「売上を上げよう」と動いているのに、なぜ利益が残らないのか。
値上げをし、OTAを増やし、プランを練り、口コミにも心を配る。それでも、手元の利益は思うように増えない。——そうしたお声を、これまで数多くうかがってきました。原因の多くは、努力の不足ではありません。売上を上げる施策に手を伸ばす前に、経営者が定めておくべき「方針」が抜け落ちていること。そこにあります。
自館は、規模からみてどう戦うのがふさわしいのか。どのお客様に絞り、何を手厚くし、何を控えるのか。立地から考えて、単価とおもてなしはどの水準が似合うのか。この方針が定まらないまま個々の施策に取り組むと、せっかくの労力も、成果として実らずに散ってしまいます。本記事ではまず、その経営判断の土台を整え、そのうえで現場で成果の出た25の打ち手をご紹介します(2026年最新版)。
この記事を読むとわかること
なぜ「売上を上げても、儲からない」のか
要点
売上が伸びても利益が残らないのは、施策が足りないからではありません。自館の規模・客層・立地に合った経営の方針が、定まっていないからです。
こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。全国のホテル・旅館のお手伝いをしてきた中で、最も多くいただくご相談のひとつが、「いろいろ手を打っているのに、利益が残らない」というものです。
これまで500件以上のホテル・旅館のご相談をお受けし、観光経済新聞では17年にわたりコラムを連載してまいりました。弊社の強みは、計画の策定からその実行まで、現場に伴走してご支援することです。本記事でも、その視点から、利益の残る経営の考え方をお伝えします。
ホテル旅館コンサルタント 青木 康弘
売上は、おおまかに「客室単価 × 稼働 + 館内での消費」で決まります。そこからコストを引いたものが、利益です。ですから施策は、この数字のどれを動かすためのものかを見定めて選ぶ必要があります。ところが実際には、「他館がやっているから」「流行っているから」という理由で施策に手を伸ばし、自館の方針と噛み合わないまま、労力だけがかさんでいく。そうした施設が、少なくありません。
ご相談を受けてきた中での私の所感ですが、利益の残る施設と、そうでない施設。両者を分けるのは、施策の数でも、新しさでもありません。「自館はどう歩むのか」という方針が、ご自身の中で定まっているかどうか。そこに尽きると感じています。方針さえ定まっていれば、限られた人手と資金を、本当に効く打ち手へ集中できるからです。
2026年のいま、特に意識したい3つの流れ
ひとつは需要の構造です。人口減少を背景に、国内の宿泊需要は中長期で緩やかに縮む一方、外国人のお客様は増え続ける見通しです。ふたつめは「数より質」。薄利多売・稼働重視から、単価を高め、付加価値で選ばれる経営へと、業界全体が舵を切っています。みっつめは「省人化」。深刻な人手不足と人件費の高まりのなか、人を増やすのではなく、仕組みやデジタルの力で少ない人数でも回る体制づくりが、利益を残す鍵になっています。
ただし、ここ数年の円安が、いつ反転するかは誰にも読めません。為替が動けば、インバウンドの勢いも、国内旅行とのバランスも変わります。だからこそ、ひとつの前提に固執しないこと。外国人のお客様と日本人のお客様、どちらにも応えられる柔軟さを保ちながら、移り変わりに応じて方針を機動的に切り替えられる体制を、整えておきたいところです。
以下ではまず、施策に取りかかる前に、経営者が定めておきたい3つの方針を整理します。そのうえで、25の打ち手を目的別にご紹介してまいります。
施策の前に、経営者が定める3つの方針
要点
規模・客層・立地。この3つの方針が、どの施策が効くかを決めます。同じ打ち手でも、方針が定まっているかどうかで、成果は大きく変わります。
売上アップの施策は、いわば個別の「打ち手」です。その打ち手を活かすも殺すも、土台にある方針次第。ここでは、多くの施設をお手伝いしてきた経験から、特に成果を分けると感じている3つの方針をお伝えします。
方針1 規模によって、勝ち筋はまったく違う
値上げや省人化の進め方は、施設の規模で大きく異なります。100室以上の大型館は、パブリックスペースや宴会場が広く、増改築を重ねてきたぶん、維持改修費や水道光熱費が重くのしかかります。ですから、ITやロボット、AIによる省人化を徹底し、そこで生まれたゆとりを待遇の改善に回して、優れた人材に長く働いていただく。これが定石です。
そして大型館は、稼働率よりも単価を大切にする販売方針が似合います。地域を代表する施設が安売りで近隣からお客様を奪えば、地域全体の相場を下げ、巡り巡って自館の足元を崩します。むしろ地域の相場を保ち、高めていく旗振り役を担うほうが、長い目で自館の利益を守ります。
