入札では勝てない――自治体案件で選ばれる「公募前」の正しい動き方

?
公募に応募したのに、まるで歯が立たなかった――その勝負、実は始まる前に決まっていました。

地元で長く事業を営んできた。自治体の公募が出たので応募した。ところが、選ばれたのは縁もゆかりもない大手企業だった。

「コネがなければ無理なのか」「自分たちには関係のない世界なのか」。そう感じて、公共の仕事から距離を置いてしまう方は少なくありません。

けれど、それは大きな誤解です。勝負どころは公募よりずっと前にあり、そこへ関わる道は、実は誰にでも開かれている。本記事は、その正しい入り方の話です。

こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。

「自治体の公募に応募してみたが、まったく歯が立たなかった」「気づいたときには、もう公募の条件が固まっていて、自社には不利な内容だった」。公共施設の活用や運営に関心を持つ事業者の方から、こうしたお話をうかがうことがあります。

もう一度、はっきり申し上げます。公募が公表されてから入札に参加するだけでは、なかなか勝てません。これは、皆様の提案力が足りないからではありません。勝負どころが、公募よりもずっと前の段階にあるからです。そして、その早い段階に関わっていくための道は、特別なコネも、後ろ暗い手回しも必要としません。誰にでも開かれた、正々堂々とした方法があります。本記事では、その正しい関わり方をご説明します。

この記事を読むとわかること
  • なぜ公募が出てから応募するだけでは勝ちにくいのか、その構造
  • 行政との接点が、思っているより身近に開かれていること
  • サウンディング型市場調査という、広く意見を募る正式な場の活かし方
  • 民間提案制度(PFI法第6条)という、民間から事業を提案できる仕組み
  • 公募前から関わっていくための、具体的な実務ステップ
▶ PPP/PFiの全体像から知りたい方へ ― 観光・宿泊事業者のためのPPP/PFI入門
公募前の動き方だけでなく、官民連携の全体像をまず俯瞰したい方は、入門記事からお読みください。

1. なぜ入札に参加するだけでは勝てないのか

この章でわかること
公募が公表される頃には、事業の方針や求められる条件がすでに固まっています。だからこそ、公募を待つだけでは勝負になりにくいという構造を整理します。

自治体が公共施設の活用や運営を民間に委ねるとき、ある日突然、公募が始まるわけではありません。その裏には、長い検討の過程があります。

段階自治体の動き民間が関われる度合い
事業の発案課題を認識し、活用の方向性を探る大きい(構想に影響を与えられる)
事業化の検討活用方針・事業手法・条件を固めていく中程度(意見を反映できる余地)
公募の公表要求水準・選定基準を確定し、公募開始小さい(条件はほぼ固定)
審査・選定提案を評価し、事業者を決定応募内容のみで勝負

公募が公表された時点では、活用の方針も、求められる条件も、評価のものさしも、すでに固まっています。応募する側にできるのは、その固まった条件に合わせて提案を磨くことだけです。もし条件が自社の強みと噛み合っていなければ、どれほど提案書を作り込んでも、もともと有利な事業者には届きません。

そして、ここが重要なのですが、自治体のこうした検討の動きは、公開された情報からある程度読み取ることができます。たとえば、施設の活用や財産の有効活用について、自治体が有識者会議や検討委員会を設けることがあります。その動きや、公表される報告書は、「そろそろ事業化に向けて動き出す」という貴重なシグナルになります。詳しくは後の章でお話しします。

ここで多くの方が「公募前に自治体に接触するなんて、特別なコネがある一部の事業者にしかできないのでは」と感じます。しかし、それは誤解です。次の章で見ていきましょう。

→ 次の章では、行政との接点が、実は誰にでも身近に開かれていることをお話しします。

2. 行政との接点は、思っているより身近に開かれている

この章でわかること
行政との接点は、特別なコネではなく、誰でも参加できる開かれた場に数多くあります。そこで自社の構想や地域課題への思いを発信することが、第一歩になります。

自治体と関わると聞くと、何か特別な人脈が必要だと思われるかもしれません。しかし実際には、地域に根ざして事業を営む方なら、ごく自然に踏み出せる接点が数多くあります。

接点内容
行政主催のイベント・説明会まちづくりや施設整備に関する説明会、住民向けの意見交換会など
商業観光課・観光部局の窓口地域の観光振興や事業者支援を担当する部署との日常的なやり取り
DMO・観光協会の会合地域の観光関係者が集まるセミナー・勉強会・連携の場
地域の経済団体・協議会商工会議所や地域づくり協議会など、官民が顔を合わせる場

これらはいずれも、広く開かれた公の場です。こうした場に足を運び、自社が地域で何をできるのか、どんな課題を解決したいのかを発信していくことが、行政との関係づくりの出発点になります。

大切なのは、「施設をください」という要望ではなく、「この地域のこういう課題を、自社のこういう力で解決したい」という提案の姿勢です。自治体は常に地域の課題解決に頭を悩ませています。その解決策を持つ事業者は、自治体にとって心強い存在です。日頃からこうした関係を築いておくと、自治体が施設の活用を検討し始めた早い段階で、相談を受ける関係につながっていきます。

