「悪い口コミを書くぞ」と言われたら|ホテル・旅館の口コミ脅しへの対処

こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。

「言うとおりにしないなら、悪い口コミを書くぞ」。この一言は、ホテル・旅館にとって、まさに急所を突く脅しです。一晩の不満を、世界中の人が目にする評価として残す。そう示唆されたとき、多くの宿が、本来であれば応じる必要のない要求まで、つい受け入れてしまいます。

予約サイトやインターネット上の評価が、予約数や売上に直結する宿泊業だからこそ、この脅しはよく効きます。けれども、口コミを盾にした要求に屈することは、その場をしのげても、宿にとって何の解決にもなりません。むしろ、同じ手口を呼び込み、従業員を危険にさらすことにつながります。

この記事では、口コミを盾にした脅しがなぜカスタマーハラスメント(顧客等による著しい迷惑行為。以下、カスハラ)にあたるのか、脅された現場でどう対応すればよいのか、そして実際に悪質な口コミが書かれてしまったときに何ができるのかを、ホテル・旅館の視点から整理しましょう。

口コミ対応に頭を悩ませる場面
口コミ対応に頭を悩ませる場面

「ネットに書くぞ」は、立派なカスハラである

まず押さえておきたいのは、口コミを盾にした要求が、それ自体カスハラにあたるという点です。

「悪い評価をつける」「ネットに書く」といった言葉を使って、宿に過大な要求をのませようとする行為は、相手に不利益をちらつかせて意に沿わせようとする、脅迫的な言動です。2023年に改正された旅館業法でも、こうした脅しは、宿泊を断ることができる特定要求行為の一つに位置づけられています。つまり、口コミを盾にした脅しは、宿が我慢して受け止めるべきものではなく、毅然と向き合ってよい言動なのです。

ここを取り違えると、宿は「評価を下げられたくない」という一心で、際限のない要求に応じ続けることになります。脅しに応じることは、お客様への誠実さでも、丁寧な接客でもありません。それは、理不尽な手段に屈しているだけなのだ、とまず認識することが出発点になります。

なぜ宿は、口コミの脅しに弱いのか

口コミの脅しがこれほど効いてしまう背景には、宿泊業に固有の事情があります。

いまや多くのお客様は、予約の前に口コミサイトやインターネット上の評価を確認します。評価が下がれば予約が減り、売上に響く。この構造を、お客様の側もよく理解しています。だからこそ、評価を人質に取るような脅しが成り立ってしまうのです。

さらに、現場の従業員にとって、口コミの評価は自分の仕事ぶりへの評価とも受け取られがちです。「自分の対応のせいで宿の評価が下がってしまう」という不安が、脅しに屈する心理を後押しします。一人で対応していれば、なおさらその重圧は大きくなります。脅しに弱いのは、担当者の気の弱さではなく、宿泊業という商売の仕組みそのものに理由があるのです。

脅しに屈すると、何が起きるか

では、口コミの脅しに一度応じてしまうと、どうなるでしょうか。

まず、その要求が前例になります。一度のんだ要求は、次も、その次ものまなければ収まりません。「前回はやってくれた」という一言が、断る余地を奪っていきます。脅しに応じることは、問題を解決するどころか、繰り返しを呼び込む行為なのです。

そして何より、対応した従業員が深く傷つきます。理不尽だとわかっていながら要求をのまされ、宿からも守ってもらえない。そうした経験が重なれば、優秀な人ほど静かに辞めていきます。口コミの評価を守るために目先の要求に応じた結果、もっと大切な人材を失う。これでは本末転倒です。

脅しに応じるかどうかは、その場の損得だけで決める問題ではありません。一度の妥協が、繰り返しを呼び、従業員の信頼を損ない、やがて宿の土台を揺るがしていく。目先の評価を守ることと、宿を長く守ること。この二つを、混同しないことが大切です。

脅されたとき、現場でどう対応するか

口コミを盾にした脅しを受けたとき、現場で押さえるべき対応は、いくつかの原則に整理できます。

要求と脅しを切り分ける

まず、お客様が何を求めているのか、その要求の中身を冷静に見極めます。宿に落ち度があるなら、口コミの話とは切り離して、誠実に対応すべきです。一方、落ち度がないのに過大な要求があり、それを口コミで脅して通そうとしているなら、それは応じる必要のない脅しです。要求の正当性と、脅すという手段とを、分けて考えることが第一歩になります。