一方、30室以下の小型館は、人員の体制が小さく、込み入った施策には向きません。だからこそ、お客様を絞り込むことが要になります。客層を絞らずに集めると、単価の安いグループ客に偏り、採算が崩れがちです。特定のお客様に深く愛され、熱心なファンになっていただくことに力を注げば、週休2日制や定休日による働きやすさの改善も、無理なく両立できます。
31〜99室の中型館は、3つの規模のなかでも、黒字を保つのに最も苦労する層です。家族経営では回りきらず、かといって生産性の高い組織にもなりきれていないことが多いためです。中型館の進む道は、地域の観光需要の流れで見定めます。需要が伸びる地域なら大型館のように省人化を、縮む地域なら思いきって規模を縮め(ダウンサイジング)、小型館としてお客様を絞り込む。それが現実的な選択になります。
図表1 規模別・とるべき方針の早見表
| 規模 | 主な課題 | とるべき方針 | 重心 |
|---|---|---|---|
| 大型館 100室以上 | 維持改修費・水道光熱費が重い | 省人化を徹底し、地域相場のリーダーとして高単価を守る | 単価重視 |
| 中型館 31〜99室 | 業務効率が低く、黒字化に最も苦労 | 需要が伸びる地域は省人化、縮む地域はダウンサイジング | 地域次第 |
| 小型館 30室以下 | 人員体制が小さく、複雑な施策は難しい | 客層を絞り、熱心なファンを獲得。省力化と両立 | 客層を絞る |
※「重心」は、稼働率と単価のどちらを優先するかの目安。
図表2 規模別の黒字率(公式統計より)
| 大型館(100室以上) | 中型館(31〜99室) | 小型館(30室以下) |
|---|---|---|
| 85.7% | 63.2% | 72.7% |
出典:日本旅館協会「令和7年度 営業状況等統計調査」。全体の黒字率は70.9%。
数字が示すとおり、最も黒字化に苦労しているのは中型館です。大型館のような徹底した省人化も、小型館のような小回りも利きにくい、中間の難しさがここに表れています。自館がどの規模に位置するかで、とるべき道は変わります。まずはこの早見表で、自館の進む方向に当たりをつけてみてください。
もうひとつ、規模を考えるうえで心に留めておきたいことがあります。同じ規模でも、安く多く売る路線と、価値を高めて単価で稼ぐ路線とでは、残る利益がまるで違うという事実です。たとえば中規模館では、料金を下げて稼働を無理に上げるよりも、商品力を磨いて単価を引き上げるほうが、返済を終えてなお利益が残りやすい。私が数多くの収支を見てきた実感としても、安売りで台数を追う道は、人手も経費もかさむわりに利益が薄く、長くは続きません。
方針2 「手をかけないところ」を決めると、単価は上がる
高い単価を実現している施設は、お客様の像がはっきりしていて、その方が何を望んでいるかを、よく見ています。そして、お客様が望まれることには惜しみなく力を注ぎ、望まれないことには、思いきって手をかけません。
たとえば、都市部に暮らす意識の高い子育て家族には、オーガニックやウェルネス、清潔で新しい客室が響きます。その一方で、時間のかかるコース料理や、過剰な客室係の接遇は、むしろ望まれません。お子さま連れには、長い食事の時間が負担になるからです。旅慣れていない若いカップルなら、本格的な和食のコースよりも、写真に残したくなる空間や貸切風呂、気軽に楽しめる体験が喜ばれます。
すべてを平均点に整えようとすると、かえって費用がかさみ、自館の強みはぼやけてしまいます。お客様を定め、力の入れどころと控えどころにメリハリをつける。それが、ご満足と利益率を同時に高める近道です。余計な設備投資や経費を抑えられる点でも、利益に効いてまいります。
方針3 立地が、単価とおもてなしの基準を決める
高単価の路線を追うか、手頃な価格の路線をとるか。人の手をかけたフルサービスを守るか、省力化へ進むか。こうした判断は、自館の立地(商圏)から考えるのが筋です。流行や、競合への対抗心で安易に決めると、思わぬつまずきを招きます。
手頃な価格の路線にも、「良い低単価」と「良くない低単価」があります。良い低単価とは、質の良いサービスを求める幅広いお客様に向けて、コストの構造を整えたうえで、求めやすい料金を設けること。抜本的な省力化・省人化が伴えば、安定した稼働とリピートが見込めます。良くない低単価とは、コストを賄えず、投資の資金も残らない水準での、無計画な安売りです。閑散期に相場が大きく崩れる温泉地が、これに当たります。
