旅館・ホテルの廃業と売却、どちらが損をしないか|数字で比べる判断の物差し

こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。

この記事を読んでくださっている方の中には、ご自身が宿を営むオーナーだけでなく、その息子さん、娘さん、あるいはそのご配偶者という方が、多くいらっしゃるのではないでしょうか。年老いた親が営んできた旅館やホテル。その将来を、親に代わって考え始めた。そういう立場の方です。

親は、もう高齢で、判断や行動が難しくなってきた。自分は別の仕事に就いていて、宿を継ぐつもりはない。けれど、このまま放っておくわけにもいかない。廃業すべきなのか、それとも誰かに売るべきなのか。そもそも、親の宿にどれだけの借金があって、それが自分たち家族にまで及ぶのか──。

こうした問いを、親に面と向かって聞くのは、なかなか難しいものです。親のこれまでの人生を否定するようで切り出しにくい。きょうだいがいれば、誰がどう決めるのかも悩ましい。そうして時間だけが過ぎ、いざというときに慌てる。そんなご家族を、私は何度も見てきました。

この記事は、そうした立場の方にこそ、読んでいただきたいものです。廃業と売却は、感情ではなく、数字で比べられます。廃業した場合に出ていくお金と、売却した場合に手元に残るお金。この二つを並べてみれば、ご家族にとってどちらが損が少ないかが、見えてきます。特定の業者と利害関係を持たない独立した立場から、その判断の物差しを、できるだけ具体的にお伝えしていきます。

この記事を読むとわかること

  • 1「辞めるだけ」の廃業にも、まとまったお金がかかること
  • 2廃業と売却を数字で比べる方法(モデルケースで試算)
  • 3売却で手元に残る額の見積もり方と、親の決算書の見方
  • 4親の借金や個人保証が、自分たち家族に及ぶのかという問いへの答え
  • 5経営者保証ガイドラインで、親も家族も残せるもの

こんなお悩みはありませんか

以下の項目に2つ以上当てはまる方は、本記事を最後までお読みになることをお勧めします。

□ 親に後継者がおらず、宿の将来を考え始めた

□ 親は辞めたがっているが、借金が残らないか不安

□ 廃業にいくらかかるのか、見当がつかない

□ 廃業と売却を、まだ数字で比べたことがない

□ 親の個人保証や、実家・自宅がどうなるか心配

□ 誰に相談すればいいのか分からない

▶ 本記事で、ご家族が後悔しないための判断の物差しを手に入れましょう。

第1章
「辞める」にも、お金がかかる ― 廃業という選択の実像
親の宿の将来を考える子世代
親の宿の将来を考える子世代
要点

廃業は「楽に終われる道」ではありません。解体・原状回復、退職金、残債処理など、辞めること自体に数千万〜億の支出が生じます。だからこそ、安易に廃業を選ぶ前に売却と比べる必要があります。

親の宿をたたもうと考えたとき、多くの方が、こう思います。「廃業すれば、ひとまず区切りがつく」と。けれど、最初にお伝えしておかなければなりません。廃業は、決して「楽に終われる道」ではありません

むしろ、辞めるという行為そのものに、まとまったお金が出ていきます。営業をやめれば、もう収入は入りません。その状態で、さまざまな支払いをしなければならないのです。

何にお金がかかるのか。建物の解体や、借りている物件であれば原状回復の費用。長年勤めた従業員への退職金や、解雇を予告する手当。残っている借入金の処理。在庫や設備の処分。そして各種の精算です。旅館・ホテルは建物が大きく、設備も多いため、これらの費用は、規模や構造によっては数千万円、場合によっては億の単位にのぼることもあります。

つまり、廃業を選んでも、お金の問題が消えるわけではありません。それどころか、収入が絶たれた状態で、まとまった支出だけが残ります。親が「もう辞めたい」と言い、子であるあなたも「それがいい」と思ったとしても、その「辞める」に、これだけの費用がかかることを知らないまま進めると、あとで大きな負担に直面することになります。

