廃校・古民家を「運営権」で観光事業に――スモールコンセッションで稼ぐ仕組みとリスク
こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。
近年、廃校や古民家といった、自治体が抱える小さな遊休施設を、観光・宿泊の拠点として再生する動きが急速に広がっています。その担い手として国が強く推進しているのが、「スモールコンセッション」という官民連携の手法です。聞き慣れない言葉かもしれませんが、観光・宿泊業との相性がよく、地域に根ざした事業者にこそ向いた仕組みです。
最大の特徴は、施設を買い取らなくてよいという点にあります。所有権は自治体に残したまま、民間が「運営する権利」を長期にわたって得て、独立採算で事業を営む。初期の取得負担を抑えながら、地域の歴史的資源を蘇らせ、観光のにぎわいを生み出せる――そんな道がひらけているのです。一方で、長期契約ならではの注意点もあります。本記事で、良い面と注意点の両方を、率直にお伝えします。
- ●スモールコンセッションとは何か――「買う」でも「借りる」でもない第三の道
- ●なぜ今、国を挙げて推進されているのか(旬の追い風)
- ●なぜ古民家には、取得や賃貸ではなくコンセッションが向くのか
- ●「運営権」で収益を生む仕組みと、収支のイメージ
- ●10〜20年という長期契約の、メリットと見落とせないリスク
- ●どんな施設・事業者に向くのか、始め方はどうするのか
1. スモールコンセッションとは――買わずに「運営権」で事業をする
まず、言葉を整理しましょう。スモールコンセッションとは、国土交通省の定義によれば、廃校などの空き施設や、自治体が所有する古民家などの空き家といった、身近で小規模な遊休公的施設を、民間の創意工夫を活かして有効活用し、地域課題の解決やエリアの価値向上につなげる取組です。事業の規模は、おおむね事業費10億円未満の小規模なものを指します。
ここで一点、正確に押さえておくべきことがあります。「コンセッション」という言葉が付いていますが、スモールコンセッションは、必ずしも一つの法律だけに基づくものではありません。中心となるのはPFI法に基づく「公共施設等運営権(コンセッション)方式」ですが、それだけでなく、RO方式(改修して運営する方式)、賃貸借、指定管理者制度など、案件に応じて複数の手法が使い分けられます。空港や上下水道で使われる大規模なコンセッションとは、規模も、依拠する仕組みの幅も異なるのです。
中心となる「運営権(公共施設等運営権)」の仕組みは、こうです。施設の所有権は自治体に残したまま、その施設を運営する権利を、民間事業者に長期間にわたって設定する(PFI法第16条)。民間は、利用者から料金を直接受け取り、独立採算で事業を営みます。所有はしないけれど、長く、自由度高く経営できる――これがスモールコンセッションの背骨です。
2. なぜ今、国を挙げて推進されているのか――旬の追い風
スモールコンセッションは、決して机上の構想ではありません。いままさに、国が本腰を入れて動かしている旬の政策です。背景には、全国で増え続ける廃校や空き公共施設を、行政が抱えきれなくなっている現実があります。維持するだけで費用がかかる施設を、民間の力で収益を生む地域資源に変えたい――その切実な要請が、この動きを後押ししています。
具体的な動きを挙げると、国土交通省は2024年に「スモールコンセッション推進方策」を策定し、同年末には「スモールコンセッションプラットフォーム」を設立しました。これは自治体・民間事業者・金融機関・学識者などが参加する官民連携の場で、会員数はすでに1,000名を超えています。情報共有やマッチング、案件形成の支援が行われています。
さらに国は、事業化を検討する自治体に専門家を派遣する「形成推進事業」も実施しています。エリアの構想づくりから施設の現況調査まで、国が選んだ専門家が伴走する仕組みで、こうした支援は年々拡充されています。つまり、自治体側も国の後押しを受けて動き出しやすくなっており、民間にとっては関わるチャンスが広がっているということです。この追い風を捉えられるかどうかが、これからの分かれ目になります。

