指定管理者制度は儲かるのか――観光・宿泊施設で利益を出す条件と限界
こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。
「自治体が公募している温泉施設の指定管理に応募しようか迷っている」「指定管理を受ければ安定した収入になるのか、それとも割に合わないのか」。観光・宿泊業を営む方から、こうしたご相談をいただくことがあります。
先に、私の率直な考えを申し上げます。指定管理者制度は、やり方次第で利益を出せる仕組みですが、「これさえ受ければ安泰」という制度では決してありません。むしろ、収益の構造と制約を正しく理解しないまま飛び込むと、手間ばかりかかって利益が残らない、ということにもなりかねません。一つずつ、丁寧に解き明かしていきましょう。
ただ、はじめにお伝えしておきたいのは、指定管理を考えるうえで大切なのは目先の損益だけではない、ということです。地域の公共施設の運営を任されることは、その地域に根を張り、住民や行政との信頼を築いていく一歩でもあります。後ほど詳しくお話ししますが、この視点を持っているかどうかで、指定管理という選択の意味は大きく変わってきます。
- ●指定管理者制度で、そもそもどうやって収益が生まれるのか(2つの仕組み)
- ●利益が出る施設と、出にくい施設の分かれ目
- ●見落とすと痛い目に遭う、契約期間と指定管理料の現実
- ●知っておくべき、指定管理ならではの4つのリスク
- ●単体の利益だけでは測れない、指定管理の戦略的な価値
1. そもそも指定管理者制度とは何か

指定管理者制度とは、自治体が設置する公の施設の管理運営を、自治体が指定した民間事業者などに任せる制度です。平成15年の地方自治法改正により導入され、それまで公共的な団体に限られていた施設管理の担い手が、民間事業者やNPO法人にも広く開放されました。
対象となる施設は幅広く、全国で7万を超える施設に導入されており、その中には温泉施設、宿泊施設、観光交流センター、道の駅、キャンプ場など、観光・宿泊業のノウハウが活きる施設が数多く含まれています。
ここで、自治体の施設や財産を民間が管理・運営する方法は、指定管理者制度だけではないことを押さえておきましょう。主な手法を、観光・宿泊事業者の視点で比較すると、次のようになります。
この表から、指定管理者制度の特徴がはっきりと見えてきます。施設は自治体が所有したまま、民間は比較的短い期間その運営を任され、料金の自由度は小さく、投資負担も基本的に自治体側が負う、という位置づけです。所有権を得る「売却」や、長期で大きく関わる「コンセッション」とは、リスクも自由度もまったく異なります。
言い換えれば、指定管理は「身軽に運営を担えるが、自由度と腰の据え方には限界がある」手法です。この性格が、これからお話しする収益の出方や、注意すべきリスクのすべてに関わってきます。
2. 収益はどこから生まれるのか――2つの仕組み
「指定管理は儲かるのか」を考えるうえで、まず押さえるべきは、収益がどこから生まれるのかという点です。源泉には大きく2つの仕組みがあります。
仕組み1:指定管理料――経費を抑えた差額が利益になる
指定管理料とは、施設の管理運営に必要な経費として、自治体が指定管理者に支払うお金です。利用料金だけでは経費を賄えない施設で支払われます。この仕組みのもとでは、指定管理料の範囲内で、経営努力によって経費を抑えれば、その差額が利益として残ります。逆に、経費が指定管理料を超えれば、その超過分は指定管理者の損失となります。
仕組み2:利用料金制――集客を伸ばせば収入が増える
利用料金制とは、施設の利用料金を、自治体ではなく指定管理者が自らの収入として受け取れる仕組みです。地方自治法に定められた制度で、創意工夫で利用者を増やし、稼働率を高めれば、それが直接、自社の収入増加につながります。観光・宿泊業の皆様にとって、本領を発揮できるのはこの仕組みです。
3. 利益が出る施設・出にくい施設の分かれ目
指定管理で利益が出るかどうかは、施設の性質に大きく左右されます。観光・宿泊事業者の視点から、見極めの基準を整理しましょう。
観光・宿泊事業者が利益を出しやすいのは、利用料金制が採用されていて、温泉や宿泊、飲食・物販といった稼ぐ余地が大きく、自社の集客力と運営ノウハウを発揮できる施設です。こうした施設であれば、これまで培ってきた宿泊業の経営手法――稼働率の管理、単価設定、原価コントロール――がそのまま活きてきます。