だからこそ、立ち止まっていただきたいのです。親の宿に、まだ事業としての価値が残っているのなら、売却という道のほうが、手元に残るお金が多く、あるいは負債が少なく済む可能性があります。廃業と売却、どちらが損をしないか。それを冷静に比べることが、ご家族が後悔しないための第一歩になります。

→ では、どう比べるのか。次章で、具体的なモデルケースを使って見ていきます。

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ここまで読了:約2分 / 残り約11分

第2章
廃業と売却は、数字で比べられる ― モデルケースで見る
廃業と売却を数字で比べる
廃業と売却を数字で比べる
要点

考え方はシンプル。それぞれで「最終的に手元にいくら残るか/いくら負債が残るか」を計算して並べるだけです。同じ宿でも、選ぶ道で家族が背負うものは大きく変わります。

では、どう比べるのか。考え方は、意外なほどシンプルです。廃業と売却、それぞれで「最終的に手元にいくら残るか、あるいは、いくら負債が残るか」を計算し、並べてみるのです。

言葉だけでは分かりにくいので、一つのモデルケースで見てみましょう。あくまで考え方を示すための、簡略化した例です。

事例

地方の温泉旅館(架空の例)

年間の売上が三億円、銀行からの借入が三億円残っている。土地・建物の時価は二億五千万円ほど。客室は四十室で、後継者はいない。こうした旅館を例に、廃業した場合と売却した場合を比べてみます。

廃業 vs 売却 ― 手元に残るもの(モデルケースの試算)

廃業した場合売却した場合
入ってくるお金土地売却 1.5億円事業ごと売却 2.8億円
差し引く費用解体 0.5億+退職金等 0.3億(諸費用)
借入の返済▲3億円(返済原資が乏しい)▲3億円(売却代金で返済)
最終的に残るもの約2.3億円の借金が残る残る負債は約0.2億円

二つを並べてみてください。廃業なら二億三千万円の借金が残り、売却なら残る負債は二千万円。同じ宿でも、選ぶ道によって、ご家族が背負うものが、これほど変わるのです。

なぜ、これほど差がつくのか

理由は、はっきりしています。廃業は「価値を生む事業」を消してしまうのに対し、売却は「事業の価値」ごと引き継いでもらえるからです。営業をやめた宿の土地・建物は、実態より低く買い叩かれがちです。一方、収益を生んでいる宿には、その稼ぐ力に対して値がつきます。

もちろん、これは数字を分かりやすくするための例にすぎません。立地や老朽化の度合いによっては、売却の買い手が見つからず、廃業しか道がないこともあります。大切なのは、思い込みで決めるのではなく、親の宿について、両方を実際の数字で試算し、天秤にかけることです。

なお、売却を選ぶ場合は、誰に継いでもらうかという選択肢の整理も役に立ちます。親族や従業員、第三者など、継ぎ手によって進め方は変わります。

→ それでは、天秤の一方「売却で手元に残る額」を、次章で具体的に見積もります。

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ここまで読了:約4分 / 残り約9分

第3章
売却で手元に残る額をどう見積もるか
親の決算書を一緒に確認する
親の決算書を一緒に確認する
要点

売却の手取りは企業価値 −(残債+諸費用)。出発点は宿の企業価値です。子世代がつまずきやすい「親の宿の価値が分からない」を、決算書を一緒に見ることから解きほぐします。

天秤の一方、売却で手元に残る額を、もう少し具体的に見ていきましょう。ここで多くのご家族がつまずくのが、「そもそも、親の宿にいくらの価値があるのか分からない」という点です。

まず、宿の企業価値を見立てる

出発点は、宿の企業価値です。旅館・ホテルの価値は、大きく三つの考え方で見立てられます。会社の正味の財産から見る純資産方式、これから生み出す利益から逆算する収益還元方式、そして両者を組み合わせた年買法です。

