こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。
生成AIの活用について、口コミ返信、販促、料飲と、仕事別の使い方をお話ししてきました。すると今度は、こういうご相談をいただくようになります。「道具の使い方は分かった。けれども、うちのスタッフが使ってくれない」。
もっともな悩みです。AIの導入でいちばん難しいのは、道具選びではなく、人です。今回は、AIに抵抗感のない人材を社内にどう増やすか、そして、部署によってまったく違う「導入のしやすさ」にどう向き合うかをお話しします。74の業務を部署別に調べた、宴会場併設ホテルでの知見が土台です。
- 部署によって、入り口の広さがまるで違う。部署別の導入マップを示します。→ ポイント①へ
- 導入しやすい部署から ── ただし「成功の見せ方」まで設計する。→ ポイント②へ
- 現場部門には、「スマホと声」から入る。清掃・調理・設備の入り口。→ ポイント③へ
- 「AIを使える人」を増やす、五つの順番。研修一回で終わらせない。→ ポイント④へ
気になるポイントだけ、つまみ読みでも役立つように作っています。
ポイント① 部署によって、入り口の広さがまるで違う
まず、現実を直視しましょう。74業務の調査で分かったのは、生成AIの「効きやすさ」は部署で大きく偏る、ということでした。フロント・予約、営業・販促、総務といった部署には、効果が大きくすぐ始められる業務が並びました。仕事の中心が、メールや案内文、企画書、議事録といった「言葉を扱う机の仕事」だからです。
一方、清掃や設備管理、調理といった現場部門は、そうはいきません。仕事の中心は手と体を動かす作業で、勤務中にパソコンへ向かう時間はほとんどない。「AIが効かない」のではなく、「AIに頼む場面が、仕事の動線上にない」のです。部署別に整理すると、次のようになります。
机の仕事が中心の部署 ── そのまま始められる
体の仕事が中心の部署 ──「スマホと声」から入る
青の部署は「言葉の仕事」が動線上にあり、そのまま始められます。臙脂の部署は、パソコンではなく「話す・撮る」を入り口にすると動き出します。
この違いを無視して全部署一斉に導入しようとすると、机の部署だけが使い、現場には「また本社が何か始めた」という冷めた空気だけが残ります。
ポイント② 導入しやすい部署から ── ただし「成功の見せ方」まで設計する
ですから、順番はフロント・予約・販促・総務といった机の部署からで構いません。口コミ返信の下書き、案内メールの作成、プランの企画案、会議の議事録。どれも今日から始められ、効果が翌日には実感できます。
ただし、ここで大事なのは、先行部署の成功を「ほかの部署にも見える形」にすることです。「フロントは口コミ返信の時間が週に数時間減った」「予約課は英語の問い合わせ対応が速くなった」。具体的な変化を、朝礼や館内の共有で言葉にします。現場部門に後から自分たちの番が来たときに、「あれは机の人たちの道具だ」と思われていない状態をつくっておくのです。
フロント・予約から。口コミ返信や案内メールで、効果が翌日に見える
「口コミ返信の時間が週に数時間減った」── 具体的な変化を朝礼や館内共有で伝える
清掃・調理・設備へ、「スマホと声」の形で。仕事が減る設計で入れる
第2段階を飛ばすと、現場には「また本社が何か始めた」という冷めた空気だけが残ります。
ポイント③ 現場部門には、「スマホと声」から入る
清掃・設備・調理といった現場部門への導入は、発想を変えます。パソコンの前に座らせるのではなく、すでに手にしているスマホと、声を入り口にします。たとえば客室清掃なら、不具合を見つけたその場で、スマホに向かって話すだけです。
終業後にまとめて報告書を書く手間がなくなり、報告の精度と速さはむしろ上がります。調理部門なら、ベテランが作業しながら口頭で説明した録音を、AIが手順書に仕立てます(詳しくは料飲の記事で)。設備管理なら、現場の写真と音声メモから、業者への依頼文と点検記録ができます。