逆に、無料開放が前提の施設や需要そのものが薄い施設では、どれほど努力しても収入を大きく伸ばすことは難しく、利益の薄い事業になりがちです。応募の前に、その施設で自社の強みが本当に活きるのかを冷静に見極めることが大切です。
4. 見落とすと痛い目に遭う――契約期間と料金の現実
ここからは、指定管理の良い面だけでなく、応募前に必ず直視しておくべき現実をお話しします。これを知らずに飛び込むと、後で痛い目に遭いかねません。
現実その1:契約期間が短い
指定管理の指定期間は、一般に3年から5年程度です。この期間が終われば改めて公募が行われ、次も自社が選ばれる保証はありません。これが指定管理の最大のリスクです。
この短さは経営に重い意味を持ちます。施設を魅力的にするために大きな設備投資をしても、3〜5年で運営から外れれば投資を回収しきれません。雇用したスタッフも、次の指定が取れなければ行き場を失います。大規模な投資や長期の人材育成を前提とした事業設計には、指定管理は本質的に向いていないのです。
現実その2:指定管理料は下げられる傾向にある
自治体の財政が厳しさを増すなか、指定管理料は年々抑えられる傾向にあります。当初は採算が取れていても、次の更新で指定管理料が引き下げられ、収支が苦しくなることも珍しくありません。だからこそ、指定管理料に依存しきった事業計画は危険です。
現実その3:料金を自由に変えられない
観光・宿泊事業者にとって特に見落とせないのが、料金設定の自由度です。利用料金は、条例によって上限額が定められるのが一般的で、指定管理者はその範囲内でしか料金を設定できません。しかも、定めた利用料金はあらかじめ自治体の承認を受ける必要があり、上限そのものを引き上げるには条例の改正、すなわち議会の議決が必要になります。
これは宿泊業の経営感覚からすると、かなり厳しい制約です。今日の宿泊業では需要に応じて料金を細かく動かすダイナミックプライシングが当たり前ですし、物価高騰で食材費や資材価格が上がれば本来はすみやかに売価へ反映したいところです。ところが指定管理では、条例の上限という枠と、改定に議会を要するという手続きの壁があるため、機動的な価格設定が難しい場合があります。稼ぐ力の源泉である価格戦略に手かせ足かせがはまることは、大きなリスクです。
5. 知っておくべき、指定管理ならではのリスク
ここでは、制度の表面的な説明では語られない、実務の現場で起きるリスクをお話しします。これらは、長く現場を見てきたからこそお伝えできることです。
リスク1:設備の修繕・投資に時間がかかる
施設は自治体の所有物であるため、設備の修繕や投資には自治体の予算が関わります。たとえば真夏にエアコンが故障しても、すぐに直せないことがあります。自治体が修繕の予算を確保するには議会の議決を経る必要があり、議会が開かれなければ予算がつきません。さらに、予算がついても執行には入札の手続きが伴います。
民間企業なら故障の翌日にでも発注できますが、自治体の施設では予算確保から発注、工事完了まで数か月を要することも珍しくありません。営業できない期間がそのまま損失に直結する観光・宿泊業にとって、この時間軸の違いは経営を揺るがしかねない重大なリスクです。
リスク2:更新のたびに、大手企業に奪われる恐れがある
指定管理は3〜5年ごとに再公募されますが、この更新は決して安定的なものではありません。地方の温浴施設や宿泊施設の公募には、都市部の大手企業が参入してくることがあります。こうした企業は提案書の作成やプレゼンに長け、企業規模や財務基盤もしっかりしているため、審査で高い点を取りやすいのです。
その結果、地元でしっかり運営してきた事業者が審査項目ごとの比較ではどうしても不利になり、何の問題もなく運営してきた施設を、更新時にあっさりと大手企業に奪われてしまう――こうした事例が現実に起きています。継続できる保証がないという点は、指定管理の構造的な弱点です。
リスク3:観光の視点が、正当に評価されないことがある
公募の審査員が、必ずしも観光業の実情に詳しいとは限りません。行政の従来の発想を持つ方や、観光ビジネスの知見をほとんど持たない方が審査に加わることもあります。すると、観光業の視点から見れば優れた提案であっても、その価値が正当に評価されないということが起こり得ます。優れた民間企業同士が連携する純粋な民間事業と違い、観光に知見のない方が評価に関わることで本来の実力が点数に反映されない。制度の構造に由来する、避けがたい問題です。