手頃な価格の路線が有効かどうかは、商圏で決まります。大都市圏の、所得の高いエリアを商圏とするなら、安易な安売りは禁物です。地域全体で価値あるおもてなしと、ふさわしい料金を保つべきでしょう。逆に、商圏に所得の高いエリアがない、あるいは自館との間に競争力のある温泉地があるなら、低単価の路線も有効です。真の競争相手は、近隣の施設ではなく、ほかの温泉地。そう捉えることが大切です。
おもてなしの基準もまた、立地が左右します。所得水準の高い大都市圏を商圏とする温泉地は、好待遇で都会から優れた人材を集められ、人の手による細やかなおもてなしを売りにできます。一方、人材の確保が難しい地域では、おもてなしの基準そのものを見直す必要があります。目安として、売上に対する人件費(派遣・外注を含む)の割合が36%を超えるなら、おもてなしのあり方を見直す頃合いです。旅館のあるべき姿に縛られず、お出迎えやお料理を運ぶひとときなど、お客様の期待が高く、付加価値につながる場面に人を厚く配する。そうした選択を考えたいところです。
規模・客層・立地という3つの方針が定まれば、
いよいよ、具体的な打ち手です。次章からは、25の施策を目的別にご紹介します。
料金・単価を最適化する
この章の要点
料金カレンダーと販売促進を需要に合わせて設計し、高需要日の取りこぼしと低需要日の安売りをなくします。
とりわけ、単価を重視する大型館や、価値を高めて高単価を目指す施設にとって、ここは最初に着手したい領域です。需要に合わせて料金を整えるだけで、取りこぼしていた利益が見えてきます。


365日の料金カレンダーを見直す
多くのホテル・旅館の料金カレンダーは、平日料金から特定日料金まで6段階程度で設定されています。ネット予約が主流の今も、昔の旅行代理店パンフレットの考え方を引きずったままのことが多く、実際の需要に合っていないケースが目立ちます。「週末はすぐ埋まるが平日はガラガラ」「平日でも月によって稼働に大きな差がある」なら、見直しの余地があります。
まず、過去2年程度の毎日の部屋タイプ別の客室稼働率と宿泊単価をエクセルで整理します。そのうえで、①月や週で平日の稼働に差はないか、②曜日で差はないか、③休前日・祝日の稼働が高すぎないか、④部屋タイプで差はないか、を点検します。
稼働の高い時期・曜日は値上げ、低いところは値下げが基本です。たとえば年間平均稼働が60%で、3月の平日が80%、6月が40%なら、3月は上げ、6月は下げる。休前日・祝日の稼働が高すぎる場合は、値上げが顧客満足(混雑緩和)と収益の両方を改善します。逆に低需要日で過度に強気な料金は、機会損失を生みます。露天風呂付き客室と一般客室は客層も予約の入り方も違うので、料金カレンダーは分けて作るのが有効です。
なお、料金設計をさらに体系的に行いたい場合は、別記事「レベニューマネジメント完全ガイド」で、需要予測やダイナミックプライシングの考え方を詳しく解説しています。
販売促進カレンダーを作る
販促の成否を分けるのは、優秀な営業マンの有無ではありません。各部門が協力して、段取りよく準備できる仕組みがあるかです。そこで役立つのが「販売促進カレンダー」です。
まず年間を52週に分け、地域の行事・催事と観光入込客数、自館の宿泊・日帰り客数を並べます。すると、①地域行事に比例して高稼働の週、②地域行事がある割に低稼働の週、③地域行事がなくても高稼働の週、④地域行事がなく低稼働の週、に分けられます。販促で底上げを狙うのは、②と④です。
シーズンやイベントの告知・プラン販売が後手に回りがちなら、各部門の役割を決め、1週間単位の締め切りを設定します。たとえば夏休みプランを5月中旬販売開始とするなら、準備は4月末完了が理想。そこから逆算して、リリース・写真撮影・料理試作・予算案・参画エージェント決定・プラン作成などの締め切りを置いていきます。
料金と販促で需要を取りこぼさない土台ができたら、
次は空室を埋める「稼働と営業力」です。
稼働を埋める・営業力を高める
この章の要点
体験プランで需要を作り、営業活動を見える化・効率化して、空室を埋める力を高めます。
需要を自ら作り出すこの章の打ち手は、地域の需要が読みにくい中型館や、特定の客層を深く狙う小型館で、とくに力を発揮します。
体験型プランを企画・販売する
館内や周辺観光地に強力な集客源がないなら、体験型プランの立案がおすすめです。近隣の観光施設や陶芸家・工芸家・職人・料理人とのタイアップ、または自社スタッフ主導の企画を準備します。
ポイントは、タイアップ先にお客様を紹介して手数料をもらうより、自館にアクティビティ用のブースを設け、インストラクターに来てもらう方が、売上・利益アップの効果が高いことです。体験は、宿泊単価とは別の収益源になり、滞在の満足度も高めます。インバウンドや高付加価値層を狙ううえでも、体験は強力な差別化になります。