→ 次の章では、行政がより本格的に民間の意見を募る「サウンディング型市場調査」という正式な場をご紹介します。

3. サウンディング型市場調査――行政が広く意見を募る場

この章でわかること
サウンディング型市場調査は、自治体が公募前の早い段階で民間から広く意見や提案を募る正式な仕組みです。参加方法と、事業者側のメリットを解説します。

行政が公共施設の活用や公有地の利用を検討する早い段階で、民間の声を広く聞くために設けられている正式な仕組みが、「サウンディング型市場調査」です。国も推進している手法で、近年、実施する自治体が増えています。

これは、自治体が事業の発案段階や事業化の検討段階において、民間事業者から意見や提案を募り、対話を通じて市場性やアイデアを把握するものです。自治体は、ここで集めた意見をもとに活用案を練り上げ、参加しやすい公募の条件を整えていきます。

なぜ事業者にとって有益なのか

参加する3つのメリット
① 自治体がその施設や事業について何を考えているかを直接知ることができる
② 自社の構想やアイデアを、検討の早い段階で自治体に伝えられる
③ 自社の意見が公募の条件に反映されれば、その後の応募を有利に検討できる

サウンディングは、自治体が特定の一社だけでなく、広く民間事業者に意見を求める開かれた場です。だからこそ、公募前の段階で堂々と関わることができます。参加にあたっては、自社のノウハウが他社に漏れないよう、個別の対話形式がとられることが一般的です。

参加方法は難しくありません。自治体がサウンディングを実施する際は、ホームページなどで実施要領と参加申込みの方法を公表します。関心のある分野について、自治体のサイトを定期的に確認し、機会があれば申し込むとよいでしょう。

→ 次の章では、民間が自ら事業を提案できる、より踏み込んだ仕組み「民間提案制度」をご紹介します。

4. 民間提案制度(PFI法第6条)という正式な仕組み

この章でわかること
民間事業者が自ら「この施設でこういう事業をしたい」と行政に提案できる、法律に基づいた正式な制度があります。その仕組みを解説します。

サウンディングが「意見を求められて答える」場だとすれば、もう一歩進んで、民間の側から事業を提案できる仕組みもあります。それが、PFI法第6条に基づく民間提案制度です。

この制度では、特定の事業を実施しようとする民間事業者が、施設の管理者である自治体などに対し、その事業の実施方針を定めることを提案できます。提案には、事業の案と、その効果や効率性を評価した書類を添えます。そして提案を受けた自治体は、その内容を検討し、遅滞なく結果を提案者に通知しなければならないとされています。

つまり、民間が「この遊休施設を、こう活用すれば地域にこれだけの効果がある」と具体的に示せば、行政はそれを検討し、回答する義務を負うのです。これは、民間の創意工夫を公共サービスに活かすという、PFI法の目的そのものに沿った正式なルートです。

提案には、その後につながるメリットがある

良い提案をした事業者には、その後の公募で評価上のインセンティブ(加点など)が用意されることがあります。実際の事業では、総合評価点のうち数%から1割程度が民間提案への加点に充てられた例もあります。自社が起点となって事業が動き出せば、その後の選定でも自社の構想への理解が活きてきます。

一方で、率直にお伝えしておくべき現実もあります。行政にとって、民間からの提案を受けて検討することは、相応の手間がかかる作業です。詳細な仕様が固まっていない段階では、事業費の見込みが立てにくいといった事情もあります。ですから、ただ提案すれば歓迎されるわけではありません。行政が「これは前に進める価値がある」と判断できるだけの、地域への効果と実現可能性を備えた提案であることが大切です。提案の質こそが、この制度を活かせるかどうかの分かれ目になります。

→ 最後に、こうした仕組みを踏まえて、公募前からどう動いていけばよいかを整理します。

5. 公募前から関わるための実務ステップ

この章でわかること
ここまでの内容を踏まえ、公募が出る前の段階から関わっていくための、具体的な行動の順序を示します。

では、実際にどう動いていけばよいのでしょうか。順を追って整理します。

1
情報を集め、シグナルを読む
公有財産・未利用施設・サウンディング情報に加え、施設活用に関する有識者会議や検討委員会の動きと報告書を定期的に確認する。
2
開かれた場で発信する
行政主催のイベントやDMO・観光協会の会合に参加し、自社が地域の課題解決にどう貢献できるかを伝えていく。
3
正式な対話の場を活かす
サウンディングが実施されれば参加し、自社の構想を検討の早い段階で届ける。
4
提案へと進める
構想が具体化すれば、民間提案制度などの正式なルートを通じて、地域への効果と実現可能性を備えた提案を行う。

見落とされがちなシグナル――有識者会議と報告書を読む

多くの事業者が見落としているのが、自治体が設ける有識者会議や検討委員会の動きです。自治体は、施設の活用を本格的に検討し始めるとき、サウンディングに入る前後のタイミングで、外部の専門家を集めた有識者会議や検討委員会を設けることがあります。名称は「検討委員会」「あり方検討会」など様々です。

