ホテル旅館の宿泊料金体系の見直しを考える経営者・運営者のための日本型泊食分離の進め方(前編)

みなさんこんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。ようやく秋の訪れを感じるような天気になってきましたね。夏の繁忙期の疲れが出てくる時期ですので、秋の行楽シーズンに備えて十分な休みをとっておきたいですよね。

さて、今回コラムでは「泊食分離」を話題にしたいと思います。訪日外国人観光客の増加に伴って、泊食分離を導入するホテル旅館が増えてきました。新規開業する施設の中には、素泊まりを基本としながらも高稼働を実現しているホテルがあります。

一方で、歴史ある日本旅館が泊食分離を行うのは、未だ抵抗感があるというのが実態でしょう。拙速に導入すると業績悪化につながるリスクもあります。今回コラムでは、日本旅館が泊食分離へスムーズに移行するための具体的ステップを解説したいと思います。

泊食分離に向くホテル旅館か見極めるためのチェックポイント

まず、皆さんの施設が泊食分離に向いているか次の4項目をチェックしましょう。

(α) 1室あたり宿泊人数は2名程度である
(b) 客室料金について正当な対価を得ている
 *目安として1泊2食料金で12,000円を下回る場合には、客室料金が満足に得られていない可能性があります
(c) 1室4名以上の団体受け入れが少ない
(d) 小人の売上構成が低い
 *小人の売上構成が高い場合、泊食分離によって売上減少する可能性があります
 

上記の条件を満たしているのであれば、客室料金(ルームチャージ)と夕朝食料金に分離した料金体系を作りやすいと言えます。

宿泊料金と夕朝食料金を分けてみる

次に、夕朝食料金と客室料金を具体的に算出してみましょう。具体的な計算例は下表を見てください。

tariff

(注)1室あたりの人数により、お一人様あたりの料金が変わります。食事付きの場合、こどもA、Bは大人と同様に1名と数え、こどもC、Dは0名と数えます。食事なしの場合、こどもA、B、Cは大人と同様に1名と数え、こどもDは0名と数えます。

夕朝食料金は、原価率が25%〜35%程度になるように調整すると良いでしょう。例えば、夕朝食の材料費に2,500円かかっているのであれば7,000円を夕朝食料金とします。

夕朝食料金は1泊2食料金の40%程度にすると良いでしょう。例えば、1泊2食18,000円、うち夕朝食料金7,000円と仮定すると、1泊2食料金に含まれる夕朝食料金の割合は40%程度です。

客室料金は、旅館の料金体系における1泊2食料金から夕朝食料金を除いた料金の平均を目安にすると良いでしょう。例えば、1泊2食大人1名20,000円、2名18,000、3名16,000円、うち夕朝食料金1人あたり7,000円と仮定すると、客室料金相当分は1名13,000円、2名24,000円、3名33,000円となります。この平均を求めると客室料金は23,000円程度となります(追加の布団料金を除き、宿泊人数に関係なく同一料金)。

泊食分離を導入する際の問題点

泊食分離を導入する際には、様々な問題が生じます。主な問題点と解決するためのポイントを解説しましょう。

(A)1名料金が割高になる

泊食分離した場合の客室料金は、宿泊人数に関わらず原則として同一料金となるため、1名利用の場合にはどうしても割高になってしまいます。この問題を解決するためには、割安に利用できる1名利用向けの客室を決めておくと良いでしょう。稼働状況により客室数が不足する日があれば、料金変更なくアップグレード対応すれば問題ありません。もちろん高ランクの客室に1名で宿泊したいというお客さまには正規の客室料金で販売すれば良いでしょう。

(B)小人料金の分だけ減収となる

泊食分離した場合、追加ベッド(ふとん)の利用がない小人からは宿泊料金を取ることができなくなります。小人の売上構成が高い旅館は減収となるリスクがあるので注意が必要でしょう。この問題を解決するためには、小人の夕朝食は別料金とする、プールなど付帯設備の料金を引き上げる、大人の宿泊料金を若干値上げするなどの対策を行うと良いでしょう。

(C)特別室利用者の顧客満足が得にくくなる

泊食分離すると、露天風呂付き客室の宿泊客に対して、低いランクの料理を出すケースも出てきます。原則論としては問題ないように思えますが、お客様にとっては「客室は良かったけど、食事は期待よりも良くなかった」という印象を持ちやすくなります。特別室利用者に対しては、一定ランク以上の料理から選んでもらうと良いでしょう。

(D)料飲部門の売上げが減少する

泊食分離を徹底しすぎて、夕朝食を注文しない宿泊客ばかりになると料飲部門の売上げが減少してしまいます。特に館周辺にレストランの多い旅館は注意しましょう。この問題を解決するためには、当初は素泊まり、朝食付きプランの販売数を限定すると良いでしょう。様子を見て問題なければ販売数を増やして行きましょう。

いかがだったでしょうか?皆さんの参考になれば幸いです。後編では料金体系のポイントや泊食分離の導入で成功するホテル旅館、失敗するホテル旅館について解説したいと思います。

 

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