営業所の活動を「見える化」する
営業所を構えているのに、営業マンの行動実態がつかめない、成果が見えない、という課題があるなら、組織的に営業活動を管理する仕組みを整えましょう。具体的には、営業日報のフォーマットと報告形式の見直し、行動目標・実績の数値管理、インセンティブ制度の見直しです。
「誰が・どこに・何件・どんな目的で」訪問し、どんな成果につながったかを数値で追えるようにすると、属人的だった営業が組織の力になります。
業務の棚卸しで営業時間を増やす
営業マンがフロントやドライバー、内務を兼任し、肝心の営業活動の時間が削られている——中小規模では、よくある悩みです。
解決の第一歩は、営業マン一人ひとりの仕事を棚卸しすることです。1週間のスケジュールを詳細に調べ、どの仕事に何分使っているかを把握します。必要以上に時間をかけている業務には作業時間の目標を設け、パート・アルバイトでもできる仕事は分担を変える。他部署のヘルプは、営業活動より重要かを問い直します。これは営業に限らず、全部門の生産性を見直す出発点になります。
ここまでの打ち手を、自館にどう当てはめればよいか。現状の数値を分析し、効果の高い順にご提案します。まずは気軽にご相談ください。
売上・利益アップについて相談する宿泊そのものの売上に手を打ったら、
次は「館内でいくら使っていただくか」です。
館内消費(客単価)を増やす
この章の要点
宿泊料金以外に、売店・飲料・館内施設での消費を増やし、一人あたりの総消費単価を引き上げます。免税・多言語・キャッシュレスなどのインバウンド対応も、客単価を押し上げます。
客室単価とは別の収益源を育てるこの章は、規模を問わず効きますが、客層を絞り込んだ施設ほど、その客層に響く一品を用意しやすく、成果に結びつきます。


館内消費を考えるうえで、いまはインバウンドの客単価の高さを見逃せません。客室代をはるかに上回る伝統工芸品や地酒を買う外国人客も珍しくありません。免税対応、多言語のPOPやメニュー、キャッシュレス決済を整えるだけで、館内消費は大きく変わります。以下の施策も、インバウンドを意識して設計すると効果が高まります。
売店でタイムセールを実施する
「売店は団体客が来ないと売れない」は思い込みです。個人客向けの施設でも、売店売上を増やす方法はあります。最も効果が出やすいのがタイムセールです。「朝7時から10時まで指定商品を5%オフ」「3,000円以上で特別な商品プレゼント」などが効きます。
告知は、チェックイン時のクーポン配布、大浴場やエレベーター内のPOP、朝食終了時のスタッフからの案内、売店脇でのコーヒー無料サービスなどが効果的です。手間が小さく、すぐ試せる施策です。
別注飲料の販売を強化する
夕食会場や宴会場での飲料セールスは、取り組みの差が売上に表れやすい分野です。メニュー名と価格をラミネートしただけの館もあれば、地元名産の酒の由来や製法を魅力的にまとめたブックレットを渡す館もあります。
メニューの構成、メニューブックのデザイン、ホールスタッフの声かけを改善するだけで、飲料売上は大きく変わります。原価率の低い飲料は、利益への貢献度も高い項目です。
「こまめに課金できる仕組み」で客単価を積み上げる
館内消費を増やすうえで効果が大きいのが、少額の追加料金を、気持ちよく払ってもらえる仕組みを設計することです。私が再生に関わったあるレジャー施設では、1日利用券を持つお客様にも、同じアクティビティの2回目以降やレンタル品に数百円の追加料金を設定していました。100円単位の細かな課金は、お客様の心象を損ねずに、確実に客単価を押し上げます。
宿でも同じ発想が使えます。貸切風呂や個室での特別な朝食、レイトチェックアウト、こだわりの一杯やデザートといったサービスを、「定価に含める」のではなく「選べる有料オプション」として切り出すのです。一律の値上げは抵抗を生みますが、価値を感じた人だけが追加で払う仕組みなら、満足度を保ったまま単価を積み上げられます。どのサービスを有料にし、いくらに設定するかは、客層と提供価値を見ながら丁寧に設計するとよいでしょう。
館内のキャッシュポイントを増やす
館内で稼働の低いスペースを活用し、宿泊・料飲・売店以外の「お金を使う場所(キャッシュポイント)」を増やします。ビジネス客のリピートが多いなら、ラウンジに有料のコワーキングスペースを設けるのも一案です。間仕切り個室、無料コーヒー、座り心地のよい椅子、複合機などを備えれば、時間貸しも可能になります。
連泊利用が多ければコインランドリーを設け、大物洗いや靴用の洗濯乾燥機を置くと、特にインバウンドの個人客の総消費単価アップにつながります。遊んでいた空間を、収益を生む場所に変える発想です。