毅然と、しかし冷静に伝える

応じられない要求には、「ご要望には沿いかねます」と、落ち着いて、しかしはっきりとお伝えします。評価を下げると言われても、それによって対応を変えることはしない、という姿勢を崩さないことが肝心です。感情的に言い返す必要はありません。冷静で一貫した態度こそが、脅しを弱めます。

記録し、一人で抱えない

脅しのやりとりは、必ず記録に残します。いつ、どのような言葉で脅されたのか。電話であれば録音し、対面であれば直後に書きとめておきます。この記録は、後に悪質な口コミが書かれたときの備えになります。そして、一人で対応せず、必ず上司や責任者に共有します。脅しに屈しやすいのは、孤立して対応しているときだからです。

実際に悪い口コミが書かれてしまったら

脅しをはねつけた結果、報復として悪い口コミが書かれることがあります。あるいは、脅しとは関係なく、低い評価がつくこともあります。書かれてしまったとき、宿がとれる対応を整理しましょう。

まず、内容を見極める

書かれた口コミが、事実にもとづく正当な低評価なのか、事実と異なる誹謗中傷なのかを、まず冷静に見極めます。たとえ厳しい内容でも、事実にもとづく不満であれば、それは正当な声であり、削除を求めるべきものではありません。一方、事実無根の内容や、誹謗中傷、人格を否定するような書き込みは、別の対応を検討する余地があります。悪質な書き込みへの具体的な対処(生成AIでの返信や削除申請)は、別の記事で詳しく整理しています。

図表1:その口コミ、削除すべき? 正当な低評価と悪質な書き込みの見分け方

書き込みの例性質とるべき対応
客室の清掃が行き届いていなかった(事実にもとづく不満)正当な低評価削除対象ではない。誠実に返信し、改善につなげる
夕食が口に合わなかった(主観的な感想)正当な評価の範囲削除対象ではない。真摯に受け止める
フロントの担当者に「出ていけ」と暴言を吐かれた(事実無根)事実と異なる中傷記録で事実を確認し、削除申請・専門家へ相談
「詐欺のような宿、二度と行くな」(根拠のない断定)誹謗中傷の疑い削除申請。名誉毀損・業務妨害の該当を検討
要求を断った直後の、事実無根の最低評価報復的な虚偽投稿の疑い脅しの記録を示し、専門家に相談

※青=削除対象ではなく誠実に対応すべき正当な声、赤=削除申請や専門家相談を検討すべき悪質な書き込み。発信者の特定や法的対応は弁護士など専門家と連携して進める。

正当な低評価には、誠実に返信する

事実にもとづく低評価には、削除を求めるのではなく、誠実な返信で向き合うのが基本です。返信は、他の閲覧者も読んでいることを意識して書きます。次に、返信文の例を示します。

図表2:悪い口コミへの返信文 文例 ※正当な低評価への返信を想定した例です

○ 良い返信の例
この度はご期待に沿えず、誠に申し訳ございませんでした。ご指摘いただいた点は真摯に受け止め、清掃手順の見直しに着手しております。貴重なお声をありがとうございました。
ポイント:非を認めるべきところは認め、改善の姿勢と感謝で結ぶ。返信を読む将来のお客様に、誠実な宿だと伝わる。
× 避けたい返信の例
当館はそのような対応はしておりません。お客様の記憶違いではないでしょうか。他のお客様からは高い評価をいただいております。
ポイント:お客様を否定し、言い訳に終始している。書いた本人だけでなく、読む人の信頼まで損なう。

良い返信は、事実を認めるべきところは認め、改善の姿勢を示しています。避けたい返信は、お客様を否定し、言い訳に終始しています。後者は、書いたお客様だけでなく、それを読む将来のお客様の信頼まで損ないます。誠実な返信は、悪い口コミを、かえって宿の姿勢を示す機会に変えてくれます。

悪質な書き込みは、まずプラットフォームに削除を申請する

事実と異なる内容や、誹謗中傷にあたる書き込みは、投稿先のプラットフォームに削除を申請できます。ただし、申請すれば必ず削除されるわけではありません。各社が定めるポリシーや規約に違反していると、プラットフォーム側が判断したものだけが削除されます。単なる低評価や主観的な感想は、宿にとって不本意でも、削除の対象にはなりません。

Googleマップの口コミは、なりすまし、スパムや虚偽の投稿、施設と無関係な内容、誹謗中傷や差別的な表現など、Googleの定めるポリシーに違反する場合に削除の対象となります。申請は、地図上の口コミの報告メニューから、またはGoogleビジネスプロフィールの管理画面から、違反の種類を選んで行います。一度却下されても、宿泊や来店の記録がないことを示す資料などを添えて、再審査を求めることができます。