共通するのは、現場の人に新しい作業を足すのではなく、いまある作業(話す・撮る)から書類が生まれる形にすることです。現場部門の抵抗感の正体は、AIへの抵抗ではなく「仕事を増やされること」への抵抗です。仕事が減る形で入れば、抵抗は目に見えて小さくなります。

自館のAI導入、どの部署のどの業務から始めるか。設計からご一緒します。
AI導入の進め方を相談するポイント④ 「AIを使える人」を増やす、五つの順番
部署別の入り口が見えたところで、人の育て方です。研修を一度やって終わり、では定着しません。次の五つを、この順番で進めます。
個人情報・機密を入れない/出力は人が確認してから使う。一枚にまとめて配る。ルールは制限ではなく、安心して使うための土台
一人ひとりが自分の仕事の文章を一つ、AIに下書きさせてみる。「楽になる」と体感した人は翌日も使う
若手である必要はない。現場で信頼されている人の「私も使っている」が、何よりの後押しになる
うまくいった頼み方(プロンプト)を部署を越えて共有し、社内のプロンプト集として貯める。一人の工夫が全館の資産になる
失敗を責めず、試した人を朝礼で取り上げる。AIの定着は、結局のところ組織の文化の問題
1のルールを飛ばして2以降を始めると、慎重な人ほど「使ってよいのか分からないから使わない」となります。順番を守ることが定着の近道です。
導入の線引き ── 何のためのAIか
最後に、いちばん大事なことです。AI導入の目的を、最初に言葉にして全員に伝えてください。人を減らすためではなく、人手不足の現場を守り、お客様に向き合う時間を取り戻すため。この一言があるかないかで、スタッフの受け止めはまったく変わります。報告書を書く時間が減った分は、客室をもう一部屋見る時間に、お客様ともう一言交わす時間になる。AIは、おもてなしの時間をつくる道具です。
青木康弘導入が定着した施設に共通するのは、経営者自身が使っていることです。トップが朝礼で自分の活用例を話す施設は、広がる速さがまったく違います。机の部署はそのまま。現場は「声」から。
そして、何のためのAIかを語る。
よくある質問
Q. 年配のスタッフが多く、ついていけるか心配です。
A. 入り口を選べば問題ありません。声で話すだけ、QRコードを読むだけ、といった形なら年齢は関係ありません。実際、現場経験の長い方ほど、報告や手順書の中身は豊かです。道具の操作はAIと若手が補えます。
Q. 研修は外部に頼むべきですか。
A. 最初の設計(ルールづくりと部署別の入り口選び)は外部の知見が役立ちますが、日々の定着は社内の推進役と持ち寄り会が主役です。外部研修だけで定着した例は、ほとんどありません。
Q. どの部署から始めるべきですか。
A. フロントか予約です。言葉の仕事が多く、効果がすぐ見え、成功を館内に示しやすい。その成功を見せてから、現場部門へ「スマホと声」の形で広げます。
Q. 現場が「仕事が増える」と警戒しています。
A. 当然の反応です。新しい操作を覚えさせる導入は失敗します。いまある「話す・撮る」から書類が生まれる形、つまり仕事が減る形で設計し直してください。最初の一つで仕事が減れば、警戒は協力に変わります。
さいごに
いかがだったでしょうか。AI導入の成否は、道具ではなく、入り口の設計と人の育て方で決まります。机の部署から始めて成功を見せ、現場部門にはスマホと声から入る。ルールを先につくり、15分の成功体験を配り、推進役と持ち寄り会で文化にする。そして「何のためのAIか」を、経営者自身の言葉で語る。遠回りに見えて、これが確実な道です。
弊社アルファコンサルティングでは、特定のシステム会社や研修会社と利害関係を持たない中立の立場から、AI導入の設計と人材育成の進め方を、ホテル・旅館それぞれの施設に合わせてお手伝いしています。
初回相談無料です。自館のAI導入の進め方に迷われている方は、どうぞお気軽にご相談ください。
