こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。

「稼働率も単価も上がっているのに、なぜか手元にお金が残らない」。経営者の方から、よくこうしたお声を伺います。売上は伸びているはずなのに、利益の実感がない。決算書を見ても、どこに原因があるのか分からない。

前回は口コミの分析を取り上げました。今回は決算書です。数字が苦手な方にこそ読んでいただきたい内容です。なぜなら、生成AIを使えば、決算書の数字を自分で読み解けなくても、経営の本当の課題と打つべき手をAIが示してくれるからです。

大切なのは、表面の数字に惑わされないことです。稼働率や売上といった分かりやすい数字が良くなっていても、その裏で利益を蝕む構造が進行していることがあります。今回は、その裏側をAIに暴かせる方法をご紹介します。

この記事を読むとわかること
  • 1稼働も単価も上がっているのに利益が残らない、その構造
  • 2顧問税理士や銀行が立場上ふみこめない領域
  • 3決算書が苦手でも数字の裏を暴く3段階のAIプロンプト(全文)
  • 4黒字と赤字を分けるのは料理原価ではないという事実
  • 5AIの指摘を自館の打ち手へ翻訳する考え方

表面の数字が、経営の真実を隠している

この章の要点
  • 稼働率・ADR・RevPARが上がっても、利益が改善するとは限らない
  • 売上が人件費とOTA手数料に食われ、忙しくなるほど利益が削られる構造がある
  • 表面の数字だけ見ていると、この構造に気づけない

まず、ある旅館の2年間の数字を見てみましょう。客室48室の温泉旅館「山の音 花結び」を例にします(架空の宿です)。

2024年1月から2025年12月までの推移を追うと、表面の数字はいずれも好調に見えます。客室稼働率は52パーセントから73パーセントへ上昇。平均客室単価(ADR)は31,200円から39,500円へ。客室1室あたりの売上を示すRevPARに至っては、16,224円から28,835円へと、ほぼ倍近くまで伸びています。

この数字だけを見れば、経営は順調そのものです。ところが、同じ期間の別の数字を並べると、まったく違う景色が見えてきます。

図1:花結びの2年間 ― 表面は好調、裏側は悪化(2024年1月→2025年12月)
指標
2024年1月
2025年12月
客室稼働率
52%
73%
好調に見える
ADR(平均客室単価)
31,200円
39,500円
好調に見える
RevPAR(1室あたり売上)
16,224円
28,835円
好調に見える
人時売上(1人1時間の売上)
3,850円
3,090円
実は悪化
人件費率
29.1%
35.4%
実は悪化
OTA手数料率
14.2%
19.2%
実は悪化
上の3つ(緑)は伸びているのに、下の3つ(赤)は悪化している。売上が手数料と人件費に食われ、忙しくなるほど利益が削られている

従業員1人が1時間あたりに生み出す売上を示す「人時売上」は、3,850円から3,090円へと、2割も下落しています。総売上に占める人件費の割合(人件費率)は29.1パーセントから35.4パーセントへ。OTA経由の予約にかかる手数料率も14.2パーセントから19.2パーセントへと上がり続けています。

つまりこの宿は、たくさんのお客様を迎え、高い単価で売っているにもかかわらず、その売上が手数料と人件費に食われ、手元に利益が残りにくい体質になっているのです。稼働を上げるために人を増やし、集客をOTAに頼った結果、忙しくなるほど利益が削られる構造に陥っています。

図2:売上が手元に残るまで(イメージ)
売上
お客様からいただく総額
− OTA手数料
販路をOTAに頼るほど膨らむ
− 人件費
総労働時間が伸びるほど膨らむ
= 手元に残る利益
削られて薄くなる
売上(濃紺)をいくら伸ばしても、手数料と人件費(臙脂)の差し引きが大きければ、残る利益(灰)は薄いままになる。

これが「表面の数字が真実を隠している」という状態です。稼働率や売上だけを見ていては、この構造に気づけません。

この分析は、顧問税理士には頼みにくい

では、こうした構造を誰に相談すればよいのでしょうか。多くの経営者の方は、まず顧問税理士を思い浮かべます。決算書を作ってくれる相手だからです。ただ、ここにも前回お伝えしたのと同じ、立場による限界があります。

図3:決算書を「誰が・どの視点で」見ているか
顧問税理士
本来の役割
記帳・決算・申告・節税。過去の数字を正しくまとめる
見ているもの
税額の適正計算。未来の経営設計は業務範囲外
銀行
本来の役割
融資の審査・回収。貸し手としての判断
見ているもの
貸したお金を返せるか。返済の確実性が中心
独立コンサル(弊社)
本来の役割
経営課題の特定と打ち手の設計支援
見ているもの
数字の裏で利益を蝕む真因と改善の方向
税理士も銀行も誠実に役割を果たしている。ただ、その役割が「見るべきもの」を決めており、数字の裏の経営課題までは構造的に踏み込みにくい。