とりわけ大切なのが、収益から見る視点です。買い手が欲しいのは、建物という「箱」ではなく、その箱が生み出す「収益」だからです。GOP(償却前営業利益に近い概念)と呼ばれる、宿が本業で稼ぐ力をもとに、価値が評価されます。これら三つの考え方で試算すれば、宿の価値が「だいたいこのあたりからこのあたり」という幅で見えてきます。価値の具体的な見立て方は、別の記事で詳しく解説していますので、あわせてお読みください。

親の決算書を、一度きちんと見る

ホテル旅館コンサルタント 青木康弘

青木康弘(ホテル旅館コンサルタント)

子の立場で難しいのは、親の宿の財務を細かく把握していないことです。決算書を見たこともない、という方も多いでしょう。けれど、親が元気なうちに一度、決算書を一緒に見ておくこと。これは廃業か売却かの判断のためだけでなく、親にもしものことがあったときに、ご家族が慌てないための備えにもなります。

「数字の話は親に切り出しにくい」という気持ちは分かりますが、ここを避けて通ることはできません。決算書や試算表が、価値を見立てる出発点になります。

価値から残債と費用を引く

価値のレンジが見えたら、そこから、残っている借入金と、売却にかかる諸費用を差し引きます。それが、売却によって手元に残る額です。売却額が借入を上回れば手元に残り、下回れば負債が残ります。この見極めが、廃業との比較の、もう一方の皿になります。

→ もう一方の皿、廃業のコストを、次章で項目ごとに正しく見積もります。

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ここまで読了:約6分 / 残り約7分

第4章
廃業のコストを正しく見積もる
廃業にかかる費用の内訳
廃業にかかる費用の内訳
要点

廃業コストは解体・原状回復/退職金など従業員への支払い/借入の処理/在庫・設備の処分。収入が途絶えた状態でこれらが重なるため、「安く済む道」とは限りません。

天秤のもう一方、廃業のコストを、項目ごとに正しく見積もります。第2章のモデルケースで見たように、廃業には多くの費用がかかります。何にいくらかかるのかを、順に押さえましょう。

建物の解体・原状回復

まず大きいのが、建物に関わる費用です。自社で所有する建物を取り壊すなら、解体費用がかかります。旅館・ホテルは建物が大きく、構造も複雑なため、解体費は高額になりがちです。借りている物件で営業している場合は、契約に基づいて元の状態に戻す原状回復の義務があり、これにも相応の費用がかかります。

従業員への支払い

次に、従業員への支払いです。長年勤めてくれた従業員には、退職金を支払う必要があります。解雇にあたっては、法律に基づいて、解雇を予告する手当などの対応も求められます。親が大切にしてきた従業員への、最後の責任でもあります。ここを軽く考えると、思わぬ負担になります。

借入金の処理

そして、借入金です。ここが、売却との決定的な違いになります。売却であれば、譲渡代金を借入の返済に充てられます。しかし廃業の場合、事業からの収入という返済の原資が絶たれた状態で、残った借入とどう向き合うかを考えなければなりません。資産の処分額で返しきれればよいのですが、返しきれなければ、負債が残ります。

その他の精算

このほか、在庫や設備の処分費用、固定資産税などの精算も生じます。こうして項目を並べると、廃業が「安く済む道」とは限らないことが見えてきます。収入が途絶えた状態で、これだけの支出が重なるのです。だからこそ、廃業のコストを正確に見積もり、売却の手取りと並べて比べることが、欠かせません。

→ ここからは、ご家族が最も知りたい「借金は自分たちに及ぶのか」という問いに答えます。

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ここまで読了:約8分 / 残り約5分

第5章
親の借金は、自分たち家族に及ぶのか ― 最も知りたいこと
相続と保証について専門家に相談する
相続と保証について専門家に相談する
要点

親の連帯保証は相続の対象になりうるため、慎重な判断が必要です。相続放棄・限定承認などの選択肢には期限があり、弁護士の領分。だからこそ親が元気なうちに決着をつけることが家族を守ります。