3. 「買う・指定管理」と何が違うのか――運営権という第三の道
自治体の施設で観光事業を行う方法は、いくつかあります。代表的な「買う(取得)」「指定管理」と、スモールコンセッションの中心である「運営権(コンセッション)」を並べると、その違いがはっきりします。
この表から、運営権の立ち位置が見えてきます。「買う」ほどの初期負担は負わないが、「指定管理」よりずっと長く、自由度高く経営できる。いわば両者の良いところを取った中間的な選択肢です。詳しくは、施設を買う場合の記事や指定管理の記事もあわせてご覧いただくと、違いがより鮮明になります。
特に観光・宿泊業にとって大きいのは、10〜20年という長期にわたって運営できる点です。施設を魅力的にするための投資を、腰を据えて回収できる。指定管理のように数年で運営から外れる心配が小さく、長期の視点でブランドを育て、地域との関係を深められます。
4. なぜ古民家には、コンセッションが向くのか
ここまで一般論として3つの入口を比較してきましたが、古民家という資産に限っていえば、コンセッションが向く理由はもっと根が深いのです。これは、私が歴史的建造物の再生に関わる中で、何度も実感してきたことです。順を追ってお話しします。
古民家は、そもそも市場に出回らない
まず知っておくべきは、価値ある古民家は、通常の不動産取引にはほとんど出てこないという事実です。理由はいくつもあります。古民家は、もともとの所有者が先祖代々大切に守ってきたものであり、安易に他人や民間企業に譲りたくないという心情を持つ方が少なくありません。また、歴史的価値の高いものは、自治体に寄付・譲渡されることも多く、一般の不動産流通には乗りません。さらに、文化財に認定されると、用途が厳しく制限され、通常の不動産として自由に活用することが難しくなります。
つまり、観光事業者が「あの古民家を買って宿にしたい」と思っても、そもそも買えないことが多いのです。ここが、廃校などとは事情の異なるところです。
受け取った自治体も、実は困っている
一方、寄付や譲渡で古民家を受け取った自治体の側にも、悩みがあります。取り壊して再開発するよりも、その歴史的な文化財を活かして、観光施設やまちづくりにつなげたい――そう考えるのは自然なことです。しかし、ここで二つの壁にぶつかります。一つは、リノベーション(改修)の財源がないこと。もう一つは、施設を運営するノウハウがないことです。文化財を活かしたくても、行政だけでは手が出せないのです。
ここに、官と民の利害が一致する余地が生まれます。自治体は財源と運営ノウハウを民間に求めたい。民間の観光事業者は、市場に出回らない価値ある古民家で事業をしたい。両者を結びつける仕組みが必要なのです。
では、どの手法なら解けるのか
この「自治体の悩み」と「民間の希望」を結ぶとき、手法によって解ける度合いが大きく変わります。
指定管理の枠組みでは、改修費用は基本的に自治体が負担することになり、肝心の財源問題が解消されません。では単純な賃貸借ならどうか。これは、長期的な活用や、自治体が望む方向での利用がなされる保証がないという弱点があります。借りた事業者が短期で撤退したり、地域の意向と違う使い方をしたりするリスクが残るのです。
その点、コンセッション方式なら、両方の課題を解けます。第一に、施設の改修やメンテナンスの費用を、運営者(民間)が負担する仕組みをとれるため、自治体の財源問題が和らぎます。第二に、単純な賃貸借と違い、自治体の方針に沿った、かつ長期的な視点に立った運営を行うことを、あらかじめ民間事業者と合意したうえで事業を進められるのです。
これが、古民家のような歴史的資産に、コンセッションが向く本質的な理由です。市場に出回らない貴重な資産を、自治体の文化財保全の意向を守りながら、民間の財源と運営力で活かす――取得でも、指定管理でも、単純な賃貸借でもなく、コンセッションだからこそ成り立つ座組みなのです。私が歴史的建造物の再生に携わる中で、この方式の意義を繰り返し実感してきました。
