老朽化したビジネスホテル・シティホテル・リゾートホテル・旅館の営業を続けるかどうかの決断で後悔しないためのポイント

こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。

世間から名門と言われるホテル・旅館であっても、宿を守っているオーナーやその後継者、親族の立場からすると悩みは絶えません。そのひとつが、建物の老朽化という問題です。

手入れやリニューアル投資を怠らなければ築50年を超えて営業することは可能ですが、いずれ限界がきます。加えて、古い躯体では商品力アップに限界があること、担保価値が低下することにより金融機関から融資を受けにくくなること、耐震性に問題があることなどから、同じ建物で永久に営業し続けることは不可能です。

そのために、莫大な借金を新たに背負ってでも営業を続けるか、自分の代でやめるか悩むことになります。今回は、老朽化したホテル・旅館のオーナーが取るべき指針について、ケース分けしながらお話ししたいと思います。

取るべき指針を決めるにあたって必要な情報は次の3点です。

  1. 「今後の業績見通し」
    今後10数年にわたって安定的に償却前利益(営業利益に減価償却費を足した金額)を獲得する見込みがあり、商品力維持に必要な設備投資、元利金の返済が行えるかどうか分析してみましょう。
  2. 「借入金残高」
    借入金に対するキャッシュフロー獲得能力の割合(債務償還年数)が、完済可能な範囲かどうか分析しましょう。要は、今の償却前営業利益で借入金を完済まで払いきることができるかということです。
  3. 「建物の耐用年数」
    商品価値を維持しながら、あと何年営業できるか分析してみましょう。一般的なホテル旅館の法定耐用年数は、鉄骨造29年、RC造39年です。手入れが行き届いていれば築50年以上でも営業可能ですが、潮風等により鉄筋が痛んでいると寿命が短くなります。

 

【1】業績不振で耐用年数内に借入完済できる見込みない

このような状況に陥っているならば、すぐにでも業績改善のために、あらゆる施策を行うことをお勧めします。すでに、あらゆる策を尽くしていながら、業績回復の兆しがなければ、金融機関や再生支援協議会等から元本減免(元本を減らしてもらうこと)等の支援を得るか、スポンサー企業の獲得に注力すべきでしょう。ホテル・旅館の経営者仲間に一旦買ってもらうのも選択肢のひとつです。赤字穴埋めのために、際限なく自分の財産を注ぎ込むのは賢明とは言えません。仮に廃業しても生活に困らないよう、今のうちから準備することをおすすめします。

 

【2】業績良好だが、耐用年数内に借入完済できる見込みない

この数年の観光業界の好況によって黒字化したものの、莫大な借入金を残存している耐用年数までに完済することが困難であるならば問題の先送りをしてはいけません。

金融機関や再生支援協議会に再生計画の蓋然性(実現可能な計画であること)について認めてもらい、金利減免や債務の劣後化(資本性ローン)、元本減免等の支援を得られるよう交渉しましょう。金融機関の担当者は本部・支店問わず問題を先送りにしがちです。自分が担当の時に面倒なことをやりたくないからです。何の対策もせず流されてしまうと、将来建物の老朽化が進んだ時に苦境に陥ります。今のうちに事業が永続できるための道筋をつけておくことが望ましいでしょう。

 

【3】業績良好で借入少ないが、耐用年数の限界が近い

このような状況にある旅館・ホテルの場合、選択肢は様々です。事業を継続するならば、既存の躯体を活かして大規模改装したり、更地から建て替えたりという選択肢があります。
事業を継続しないならば、業態転換を図ったり、第三者へ売却したりという選択肢を検討することになります。いずれの選択肢をとるにしても財務状況が激変するので慎重に判断しましょう。

大規模改装や建て替えするならば、借入が一気に増えることになります。これまでは、少ない返済と償却負担によって潤沢なキャシュフローを生み出すことができました。大規模投資後は売上げの数倍の借入れを20数年かけて返済していくことになるため、内部留保を思うように蓄積できなくなる可能性があります。長期間にわたって安定的な集客が見込める地域か、経営者本人や後継者の事業意欲が維持できるかよく検討しましょう

業態転換の具体的な選択肢として、旅館からビジネスホテルへの転換というのは昔から良くあるケースですが、立地や設備、客室の仕様が顧客ニーズにあったものかよく調査しましょう。大手チェーンのデザインや仕様をそのまま真似ても、集客に成功するとは限りません。また、一棟全体を旅館・ホテルにするのではなく、オフィス、商業テナント、クリニックなどを組み合わせた複合ビルの開発を検討してみるのも良いでしょう。

大規模改装や建て替え、業態転換、売却それぞれのメリット、デメリットを整理し、将来シミュレーションを作成した上で最終的にどの選択肢にするか判断すると良いでしょう

 

【4】業績良好で借入少ないが、事業承継までに耐用年数が到来する

現時点で建物の耐用年数に余裕があっても、次世代経営者が承継するまでに老朽化問題が発生する場合には、後継者の資質を見極めながら方針を決めましょう。

大規模改装や建て替えに伴う莫大な借入金は、後継者が返済していくことになります。本人に経営能力や意欲が乏しければ、精神的な負担が高まり余計な苦労をかけることになります。大規模投資を行うにしても、最小限度の額に留めたり、難易度の低い業態に切り替えたり、事業規模を縮小したりなどの工夫を行うことが望ましいでしょう。

後継者の事業意欲が旺盛であれば、投資プロジェクトの中心人物として参画してもらった方が良いでしょう。コンセプトやデザイン、運営方法は、世代によって嗜好が大きく異なります。先代の好みを踏襲した旅館・ホテルが将来のお客様に支持されるとは限りません。後継者の考えを頭ごなしに否定するのではなく、能力が発揮できるようサポートすることが望ましいでしょう。

大規模投資を行うタイミングは耐用年数だけで判断するのではなく、金融情勢を注視して決めましょう。現在は旅館・ホテルのマーケットが堅調に推移していることもあり、金融機関から借入れしやすい環境にありますが、この状況がいつまで続くとは限りません。実際に、平均稼働率の低下や不動産価格の高騰が見られた地域では融資が出にくくなっています。

将来投資したい時に融資が出ず、大規模改装や建て替えを断念せざるを得ない状況になる可能性があります。金融機関から良い融資条件で提案があれば、大規模投資を前倒ししても良いでしょう

今回のコラムはいかがでしたでしょうか。多少なりとも参考になれば幸いです。もっと知りたいことがあれば、問い合わせページで無料相談を申し込んでください。もちろん、押し売りは一切しませんのでご安心ください。