに分けられます。このうち①②の下ごしらえと、③のたたき台は、生成AIで担えます。最終判断が人の仕事である点は、高価なRMSを導入しても変わりません。であれば、小さな施設でも、生成AIを使ってレベニュー業務の型を回すことはできるはずです。本稿では、その進め方を、具体的なプロンプトと手順でご紹介します。

本稿の背景 ― 共同セミナーと動画のご案内

本稿で扱うレベニューマネジメントと料金設計の考え方は、レベニューマネジメントと宿泊予約・インターネット販売を専門とする平川哲也氏(株式会社ベースアップ代表取締役)と、観光経済新聞社のセミナーで共同で取り上げた内容にもとづいています。平川氏は、大手ホテルチェーンでのマーケティングや宿泊予約の実務を経て、宿泊販売支援の現場で東日本のおよそ1,000施設のインターネット販売の支援を統括し、2022年に株式会社ベースアップを創業した、料金設計と販売運用の専門家です。

観光経済新聞チャンネル 第17回「旅館・ホテルの価格アップのための実践的手法」(青木康弘・平川哲也)▶ 動画を見る(YouTube)観光経済新聞チャンネル 第17回「旅館・ホテルの価格アップのための実践的手法」(青木康弘・平川哲也)
価格づけに課題を感じている経営者・支配人の方へ この記事のポイント
  1. 土台づくり ── 自館の「需要カレンダー」を、一度だけ作る。半日の作業です。→ ポイント①へ
  2. 核心 ── 毎週月曜30分の「週次ルーティン」。プロンプトと生成結果の実例つき。→ ポイント②へ
  3. 価格テーブルは「きめ細かく、下限を広く」。急変時のガードレール。→ ポイント③へ
  4. 価格以外の打ち手と、線引き。値付けの決定は、AIでもシステムでもなく、人。→ ポイント④へ

気になるポイントだけ、つまみ読みでも役立つように作っています。

本題に入る前に、業界の利益水準に触れておきます。コロナ後、利益は全体として回復しました。日本旅館協会の最新の統計(令和7年度 営業状況等統計調査)では、経常利益率の全体平均は7.6%、借入金の償還年数は8.7年まで改善しました。けれども中身を見ると、施設の約3割はいまも赤字で、赤字施設の借入金償還年数は75.1年。事実上、返済の目処が立たない水準です。中規模旅館の営業利益率は3.7%にとどまります。黒字と赤字を分ける要因の一つが、価格づけの巧拙です。人件費もOTAへ支払う販促費も上がり続けていますから、回復したとはいえ、価格を勘に任せる余裕はありません。

