こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。本記事は、業態別の利益構造を体系的に整理した経営者向けのガイドです。観光経済新聞のコラム連載17年で見てきた現場の事例をもとに、業態ごとの収益特性と改善の打ち手を整理しました。

業態が違えば、目指すべき利益率も打ち手も違います。5業態の収益構造を数値で整理し、自館の改善優先順位を見極めていきましょう。
はじめに ― なぜ「業態別」に利益率を見るのか
ここ数年、相談を受ける経営者の方から、決まって似た悩みを聞きます。
「稼働率は悪くないのに、思ったほど利益が残らない」
「同業他社と比べて、自館の利益率が高いのか低いのか分からない」
「業界誌の指標を見ても、自館に当てはまるのか判断できない」
「経費削減の打ち手が、効果のある領域なのか確信が持てない」
こうした悩みの根本にあるのは、業態別の収益構造の違いを理解しないまま、画一的な指標で自館を判断していることです。都市部ビジネスホテルと温泉旅館では、収益構造がまったく異なります。シティホテルとリゾートホテルでも、利益の出方は別物です。業態を踏まえないベンチマーク比較は、誤った経営判断につながります。
例えば、人件費率を見て「自館は30%で高すぎる」と判断したとします。これが都市部ビジネスホテルなら確かに高い水準ですが、温泉旅館なら標準的な範囲に収まります。逆に、ビジネスホテルで人件費率20%を達成していても、それは業態として当然の数値であって、特別な経営手腕の表れではありません。なお、温泉旅館であっても人件費率が40%に達すると、黒字の確保が難しい高負担の水準であり、業務効率化による改善を急ぐべきサインと考えるべきです。
本記事では、5つの業態それぞれの収益構造を数値で整理し、自館がどの業態に近いかを見極めた上で、業態に応じた改善の優先順位を明確にしていきます。
この記事を読むとわかること
- 1ホテル・旅館の5業態(都市部ビジネス・温泉旅館・シティ・リゾート・小規模/高級)の収益構造
- 2業態別のGOP水準・食材原価率・人件費率・水光熱費率の業界目安
- 3自館の利益率を業界水準と比較する診断手順
- 4業態別の利益改善の打ち手と優先順位
- 51泊2食型旅館に特有の収益構造と改善視点
目次 タップで開閉
→ ここまでが導入です。次章から、業態別収益構造の全体像を整理していきます。
ホテル・旅館の業態別収益構造 ― 全体像

5業態の収益構造の違い
ホテル・旅館は、業態によって収益構造が大きく異なります。本記事では、次の5業態を対象に整理します。
【図表C3-1】本記事で扱う5業態の定義
| 業態 | 代表的な施設規模 | 立地特性 | 主要顧客層 |
|---|---|---|---|
| 都市部ビジネス | 100〜300室 | 主要駅徒歩圏 | 出張ビジネス・短期滞在 |
| 温泉旅館 | 30〜100室 | 温泉地 | 家族・カップル・グループ |
| シティホテル | 200〜800室 | 都市部・主要観光地 | 宿泊・宴会・婚礼の複合 |
| リゾートホテル | 100〜500室 | 海岸・山岳・離島 | 滞在型レジャー |
| 小規模宿/高級旅館 | 10〜30室 | 温泉地・観光地 | 富裕層・記念日 |
業態別の売上構成の違い
5業態の収益構造の最大の違いは、客室売上と料飲売上の比率にあります。
【図表C3-2】業態別の売上構成(目安)
| 業態 | 客室売上比率 | 料飲売上比率 | 付帯売上比率 | 繁閑差 |
|---|---|---|---|---|
| 都市部ビジネス | 85〜95% | 5〜15% | 0〜5% | 小 |
| 温泉旅館 | 50〜70% | 30〜50% | 5〜10% | 中 |
| シティホテル | 50〜70% | 30〜50% | 5〜15% | 中 |
| リゾートホテル | 60〜80% | 20〜40% | 5〜10% | 大 |
| 小規模宿/高級旅館 | 60〜80% | 20〜40% | 0〜5% | 中 |
都市部ビジネスホテルは、客室売上が収益の中心で、料飲売上の比率は限定的です。一方、温泉旅館は1泊2食が基本商品のため、料飲売上が30〜50%を占めます。シティホテルは宿泊・宴会・婚礼・レストランという複数の収益源を持ち、業態としては最も複雑な構造です。
業態別のGOP水準
GOP(償却前営業利益、Gross Operating Profit)は、ホテル・旅館業界で最もよく使われる収益指標の一つです。部門別損益から本部経費・減価償却費を差し引く前の利益を指し、純粋な運営効率を測ることができます。
【図表C3-3】業態別のGOP水準(目安・日本市場)
| 業態 | GOP水準 | 備考 |
|---|---|---|
| 都市部ビジネス | 30〜55% | 高効率運営の業態。チェーンは50%超も |
| 温泉旅館 | 20〜30% | 人件費・食材費が重く、利益率は抑えめ |
| シティホテル | 25〜35% | 宴会・婚礼の収益性で大きく変動 |
| リゾートホテル | 20〜35% | 繁閑差が大きく、損益分岐点稼働率が重要 |
| 小規模宿/高級旅館 | 15〜30% | 客室数が少なく、固定費吸収力に課題 |
これらの数値は、日本市場の実態を踏まえた目安です。海外文献にあるGOP35〜45%水準は、欧米のチェーンホテルの数値であり、日本のホテル・旅館にそのまま当てはめるのは現実的ではないところです。自館の利益率を評価する際は、必ず業態と日本市場の水準に照らして判断してください。