こうした会議の報告書や会議資料は、会合のたびに自治体のホームページなどで公表されるのが通例です。この公表資料を継続して追っていくと、「どの施設について」「どんな方向で」「どのくらいの時期に」事業化に向けて動き出しそうかが、かなりの精度で読み取れます。これは、誰でも閲覧できる公開情報を丁寧に読み解くという、ごく正当な情報収集です。

これらの流れに共通しているのは、開かれた場と正式な制度を通じて、自社の構想と地域への貢献を、堂々と発信していくという姿勢です。公募が出るのを待つのではなく、その条件が形になる前の段階から、地域の課題解決の担い手として関わっていく。これが、公共案件で選ばれるための正攻法です。

なお、関わりたい対象が具体的に決まっている方は、あわせて次の記事もご覧ください。施設を取得して事業を行いたいのか、運営を任される形がよいのかで、見るべき収支とリスクが変わります。

▶ 施設を取得したい方へ ― 廃校・公共施設は買って儲かるのか
公共施設を取得して観光事業に活かす収益と、買う前に知るべき落とし穴を解説しています。
▶ 運営を任されたい方へ ― 指定管理者制度は儲かるのか
指定管理で利益を出す条件と限界を、損益の目線で率直に解説しています。
▶ 提案書の作り方を知りたい方へ ― 公共案件の提案書・プレゼンで勝つ方法
いざ公募の土俵に立ったとき、審査で選ばれる提案書とプレゼンの設計図を、具体的に解説しています。

私どもがお手伝いできること。私はこれまで、宿泊・観光施設の再生や運営に数多く携わると同時に、自治体側の事業設計に関わる仕事もしてまいりました。自治体がどんな課題を抱え、事業化の過程で何を重視し、公募で何を評価するのか――その両面を知る立場から、弊社アルファコンサルティングでは、民間事業者であるオーナー様の構想づくりから、行政との対話の進め方、提案の組み立てまでを、組織として一貫してご支援しています。特定の金融機関や業者と利害関係を持たない独立した立場で、中立的にご助言できることが、弊社の強みです。

公共案件への参入をお考えの方へ

「どの自治体のどんな案件に関われるか分からない」段階でも、初回のご相談は無料です。

無料で相談する

よくあるご質問

Q. 公募前に自治体と話をするのは、問題にならないのですか?
A. まったく問題ありません。本記事で紹介した行政主催のイベント、サウンディング型市場調査、民間提案制度は、いずれも自治体や国が正式に設けている、広く開かれた仕組みです。こうした場を活用して自社の構想を伝えることは、正当な事業活動です。
Q. 特別な人脈がないと、行政との接点は持てませんか?
A. いいえ。行政主催の説明会やDMO・観光協会の会合など、誰でも参加できる開かれた場が数多くあります。まずはこうした場に足を運ぶことから始められます。
Q. サウンディングに参加すると、提案したアイデアは他社に知られてしまいますか?
A. 通常、サウンディングは個別の対話形式で行われ、各社のノウハウに関わる部分は伏せて扱われます。安心して自社の考えを伝えることができます。
Q. 民間提案制度で提案すれば、必ず事業化されますか?
A. 必ずとは限りません。行政が検討し、地域への効果や実現可能性を見極めたうえで判断します。だからこそ、提案の質が重要になります。
Q. 小さな会社でも、こうした関わり方はできますか?
A. できます。規模よりも、地域の課題をどう解決できるかという構想の中身が問われます。地域に根ざした事業者だからこそ示せる解決策があります。

さいごに

いかがだったでしょうか。公共案件は、公募が出てから動いたのでは、勝負どころを過ぎてしまっています。しかし、その早い段階に関わっていくための道は、行政主催のイベント、サウンディング型市場調査、民間提案制度といった、開かれた場と正式な制度として、誰にでも用意されています。大切なのは、自社の構想と地域への貢献を、こうした場を通じて堂々と発信していくことです。

公共案件に関わるということは、地域の課題解決の担い手になるということです。それは社会への貢献であると同時に、行政や地域からの信用を築き、自社の事業を次の段階へ広げていく確かな一歩でもあります。地域とともに成長していく――その入口に立つために、公募前からの正しい関わり方を、ぜひ知っておいていただきたいのです。

弊社アルファコンサルティングでは、宿泊・観光施設の再生・運営に関する豊富な実務経験と、自治体側の事業設計に関わってきた両面の知見をもとに、公共案件への参入をお考えのオーナー様を、構想段階から伴走して支援しております。特定の業者に偏らない中立的な立場で、オーナー様の利益を最優先にご助言いたします。

「関心のある自治体や施設はあるが、どう関わればよいか分からない」といった段階でも構いません。お気軽にお問い合わせください。

初回相談は無料です。

参考法令等
本記事の制度・法令に関する記述は、次の法令・資料に基づいています。
  1. 民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法・平成11年法律第117号)第1条――目的
  2. 同法第6条――民間事業者による特定事業に係る実施方針の策定の提案
  3. 内閣府「PPP/PFI事業民間提案推進マニュアル」
  4. 国土交通省「地方公共団体のサウンディング型市場調査の手引き」