この記事でわかること
  • いまの都市部ホテルの好況を支えている「二つの追い風」
  • 景気が後退すると、なぜ上位のホテルに需要が集まるのか
  • 好況が隠している四つの落とし穴
  • 追い風が弱まるきっかけ
  • 好況のいまこそ進めておきたい、四つの備え

こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。

いま、都市部のホテルはかつてない好況です。ビジネスホテルもシティホテルも稼働率は7割を超え、客室単価(ADR)はこの数年で倍以上に上がりました。週末はもちろん平日でも、立地が良ければ黙っていても埋まるという話を、あちこちで聞きます。

好調なときに水を差すようですが、今回はあえて落とし穴の話をします。もし、この高い稼働と単価を自館の実力だと感じているなら、いちど立ち止まって考えてみてください。いまの好調は、本当に自館が優れているからでしょうか。

先に結論を述べます。景気が後退したとき生き残るのは、好不況に関わらずお客様から最初に選ばれるホテルです。そういうホテルになる準備は、好況のいまのうちにしかできません。いまはその助走期間だと考えています。

いまの好況は「実力」ではなく「二つの追い風」が作っている

都市部ホテルの好調は、自館の努力よりも、外から吹いてくる二つの追い風によるところが大きい、というのが私の見方です。

追い風 中身(いずれも外部要因)
① 強い需要インバウンドが過去最高水準。円安による割安感と万博効果が重なり、需要が供給を上回っている
② 供給の停滞建築費が2年でおよそ4割上昇し、新規開発が止まっている。既存の施設に需要が集まり、単価が上がりやすい

出典:観光庁の宿泊統計、東京商工リサーチ等の業界調査をもとに作成。

一つめは、需要がとても強いことです。訪日外国人は過去最高を更新し続け、円安で日本の旅行が割安になったことが、世界中の旅行者を引き寄せています。供給が需要に追いつかない状態が、単価の上昇を後押ししています。

二つめは、その供給が止まっていることです。建築費がこの2年でおよそ4割上がり、人手の確保も難しくなって、新しくホテルを建てる際の採算ラインが大きく上がりました。その結果、計画されていた大型開発が次々と見送られ、2027年から2028年ごろには新規の供給がほとんど出てこない時期が来るとも言われています。新しいホテルが増えないぶん、いまある施設に需要が集まり、埋まりやすくなっています。

ここで重要なのは、この二つがどちらも自館ではコントロールできない外部の要因だという点です。為替の動きも世界の旅行需要も、一つのホテルの経営努力で変えられるものではありません。つまりいまの好況は、自館の力だけで得たものとは言い切れません。この追い風が弱まったとき、あるいは逆風に変わったときに何が起きるかを、あらかじめ考えておく必要があります。

大きな窓から差し込む光に満ちたホテルロビーを、行き交う人々が忙しく動き回る様子

景気が後退すると、上位のホテルに需要が集まる

景気が後退した局面でこそ、ホテルどうしの差がはっきり表れます。これは私が仕事を通じて何度も見てきたことです。

リーマンショックの後、出張需要が一気に冷え込んだ時期がありました。当時は、いまでこそ人気のあるエリアでも、稼働率が20%台まで落ち込んだビジネスホテルが珍しくありませんでした。同じ街の似たような立地でも、埋まるホテルと埋まらないホテルが、はっきり分かれました。

理由は単純です。需要が縮むと、限られたお客様の奪い合いになり、上位のホテルがそのほとんどを取ってしまいます。好況のときは需要に余りがあるので、二番手や三番手のホテルにもお客様が回ってきます。ところが不況になると、その余りが消え、お客様は一番選びたいホテルに集まります。

ここで一つ、注意したい点があります。お客様から第一に選ばれているホテルは、好景気でも不景気でも高い稼働を保ち続けます。景気が悪くても、客足が極端に落ちることは多くありません。問題は、まだそこまでの人気を得ていないホテルです。この場合は景気後退の影響をまともに受け、真っ先に苦しくなります。景気の波そのものよりも、自館が最初に選ばれる側にいるかどうかが、生き残りを左右します。

好況が隠す、四つの落とし穴

追い風が強いときほど、足元の弱さは見えにくくなります。いまの好況が覆い隠している落とし穴を、四つ挙げます。

落とし穴1:好調を「実力」と取り違える

いちばん根が深いのがこれです。高い稼働と単価が続くと、それを自館の商品力の表れだと感じ、強気の事業計画を立てたくなります。その前提で土地を高値で買い、大きな借入をして新築や増築に踏み切る。しかし売上を支えていたのが外からの追い風だったとすれば、それが弱まった途端に、過大な投資と借入だけが残ります。

落とし穴2:いちばん高い時期に建て、買ってしまう

書類を手に電卓を操作し、ノートパソコンの収支表を見ながら設備投資の収支を試算する人物

建築費が4割上がったということは、いま建てる施設は、数年前より4割高い元手で造ることになります。土地も高値圏です。高く造ったものは、減価償却も借入の返済も重くなります。固定費は、需要が落ちても下がりません。好況に乗じて「いまのうちに」と投資を急ぐと、結果としていちばん高い時期に高値で掴んでしまう恐れがあります。投資をするかどうかは、好不況のどの局面にいるかを冷静に見て判断したいところです。設備投資の考え方は、設備投資の判断基準の記事もあわせてご覧ください。