改装による客単価アップの事例
過去にご相談を受けたケースを、特定できないよう前提条件を変えた上でご紹介します。地方の温泉地に立地する60室規模のホテルで、大規模改装によって収益構造を大きく転換した事例です。改装前後の主な指標を整理すると、次のようになります。
【図表C3-4】改装前後の比較(60室規模・温泉地ホテルの例)
| 指標 | 改装前 | 改装後 |
|---|---|---|
| 宿泊客単価 | 約14,000円 | 約22,000円 |
| 客室稼働率 | 約80% | 約75% |
| 1室平均人数 | 約2.5人 | 約2.3人 |
| RevPAR | 約28,000円 | 約38,000円 |
| GOP | 18% | 25% |
| 主要客層 | 個人客7割・団体3割 | 個人客9割・団体1割 |
改装前は、宿泊客単価が約14,000円と、近年の市況からするとやや低い水準にとどまっていました。エリア内での競争力はあり個人客に支持されている施設でしたが、価格帯が地域平均に埋もれてしまい、改装余力を生むだけの利益を確保できていませんでした。
そこで、客室の付加価値を高める改装と、料理・サービスといったソフト面の磨き上げ、客層を団体から個人へシフトさせる販売戦略を一体で進めました。その結果、宿泊客単価は約14,000円から約22,000円へと大幅に向上しました。稼働率は80%から75%へとわずかに下がりましたが、単価上昇がそれを大きく上回り、RevPARは約28,000円から約38,000円へと伸びています。
利益面でも、GOPは18%から25%へと改善しました。注目したいのは、稼働率を追わずに単価を引き上げたことで利益率が大きく伸びた点です。高単価化は変動費の追加をほとんど伴わないため、上昇した単価のほぼ全額が利益に直結します。
この事例から読み取れることは、稼働率を維持・向上させることだけが収益改善の道ではないということです。とりわけ温泉地のホテル・旅館では、客単価を引き上げる方が、稼働率を追うよりも利益率の改善幅が大きいケースが少なくありません。GOP水準は単純に「高ければよい」のではなく、業態・規模・改装サイクルに応じた現実的な目標設定の上で、単価と稼働率のどちらを軸に伸ばすかを見極めることが重要です。
セルフチェック ― 自館はどの業態に近いか
次のうち、自館に最も近い項目を1つ選んでください。
□ 客室売上が90%以上を占め、料飲は朝食のみ → 都市部ビジネス型
□ 1泊2食の販売が中心で、夕食が宿泊体験の核 → 温泉旅館型
□ 宿泊・宴会・婚礼・レストランが収益の柱 → シティホテル型
□ 繁閑差が3倍以上あり、滞在型の顧客が多い → リゾートホテル型
□ 20室以下で、客単価が地域平均の1.5倍以上 → 小規模/高級旅館型
▶ 選んだ業態が、本記事における自館のベンチマーク対象です。次章以降の該当章を重点的に読んでください。
→ 業態別の全体像を押さえたところで、次は都市部ビジネスホテルの収益構造に踏み込みます。
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都市部ビジネスホテルの収益構造

収益構造の特徴
都市部ビジネスホテルは、客室売上が収益の中心(85〜95%)で、料飲売上の比率は5〜15%と限定的です。朝食提供が中心で、ディナーレストランを持たない施設も増えています。この業態の最大の特徴は、効率化の徹底による高い利益率です。
チェーン規模が大きい施設では、複数施設で同じシステム・同じオペレーションを展開することで規模の経済を得られます。レベニューマネジメント(RM)の実装も進んでおり、データドリブンな運営が可能です。
業態別のRevPAR水準
【図表C3-5】業態別RevPAR水準の目安(2026年5月時点)
| 業態 | RevPAR水準 | 備考 |
|---|---|---|
| 都市部ビジネス | 8,000〜13,000円 | 立地・グレードで大きく変動 |
| シティホテル | 12,000〜18,000円 | 宴会・婚礼が客室収益を補完 |
| 温泉旅館 | 15,000〜25,000円 | 1泊2食ベース・客単価で測る場合あり |
| リゾートホテル | 14,000〜30,000円 | 繁忙期と閑散期の差が大きい |
| 高級旅館 | 30,000〜80,000円 | 都市部高級ホテルも同水準 |
コスト構造の特徴
【図表C3-6】都市部ビジネスホテルのコスト構造(目安)
| 費目 | 売上比率 | 備考 |
|---|---|---|
| 食材原価 | 5〜10% | 朝食中心のため低水準 |
| 人件費 | 20〜30% | 清掃の外注費なども含めた数字。自社スタッフのみなら20%未満 |
| 水光熱費 | 5〜8% | 客室面積が小さいため低水準 |
| 送客手数料 | 8〜12% | OTA経由比率が高い |
| 修繕費 | 2〜4% | 標準化された設備で予測しやすい |
都市部ビジネスホテルは、人件費率が業態の中で最も低水準になります。自動チェックイン機・PMS・サイトコントローラーの組み合わせで、夜間フロント無人化や少人数オペレーションが実現できるからです。なお、ここで示した20〜30%という水準は、清掃の外注費や業務委託費まで含めて計算した場合の数字です。フロントや事務など、自社で雇っているスタッフの給与だけで見れば、20%を切るのが一般的です。
利益改善の打ち手
都市部ビジネスホテルの利益改善は、次の3つの軸で考えます。