税理士は、経営の打ち手まで踏み込む立場にない

顧問税理士の業務は、記帳の代行、決算書の作成、税務申告、そして節税の助言です。これらは専門性の高い大切な仕事ですが、いずれも「過去の数字を正しくまとめ、税金を適正に計算する」ことが中心です。「人件費率をどう下げるか」「OTA依存をどう減らすか」といった、未来の経営をどう設計するかという問いは、税理士の業務の範囲外です。

これは税理士の能力の問題ではありません。役割が違うのです。税理士に決算書を見せて「どこが問題ですか」と尋ねても、「人件費が増えていますね」という事実の指摘までは得られても、「だから総労働時間の設計をこう変えましょう」という運営の打ち手までは、立場上、踏み込みにくいのです。

銀行は、貸し手として返済の確実性を見ている

では銀行はどうか。融資の相談でお付き合いがありますから、決算書を最もよく見ている相手の一つです。しかし銀行は、お金の貸し手です。銀行が決算書を見るとき、その視点は「この宿は貸したお金を返せるか」に置かれます。返済の確実性が判断の中心であり、宿の利益をどう最大化するかは、本来の関心事ではありません。

ですから銀行に決算書を見せても、返済能力の評価は得られますが、「この人件費構造をこう変えれば収益が改善する」という、経営改善の設計図までは期待しにくいのです。これも、立場が見るべきものを決めているという、前回と同じ構造です。

だから、中立の第三者の目が要る

税理士も銀行も、それぞれの役割の中で誠実に仕事をしています。問題は、決算書の数字の裏で進む経営課題そのものを、自館の利益だけを基準に読み解き、打ち手まで示してくれる存在が、出入りの相手の中にはいないことです。

私どもアルファコンサルティングは、特定の金融機関やシステム会社と利害関係を持たない独立した立場から、決算書の裏で何が起きているかを率直に申し上げます。次にご紹介するAIの分析も、まさにこの役割を補ってくれる道具です。AIは税務署に忖度もしませんし、融資の回収も気にしません。ただ数字を見て、利益を蝕んでいる真因を淡々と指摘します

AIに読み込ませるデータを準備する

グラフや数値が並ぶ収支資料の上に置かれた電卓とペン、経営分析をイメージした机上の様子
決算書や月次データは、スマホで撮影するかPDFにすればそのまま分析にかけられる。

分析に必要なデータは、特別なものではありません。すでに手元にあるはずのものばかりです。

図4:用意する3つのデータ(いずれも手元にあるもの)
1決算書・試算表
できれば過去3期分。変化の方向が見えて分析が深まる
2月次の推移データ
月ごとの売上・稼働率・ADR・人件費。PMSや会計ソフトから出力
3OTAの予約実績
OTAごとの予約額と手数料が分かる資料
スマホで撮影するかPDFにして読み込ませれば準備完了。数字を自分で読み解く必要はない。読み解くのはAIの仕事である。

一つ目は、決算書または試算表です。できれば過去3期分あると、変化の方向が見えて分析が深まります。二つ目は、月次の推移データです。月ごとの売上、稼働率、ADR、人件費などが分かるものです。多くの宿ではPMS(予約管理システム)や会計ソフトから出力できます。三つ目は、OTAごとの予約実績と手数料が分かる資料です。

これらをスマートフォンで撮影するか、PDFにしてAIに読み込ませれば準備は完了です。数字を自分で読み解く必要はありません。読み解くのはAIの仕事です。

数字の裏を暴く、3段階の問い

この章の要点
  • いきなり「改善策を教えて」と聞かず、段階を踏む
  • ①乖離を整理 → ②真因を金額で特定 → ③一手に絞る、の順で精度が上がる

ここからが本題です。AIに投げる質問を3段階に分けます。いきなり「改善策を教えて」と聞くのではなく、段階を踏むことで、AIの答えが格段に深く、具体的になります。

図5:3段階で問うと、答えが深くなる
1
乖離を整理
表面の好調指標と裏の悪化指標を対比させる
2
真因を特定
利益を圧迫している要因を金額ベースで突き止める
3
一手に絞る
最優先で着手すべき打ち手を1つに絞らせる
①→②→③の順に問うことで、AIの答えが事実の指摘から具体的な打ち手へと深まる。

第1の問い ― 表面の数字と裏側の乖離を整理させる

PROMPT 01 — 乖離の整理
COPY
1添付した月次データと決算書を分析してください。
2稼働率・ADR・売上などの表面上は好調に見える指標と、
3その裏で悪化している指標を対比し、両者の乖離を整理してください。
4分かりやすく図解で説明してください。