リスク4:施設そのものが売却されることがある
さらに根本的なリスクとして、運営してきた施設そのものが、行政の財政難によって売却されることがあります。長く手をかけて運営してきたにもかかわらず、自治体が財産の処分を決めれば運営を継続できなくなる。受け身の立場で突然はしごを外される事例が、実際にあります。売却の際に現指定管理者へ優先的に取得を打診されることはありますが、それで確実に取得できるとは限りません。
6. それでも指定管理に取り組む戦略的な価値

ここまで制約を率直にお話ししてきました。では取り組む意味はないのかというと、決してそうではありません。単体の利益という物差しだけでは測れない、戦略的な価値があるのです。
ですから、指定管理を検討するときは、「この一件だけでいくら儲かるか」だけでなく、「この実績が次にどうつながるか」という長い視点で価値を判断することをお勧めします。目先の損益が小さくても、戦略的に意味のある一手であれば、取り組む価値は十分にあります。
7. 応募する前に確認すべき判断のポイント
ここまでの内容を踏まえ、指定管理への応募を判断する前に確認すべきポイントを整理します。
② 自社の集客力・運営ノウハウが活きる施設か
③ 指定期間と、必要な投資の回収期間が見合うか
④ 指定管理料が下げられても成り立つ収支構造か
⑤ この実績が、次の事業にどうつながるか
これらを一つずつ確認したうえで、目先の損益と戦略的な価値の両面から、総合的に判断することが大切です。指定管理は向き不向きがはっきりした制度です。自社にとって本当に意味のある一手かを、冷静に見極めてください。
なお、指定管理の公募で選ばれるためにも、公募が出る前の段階からの関わり方が効いてきます。その具体的な方法は、公募前の正しい動き方の記事で解説しています。
私どもがお手伝いできること。私はこれまで、宿泊・観光施設の再生や運営に数多く携わると同時に、自治体側の事業設計に関わる仕事もしてまいりました。指定管理の収支がどう成り立つのか、その施設で自社の強みが活きるのか、次の事業にどうつなげるのか――こうした見極めについて、弊社アルファコンサルティングでは、民間事業者であるオーナー様の立場に立って、組織として一貫してご支援しています。特定の金融機関や業者と利害関係を持たない独立した立場で、中立的にご助言できることが、弊社の強みです。
よくあるご質問
さいごに
いかがだったでしょうか。指定管理者制度は、利用料金制を活かして集客で稼げる施設であれば、観光・宿泊業の力を存分に発揮できる仕組みです。一方で、契約期間は短く、指定管理料は下がりがちで、大型投資の回収には向きません。単体の損益だけで判断するのではなく、実績づくりや次の事業への足がかりという戦略的な価値を含めて、総合的に見極めることが肝心です。
そして、指定管理を引き受けることは、地域の公共施設を預かり、住民の暮らしと地域のにぎわいを支える担い手になるということでもあります。目先の利益は大きくなくとも、地域からの信頼を積み重ね、自社の事業を地域に根づかせていく――その長い視点を持てる事業者にとって、指定管理は確かな足がかりになります。地域への貢献と自社の成長を両立させる道を、私どもは一緒に考えます。
弊社アルファコンサルティングでは、宿泊・観光施設の運営・再生に関する豊富な実務経験と、自治体側の事業設計に関わってきた両面の知見をもとに、指定管理への応募をお考えのオーナー様を、収支の見極めから提案の組み立てまで支援しております。特定の業者に偏らない中立的な立場で、オーナー様の利益を最優先にご助言いたします。
「気になる施設の公募があるが、採算が取れるか分からない」といった段階でも構いません。お気軽にお問い合わせください。
初回相談は無料です。
- 地方自治法(昭和22年法律第67号)第244条の2――公の施設の指定管理者制度
- 同条第8項・第9項――利用料金制(利用料金を指定管理者の収入として収受させることができる)
- 地方自治法の一部を改正する法律(平成15年法律第81号)――指定管理者制度の創設
- 総務省「指定管理者制度について」(導入施設数等の調査資料)