- RevPAR最大化 ― レベニューマネジメントの精度向上、需要予測の高度化
- 省力化投資 ― 自動チェックイン機・スマートロック・PMS連携
- OTA戦略最適化 ― 直販比率向上、送客手数料の最適化
特に注意したいのは、OTA経由比率の高さです。OTA手数料は10〜15%が一般的で、OTA予約比率が半数を超える施設も珍しくありません。送客手数料が利益を圧迫するため、自社サイト・公式LINEなど直販チャネルの強化が重要となります。
注意点
都市部ビジネスで利益が出ない場合の典型原因
OTA依存度が高すぎる ― 送客手数料が10%を超え、利益を圧迫している。
省力化投資が遅れている ― 24時間有人フロント体制で人件費が膨らんでいる。
競合過多で価格競争に巻き込まれている ― ADRを上げられず利益が出ない。
省人化・無人運営という選択肢
都市部ビジネスホテルの利益率を語るうえで、近年無視できなくなっているのが省人化・無人運営という選択肢です。この業態は宿泊特化型でサービスがシンプルなため、5つの業態の中で最も無人化と相性が良いと言えます。
ここまで見てきたとおり、都市部ビジネスホテルの収益性は人件費をいかに抑えるかに大きく左右されます。セルフチェックイン機やスマートロックを活用した省人化は、この業態にとって有力な収益改善の打ち手になりえます。実際、人手不足と最低賃金の上昇を背景に、無人・省人型のホテルへの参入や転換が活発になっています。
ただし、無人ホテルは「業態」ではなく「運営手法」であり、初期投資・法令対応・集客面などに固有の論点があります。収益構造や運営モデル、参入のリスクについては、別の記事で詳しく解説していますので、参入や転換を検討されている方はあわせてご覧ください。
→ 都市部ビジネスホテルの構造を整理したら、次は最も特殊な収益構造を持つ温泉旅館に進みます。
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温泉旅館の収益構造 ― 1泊2食型の特殊性

1泊2食型の構造的な特徴
温泉旅館は、ホテル業態の中でも特に構造的に利益率が低くなりやすい業態です。理由は明確で、1泊2食の商品設計により食材費と人件費が嵩む構造になっているからです。
料飲売上比率は30〜50%と高く、その分、食材費と料飲オペレーションの人件費が利益を圧迫します。客室売上を一見高く見える宿泊料金で取っていても、その中の3〜4割は料飲コストで消えていく構造です。
食材費と人件費の業界目安
【図表C3-7】温泉旅館のコスト構造(目安・総売上ベース)
| 費目 | 売上比率 | 備考 |
|---|---|---|
| 食材原価 | 20〜25% | 夕食偏重のため高水準 |
| 人件費 | 30〜40% | 料飲・接客スタッフが多く必要。40%は高負担で要改善 |
| 水光熱費 | 8〜12% | 温泉・大浴場のエネルギーコスト |
| 送客手数料 | 8〜12% | OTA経由比率の上昇 |
| 修繕費 | 3〜5% | 和風建築・大浴場の維持コスト |
これらの数値はあくまで業界の一般的な目安です。重要なのは、自館の数値が業態平均と比較してどの位置にあるかです。例えば、食材原価率が30%を超えていれば、夕食偏重の見直しや原価管理の強化が必要なサインです。人件費についても、30%前後であれば標準的ですが、40%に達している場合は黒字化が難しい高負担の水準であり、業務効率化による改善が急務と考えてよいでしょう。
食材費の価値最大化
温泉旅館の食材費を考える際に重要なのが、夕食偏重主義の見直しです。お客様アンケートを見ると、夕食については「食べきれないほど出た」「大変豪華で満足した」という前向きな意見が多い一方で、朝食については「品数が少なかった」「夕食が豪華だっただけに残念だった」「食べられるものが少なかった」という不満が少なからずあります。
夕食は食材費の大半を使い、調理師が創意工夫することで満足度を高める努力を行っているものの、朝食に力を入れている旅館は多くありません。品揃えや演出がビジネスホテルの朝食水準にも及ばない旅館もあります。
少人数の中でやりくりしている状況で料理全体を見直していくことは大変ですが、夕食・朝食にかける食材費のバランスは見直すことが望ましいところです。朝食にかける食材費の割合はもともと少ないので、夕食の1品を減らすだけでも朝食にかけられる食材費は大幅に増やすことができます。夕食の量でお客様の不満が出ることを心配するくらいなら、地元食材を使った別注料理やオリジナルのドリンクをおすすめすればよいでしょう。
人件費の価値最大化
温泉旅館の人件費削減は、戦略なき削減ではなく、業務効率化と組み合わせて進める必要があります。
温泉旅館の現場でよく聞く声
「客室係を1人減らしたら、口コミ評価が下がってしまった(中規模旅館経営者)」
「宴会担当者を集約したら、宴会売上が落ち込んだ(老舗旅館支配人)」
「売店を無人化したいが、売上が下がらないか不安だ(地方旅館経営者)」
人件費効率化の打ち手として有効なのが、売店・バー・ラウンジ部門の運営見直しです。例えば、売店は旅館・ホテルそれぞれの客層構成や創意工夫によって売上が大きく異なります。売店売上は規模によって異なりますが、最低でも5%、可能であれば10%を目指したいところです。
十分な売上を獲得できていれば人員を常時配置しておくことは可能ですが、人件費に見合う売上が獲得できていない場合は悩ましい状況に陥ります。このような場合は、売店の場所をフロント近くに移動し、お客様が少ないときはフロント係がレジ係を兼任できるようにするとよいでしょう。チェックアウト時など商品が売りやすい時間帯には、反対に人員を多数動員してお客様への声掛けや試食販売を積極的に行い、売上獲得を図ります。