楽天トラベルやじゃらんなどの予約サイトの口コミは、実際に宿泊した利用者だけが投稿できる仕組みのため、まったくの第三者による投稿は比較的少なくなっています。それでも、事実と異なる内容や、誹謗中傷、個人を特定できる情報などは、各社の利用規約や投稿ガイドラインに違反するものとして、削除を依頼できます。楽天トラベルは施設向けの問い合わせ窓口やサポートデスクから、じゃらんは管理画面のサポートデスクから依頼します。

いずれの場合も、削除を依頼するときは、感情的に訴えるのではなく、規約のどの条項にどのように違反しているのか、どの部分が事実と異なるのかを、具体的に示すことが肝心です。脅された時点からの記録が、ここでも事実を裏づける材料になります。なお、理由を変えて何度も申請を繰り返すと、かえってスパムとみなされることがあるため、一度の申請を丁寧に行うことが大切です。

図表3:プラットフォーム別 削除を申請できる口コミと、申請の窓口

プラットフォーム削除されやすい口コミ(条件)申請の窓口・方法
Googleマップ/ビジネスプロフィールポリシー違反(なりすまし・スパム・虚偽投稿・施設と無関係な内容・誹謗中傷・差別的表現)。単なる低評価や感想は対象外地図上の口コミの報告、またはビジネスプロフィールの管理画面から、違反の種類を選んで申請。却下時は資料を添えて再審査を求める
楽天トラベル利用規約の禁止事項違反(誹謗中傷・名誉毀損・個人を特定できる情報・事実無根 など)施設向けの問い合わせ窓口・サポートデスクへ、規約のどこに違反するかを明記して依頼
じゃらんnet「クチコミ投稿の掟」違反(上記に加え、実際に宿泊していない投稿)管理画面のサポートデスクへ、掟のどの禁止事項に該当するか・被害内容を明記して依頼

※いずれもプラットフォームが審査して削除を判断する。単なる低評価や主観的な感想は削除されない。理由を変えて何度も申請するとスパムとみなされることがあるため、一度の申請を丁寧に行う。

削除に応じてもらえないときは、専門家の力を借りる

プラットフォームに削除を申請しても応じてもらえず、その書き込みの内容が名誉毀損や業務妨害にあたるのであれば、投稿者を特定する発信者情報開示請求や、損害賠償の請求といった法的な対応を検討することになります。これらは情報流通プラットフォーム対処法などにもとづく手続きで、専門的な判断を要するため、弁護士など専門家に相談して進めるのが現実的です。ここでも、脅しを受けた時点からの記録が、権利の侵害を示す証拠として生きてきます。

正当な低評価は、宿の財産として扱う

ここまで脅しと悪質な書き込みへの対応を述べてきましたが、最後に大切なことを確認しておきます。すべての低い評価を「敵」と捉えてはいけない、ということです。

事実にもとづく低評価は、宿が自分では気づきにくい弱点を教えてくれる、貴重な手がかりです。脅しや誹謗中傷には毅然と向き合う一方で、正当な不満の声は、改善のきっかけとして丁寧に拾い上げる。この二つを切り分けられる宿こそ、口コミと健全に付き合い、評価を着実に高めていけます。脅しに振り回されず、しかし本当の声には耳を傾ける。その姿勢が、結果として宿の評価を守ることにつながります。

さいごに

いかがだったでしょうか。口コミを盾にした脅しは、ホテル・旅館の急所を突く、宿泊業に固有のカスハラです。けれども、脅しに屈することは解決ではなく、繰り返しと従業員の離反を招きます。要求と脅しを切り分け、毅然と、しかし冷静に対応し、記録を残す。そして書かれてしまったときは、正当な低評価には誠実に返信し、悪質な書き込みはプラットフォームへの削除申請から、必要に応じて専門家への相談へと進める。この備えがあれば、口コミの脅しは、もう宿の急所ではなくなります。

弊社アルファコンサルティングでは、ホテル・旅館の経営に特化し、特定の業者と利害関係を持たない独立した第三者の立場から、宿の課題に専門的な視点を添えてきました。口コミの脅しへの対応方針づくりの支援、現場で機能する記録の仕組みの整備、悪い口コミとの向き合い方の見直しなど、それぞれの宿の実情に応じたお手伝いが可能です。なお、悪質な書き込みへの法的な対応については、弁護士など専門家と連携して進めることをお勧めします。

口コミの脅しに、振り回されないために。

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