売上側の打ち手を見たので、
ここからは利益を残すための「コスト・生産性」です。
コスト・生産性を改善する
この章の要点
料理の質やサービスを落とさずに、原価・人件費・経費を引き締め、利益率を高めます。
維持費の重い大型館はもちろん、黒字化に苦労する中型館にとって、ここは利益を残すための生命線です。売上を落とさずに筋肉質な体質へ整えます。


1人1品あたりの食材原価を出す
調理スタッフに「原価を下げて」と指示すると、食材のグレードを安易に落としがちです。原価が下がっても、料理の口コミ評価や売上が落ちては逆効果です。料理の質を保ったまま原価を下げたいなら、「1人あたり1品あたりの食材原価」を把握することです。必要以上に原価をかけているメニューを、ピンポイントで特定できます。
たとえば年間6万人が宿泊する旅館で、あるメニューの原価を50円下げられれば、年間300万円の原価削減になります。さらに体系的に管理するなら、料理ランク別の標準原価を決め、献立変更時に基準を下回るか事前に確認する仕組みが有効です。調理長自身に毎週の原価率を集計・報告してもらうと、原価意識が現場に根づきます。
部署別の適正人数を把握する
人件費やスタッフ数は同業他館並みかそれ以上なのに、現場から「人手不足」の声が上がる——そんなときは、部署別の適正人数を把握しましょう。スタッフ一人ひとりの業務内容・所要時間・持ち場が分かるタイムテーブル表を作り、部署ごと・時間帯ごとの繁閑を可視化します。
すると、忙しくて不満の出る時間帯は一瞬で、それ以外は人員が余っている実態が見えてきます。人件費は、増やす前に「配置の最適化」で解決できることが多いのです。人件費率は黒字と赤字を分ける重要な指標で、一般に40%を超えると利益が出にくくなります。
不採算部門の営業時間を縮小する
不採算になりがちな和食処・スナック・カラオケ・ゲームコーナーは、思い切って営業時間を短縮しましょう。特に夕朝食の接客スタッフが足りない館は、スタッフを分散させるより、夕朝食会場に人材を集中させ、口コミ評価の向上に注力する方が得策です。
年間を通じて利用が少ないなら、団体向けの予約制にするか、個人客向けにチェックイン後や夕食後に過ごせる空間へ改装した方が、利益につながります。
食事提供スタイルとシフトを、繁閑に合わせて最適化する
人件費は、増やす前に「ムダな時間帯をなくす」ことから見直せます。コツは、日々の売上・宿泊者数と、投入した労働時間が比例しているかを確認することです。入込みの少ない平日と、多い土日・休前日とで投入人数に大きな差がない、あるいは繁忙日に公休を取るスタッフが多い、といった状態なら、シフトに改善の余地があります。
食事の提供スタイルも、いまの実情に合わせて見直しましょう。かつて旅館の主流だった部屋出しは、人手の制約からレストラン・会場提供へ移る施設が大半になりました。ただし、どの提供スタイルが正解かは、目指す路線で変わります。省人化を重視するなら会場提供への集約が合理的ですが、高付加価値・上質路線なら、部屋食や個室会食のプライベート感はむしろ高単価で選ばれる売りになります。一律に効率を追うのではなく、客層と単価に見合うスタイルを選ぶことが、満足度と生産性を両立させる鍵です。
休館日を設ける
休館日を設けると、フロント・予約・調理・料飲スタッフの交代要員を減らせ、人件費の削減と労働環境の改善につながります。週休2日制や定休日は、優秀な人材の定着にも効きます。
ただし注意したいのは、「予約が入らない日を休館にする」という消極的な発想は避けることです。まずは償却後で営業黒字を確保できるよう集客に取り組むのが先決で、その上で計画的に休館日を設計します。
上げ膳・下げ膳の動線を短縮する
厨房から食事会場、洗い場までの動線を短縮すると、人件費削減につながります。この取り組みは、社長や女将が主導した方がうまくいきます。ベテランスタッフほど非効率な動線に慣れてしまい、客観的な視点での改革が難しくなるからです。
飲料を作るパントリーも同様です。グラス・製氷機・サーバー・シンクの配置を見直すと、飲料提供の時間が短くなり、人件費が下がるだけでなく売上も伸びます。作るのが面倒だと、スタッフは飲料を積極的にすすめなくなるからです。
自館のコスト構造のどこに、どれだけ改善の余地があるのか。現状の数値を分析し、優先順位をつけてご提案します。
売上・利益アップについて相談する売上とコストに手を打ったら、
最後はそれらすべての土台となる「口コミ・顧客満足」です。
口コミ・顧客満足を高める
この章の要点
口コミと顧客満足は、単価・稼働・リピートのすべてを支える土台です。費用をかけずに評価を上げる施策から取り組みます。