バー・ラウンジ部門の運営効率化も、検討対象です。一部の旅館を除いて、バー・ラウンジの利用率は低下傾向にあります。宴会担当者の声掛けによる2次会誘導によって回復が期待できればよいですが、団体客そのものが減少している場合にはその効果も限定的となります。このような状況下では、思い切って一般客向けのスペースに用途転換して人員を配置しないという選択肢もあります。
泊食分離の検討
インバウンドや個人客の比率を高めたい温泉旅館では、泊食分離型の料金体系を検討する価値があります。海外のお客様にとって1泊2食の押し付けは、滞在価値の選択肢を狭める要因になることがあります。
これまでの1泊2食プラン料金を見直さずに海外OTAやランドオペレーター向けのプランを追加すると、プランごとの料金・内容の逆転現象が起きたり、異常に高価格で競争力のないプランになったりすることがあるので注意したいところです。
利益改善の打ち手
温泉旅館の利益改善は、次の3つの軸で考えます。
- 食材費の最適化 ― 夕食偏重の見直し、別注料理の活用、原価管理の高度化
- 人件費の最適化 ― 売店・バー・ラウンジの運営見直し、業務効率化
- 客単価の向上 ― 露天風呂付き客室・スイートへの改装、付加価値投資
→ 温泉旅館の特殊性を整理したところで、次は最も複雑な収益構造を持つシティホテルに進みます。
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シティホテルの収益構造 ― 多角化のリスクと機会

シティホテルの収益の多角性
シティホテルは、宿泊・宴会・婚礼・レストランという複数の収益源を持つ業態です。客室売上だけでなく、宴会場・レストラン・宴会設備への投資も重要になります。業態の中では最も複雑な収益構造を持ち、経営判断の難易度も高くなります。
次の表で示す部門利益率は、各部門の売上から、食材原価などの直接原価と、その部門に直接かかる人件費を差し引いた後の水準です。宿泊部門の利益率が高く見えるのは、客室売上にかかる直接原価が小さいためですが、ここから本部の経費や減価償却費などを割り振ると、最終的な利益率はさらに下がります。
【図表C3-8】シティホテルの売上構成(目安)
| 売上区分 | 売上比率 | 部門利益率の目安(直接人件費を引いた後) |
|---|---|---|
| 宿泊 | 50〜70% | 60〜70% |
| 宴会(一般・法人) | 10〜20% | 40〜50% |
| 婚礼 | 5〜15% | 50〜60% |
| レストラン | 10〜20% | 30〜40% |
| その他(売店・物販等) | 0〜5% | 30〜40% |
部門別損益管理の重要性と落とし穴
シティホテルの利益管理で最重要なのが、部門別損益管理です。部門ごとに売上から営業利益・GOPまで算出することで、赤字部門・黒字部門が一目瞭然になります。
ただし、運用するにあたっては注意が必要です。旅館・ホテルは部門ごとの相互依存が高い業態です。シティホテルの場合、宿泊利用のお客様とレストラン利用のお客様は必ずしも同一ではないため、レストランの採算が悪ければ部門撤退という選択肢もありえます。
一方で、旅館やシティホテルでも同一のお客様が宿泊し館内利用をしてくださるケースが多い施設もあります。ある部門の採算が悪いからといって撤退してしまうと、他の部門の売上が減ってしまうという弊害が生じます。
縦割り組織体質の弊害
部門別管理の運用で、もう一つ気をつけたいのが縦割り組織体質の弊害です。自部門の売上・利益を優先し、他部門に対する配慮が欠如してしまうケースが起こります。縦割り体質の強いシティホテルは、売店やバー・カラオケの売上が伸び悩み苦戦することが多くあります。
こうした弊害を生じさせない工夫として、次の3つが有効です。
- 部門別損益計算書の作成は売上高・売上原価までとし、経費の配分は行わない
- 部門の売上高や利益だけでなく、顧客満足度や他部門への貢献も評価対象とする
- 使用目的を予算管理に限定し、撤退判断の唯一の根拠にしない
宴会セールス・サービス部門の効率化
最近はシティホテル業態だけでなく、旅館・ホテル業態でも一般宴会、披露宴、法事などに力を入れるようになってきましたが、業務効率が悪いために人件費がかかり、費用対効果が取れていないケースがあります。
受注段階での非効率の典型は、営業担当者の仕切りができていないことです。例えば、宴会場の利用可能時間をしっかりと伝えなかったために利用時間を過ぎてもお客様の引きが悪く、サービススタッフの残業手当やバス手配(日帰りの場合)の経費増につながるケースがあります。また、営業担当者が受注しやすいように、会場費や会場設備レンタル、席札作成の無料化、持込品(飲料等)の黙認をするケースもあります。過剰なサービスが常態化すると、手配部門のスタッフが多く必要となり人件費上昇の原因となります。
もし宴会部門に人がかかりすぎる、準備が大変だという課題を持っていたら、宴会1件1件について人件費も含めた実質的な収支を把握することをお勧めします。
婚礼事業の見直し
婚礼事業は、シティホテルの収益の柱の一つでしたが、近年の婚礼市場縮小・専門式場・ハウスウェディングの台頭により、収益性が悪化している施設が増えています。
