繁忙日の「2名どまり」が、年に数千万円を捨てている

こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。

ゴールデンウィークやお盆など、最も高く売れるはずの日に、なぜか2名の予約ばかりが並ぶ。3名・4名のグループが入ってこない。その原因は集客力ではなく、人数が増えるほど割高になる料金設計にあることが少なくありません。

本稿では、人数帯の差額がどれだけの売上機会を奪っているのかを金額で示し、繁忙日・閑散日それぞれの設計の勘所を解説します。これは、別稿でお話しした料金の基本設計の続編にあたります。

別稿「単価1,000円の差が、20年で1億7,500万円を生む」では、値上げできないホテル・旅館に共通する5つの設計上の盲点を取り上げました。今回はその中でも、経営者が最も気づきにくく、しかも金額の大きい「人数帯の差額」に絞って掘り下げます。

この記事を読むとわかること

  • 1同じ部屋でも、利用人数で1室料金が変わる仕組み
  • 2最も予約の入る繁忙日に、最も取りこぼしてしまう設計の罠
  • 3繁忙日の設計 ― 人数帯の差を圧縮して1室単価を上げる
  • 4閑散日の設計 ― 人数を呼び込み、付帯売上で稼ぐ
  • 5どの部屋も1名から受ける「入口を閉じない」設計

こんなお悩みはありませんか

以下の項目に2つ以上当てはまる方は、本記事を最後までお読みになることをお勧めします。

□ 繁忙日でも、人気の客室を2名までしか受けない設定にしている

□ 同じ部屋を3名・4名で売れば伸びる単価を、取りこぼしている気がする

□ 人数帯ごとの料金差を、繁忙日も閑散日も同じ設計にしている

□ 閑散日に空室が目立つが、人数を呼び込む工夫ができていない

□ 1名利用を断っており、稼げる日に入口を狭めている

▶ 本記事で、繁忙日と閑散日で変えるべき人数帯の設計を整理しましょう。

本稿の背景 ― 共同セミナーと動画のご案内

本稿で解説する料金設計の考え方は、レベニューマネジメントと宿泊予約・インターネット販売を専門とする平川哲也氏(株式会社ベースアップ代表取締役)と、観光経済新聞社のセミナーで共同で取り上げた内容にもとづいています。平川氏は、大手ホテルチェーンでのマーケティングや宿泊予約の実務を経て、宿泊販売支援の現場で東日本のおよそ1,000施設のインターネット販売の支援を統括し、2022年に株式会社ベースアップを創業した、料金設計と販売運用の専門家です。

観光経済新聞チャンネル 第17回「旅館・ホテルの価格アップのための実践的手法」(青木康弘・平川哲也)▶ 動画を見る(YouTube)観光経済新聞チャンネル 第17回「旅館・ホテルの価格アップのための実践的手法」(青木康弘・平川哲也)
第1章
同じ部屋でも、人数で値段が変わる
要点

多くの施設は、客室料金を「1室いくら」ではなく利用人数ごとに設定しています。同じ部屋でも2名と6名では1室の合計料金が変わり、この人数帯ごとの差額の付け方が、最も売れる繁忙日にかえって売上を抑え込みます。

多くの施設では、客室の料金を「1室いくら」ではなく、利用人数ごとに設定しています。同じ部屋でも、2名で泊まるか6名で泊まるかによって、1室あたりの合計料金が変わる仕組みです。下の表は、ある中間ランクの客室における、人数帯ごとの1室合計料金の例です。

図表1:中間ランクの客室における人数帯別の1室合計料金(例)

32,000円1名48,000円2名66,000円3名84,000円4名102,000円5名120,000円6名
利用人数1室合計料金1名あたり
1名32,000円32,000円
2名48,000円24,000円
3名66,000円22,000円
4名84,000円21,000円
5名102,000円20,400円
6名120,000円20,000円

一見すると、人数が増えるほど1室の料金が上がるのは当然に見えます。1名あたりで割れば、むしろ大人数のほうが割安です。問題は、この差額の「付け方」が、最も売れる日にかえって売上を抑え込んでしまう点にあります。次章で、その仕組みを金額で確かめましょう。

旅館で食事を楽しむグループの宿泊客

→ 次章では「最も売れる日に、最も取りこぼす」を取り上げます。

進捗:第1章/全5章 ■■□□□□□□□□ 20%

ここまで読了:約2分 / 残り約7分

第2章
最も売れる日に、最も取りこぼす
要点

たった一つのランクの、人数帯の設計が粗いだけで、年間およそ2,880万円もの売上機会を取りこぼしている

ゴールデンウィークやお盆、年末年始といった繁忙日は、家族やグループでの旅行が増え、3名以上の予約が入りやすい日です。裏を返せば、繁忙日に人数の多い予約を取れなければ、1室あたりの単価は上がらず、売上も伸びません。

