事業承継はホテル旅館の盛衰を決める重要なもの

数百年にわたって家業として代々受け継ぐことも珍しくないホテル旅館業において、事業承継は経営の盛衰を決める重要なものです。筆者は歴史ある旅館から有力ホテルチェーンまで様々なホテル旅館をお手伝いしてきましたが、歴史ある著名旅館やクラシックホテルであっても事業承継の失敗によって、あえなく衰退してしまうのは珍しい話ではありません。

 

ホテル旅館の経営者が幸せにリタイアするためには覚悟と知恵が必要

ホテル旅館の顔、地域の顔として活躍してきた経営者にとって、一線から退くのは容易なことではありません。自分は然るべき時に引退したいと思っていても、入念な準備と引退前後の知恵がないと、ズルズルと関与し続けることになります。自分自身も辛くなるばかりか、後継者にうまく引き継げないという問題が発生します。本コラムでは、注意したい事業承継のポイントを紹介しましょう。

 

先代経営者はあえて口出ししないようにしよう

息子や娘の可愛さゆえに後継者を子供扱いすることは事業承継の場面ではマイナスに作用します。事業承継すると決めて後継者に肩書を与えたら、一切口出ししないことを強くお勧めします。先代と後継者の指示にズレが生じた場合、従業員は習慣的に先代の言葉に耳を傾けることになります。後継者は信任を得られていないと自信喪失し、優柔不断な人材となってしまいます。

「うちの息子(娘)は大人しくてなかなか決められない」

と言う経営者は自分にその責任の一端があることを自覚すべきでしょう。

 

過去の成功体験を押し付けないようにしよう

過去の豊富な経験があれば正しい判断ができるというのは間違いです。「お客様に喜んでいただく」と言うホテル旅館の商売繁盛の原点は変わりませんが、集客や運営の手法、お客様の嗜好は大きく変化しました。
30年前の成功体験が現代に通じるとは限りません。むしろ、過去の成功体験に基づいて経営判断すると失敗につながります。

 

先代社長や大女将は現場での発言を控えよう

後継者が新任社長となって間もない時は、先代社長や大女将の発言や行動が改革の成否に影響を及ぼします。後継者に任せたと言っても、経営から完全に身を引くわけでもなく、旅館・ホテルに時折顔をみせることになります。幹部社員や現場スタッフに声をかけることもあるでしょう。その時の何気ない発言や態度が後継者の改革を腰折れさせてしまうリスクがあります。

もちろん、先代社長や大女将には何の悪気もありません。むしろ後継者に気を使いながらの発言でしょう。しかしながら、幹部社員や現場スタッフの受け止め方は異なります。経営者の真意はどこにあるのかと心根を探ってくるのです。後継者が改革に意欲的であっても、先代が「そこまでやらなくても…」と思っていると従業員に読み取られると改革はうまくいきません。会社を我が子のように育ててきた企業オーナーにとって、「子ばなれ」ならぬ「会社ばなれ」をするのは心情的に難しいことですが、区切りをつけていくことが大切でしょう。

 

金融問題解決のタイミングを狙おう

ほんの数年前までは、事業再生を目指す旅館・ホテルは、あえて事業承継を遅らせるという方針をとっていました。第二会社方式や直接放棄、民事再生等の再生スキームを使う場合に、後継者を役員登記していると同族間での承継が困難になったからです。現在ではそのようなスキームを使うケースは少なくなっているため、借入金の問題があるからといって事業承継を先送りにする必要はありません。むしろ、DDS(借入金の劣後化)などの、長期の約定弁済を前提とした金融支援を受ける場合には、後継者を中心とした将来の組織体制を明示していくことが必要でしょう。