婚礼KPI(婚礼組数・1組当たり人数・1組当たり単価・イベント来場者数・成約率)を月次で確認し、特に成約率の低下が見られる場合は、顧客の認知手段の変化、営業対応の質の低下、あるいはプラン内容の陳腐化などの原因を究明する必要があります。
利益改善の打ち手
- 部門別損益管理の高度化 ― 売上原価まで部門別、経費は全体管理
- 宴会セールスの仕切り強化 ― 過剰サービスの見直し、業務効率化
- 婚礼事業の見直し ― 縮小・撤退・他用途転換の判断
- 宴会場・婚礼施設の付加価値投資 ― 高単価対応への転換
→ シティホテルの複雑さを整理したところで、次は繁閑差が最大の特徴であるリゾートホテルに進みます。
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リゾートホテルの収益構造 ― 繁閑差への対応

リゾートホテルの最大の特徴 ― 繁閑差
リゾートホテルは、繁閑差が大きいことが最大の特徴です。夏休み・年末年始・GW・連休の繁忙期と平日の閑散期で、稼働率が3倍以上違うことも珍しくありません。この特徴が、リゾートホテルの収益管理を独特なものにしています。
繁閑差の大きさは、人員配置・施設運営・在庫管理のすべてに影響します。繁忙期に合わせて人員を抱えれば閑散期に大量の余剰人員が発生し、閑散期に合わせて削減すれば繁忙期のサービス品質が低下します。同様の問題が、レストラン・付帯施設・スパなどあらゆる部門で発生します。
コスト構造の特徴
【図表C3-9】リゾートホテルのコスト構造(目安)
| 費目 | 売上比率 | 備考 |
|---|---|---|
| 食材原価 | 20〜28% | オールインクルーシブ志向で上昇傾向 |
| 人件費 | 30〜40% | 清掃の外注費なども含めた数字。自社スタッフの給与だけなら低い |
| 水光熱費 | 10〜15% | 大規模施設・温水プール等で高水準 |
| 送客手数料 | 8〜12% | OTA経由比率が高い |
| 修繕費 | 3〜5% | 海岸・山岳の過酷な環境 |
損益分岐点稼働率の設計
リゾートホテルで最も重要な経営指標が、損益分岐点稼働率です。固定費を変動費で賄うために必要な最低稼働率を示す指標で、リゾートホテルの場合、この水準を年間を通じて維持できるかどうかが利益を左右します。
一般的なホテル・旅館の損益分岐点稼働率は50〜60%程度ですが、リゾートホテルは固定費が大きいため、70%前後と高くなる施設が多いところです。この水準を閑散期にも維持するのは現実的ではないため、繁忙期で年間の利益を確保するモデルが基本となります。
オールインクルーシブ移行の検討
近年、リゾートホテルで増えているのが、オールインクルーシブ(宿泊・食事・館内利用がすべて含まれた価格設定)への移行です。海外のリゾートで一般的なモデルで、滞在期間中の追加支出を気にせず楽しめることが顧客満足度に直結します。
日本のリゾートホテルがオールインクルーシブに移行する場合の課題は、客単価設定の難しさです。食事・ドリンク・館内アクティビティの利用量は顧客によって大きく異なるため、平均的な利用量を前提とした客単価設定が必要になります。
繁閑差を活かす販売戦略
リゾートホテルの繁閑差は、デメリットだけでなくメリットにも転換できます。繁忙期と閑散期で異なる顧客層をターゲットにすることで、両期間の収益を確保することが可能です。
- 繁忙期 ― ファミリー・グループ・ハイシーズン重視層を高単価で受け入れ
- 閑散期 ― ワーケーション・連泊長期滞在・シニア層を中・低単価で受け入れ
閑散期の販売戦略を持たない施設は、閑散期の稼働を諦めて休館したり、極端な値引きで稼働を作ろうとして利益を逸失したりします。閑散期の客層をあらかじめ設計しておくことで、年間を通じた安定収益が可能になります。
利益改善の打ち手
- 損益分岐点稼働率の精緻化 ― 固定費を変動費化する仕組みづくり
- 繁閑差を活かす客層設計 ― 繁忙期と閑散期で異なるターゲット設定
- オールインクルーシブの検討 ― 滞在型顧客への商品設計
- 省力化投資 ― 繁忙期の人員ピーク需要を抑える設備投資
→ リゾートホテルの繁閑差を整理したら、次は最後の業態である小規模宿・高級旅館に進みます。
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小規模宿・高級旅館の収益構造 ― 高単価戦略

小規模宿・高級旅館の特徴
客室数が10〜30室の小規模宿は、客室数が少ないため固定費吸収力に課題があります。1室あたりの固定費負担が大きく、客単価で勝負しないと採算が合いません。高級旅館も同様で、20〜50室の客室で高額の固定費を回収する必要があるため、徹底した高単価戦略が必須となります。
高単価戦略の核 ― ターゲット絞り込み
高単価を実現している施設は、ターゲット層が明確で、お客様が何を望んでいるかをよく研究しています。
例えば、都市部に住む高所得で意識の高い家族をターゲットにする場合、コンセプトとして求められるのは、エコフレンドリーな施設、オーガニックやローカルフード、健康やウェルネス、アクティブな活動、清潔で新しい客室、地域コミュニティとの連携などです。一方で、求められないものは、高価な調度品、時間のかかるコース料理、客室係の接遇などになります。
旅慣れていない、結婚前または結婚後間もない20代から30代初めのカップルをターゲットにする場合、求められるものは全く異なります。身近な味の料理、分かりやすい典型的なローカルフード、記念写真に適したパブリックスペース、館内の過ごし方の分かりやすさ、貸切風呂、気軽に楽しめるアクティビティなどが好まれます。
コスト構造の特徴