費用をかけずに評価を上げられるこの章は、すべての施設の土台です。とくに客層を絞る小型館では、熱心なファンを生む口コミが、何よりの集客力になります。


朝食メニューをリニューアルする
夕食の評価は高いのに朝食がいまひとつなら、朝食メニューのリニューアルは、お金をかけず少しの努力で口コミ評価を上げられる施策です。客室・大浴場・夕食の評価を上げるには高額の投資が要りますが、朝食は違います。
ライブ感があり、お客様自身で味を調整できる出汁茶漬け・おにぎり・サンドウィッチ・麺・玉子料理などが、口コミ評価アップに即効性のある定番です。思い切って郷土料理のバイキングに切り替えるのも有効。専用会場がなくても、演出を工夫すれば高評価は狙えます。
客室を部分的にリニューアルする
数億円規模の全面改装が難しいなら、部分的な客室リニューアルを検討します。ただし、無計画に設計事務所へ丸投げするのは禁物です。
リニューアルで狙う顧客ターゲット、想定料金、競合との優位性、販売手段、ブランディングを具体化してから相談すること。これらが曖昧なまま設計を進めると、お金をかけたのに成果が出ない改装になりがちです。投資の前に、別記事「事業計画の作り方」で収支の見通しを立てることをおすすめします。
ラウンジでチェックインする
お出迎えやフロント応対は、宿泊全体の満足度を大きく左右します。昔ながらのカウンター対面ではなく、ラウンジのテーブルに案内し、着席しながらチェックインすると、口コミ評価を高めやすくなります。
フロントスタッフからは「面倒だ」と反対が出るかもしれませんが、単価の高い個人客がターゲットなら、ぜひ試したい施策です。さらに進めて、客室に直接案内し、抹茶と茶菓子を出しながらチェックインすれば、満足度はいっそう高まります。
定期的な客室点検(インスペクション)を行う
客室清掃を委託業者に任せきりにすると、清掃スタッフが過剰に派遣されて経費がかさむうえ、清掃不備によるクレームも起きやすくなります。客室点検は自社スタッフで行った方がよいでしょう。
クレームが出たときだけ対症療法的に動くのではなく、チェックシートを作って抜き打ち検査を行い、業者へ日頃から改善指導する体制を整えます。清潔感の欠如は、料理やサービスが良くても評価を一気に下げる引き金になります。
清掃手順をマニュアル化する
客室の洗面台・ゴミ箱・冷蔵庫に前泊客の痕跡が残っていれば、それだけでクレームになります。清掃手順をマニュアル化し、スタッフに徹底すると、口コミは大きく改善します。
コツは、効率よく動くスタッフを基準にマニュアルを作ることです。そうすれば、不備の撲滅だけでなく、1室あたりの清掃時間の短縮にもつながり、コスト改善と評価向上を同時に実現できます。さらに口コミの件数や評価そのものを増やす方法は、別記事「口コミの増やし方」で解説しています。
ここまでの施策を支える、いまの最重要テーマがあります。
「AI・省人化」です。
AI・省人化で人手不足に対応する
この章の要点
人を増やすのではなく、デジタルの力で少ない人数でも回る体制をつくります。人手不足と人件費高騰が深刻な今、最も優先度の高いテーマです。
人手の制約が重い大型館・中型館にとって、省人化は避けて通れません。小型館でも、定型業務を仕組みに任せれば、おもてなしに人を集中させられます。


ここまでの施策の多くは、人手があってこそ成り立ちます。しかし、いまの宿泊業の最大の経営課題は、深刻な人手不足と人件費の高騰です。人を増やして売上を伸ばす時代から、少ない人数でいかに利益を残すかの時代に変わりました。だからこそ、AIや自動化を活用した省人化は、後回しにできない最優先テーマです。国も後押ししており、AIチェックイン機・清掃ロボット・配膳ロボット・PMS(宿泊管理システム)などの省力化投資には、補助金が用意されています。
PMSは「他システムと連携しやすいもの」へ切り替える
いまやPMS(宿泊管理システム)はほとんどの施設が導入済みです。問題はむしろ、古いシステムや、最新でないシステムを使い続けているために、かえって不具合や非効率を招いているケースです。昔から使っているからと惰性で続けるのではなく、新しいシステムへの切り替えを前向きに検討しましょう。
切り替えで最も重視したいのが、予約サイト(OTA)・サイトコントローラー・決済・顧客管理など、他のシステムと連携しやすいかという点です。理由は単純で、システム間の連携がうまく取れないと、その間を人の手作業で埋めることになり、せっかくの省力化が台無しになるからです。たとえばPMSとサイトコントローラーが連携していなければ、各予約サイトの在庫や料金を一つひとつ手で更新し続けることになります。導入済みかどうかではなく、「連携のしやすさ」でシステムを選び直すことが、結果的に最大の省力化につながります。