落とし穴3:差別化を先送りする

ここは、かつてこの記事の前身で書いた内容と最もつながる部分です。需要が強いいまは、これといった個性のない画一的なホテルでも、立地さえ良ければ埋まります。そのため、コンセプトづくりや差別化が後回しになりがちです。

しかし需要が反転すると、状況は大きく変わります。似たような客室、似たような価格のホテルが並べば、お客様が選ぶ基準は価格だけになります。リーマンショックの後、出張需要が急に減ったとき、ホテルは値引き合戦に走りました。宿泊料金を実質的に返金するクオカード付きのプランや、貯まったポイントを現金で還元する販売まで現れました。お客様から見て違いが分からないホテルは、価格でしか戦えなくなりました。コロナ禍でも同じことが起きています。差別化は、好況のいまのうちに進めておくべきです。コンセプトの設計については、コンセプト設計の記事で詳しく説明しています。

落とし穴4:インバウンドと円安に頼りきる

いまの売上が、特定の国からの訪日客や、円安による割安感に大きく頼っているなら、土台が一つしかない状態です。為替が円高に振れれば、価格に敏感な近隣アジアの旅行者は、より安い旅行先へ移ります。各国の景気、国際情勢、感染症や災害でも、訪日需要は急に細ります。一つのものに頼りすぎていると、それが崩れたときに支えがなくなります。インバウンド受け入れの損得は、業態別に整理した記事が参考になります。

追い風は、いつ、どう弱まるのか

では、追い風はどんなことで弱まるのでしょうか。すべてを正確に当てることはできませんが、注意しておきたい動きはいくつかあります。

  1. 為替の反転。円高に振れると、日本の旅行の割安感が薄れ、訪日需要と単価の両方が下がります。
  2. 世界経済や国際情勢の変化。主な送り出し国の景気が落ち込んだり、情勢が悪化したりすると、旅行需要は直接冷え込みます。
  3. オーバーツーリズムへの反動。宿泊税の引き上げや二重価格、規制の強化が進めば、割安感や使いやすさが損なわれます。
  4. 供給が戻ること。いまは見送られている開発も、いずれ動き出します。供給が戻ったとき、差別化のないホテルから順に競争にさらされます。

リーマンショックのときも、コロナ禍のときも、好況の最中にいた人の多くは、まさかこんなことになるとは思っていませんでした。需要の変化は、起きてから振り返って気づくことがほとんどです。

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好況のいまこそ、反転に備える

では、追い風が吹いているいまのうちに、何をしておくべきでしょうか。目指すところは、いつ何が起きてもお客様から最初に選んでもらえるホテルになることです。好況のいまは、そのための助走期間です。需要が落ちてから慌てないよう、いまのうちに手を打ちます。進めるべきことは、次の四つです。

売上やグラフの資料を前に、ノートパソコンとペンを使い経営データを分析する二人のビジネスパーソン

1.財務の余力を厚くする

利益が出ているいまこそ、借入を減らし、返済を前倒しし、手元の資金を積み増しておきましょう。需要が落ちても固定費は残ります。返済の負担を軽くしておくほど、不況に耐える力は強くなります。好況で出た利益を、需要が落ち込んだときの蓄えに回しておくとよいでしょう。

2.価格以外の「選ばれる理由」をつくる

単価が高く取れるいまのうちに、コンセプトや世界観、固定のお客様との関係、公式サイトからの直接予約の比率を高めておきましょう。価格だけで選ばれているホテルは、不況になると値下げ以外の手段がなくなります。一方、ここに泊まりたいと思ってもらえる理由があれば、需要が減っても指名で選ばれます。世界観で選ばれる宿のつくり方は、コンセプトホテルの記事が参考になります。

3.需要の出どころを分散する

インバウンド一辺倒や特定の国頼みになっていないか、点検しましょう。国内客、ビジネス需要、連泊、客層の異なる利用など、需要の出どころを複数持っておけば、どれか一つが落ち込んでも全体は持ちこたえられます。

4.どこまで落ちても耐えられるかを知る

自館の損益分岐点となる稼働率を、あらためて確かめておきましょう。稼働や単価がどこまで下がると赤字になるのかが分かっていれば、反転の局面でも落ち着いて対応できます。計算の仕方は、損益分岐点稼働率の記事にまとめています。

おわりに

いかがだったでしょうか。いま、都市部のホテルが好調なのは事実です。ただ、その好調を支えているのは、自館の実力というより、強い需要と止まった供給という二つの追い風でした。追い風がいつまでも続く保証はありません。

景気の波は、これからも巡ってきます。そのとき生き残るのは、好不況に関わらずお客様から最初に選ばれるホテルです。好況のいまは、自館をそういうホテルに近づけるための助走期間です。いまのうちに、需要が落ち込んでも耐えられる態勢を整えておきましょう。

弊社アルファコンサルティングでは、好況のいまだからこそ取り組むべき財務の備え、差別化、需要の分散、投資の判断について、自館の数字と立地に即してお手伝いしています。特定の建設会社や運営会社、金融機関と利害関係を持たない立場から、率直に申し上げます。

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