この問いで、AIは「稼働率は上がっているのに人時売上は下がっている」といった矛盾を拾い上げ、表と裏の乖離を一覧にしてくれます。花結びの例なら、稼働率・ADR・RevPARの上昇と、人時売上の下落・人件費率とOTA手数料率の上昇が、はっきり対比されて出てきます。経営者が薄々感じていた「忙しいのに儲からない」という違和感が、数字の形で可視化されます。

第2の問い ― 利益を圧迫している真因を特定させる

PROMPT 02 — 真因の特定
COPY
1上記の乖離を生んでいる根本原因を特定してください。
2人件費・OTA手数料・原価のうち、どれが最も利益を
3圧迫しているかを金額ベースで示し、その背景にある
4構造的な問題を説明してください。

第1の問いで見えた矛盾の「なぜ」を掘り下げる問いです。AIは、人件費率の上昇とOTA手数料率の上昇のどちらがより効いているか、金額に換算して示してくれます。そして「稼働を上げるために人員を増やしたが、総労働時間が売上の伸びを上回って増えている」「OTA依存度が上がり、売上が伸びるほど手数料の絶対額が膨らんでいる」といった構造を言葉にしてくれます。

第3の問い ― 優先して打つべき一手を示させる

PROMPT 03 — 一手に絞る
COPY
1特定した真因に対して、今すぐ着手できる打ち手と、
2中長期で取り組む打ち手に分けて提示してください。
3そのうえで、最も優先して着手すべき一手を1つに絞り、
4その理由とともに示してください。

最後に、打ち手を整理させます。あれもこれもと手を広げず、最優先の一手に絞らせるのが要点です。花結びの例では、料理の原価を削るより先に、総労働時間の設計を見直す方が効果が大きい、といった方向が示されるはずです。

図6:黒字と赤字を分けるのは「料理原価」ではない
日本旅館協会「令和7年度 営業状況等統計調査」より
料理材料費の比率
黒字旅館
15.8%
赤字旅館
16.8%
差はわずか 1.0ポイント
人件費率
黒字旅館
28.7%
赤字旅館
34.5%
差は 5.8ポイント ← ここが収益を分ける
料理の質を落として原価を削っても、収益はほとんど改善しない。収益を分けているのは人件費率の設計である。

ここで一つ、業界の事実をお伝えしておきます。日本旅館協会の調査によると、黒字旅館と赤字旅館を分けているのは、実は料理の原価ではありません。料理材料費の比率は、黒字旅館15.8パーセント、赤字旅館16.8パーセントで、その差はわずか1.0ポイントです。ところが人件費率は、黒字旅館28.7パーセント、赤字旅館34.5パーセントで、差は5.8ポイントにもなります。つまり、収益を分けているのは料理原価ではなく人件費率の設計なのです。料理の質を落として原価を削っても、収益はほとんど改善しません。

AIの指摘を、打ち手に翻訳する

前回もお伝えしたことですが、AIは課題と原因、打ち手の方向を示してくれます。しかし、それを自館の現実に落とし込んで実行するのは、経営者ご自身の仕事です。

たとえば「人件費率を下げる」という打ち手が示されたとして、これは決して人を減らせという意味ではありません。人件費率を決めているのは総労働時間です。同じ仕事を少ない時間で回せるよう、人員配置を組み替える、シフトを設計し直す、不要になった業務を引き算する。こうした運営の設計を変えることで、人件費率は動きます。何を引き算し、どう配置するかは、自館の現場を知る経営者にしか判断できません。

OTA依存についても同じです。「依存度を下げる」という方向が示されても、どのOTAを残し、公式サイトからの直販をどう育て、どの客層を直販に誘導するかは、自館の客層やブランドに照らして決める話です。

AIが整えてくれた分析を、自館の客層・人員・動線に引き直して設計図に落とし込む。この翻訳の工程こそが、経営者にしかできない仕事であり、結果を分ける分かれ目になります。決算書を「眺めるだけ」だった状態から、数字を打ち手に変える状態へ。AIは、その橋渡しをしてくれる道具です。

おわりに

いかがだったでしょうか。稼働率や売上といった表面の数字が良くても、その裏で人件費率やOTA手数料率が利益を蝕んでいることがあります。決算書の数字が苦手でも、AIに3段階の問いを投げれば、その裏側を暴き、打つべき手を見つけることができます。

弊社アルファコンサルティングでは、特定の金融機関やシステム会社、運営会社と利害関係を持たない独立した立場から、依頼者の利益を最優先に、決算書や月次データの読み解きをご支援しています。顧問税理士にも銀行にも、それぞれの立場ゆえに相談しにくい「数字の裏の経営課題」を、第三者の目で率直にお伝えできるのが私どもの役割です。観光経済新聞でのコラム連載は17年になり、現場で積み上げてきた知見をもとに、自館に合った改善の設計図づくりをお手伝いします。

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