チェックイン・チェックアウトを自動化する
フロント業務は、人手と時間を最も使う持ち場のひとつです。自動チェックイン機やスマートロックを導入すると、フロントの省人化が一気に進みます。QRコードや顔認証での入室、混雑時間帯の行列解消など、効果は大きいものです。
ポイントは、省人化を「サービスの低下」にしないことです。機械化で生まれた時間を、ウェルカムドリンクや丁寧な案内など、人にしかできない応対に振り向ける。多言語対応の端末はインバウンド客にも喜ばれ、評価向上にもつながります。なお、2025年の旅館業法改正で、自動チェックイン機による本人確認の要件も整理されています。
予約からチェックイン後まで、問い合わせ対応を合理化する
電話やメールでの予約・問い合わせ対応に、想像以上の時間が取られていることがあります。予約エンジン(自社サイトから直接予約を受ける仕組み)やチャットボット、AIによる問い合わせ対応を入れると、この負担を減らせます。自社サイトからの直接予約が増えれば、OTAに払う手数料(一般に宿泊料金の10〜15%)の削減にもつながります。
効率化の余地は、予約時だけではありません。チェックイン後の館内対応こそ、合理化の効果が大きい領域です。客室の備品補充や館内案内、レストランの予約、アメニティの追加といった依頼は、客室のQRコードやタブレット、チャットで受けられるようにするとよいでしょう。フロントへの電話や問い合わせが、大きく減ります。多言語で対応できればインバウンド客にも喜ばれ、スタッフは付加価値の高い接客に時間を回せます。予約からチェックイン後まで、一連の対応を仕組みで合理化することが、省人化とコスト削減を同時に実現します。
配膳・清掃などの定型業務を省力化する
配膳ロボットや清掃ロボット、食器の自動下げ膳、リネンの自動化など、定型的で負荷の大きい業務を機械に任せる取り組みも広がっています。特に、上げ膳・下げ膳(施策15)や清掃(施策19・20)は、省力化機器との相性がよい領域です。
導入には初期投資がかかりますが、観光庁の人材不足対策の補助金(1施設あたり数百万円規模)など、活用できる支援制度があります。投資の前に、回収年数を含めた費用対効果を見極めることをおすすめします。
データで顧客を管理し、リピートにつなげる
省人化は、守りだけの取り組みではありません。顧客データを活用すれば、攻めの売上アップにもつながります。PMSやCRM(顧客管理システム)には、「誰が・どこから・どの経路で・いくら使ったか」が蓄積されています。これを分析すると、ターゲット客層が明確になり、効果的な商品づくりや販促ができます。
単に利用回数でスタンプを押すだけのポイントカードでは、個人が特定できず、打ち手につながりません。利用履歴がデータとして蓄積され、客層や利用状況を把握できる仕組みに見直すことで、効率的な販促とリピート促進が可能になります。
25の施策を見てきました。
最後に、これらに取り組む「順番」について触れておきます。
どの施策から取り組むか
25の打ち手をご紹介してきました。最後に、取り組む順番について触れておきます。すべてを一度に進める必要はありません。効果が高く、手間の小さいものから着手するのが基本です。
まず取りかかりたいのは、費用をかけずに評価を上げられる施策です。朝食のリニューアル(施策16)、清掃手順のマニュアル化(施策20)、売店のタイムセール(施策6)などは、大きな投資を伴わず、比較的すぐに成果が見えます。
並行して進めたいのが、いまの環境で最も優先度の高いAI・省人化(第7章)です。人手不足と人件費の高騰が続くなか、ここへの着手が遅れるほど、利益を残すのが難しくなります。補助金が活用できるうちに、費用対効果の高いものから検討するとよいでしょう。
そのうえで、料金設計(第2章)やコスト構造の見直し(第5章)といった、腰を据えて取り組む施策へと広げていきます。いずれも、第1章で定めた規模・客層・立地の方針に照らして、自館に効くものを選ぶことが大切です。
よくある質問
施策が多くて、どこから手をつければよいか分かりません。
一度にすべてに取り組む必要はありません。まずは自館がどの面――単価・稼働・館内消費・コスト・口コミ――に課題を抱えているかを見極め、効果が高く、手間の小さい施策から始めてください。なかでも、清掃や朝食のように費用をかけずに評価を上げられる施策は土台として効きます。並行して、人手不足を補うAI・省人化に取り組むのが、いまの環境では特に有効です。
自館の規模では、どんな戦い方が向いているのでしょうか。