まず、RMSが何をしているのかを分解してみましょう。中身が見えると、生成AIで担える範囲も見えてきます。

図表1 RMSの中身を分解する ── 生成AIで担える範囲
① データの整理 + ② 需要の把握

予約状況・前年実績・競合価格を一枚に整理し、進み・遅れを把握する「下ごしらえ」

→ 生成AIで担える

③ 価格の提案

日別の価格調整案を、理由付きで複数案

→ たたき台は生成AIで担える

↓ 材料とたたき台を渡す
最終判断 ── 価格を決める

これは人の仕事。高価なRMSを入れても、ここが人であることは変わらない

つまり、システムの有無で変わるのは「下ごしらえの自動化の度合い」であって、レベニュー業務の型そのものは、小さな施設でも回せます。

ポイント① 土台づくり ── 自館の「需要カレンダー」を、一度だけ作る

最初に取り組むのは、価格の変更ではなく、自館の需要のかたちを知ることです。初回だけ半日かけて、次の4手順で需要カレンダーを作ります。

図表2 需要カレンダーづくり ── 初回だけ、半日の4手順
1現場過去1〜2年分のデータを出す
月別・曜日別の稼働率と平均単価を、PMSや予約台帳のエクセルから。手の集計でも構わない
2AI傾向を、言葉と表に整理させる
「秋の土曜が強い」「2月の平日が苦しい」を、根拠のある一枚に
3現場地域の年間イベントを書き出す
花火大会、学会、連休、地元の祭り。AIに統合させる
4「需要カレンダー」を一枚にして共有する
フロントと経営者で同じ地図を持つ。これが週次判断の土台になる
▸ プロンプトの例(入力)── 需要のかたちを言語化させる
# 役割:あなたはホテル・旅館のレベニュー担当の補佐役です。# データ:当館の過去2年分の月別・曜日別の稼働率と平均単価です(貼り付け)。# 依頼:(1)月×曜日の稼働と単価の傾向を表に整理してください。(2)需要の山と谷がいつ来るのか、言葉で説明してください。(3)単価を上げる余地がありそうな時期と、埋める工夫が要る時期を分けてください。# 禁止:データにない数字を作らないこと。
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▸ 生成結果(AIの回答・要旨の例)
AI当館の需要のかたち(要旨)・山:10〜11月の土曜(紅葉期・稼働9割超で単価も最高水準)、GW、お盆
・谷:1〜2月の平日(稼働5割を下回る週あり)
・単価を上げる余地:紅葉期の土曜は前年、早期に満室 → 上げ幅の検討対象
・埋める工夫が要る:冬の平日 → 価格よりプラン・ターゲットの工夫を推奨

「秋の土曜は強い」「2月の平日が苦しい」といった、これまで頭の中にしかなかった感覚が、根拠のある資料に変わります。この土台があると、毎週の価格判断が格段に速くなります。

ポイント② 核心 ── 毎週月曜30分の「週次ルーティン」

レベニュー業務は、特別な分析を年に数回行うより、簡単な見直しを毎週続けるほうが成果につながります。毎週月曜日に30分、次の5手順を回します。

図表3 週次ルーティン ── 毎週月曜30分の5手順
1現場予約状況を出す(5分)
向こう60日の日別の予約済室数・残室数・現在の販売価格を、PMSやサイトコントローラーから
2AI前年と比べ、「進み」と「遅れ」を抽出させる
前年同時期の最終実績と並べて渡すRMSが「ペース分析」と呼ぶ作業の中核は、これ
3現場競合の価格を、5分だけメモする
同エリア2〜3軒の週末価格を予約サイトの画面で確認全日は要らない。山と谷の日だけで十分。網羅より、続けられること
4AI判断材料の整理と、3案の価格調整案
強気・標準・慎重の3案を、理由付きで提案させる禁止の一行:データにない数字を作らない。足りない日は【要検討】と書かせる
5人が決めて、反映する(10分)
下限ルールに照らして決定し、サイトコントローラーや予約サイトへ月曜の30分で、向こう60日の価格が「考えられた状態」になる
▸ プロンプトの例(入力)── 週次の価格調整案
# 役割:あなたはホテル・旅館のレベニュー担当の補佐役です。# データ1:向こう60日の日別の予約済室数・残室数・現在価格(貼り付け)。# データ2:前年同日の最終的な稼働実績と販売単価(貼り付け)。# データ3:競合2軒の週末の公示価格メモ(貼り付け)。# 依頼:(1)前年より予約の進みが早い日・遅い日を抽出してください。(2)価格を動かす候補日について、強気・標準・慎重の3案を、理由付きで提案してください。# 禁止:データにない数字を作らないこと。判断材料が足りない日は【要検討】と記し、何が分かれば判断できるかを添えること。
送信 ▶
▸ 生成結果(AIの回答・抜粋)
AI10/10(土) 進み:前年比+18室/残12室標準案:+2,000円(3連休初日。前年は直前まで伸びた)/強気案:+3,500円/慎重案:据え置き10/24(土) 遅れ:前年比▲9室慎重案:販売価格を平日水準に寄せ、直前割の準備を/標準案:▲1,000円11/7(土) 【要検討】近隣で学会の有無が不明。開催が分かれば強気案に切り替え可。地域の会議場の予定表の確認を推奨

ここでも、議事録の記事でご紹介したのと同じ「禁止の一行」が役に立ちます。AIに数字を作らせないこと、分からない日は【要検討】と正直に書かせること。この一行があるかないかで、提案の信頼性は大きく変わります。

モニターのグラフを見ながら会議するビジネスパーソン
3案から決めるのは人。月曜30分で、向こう60日が「考えられた状態」になる

自館の価格づけ、週次ルーティンの立ち上げからご一緒します。

レベニュー業務の立ち上げを相談する

ポイント③ 価格テーブルは、「きめ細かく、下限を広く」

週次ルーティンを支えるのが、価格テーブルの設計です。連載の値上げ法でも書いたとおり、お客様向けの簡潔な料金表に縛られると、繁閑に応じたきめ細かな設定ができなくなります。