ここで、子の立場の方が、口には出しにくいけれど、最も知りたいことに触れます。それは、「親の宿の借金や、親がしている個人保証は、自分たち家族にまで及ぶのか」という不安です。

これは、決して薄情な心配ではありません。ご自身の家庭や、お子さんの将来を守るために、当然に考えておくべきことです。

親の連帯保証という問題

旅館・ホテルの借入には、経営者である親が、連帯保証をしているケースがほとんどです。旅館・ホテルの借入は十数億円に達することも珍しくなく、その全額に個人保証がついていることもあります。この保証が、相続を通じて子に引き継がれるのか。ここが、ご家族にとって最大の関心事でしょう。

結論から言えば、これは相続の場面で、慎重な判断を要する論点です。プラスの財産だけでなく、借金や保証といったマイナスの債務も、相続の対象になりうるからです。相続を承認するのか、放棄するのか、あるいは限定的に承認するのか。選択肢があり、それぞれに期限や条件があります。これは、法律の専門家とともに、正確に判断しなければならない領域です。

売却・廃業を「親が元気なうちに」進める意味

だからこそ、親が元気なうちに、宿の将来に決着をつけておくことの意味は、とても大きいのです。親の判断で売却や廃業、そして債務の整理まで進めておけば、子の世代に、整理されないままの借金や保証が、突然のしかかってくる事態を避けられます。

「縁起でもない」と先送りにしたくなる気持ちは分かります。しかし、何も手を打たないまま相続が起きると、ご家族は、宿の問題と、相続の問題を、同時に、しかも短い期限の中で抱えることになります。早く動くことは、親のためであると同時に、子であるあなたとご家族を守ることでもあるのです。

残った債務には、私的整理という道がある

売却でも廃業でも借入を返しきれない場合、すぐに「破産」を思い浮かべる方が多いものです。しかし、破産などの法的整理は、信用が大きく傷つく、最後の手段です。その前に、裁判所を通さずに金融機関と話し合いながら進める「私的整理」という道があります。中小企業活性化協議会といった公的な窓口の関与を得ながら進める方法もあります。残った債務とどう向き合うかには順序があり、専門家とともに、最も傷の浅い道を選ぶことができます。

→ 借金が残る場合でも、すべてを失うわけではありません。次章で希望のある話をします。

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ここまで読了:約10分 / 残り約3分

第6章
親も家族も、すべてを失うわけではない ― 経営者保証ガイドライン
守れるもの(自宅・住まい)を確認する
守れるもの(自宅・住まい)を確認する
要点

経営者保証ガイドラインに基づけば、手元に一定の財産や、華美でない自宅を残せる可能性があります。親の老後の住まいを守れるかもしれません。ただし誠実な開示が前提、資産隠しは厳禁です。

借金が残る話を続けると、「親は、そして自分たち家族は、何もかも失ってしまうのか」と、強い不安を覚えるかもしれません。ここで、ぜひ知っておいていただきたい、希望のある話をします。

親が個人保証をしていて、会社の債務が残った場合でも、文字どおりすべてを失うわけではありません。

手元に財産を残せる可能性がある

「経営者保証に関するガイドライン」という指針に基づいて保証債務を整理すれば、親の手元に、一定の財産を残せる可能性があります。生活の再建に必要な範囲として、法律上当然に残せる自由財産に加えて、一定の財産を残すことが認められうるのです。

さらに、場合によっては、華美でない自宅を手元に残せる可能性もあります。保証債務を払うために住み慣れた家を出ざるを得なかった経営者は、かつて少なくありませんでした。年老いた親や、まだ幼い子どもを抱えた経営者にとって、これは切実な問題です。ガイドラインは、そうした住まいを守れる可能性を開いています。親の老後の住まいを守れるかもしれない、ということは、子であるあなたにとっても、大きな安心材料になるはずです。