【図表C3-10】小規模宿・高級旅館のコスト構造(目安)
| 費目 | 売上比率 | 備考 |
|---|---|---|
| 食材原価 | 18〜25% | 客室売上比率が大のため抑えめ |
| 人件費 | 30〜45% | 清掃の外注費なども含めた数字。個別接客で高め |
| 水光熱費 | 8〜12% | 小規模だが温泉・大浴場あり |
| 送客手数料 | 5〜10% | 自社サイト比率向上の余地大 |
| 修繕費 | 3〜5% | 高グレード維持のため継続投資 |
高級旅館の食材原価率が18〜25%と相対的に低い水準にあるのは、客室売上比率が大きいためです。1室あたり10万円・15万円といった高単価設定では、客室売上が全体の70〜80%を占めるため、料飲売上の比率が下がり、結果として食材原価率が総売上比で低く見えます。
地域資源のストーリー化
高単価戦略を支える重要な要素が、地域資源のストーリー化です。地元の農家や漁業者、食品加工業者、菓子店など仕入れで関わりのある人々とのつながりやこだわりをストーリー化していくことが、価値創造の核となります。
可能ならば自社サイトで取引農家を写真付きで紹介したり、お品書きに記載したりするとよいでしょう。例えば、見た目は同じ椎茸であっても、すぐ近くの農家が昔ながらの自然栽培で育てたものを毎日料理に使っているというだけで、ストーリーとして紹介できます。
豪華な料理を出せばお客様が喜んでくれる時代は終わり、消費者が求めるのはモノの豊かさではなく、未知なる体験や社会や環境に配慮した行動です。地域資源のストーリー化は、この価値観の転換に応える戦略でもあります。
利益改善の打ち手
- 客単価の徹底向上 ― ターゲット絞り込み、コンセプト企画、ストーリー化
- リピート率向上 ― 会員制度、ロイヤリティマーケティング
- 直販比率向上 ― 自社サイト強化、SNS活用、口コミ評価向上
- 省力化投資の選別 ― 接客体験を損なわない範囲での効率化
→ 各業態の収益構造を見てきました。次章では、自館の利益率を業界水準と比較する診断手順を整理します。
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自館の利益率を業界水準と比較する診断手順

診断の5ステップ
自館の利益率を業界水準と比較する診断は、次の5ステップで進めます。
【図表C3-11】利益率診断の5ステップ
| ステップ | 実施内容 | 所要時間 |
|---|---|---|
| ステップ1 | 自館の業態を確定する | 30分 |
| ステップ2 | 直近3年分の損益計算書を整理する | 1〜2時間 |
| ステップ3 | 業界水準と比較するKPIを算出する | 2〜3時間 |
| ステップ4 | ギャップを特定し原因を仮説立てする | 半日 |
| ステップ5 | 改善の優先順位を決定する | 半日 |
ステップ1 ― 業態の確定
1章のセルフチェックで確認した業態を、ここで改めて確定します。複数の業態にまたがる施設の場合は、売上構成比が最大の業態を主軸として診断します。
ステップ2 ― 損益計算書の整理
直近3年分の損益計算書を、部門別・費目別に整理します。部門別損益管理を行っていない施設の場合、この機会に部門別の売上・売上原価まで切り出してみることをお勧めします。
整理の単位は、最低でも月次、可能であれば週次まで細分化できると分析の精度が高まります。年次データだけでは、月別の繁閑差や特定月の異常値を見逃すリスクがあります。
ステップ3 ― KPI算出
業界水準と比較するKPIは、次の指標を最低限算出します。
- GOP率 ― (売上 − 部門経費)÷ 売上
- 客室稼働率(OCC) ― 販売室数 ÷ 販売可能室数
- 客室平均単価(ADR) ― 客室売上 ÷ 販売室数
- RevPAR ― 客室売上 ÷ 販売可能室数(または OCC × ADR)
- 食材原価率 ― 食材費 ÷ 総売上
- 人件費率 ― 人件費 ÷ 総売上
- 水光熱費率 ― 水光熱費 ÷ 総売上
- 送客手数料率 ― 送客手数料 ÷ 総売上
ステップ4 ― ギャップ特定と原因仮説
業界水準とのギャップを特定し、原因を仮説立てします。ここで重要なのは、いきなり「対策」を考えるのではなく、まず「なぜギャップが生じているのか」を構造的に理解することです。
例えば、食材原価率が業界水準を5ポイント上回っている場合、原因の仮説として次のような可能性が考えられます。
- 夕食偏重で食材費が膨らんでいる ― 朝食・別注料理とのバランス見直し
- 仕入れルートが分散して交渉力が低い ― 仕入れ業者の集約
- ロスが多い ― 在庫管理・メニュー設計の見直し
- 客単価設定が低い ― 食材費を吸収できる価格設定への引き上げ
原因仮説は複数並列に立て、データで検証します。一つの仮説に飛びついて対策を打つと、的外れな施策で時間を浪費することになります。
ステップ5 ― 改善優先順位の決定
最後に、改善の優先順位を決定します。優先順位は、次の3つの軸で評価します。
改善優先順位を決める3つの軸
3つの軸でスコアリングし、上位3〜5項目から着手することをお勧めします。すべての課題に同時に取り組むのは現実的ではありません。優先順位を絞ることで、改善の確実性が高まります。
→ 診断手順を整理したところで、最後に業態を超えて共通する利益改善の原則を整理します。
進捗:第7章/全8章 ■■■■■■■□ 88%
ここまで読了:約17分 / 残り約1分
業態を超えて共通する利益改善の原則
共通原則1 ― RevPARの最大化