ところが、人数帯の差額が大きすぎると、何が起きるか。お客さまが「2名で予約したほうが割安だ」と感じ、本来は多人数で売れたはずの日に、2名の予約で埋まってしまうのです。その差は、施設全体で見ると驚くほど大きな金額になります。先ほどの中間ランクの客室が10室あり、ある土曜日にすべて2名で販売してしまった場合を試算してみましょう。

図表2:人数帯設計による機会損失の試算/中間ランクの客室10室を土曜に2名で販売した場合

項目計算金額
1室あたりの取りこぼし(2名→6名差)120,000円−48,000円72,000円
10室分・1日あたり72,000円×10室72万円
この中間ランクの使用日数を年間40日とすると72万円×40日約2,880万円

たった一つのランクの、人数帯の設計が粗いだけで、年間およそ2,880万円もの売上機会を取りこぼしている可能性があるのです。むろん、すべての日が満室の6名になるわけではありません。しかし、設計を整えるだけで取り戻せる金額が、これほどの規模で眠っているという事実は、経営者として知っておく価値があります。

ここで強調したいのは、これは集客の問題ではなく、設計の問題だということです。広告を増やさなくても、料金体系の差額を見直すだけで、繁忙日の取りこぼしは防げます。お金をかけずに着手できる、数少ない打ち手の一つなのです。

ホテル旅館コンサルタント 青木康弘

青木康弘(ホテル旅館コンサルタント)

もっとも予約が埋まる土曜にかぎって、2名までしか受けない設定の宿は驚くほど多いものです。最も売れる日に、最も取りこぼしている。人数帯の設計は、繁忙日と閑散日でまったく考え方を変える必要があります。

「繁忙日に、人数帯の設計で取りこぼしていないか」――客観的に点検したい方へ。

料金設計について相談する

→ 次章では「繁忙日の設計 ―― 人数帯の差を圧縮する」を取り上げます。

進捗:第2章/全5章 ■■■■□□□□□□ 40%

ここまで読了:約4分 / 残り約5分

第3章
繁忙日の設計 ―― 人数帯の差を圧縮する
要点

「繁忙日こそ人数で差をつけて、多人数から多く取りたい」と考えがちですが、実際は逆です。

では、どう直すか。原則はひとつです。高く売れる繁忙日に使うランクほど、人数帯ごとの差額を小さくしておくことです。

繁忙日は黙っていても予約が入る日です。だからこそ、2名と6名で大きな差をつける必要はありません。むしろ差を圧縮し、何名で予約が入っても高い水準の単価が確保できるようにしておくほうが、機会損失を防げます。具体的には、繁忙日に適用する高ランクでは、2名以上の料金をほぼ同じ水準に寄せていく、という設計です。

「繁忙日こそ人数で差をつけて、多人数から多く取りたい」と考えがちですが、実際は逆です。差をつけるほど、お客さまは割安な少人数側に流れ、結果として単価が伸びません。繁忙日は差を小さく、これが鉄則です。

靴のサイズにたとえるなら、繁忙日の料金は「フリーサイズ」に近づけるイメージです。何名で来ても、しっかりとした単価で受けられる状態をつくっておくのです。

華やかな会席料理(刺身の盛り合わせ)

→ 次章では「閑散日の設計 ―― 人数を呼び込み、付帯売上で稼ぐ」を取り上げます。

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ここまで読了:約5分 / 残り約4分

第4章
閑散日の設計 ―― 人数を呼び込み、付帯売上で稼ぐ
要点

結果として、1室・1泊あたりの総売上はむしろ高まる。室料単価を欲張らないことが、全体の売上を押し上げるのです。

一方、平日や閑散日は事情が異なります。こうした日は、そもそも多人数のグループ予約が入りにくい。ここで料金を高くすると、ただでさえ入りづらい予約をさらに遠ざけ、単価も稼働も上がらないという悪循環に陥ります。

閑散日の原則も、実は繁忙日と同じく「人数帯の差を小さくする」ことです。ただし狙いは逆で、こちらは多人数の予約を呼び込むためです。3人目、4人目の追加料金を抑えれば、2名で泊まる予定だったお客さまが「それなら家族や友人も誘おう」と人数を増やしてくれます。

宿泊人数が増えれば、室料そのものは欲張れなくても、食事や館内消費といった付帯売上が積み上がります。結果として、1室・1泊あたりの総売上はむしろ高まる。室料単価を欲張らないことが、全体の売上を押し上げるのです。