5. 「運営権」で収益を生む仕組みと、収支のイメージ
スモールコンセッションで収益がどう生まれるのか、お金の流れを整理しましょう。基本はシンプルで、運営権者(民間)が利用者から料金を直接受け取り、その収入で独立採算の事業を営むという形です。宿泊料、飲食、物販、体験プログラムなど、観光・宿泊業が得意とする収益の柱を、自らの裁量で設計できます。
自治体に支払う「運営権対価」
一方で、運営権を得る対価として、民間は自治体に「運営権対価(コンセッションフィー)」を支払います。これは、事業期間を通じて見込まれる収益から運営費用を差し引いた価値などをもとに算定されます。金額は案件により幅がありますが、小規模な町家活用の例では、運営権対価が数百万円から千数百万円程度に設定されたケースもあります。
運営権は「資金調達」にも使える
意外と知られていませんが、運営権そのものを担保にして、金融機関から資金を調達できます。これは、PFI法上、運営権が「みなし物権(財産権)」として扱われ、抵当権を設定できるためです。実際の運営権実施契約にも、運営権に抵当権が設定されている場合の取り扱いが定められています。施設を所有していなくても、運営権を裏づけに改修や設備の資金を借りられる――これは、自己資金の限られた事業者にとって大きな利点です。
収支のイメージ(あくまで一例)

では、収支はどう組み上がるのか。あくまで一定の前提を置いた一例ですが、地方の古民家を一棟貸しの宿に再生したモデルで考えてみましょう。客単価2万円台、稼働率を現実的な水準に置くと、規模は小さくとも、宿泊・飲食・体験を組み合わせることで堅実な収益が見込めます。
この試算はあくまで一つの例であり、施設の規模・立地・改修費・客単価によって大きく変わります。重要なのは、運営権対価や修繕負担といったコンセッション特有の費用を、収支計画にきちんと織り込むことです。これを見落とすと、開業後に資金繰りが苦しくなります。観光・宿泊業の経営数値に通じた目で、現実的な収支を組み立てることが欠かせません。なお、収支計画の基本は事業計画づくりの記事もご参照ください。
6. 長期運営の光と影――10〜20年契約のリスク
スモールコンセッションの「10〜20年」という長期契約は、大きな魅力であると同時に、慎重に向き合うべきリスクでもあります。光と影の両面を、率直に整理します。
- 腰を据えて投資を回収できる
- 数年で運営から外れる心配が小さい
- 長期でブランドと地域との関係を育てられる
- 運営権を担保に資金調達もできる
- 10〜20年先までの需要変動を読む難しさ
- 修繕・更新費用の負担が重くのしかかる
- 対価不払いや事業放棄は契約解除につながる
特に重い「修繕・更新」の負担
見落とされがちなのが、施設の修繕・更新費用を、誰がどこまで負担するかです。実際のスモールコンセッション契約では、運営開始後の修繕・更新は、屋根の葺き替えのような大規模修繕や天災による復旧を除き、原則として運営権者(民間)が負担すると定められている例があります。古い建物ほど、長期の運営期間中に修繕費がかさみます。この負担を収支計画に織り込んでおかないと、後で経営を圧迫します。
契約解除という最悪のシナリオ
もう一つ直視すべきは、契約解除のリスクです。実際の運営権実施契約には、運営権対価を支払わなかったとき、正当な理由なく事業を放棄したとき、業務報告に虚偽があったときなどに、自治体が契約を解除できると定められています。解除されれば、運営権そのものを失います。長期契約だからこそ、途中で行き詰まらない堅実な事業設計と、誠実な運営が求められるのです。
事業が終わるときの取り扱い