早く、誠実に動くことが大切

「よかれと思って」が裏目に出ることも

手元に財産を残すには、財産の状況を誠実に正確に開示することが前提です。悪意のある資産隠しや、整理の直前に資産を親族へ移すといった行為が発覚すると、こうした取り扱いは認められません。「子に少しでも残そう」とよかれと思って資産を動かすと、かえって不利になることがあります。まだ余力のあるうちに、誠実に準備を始めるほど、親もご家族も残せるものは多くなります。

→ それでは最後に、ご家族が後悔しない判断のための進め方を整理します。

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ここまで読了:約11分 / 残り約2分

第7章
後悔しない判断のために ― 相談の使い方
中立的な専門家とともに進める
中立的な専門家とともに進める
要点

①家族だけで抱え込まない ②まず数字で比べる ③中立の専門家に相談。弊社は損得シミュレーションと計画策定を支援し、相続・保証・私的整理は信頼する弁護士と連携して伴走します。

親の宿を、廃業するか、売却するか。これは、宿の歴史と、親の人生、そしてあなたとご家族の将来に関わる、重い決断です。最後に、その進め方をお伝えします。

第一に、ご家族だけで抱え込まないことです。重い決断であるほど、親への気遣い、きょうだい間の遠慮、世間体といった感情がからみ、話が前に進まなくなりがちです。「自分が継がないのに口を出していいのか」とためらううちに、選択肢が狭まっていくことも少なくありません。

第二に、まず数字で比べることです。廃業のコストと、売却で手元に残る額。第2章のモデルケースのように、親の宿の数字を当てはめて、二つを並べてみる。それだけで、感情の霧が晴れ、冷静な判断の土台ができます。

第三に、中立的な立場の専門家に相談することです。特定の金融機関や仲介会社の都合ではなく、ご家族の利益だけを考えてくれる相手に、状況を整理してもらうこと。それが、後悔しない判断への、確かな近道になります。

青木康弘

弊社アルファコンサルティングでは、特定の金融機関・オペレーター・仲介会社と利害関係を持たない独立した立場から、廃業と売却の損得シミュレーションや、再生・清算に向けた計画の策定支援を行っています。そして、相続や個人保証、私的整理といった法的な判断が必要となる局面では、弊社が信頼する弁護士と連携して、ご相談にあたります。状況の整理から出口まで、依頼者であるご家族の利益を最優先に、伴走します。

株式会社アルファコンサルティング 代表 青木康弘

ご相談は、親御さんご本人でなくても構いません。「親の宿をどうすべきか」と考え始めた、息子さん、娘さん、ご配偶者からのご相談を、数多くお受けしてきました。親が元気なうちに、家族で備えるための相談も歓迎します。早い段階でご相談いただくほど、残せるものは多くなります。

よくあるご質問

Q親の宿の借金は、子である私に引き継がれるのですか。

A借金や個人保証といったマイナスの債務も、相続の対象になりうるため、慎重な判断が必要です。相続を承認するか、放棄するか、限定的に承認するかといった選択肢があり、それぞれに期限や条件があります。これは法律の専門家とともに正確に判断すべき領域です。だからこそ、親が元気なうちに、宿と債務の整理に道筋をつけておくことが、ご家族を守ることにつながります。

Q廃業には、いくらくらいかかるのですか。

A規模や建物の構造、立地によって大きく変わるため、一概には言えません。ただ、建物の解体や原状回復、従業員の退職金、借入の処理、設備の処分など、項目は多岐にわたり、収入が途絶えた状態でこれらの支出が重なります。「辞めるだけ」と思っていると、想定外の負担になることがあります。まずは項目を洗い出し、概算を出すことをお勧めします。