同じ発想は、連泊予約にも当てはまります。連泊は、客室清掃の負担を軽くし、チェックイン・チェックアウトの混雑を減らし、口コミ評価の向上にもつながる、運営側にも利点の多い予約です。1名あたりではなく1室あたりで、かつ連泊するほど割高にならないよう設計しておけば、人数の多いグループの連泊も取り込みやすくなります。

→ 次章では「入口を閉じない ―― どの部屋も1名から」を取り上げます。

進捗:第4章/全5章 ■■■■■■■■□□ 80%

ここまで読了:約7分 / 残り約2分

第5章
入口を閉じない ―― どの部屋も1名から
要点

利用人数の下限を上げた瞬間、その部屋は1名で検索する人の結果に表示されなくなり、販売機会そのものがゼロになります。

人数帯の設計で、もう一つ見落とされがちな点があります。販売サイト上で、客室の利用人数の下限を2名以上に設定してしまうケースです。

利用人数の下限を上げた瞬間、その部屋は1名で検索する人の結果に表示されなくなり、販売機会そのものがゼロになります。

1名利用は単価こそ低いものの、複数人では埋まりにくい平日の底上げにはなりやすいものです。稼働が極端に低い日が続くと、働くスタッフの士気や育成にも影を落とします。原則として、どの部屋も1名から予約できる状態にしておき、どうしても人数を絞りたい日だけ、プランの停止やサイトコントローラー側の人数制限機能で個別に対応するのが賢明です。入口は、開けておく。これが基本です。

→ ここまでの要点を、よくあるご質問で補足します。

進捗:第5章/全5章 ■■■■■■■■■■ 100%

ここまで読了:約9分 / 残り約1分

よくあるご質問

Q繁忙日に人数で差をつけないと、多人数のお客さまから十分にいただけないのではないですか。

A差をつけなくても、繁忙日に適用する高ランクの料金水準そのものを高く設定しておけば、何名で予約が入っても十分な単価を確保できます。差をつけることの弊害は、お客さまが割安な少人数側に流れ、結果的に取りこぼすことにあります。水準は高く、人数差は小さく、と整理してください。

Q閑散日に人数差を小さくすると、単価が下がってしまいませんか。

A室料単価だけを見れば、その懸念はあります。しかし狙いは、人数を増やして食事や館内消費といった付帯売上を積み上げ、1室・1泊あたりの総売上を高めることにあります。室料を欲張らないことが、結果として全体の売上を押し上げる、という発想の転換が鍵です。

Qこの見直しに、システム投資や追加の人手は必要ですか。

A原則として不要です。人数帯の差額は、すでにお使いの予約管理の仕組みの中で設定し直せる項目です。広告費を増やすわけでもありません。お金をかけずに、設計の見直しだけで取り組める打ち手です。

用語の整理

この記事で出てきた主な用語

人数帯

同じ客室を何名で利用するかの区分。人数によって1室あたりの合計料金が変わる。

機会損失

本来得られたはずの売上を、設計や運用の不備によって取りこぼすこと。

付帯売上(料飲・館内消費)

宿泊料金以外に、食事や館内施設の利用などから得られる売上。

さいごに

いかがだったでしょうか。人数帯の差額は、現場では細かな設定の話に見えますが、繁忙日の取りこぼしという形で、年に数千万円もの売上を左右します。広告を打つ前に、まず自館の料金表を開き、人数が増えるほど割高になっていないか、繁忙日の差額が大きすぎないかを点検することをお勧めします。

弊社アルファコンサルティングでは、特定の業者と利害関係を持たない独立した立場から、料金設計の見直しや収益改善のご支援を行っています。依頼者の利益を最優先に、客観的な数値分析にもとづいてお手伝いいたします。

料金設計の見直しについて、初回相談は無料です。自館の人数帯設計に取りこぼしがないか、まずは気軽にご相談いただければと思います。

読了後の3ステップ ― 今日からできること

1. 繁忙日の人数帯設定を確認

人気の客室が少人数で頭打ちになっていないか、まず確かめましょう。

2. 繁忙日は差を圧縮、閑散日は呼び込む

日によって人数帯の設計を変える方針を決めましょう。

3. 「1名から受ける」設計に整える

どの部屋も入口を閉じない形にし、稼げる日の取りこぼしを防ぎましょう。

どこから手をつければよいか分からないときは、現状の点検からご一緒できます。

青木康弘

弊社アルファコンサルティングでは、特定の業者と利害関係を持たない独立した立場から、料金設計の見直しや収益改善のご支援を行っています。客観的な数値分析にもとづき、依頼者の利益を最優先にお手伝いします。

株式会社アルファコンサルティング 代表 青木康弘

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