図表4 価格テーブルの設計 ── 表は幅で、中はきめ細かく、下に線を
お客様向けの表示 ──「◯◯円〜」の幅表記

簡潔な料金表に縛られない。値上げのたびに表を作り直す心理的な壁もなくなる

その内側で
内部の価格ランク ── きめ細かく刻む
最繁忙繁忙準繁忙通常+通常閑散最閑散

ランクが細かいほど、週次の調整は「一段動かす」だけの軽い判断になる

そして、いちばん下に
下限ルール ── これ以上は下げない線

変動費(清掃・アメニティ・食材)を踏まえて先に決める。AIの提案がどう振れても、枠の外には出ない

需要は、為替や国際情勢で急変します。平時に価格の上下の枠を設計しておくことが、急変時に現場が混乱しないためのガードレールです。

ポイント④ 価格以外の打ち手 ── 閑散日は、価格だけでは埋まらない

需要カレンダーで谷が見えたら、打ち手は値下げだけではありません。平日限定プランの企画(販促の記事でお話しした、AIとのたたき台づくりがそのまま使えます)、早割と直前割というリードタイム別の売り分け、客室タイプ間の振り替え。キャンセルのデータをAIに整理させて、キャンセル規定や入金条件を見直す材料にすることもできます。価格、プラン、在庫の三つがそろって、はじめてレベニュー業務と呼べます。

線引き ── 値付けの決定は、AIでもシステムでもなく、人

図表5 レベニュー業務の役割分担 ── どこで線を引くか
生成AIに任せてよい ──「下ごしらえとたたき台」
データの整理・一枚化前年比較(進み・遅れの抽出)価格調整案のたたき台(3案)需要カレンダーの作成キャンセル傾向の整理
↓ 材料とたたき台を渡す
人が決め、責任を負う ──「経営判断」
価格の最終決定下限ルールの設計地域の相場の中での自館の位置づけ

料飲の値付け、採用の処遇と、まったく同じ構図です。

もう一つ申し添えると、本稿は高価なRMSを否定するものではありません。施設の規模が大きくなり、客室タイプやチャネルが複雑になれば、RMSは有力な選択肢です。弊社は特定のシステム会社と利害関係を持たないため、入れるべきか、入れるならどれか、という選定のご相談にも中立の立場で応じられます。まず生成AIで型を回してみて、必要になった段階でシステムを検討する。この順番が、小さな施設には合っています。

青木康弘青木康弘価格のご相談で多いのは「上げて売れなくなるのが怖い」という声です。週次で見直す習慣があれば、上げた後の修正もすぐにできます。怖さの正体は、見直しの仕組みがないことだと感じています。

下ごしらえとたたき台はAIで。
値付けの決定は、人が握る。

よくある質問

Q. 生成AIの需要予測は、当たるのですか。

A. 当てることが目的ではありません。前年比較と判断材料の整理という「下ごしらえ」を速くすることが目的です。予測は外れる前提で、下限ルールと週次の見直しというガードレールの中で使います。これは高価なRMSでも同じです。

Q. PMSがなく、データが紙の台帳しかありません。

A. 始められます。まず直近1年分の月別の宿泊人数と売上だけでも、エクセルに写してください。粗くても、傾向の言語化はできます。台帳の写真をAIに読ませて表に起こす方法もあります。

Q. 競合の価格は、毎週全部調べるのですか。

A. いいえ。山と谷の日だけ、2〜3軒を5分で十分です。網羅より、続けられることを優先してください。

Q. 何から始めればよいですか。

A. 需要カレンダーづくりからです。半日で自館の需要のかたちが見え、翌週から月曜30分のルーティンに入れます。

さいごに

いかがだったでしょうか。レベニューマネジメントの本質は高価なシステムではなく、データを見て、考えて、決めるという習慣にあります。生成AIは、その習慣のうち「考える前の下ごしらえ」を引き受けてくれます。週に30分の見直しを続ければ、勘と度胸に頼った価格づけから抜け出せます。中規模旅館の営業利益率がいまも3.7%にとどまることを考えれば、この30分が黒字と赤字を分けると言っても、言い過ぎではないでしょう。

弊社アルファコンサルティングでは、特定の予約システムやRMS会社と利害関係を持たない中立の立場から、レベニュー業務の立ち上げとシステム選定を、ホテル・旅館それぞれの施設に合わせてお手伝いしています。

初回相談無料です。自館の価格づけに課題を感じている方は、どうぞお気軽にご相談ください。

週30分の価格の習慣づくりから、ご一緒します。

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