業態を問わず、RevPAR(販売可能客室1室あたりの売上)は最重要KPIです。RevPARはOCC(稼働率)とADR(平均単価)の積で表され、両方をバランスよく高めることが利益改善の基本となります。
OCCだけを追うと値引き競争に陥り、ADRだけを追うと販売機会を逸失します。業態に応じた最適なバランスを見極めることが、レベニューマネジメントの本質です。
共通原則2 ― 直販比率の向上
OTA手数料は10〜15%が一般的で、業態を問わず利益を直接圧迫します。自社サイト・公式LINE・会員制度などの直販チャネルを強化し、直販比率を高めることは、すべての業態で有効な打ち手です。
直販比率向上の鍵は、口コミ評価の維持・向上です。Googleや予約サイトでの評価が下がると、自社サイトへの流入も減少します。日々のサービス品質が、直販比率に直結する構造であることを認識しておきたいところです。
共通原則3 ― 部門別損益管理
部門別損益管理は、業態を問わず利益改善の基盤となります。ただし、部門別管理は予算管理と意思決定の補助ツールであって、撤退判断の唯一の根拠にはしないことが重要です。
特に旅館・ホテルは部門間の相互依存が高いため、ある部門の採算が悪いからといって撤退すると、他部門の売上が連鎖的に減るリスクがあります。総合的な判断が求められます。
共通原則4 ― 業務効率化と省力化投資
人件費比率は業態によって大きく異なりますが、業務効率化と省力化投資による改善余地は、どの業態にも存在します。動線分析・作業時間計測・システム導入などの基本的な手法を活用することで、サービス品質を維持しながら人件費を最適化できます。
共通原則5 ― 口コミ評価の維持・向上
口コミ点数は、もはや単なる評判ではありません。検索順位・予約転換率(CVR)に直結する経営指標です。わずか0.2ポイントの変動でもクリック率や予約成約率が大きく変わります。
口コミ点数と売上には1〜2ヶ月のタイムラグがあります。週単位でスコアを記録・分析し、変化の兆しを早期に察知することが、利益率の安定に直結します。
注意点
業態を超えた共通原則を踏まえた実践
RevPAR・直販比率・部門別損益・人件費効率・口コミ評価の5つを月次で必ず確認する習慣をつけましょう。
業態別の改善策と共通原則を組み合わせることで、改善の確実性が大幅に高まります。
経営者だけで判断せず、支配人・部門長と数値を共有して議論することをお勧めします。
→ ここまで業態別利益率について体系的に見てきました。続いて、よくある質問にお答えします。
進捗:第8章/全8章 ■■■■■■■■ 100%
完読おつかれさまでした。
よくある質問
本記事の内容に関連して、経営者や支配人の方々からよくいただく質問をまとめました。実務の参考にしていただければ幸いです。
Q自館の業態が複数にまたがる場合、どの業態をベンチマークにすればよいですか?
A売上構成比が最大の業態を主軸として診断することをお勧めします。例えば、宿泊売上が70%でレストラン売上が25%の施設なら、宿泊主体のホテルとして診断します。ただし、複数事業の特性が混在する場合は、それぞれの業態のKPIも参考にして総合的に判断してください。
Q業界水準のGOP30%を目指していますが、現状20%です。どこから改善すべきですか?
Aまず、業態を確定してください。温泉旅館ならGOP20%は業界水準内であり、改善余地はあるものの異常値ではありません。一方、都市部ビジネスホテルでGOP20%なら明らかに低水準です。業態を確定した上で、本記事7章の診断手順を実施し、ギャップが最大の費目から改善することをお勧めします。
Q食材原価率を業界水準まで下げたいのですが、品質低下が心配です。
A原価率の改善は、単なる食材費の削減ではなく、価値の最大化として取り組むべきです。例えば、夕食偏重を見直して朝食を充実させる、別注料理の単価を上げる、原価管理の精度を上げてロスを減らす、といった打ち手があります。品質を維持しながら原価率を改善する方法は必ず存在します。
Q人件費率が高いことが分かりましたが、人を減らすことに抵抗があります。
A人を減らすことだけが人件費効率化ではありません。本記事3章で紹介した売店・バー・ラウンジ部門の運営見直し、業務フローの改善、システム導入による効率化など、人員数を変えずに生産性を上げる手段が多くあります。退職時の不補充など自然減を活用することも有効です。
Q業態別の数値はあくまで目安とのことですが、自館の数値が目安から外れていても問題ありませんか?
A目安から外れていることが直ちに問題というわけではありません。例えば、独自の差別化戦略により業界水準より高い人件費率を許容している施設もあります。重要なのは、自館の数値がなぜそうなっているかを説明でき、その状態が事業戦略と整合しているかどうかです。
Q複数年で業界水準との比較を行っても、業界水準自体が変動しませんか?
A業界水準は緩やかに変動します。特に人件費率は最低賃金の上昇やインバウンド需要の変動により、過去5年で2〜3ポイント上昇している施設が多くあります。業界水準は固定値ではなく、自社業績との比較は最低でも年1回は更新してください。
Qコンサルタントに業界水準との比較診断を依頼するメリットは何ですか?
A業界水準の最新データへのアクセスと、複数施設の比較経験に基づく診断精度です。同じ数値でも、競合状況・立地・季節要因により解釈が異なります。専門家の関与により、自社内では気づきにくい構造的な課題を発見できます。
Q業態を変える(例:温泉旅館からシティホテル型へ)ことは現実的ですか?