事業期間が満了すると、運営権は消滅し、施設は自治体に引き渡します。運営権者が事業のために保有していた資産のうち、自治体が買い取らないものは、原則として自己負担で処分することになります。つまり、「いつか手元に残る資産」ではないという前提で、事業期間内に投資を回収しきる計画を立てる必要があります。この点が、施設を「買う」場合との決定的な違いです。
7. どんな施設・事業者に向くのか
スモールコンセッションは万能ではありません。向く施設・事業者と、そうでないものがあります。次の観点で見極めることをお勧めします。
特に観光・宿泊事業者にとって、スモールコンセッションは相性のよい仕組みです。歴史的建造物や古民家のような、唯一無二の物語を持つ施設を、運営の力で価値ある宿に変えられる。全国には、まち全体の古民家を一棟ずつ宿や店舗に再生し、まちを面的に蘇らせていく事業者の例もあります。一棟の宿が呼び水となり、周囲に飲食や物販が生まれ、地域全体がにぎわっていく。観光・宿泊業だからこそ描ける、そんな地域再生の絵があります。

8. 始め方――どこから動けばよいか
では、実際にどう動き始めればよいのでしょうか。スモールコンセッションは国の推進策が整いつつあるため、関わる入口は以前より広がっています。
公募が出てから動いたのでは遅い、という点は、他の公共案件と同じです。活用方針が固まる前の構想段階から、サウンディングや民間提案制度といった正規の場を通じて関わっていくことが、よい条件で事業を実現する近道です。この具体的な進め方は公募前の動き方の記事で、提案で選ばれる方法は提案書・プレゼンで勝つ方法の記事で詳しく解説しています。
私どもがお手伝いできること。私はこれまで、宿泊・観光施設の再生や運営に数多く携わると同時に、自治体側の事業設計に関わる仕事もしてまいりました。歴史的建造物の運営権を活用した観光施設の再生にも携わってきた経験から、弊社アルファコンサルティングでは、スモールコンセッションへの参入をお考えのオーナー様を、施設の見極めから、運営権対価や修繕負担を織り込んだ収支計画づくり、構想段階での自治体との対話、チーム体制の構築まで、組織として一貫してご支援しています。特定の金融機関や業者と利害関係を持たない独立した立場で、オーナー様の利益を最優先に中立的にご助言できることが、弊社の強みです。
よくあるご質問
さいごに
いかがだったでしょうか。スモールコンセッションは、施設を買い取らずに、運営権だけで観光事業を始められる、観光・宿泊業に向いた仕組みです。所有の負担を抑えながら、地域の歴史的資源を蘇らせ、長期にわたって腰を据えた経営ができます。一方で、運営権対価や修繕負担、長期契約ならではのリスクもあり、それらを織り込んだ堅実な収支計画が欠かせません。
そして忘れてはならないのは、この取組の本質が「眠っていた地域の資産を、民間の力で蘇らせ、地域に新たなにぎわいを取り戻す」ことだという点です。古民家や廃校に再び灯をともすことは、地域への貢献であると同時に、唯一無二の物語を持つ事業として、自社を成長させる確かな一歩にもなります。地域に根ざす覚悟を持つ事業者にとって、スモールコンセッションは、その思いを形にする有力な選択肢です。
弊社アルファコンサルティングでは、官民両側を知る立場から、観光・宿泊事業者のスモールコンセッションへの挑戦を、構想段階から伴走して支援しております。特定の業者に偏らない中立的な立場で、オーナー様の利益を最優先にご助言いたします。
「興味はあるが、自社に向いているか分からない」といった段階でも構いません。お気軽にお問い合わせください。
初回相談は無料です。
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- 国土交通省「スモールコンセッション推進方策」(令和6年)
- 国土交通省 スモールコンセッションプラットフォーム・形成推進事業(専門家派遣)
※ 本記事の収支は一定の前提を置いた試算例であり、実際の事業性は施設の規模・立地・改修費・運営条件等によって大きく異なります。運営権対価・修繕負担・事業期間等の具体的な条件は、各案件の公募要項・実施方針・実施契約によって定められます。