規模によって、勝ち筋は大きく変わります。100室以上の大型館なら、省人化を徹底し、稼働を追うより単価を守る方向が基本です。30室以下の小型館なら、客層を絞り、その方々に深く愛されることに力を注ぐ。31〜99室の中型館は、地域の需要が伸びるなら省人化を、縮むなら規模の見直しを、というように地域の流れで判断します。第1章の早見表を、自館の現状と照らしてご覧ください。
料金を上げると、お客様が減るのが怖いです。
やみくもな値上げは禁物ですが、データに基づく料金カレンダーの見直しは、それとは別のものです。稼働が高すぎる日は、むしろ値上げが、混雑の緩和という満足度と、収益の両方を改善します。逆に、需要の低い日に強気すぎる料金を据え置くと、取れたはずの予約を逃します。過去2年ほどの、部屋タイプ別の稼働率と単価を整理し、需要に合わせて上げ下げするのが基本です。
食材原価を下げると、お料理の評価が落ちませんか。
グレードを一律に落とせば、評価は下がります。そうではなく、一人あたり一品あたりの食材原価を把握し、必要以上に原価をかけているお料理を、ピンポイントで見直すのがコツです。料理ランク別の標準原価を決め、献立を変えるときに確認する仕組みを整えれば、質を保ったまま原価を抑えられます。
人件費が高いのですが、すぐ減らすべきでしょうか。
減らす前に、部署別・時間帯別の繁閑を目に見える形にしてください。人手不足の声が上がっていても、実際には特定の時間帯だけが忙しく、ほかは人員が余っていることが少なくありません。まずは配置を最適化し、次にAI・省人化で業務そのものを軽くし、そのうえで休館日を設計する。この順で進めれば、おもてなしを落とさずに人件費を適正に保てます。
AIや省人化は、大きな投資が要りそうで難しく感じます。
確かに初期投資はかかりますが、いまは国の支援が手厚い時期です。観光庁の人材不足対策の補助金(一施設あたり数百万円規模)やIT導入補助金を使えば、PMS(宿泊管理システム)や自動チェックイン機、清掃・配膳ロボットなどを、負担を抑えて導入できます。小さく始められるものも多いので、まずは最も人手を取られている業務から、費用対効果を見極めて検討されるとよいでしょう。
小さな旅館でも、これらの施策は使えますか。
使えます。むしろ小規模な施設こそ、朝食のリニューアルや清掃のマニュアル化、売店のタイムセールなど、手間が小さく成果の出やすい施策から始めやすい立場にあります。そのうえで、客層を絞り込み、特定のお客様に深く支持される方向性が、小規模館の利益改善には効いてきます。
自館にどの施策が向いているか、相談できますか。
もちろんです。弊社では、現状の数値の分析から、課題の見極め、優先順位づけ、計画の策定支援まで、一貫してお手伝いしています。どの打ち手が最も効果を生むかの見極めは、利害のない外部の視点が役立つところです。初回のご相談は無料です。
さいごに
いかがでしたでしょうか。ホテル・旅館の売上・利益を高める道は、施策の数を増やすことではありません。自館がどこに課題を抱えているかを見極め、規模・客層・立地に合った方針を定めたうえで、効果の高いものから順に取り組む。それが、遠回りのようでいて、最も確かな道です。本記事の25の打ち手を、ぜひ自館の課題に合わせてお使いください。とりわけ2026年のいまは、「数より質――単価を高め、付加価値で選ばれること」と「省人化――人手不足への備え」が、利益を残すうえでの大きな鍵になります。



どの打ち手から始めるべきか迷われたら、いつでもご相談ください。自館の状況をうかがえば、最も効果の高い順番をご一緒に描けます。
ホテル旅館コンサルタント 青木 康弘
これからの経営判断を、
確かな見通しとともに。
弊社アルファコンサルティングでは、現状の数値の分析から、売上・利益を高める施策の立案、優先順位づけ、計画の策定支援まで、一貫してお手伝いしております。500件以上のホテル・旅館を支援してきた経験をもとに、独立した立場で、ご依頼主であるお客様の利益だけを見据えてご提案いたします。その知見は、観光経済新聞での17年にわたるコラム連載を通じて、業界へも発信し続けてまいりました。初回のご相談は無料です。
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レベニューマネジメント完全ガイド 単価と稼働の最適化を体系的に解説 事業計画の作り方 投資判断と収支シミュレーションの基本 ホテル・旅館の経費削減完全ガイド 利益を残すコスト構造の整え方出典・参考
一般社団法人日本旅館協会「令和7年度 営業状況等統計調査」/本記事の経営の知見は、筆者・青木康弘の観光経済新聞コラム連載(2009年より継続)およびコンサルティング実務に基づく。