Q親の老後の住まいは、守れるのでしょうか。

A守れる可能性があります。経営者保証に関するガイドラインに基づいて整理すれば、生活再建に必要な一定の財産を残せる可能性があり、場合によっては華美でない自宅を残せることもあります。ただし、財産を誠実に開示することが前提で、資産隠しは認められません。早く、正しく動くことが大切です。

Q私は宿を継ぐ気はありません。それでも関わるべきですか。

A継がない場合でも、関わっておくことを強くお勧めします。何も手を打たないまま相続が起きると、ご家族は宿の問題と相続の問題を、同時に短い期限で抱えることになります。継がないからこそ、廃業・売却・債務整理に早めに道筋をつけておくことが、あなたとご家族の生活を守ります。

Qまず、誰に相談すればよいのでしょうか。

A特定の金融機関や仲介会社ではなく、ご家族の利益だけを考えてくれる、中立的な立場の専門家に相談することをお勧めします。弊社では、廃業と売却の損得を整理したうえで、相続や法的手続きが必要な場合は信頼する弁護士と連携してご支援します。親御さん本人でなく、ご家族からのご相談も歓迎します。

用語の整理

この記事で出てきた主な用語

廃業

事業をやめて会社をたたむこと。建物の解体・原状回復、従業員への支払い、借入の処理など、まとまった費用が生じます。

連帯保証

借入の返済を、会社とともに個人(多くは経営者)が保証すること。相続の場面では、引き継ぐかどうか慎重な判断が必要です。

私的整理

裁判所を通さず、金融機関などの債権者と話し合いながら債務の整理や再生・清算を進める方法。法的整理より信用の毀損を抑えられます。

法的整理

破産や民事再生など、裁判所の手続きに基づく整理。信用毀損が大きく、旅館・ホテルにとっては最後の手段とされます。

経営者保証に関するガイドライン

経営者の個人保証について、保証債務を整理する際の指針。誠実な対応を前提に、手元に一定の財産を残せる可能性があります。

自由財産

債務整理にあたっても、生活の再建のために手元に残すことが法律上認められている財産のことです。

さいごに

旅館・ホテルの廃業と売却について、廃業の本当のコストから、モデルケースでの比べ方、売却で残る額の見積もり、親の借金が家族に及ぶのかという問い、そして経営者保証ガイドラインで残せる財産まで、整理してきました。いかがだったでしょうか。

親が築いてきた宿の幕引きを考えることは、子にとっても、つらく、重い作業です。親の人生を否定するようで、切り出すのもためらわれる。その気持ちは、痛いほど分かります。けれど、廃業も売却も、決して恥でも失敗でもありません。親が大切にしてきたものを、次の形へとつなぐための、前向きな判断です。そして、それを冷静に進めることは、親への、何よりの親孝行でもあります。

読了後の3ステップ ― 今日からできること

1. 親の決算書を、一度きちんと見る

数字が分からなければ、廃業と売却の比較もできません。親が元気なうちに、一緒に確認しておきましょう。

2. 廃業と売却を数字で比べる

廃業のコストと、売却で手元に残る額。二つの天秤を、具体的な数字で並べてみましょう。

3. 中立的な立場の専門家に相談する

ご家族だけで抱え込まず、あなたがたの利益だけを考えてくれる相手に、状況を整理してもらいましょう。

「親の宿をどうすべきか」と考え始めた、その段階からご一緒できます。

青木康弘

弊社アルファコンサルティングでは、特定の金融機関・オペレーター・仲介会社と利害関係を持たない独立した立場から、廃業と売却の損得シミュレーション、再生・清算計画の策定支援を行っています。相続や個人保証、私的整理など法的な判断が必要な局面では、弊社が信頼する弁護士と連携して、状況の整理から出口まで伴走します。依頼者であるご家族の利益を最優先に、お手伝いします。

株式会社アルファコンサルティング 代表 青木康弘

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