Aハード設備の制約があるため、業態を完全に変えることは現実的ではないケースが多いものです。ただし、業態の中での重心を変える(例:1泊2食型から泊食分離型へ部分移行)ことは可能です。重心の移行には3〜5年の中期計画が必要であり、ハード・ソフト両面の整合性が重要です。
用語集 ― 経営指標に関する主な略称・専門用語
本記事に登場した略称・専門用語を、業界外の方にも分かるようにまとめました。自治体のご担当の方や、業界経験の浅い方は、必要に応じてご参照ください。
| 用語・略称 | 意味 |
|---|---|
| GOP | Gross Operating Profit。償却前営業利益。部門別損益から本部経費・減価償却費を差し引く前の利益で、純粋な運営効率を測る指標 |
| RevPAR | Revenue Per Available Room。販売可能な客室1室あたりの売上。OCC(稼働率)×ADR(平均単価)で算出し、稼働と単価を総合的に評価できる |
| ADR | Average Daily Rate。客室1室あたりの平均販売単価。客室売上を販売室数で割って求める |
| OCC | Occupancy Rate。客室稼働率。販売可能な客室数に対する販売実績の割合 |
| 食材原価率 | 食材費を総売上で割った比率。1泊2食型の温泉旅館では夕食偏重により高くなりやすい |
| 人件費率 | 人件費を総売上で割った比率。清掃外注費を含むか否かで水準が変わるため、内訳の確認が必要 |
| 部門別損益管理 | 宿泊・料飲・宴会など部門ごとに売上と原価・利益を把握する管理手法。撤退判断の唯一の根拠にはしないことが肝要 |
| 損益分岐点稼働率 | 固定費を賄うために必要な最低稼働率。固定費の大きいリゾートホテルでは70%前後と高くなりやすい |
| OTA・送客手数料 | OTA=Online Travel Agent(ネット予約サイト)。経由予約に対し10〜15%程度の送客手数料がかかり、利益を圧迫する |
| 泊食分離 | 宿泊と食事の料金を分けて販売する方式。インバウンドや個人客の選択肢を広げる一方、既存プランとの料金整合に注意が必要 |
| オールインクルーシブ | 宿泊・食事・館内利用の料金をすべて含めて提供する販売方式。リゾートホテルで採用が増えている |
さいごに ― 「正しい物差し」で自館を測る

いかがだったでしょうか。本記事では、5つの業態それぞれの収益構造と、利益率の見方を整理してきました。最後に、私がふだん経営者の方にお伝えしている考え方を一つだけ加えさせてください。利益率の数字そのものよりも、どの物差しで自館を測るかのほうが、はるかに重要だということです。
相談の現場でいちばん多く見かけるのは、自館とは収益構造の異なる業態や、海外チェーンの数値と自館を引き比べて、根拠なく落ち込んだり、逆に安心してしまったりするケースです。温泉旅館の経営者が、都市部ビジネスホテルのGOPと比べて「うちは利益率が低い」と悩む。これはほとんど意味のない比較です。1泊2食という商品設計を選んだ時点で、食材費と人件費が重くなることは構造的に決まっているからです。比べるべきは、同じ業態・同じ規模・同じ商品設計の宿であり、その中で自館がどの位置にいるかです。
もう一つお伝えしたいのは、業界の目安はあくまで出発点にすぎないということです。本記事で示した数値から外れていること自体は、問題ではありません。問題なのは、なぜその数字になっているのかを経営者が自分の言葉で説明できないことです。人件費率が業界水準より高いのは、接客の質を意図して厚くしているからなのか、それとも単に業務に無駄があるからなのか。同じ数字でも、意味はまったく違います。自館の数字に説明がつくかどうか。そこが、利益改善の本当の出発点になります。
相談の前に ― まず自分の手で確かめる3ステップ
ステップ1:自館の業態を確定する(所要時間:30分)
1章のセルフチェックで、自館が5業態のどれに最も近いかを見極めます。ここで選んだ業態が、比較すべきベンチマークの対象になります。
ステップ2:決算書からKPIを算出する(所要時間:2〜3時間)
直近3年分の損益計算書から、GOP率・人件費率・食材原価率・RevPARなどを算出します。年次だけでなく月次まで分けると、繁閑差や異常値が見えてきます。
ステップ3:同業態の目安と比べ、優先順位をつける(所要時間:半日)
本記事の業態別の目安と自館の数値を突き合わせ、ギャップの大きい費目から改善の優先順位をつけます。同じ業態・同じ規模と比べることが肝心です。
この三つを自分の手で進めてみると、相談の中身が一段と具体的になります。ギャップの解釈に迷ったところからご相談いただいて構いません。
アルファコンサルティングは、業態別の利益率診断、部門別損益管理の設計、利益改善計画の策定、業態の重心を移す際の中期計画づくりをお引き受けしています。メンバーは全員が宿泊施設の役員を経験しており、相談から実行まで担当が変わらないチーム制で進めます。これまでお引き受けした案件は通算四百六十件を超え、他社で断られた案件にも向き合ってきました。
私たちの立ち位置は、特定の金融機関・運営会社・建設会社と利害関係を持たない、独立した立場です。運営会社の紹介やコンペの企画も手がけますが、紹介手数料を主たる収益源にはしていません。だからこそ、業態のベンチマークをどう設定し、どの数字をどう読むかを、どの業者に都合がよいかではなく、依頼者にとって何が得かという基準で組み立てられます。青木は観光経済新聞で2009年から17年にわたってコラムを連載し、業界の構造変化と現場の実態の両方を見てきました。
ご相談の多い依頼
- 業態別利益率の診断 ― 5業態それぞれのベンチマークによる現状評価
- 部門別損益管理体制の構築 ― 縦割り組織の弊害を避ける運用設計
- 業界水準との比較分析 ― GOP・食材原価率・人件費率の客観評価
- 利益改善計画の策定 ― 5ステップ診断と改善優先順位の決定
- 1泊2食型旅館の収益構造改善 ― 食材費・人件費の価値最大化
- シティホテルの多角化マネジメント ― 宴会・婚礼・レストランの管理
- リゾートホテルの繁閑差対応 ― 損益分岐点稼働率の設計
- 業態転換の検討 ― 業態の重心移行に関する中期計画策定
ご相談から着手までの流れ
まずは現状の課題と、目指す宿の姿をうかがうところから始めます。業態・規模・財務状況・現在の経営状況を踏まえて、どこから手をつけるべきかの見立てをお返しします。ご相談は無料です(遠方の場合のみ、交通費を実費でいただきます)。
関わり方は、診断を中心に数か月で仕上げる形から、一年単位で経営判断のたびに相談を重ねる形まで、宿の状況に合わせて設計します。まずは一度、現状をお聞かせください。
「自館の利益率が業界水準でどの位置にあるか知りたい」「部門別の損益を整理したい」「業態の重心を移すべきか相談したい」——こうしたご相談をお受けしています。ご相談は無料です。
ご相談は無料/相談から実行まで同じ担当者が対応/全国対応