「求人を出しても応募が来ない」「採用してもすぐ辞めてしまう」
お客様は過去最高なのに、人が足りない。そんなホテル・旅館が増えています。都内の宿泊施設の人材確保をお手伝いした経験から、応募が集まり、人が辞めない施設がやっていることをわかりやすくまとめました。
こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの川越貴文です。
私は、東京都と東京しごと財団が進める人材確保の支援事業に、コンサルタントとセミナー講師として参加しました。都内の中小ホテル・旅館10社が、採用や定着の改善に取り組んだ事業です。この記事では、そこでの実例をご紹介します(施設名は伏せています)。
この記事を読むとわかること
- 1お客様が増えているのに、人が足りない理由
- 2人手不足を解決する「3つの打ち手」
- 3休日を増やしたら、内定者が約1.6倍になった例
- 4人が辞めない職場がやっていること
- 5どこから始めればよいかがわかる3分チェック
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2025年に日本を訪れた外国人は4,268万人。初めて4,000万人を超え、過去最高になりました。
図表1 日本を訪れた外国人の数
※ 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2025年12月推計値)」
ところが、現場からは「人が足りない」という声が絶えません。求人を出しても応募が来ない。採用しても辞めてしまう。その背景にあるのが、辞める人の多さです。
図表2 1年間に辞めた人の割合(令和6年)
※ 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査」。宿泊業・飲食サービス業は全産業で最も高い。
宿泊業・飲食サービス業では、1年間で働く人のおよそ4人に1人が辞めています。全産業の中で最も高い割合です。これでは、いくら採用しても人が足りない状態が続いてしまいます。
私が参加した事業では、人手不足への対策を次の3つに分けて考えていました。
図表3 人手不足を解決する3つの打ち手
人を採る(採用)
辞めないようにする(定着)
仕事を楽にする(効率化)
※ 東京都・東京しごと財団「業界別人材確保強化事業 人材確保取組事例集」(令和8年3月)をもとに作成
この3つはつながっています。辞める人が多ければ、採用を続けなければなりません。仕事にムダが多ければ、忙しさから人が辞めていきます。「とにかく採用」ではなく、3つを組み合わせて考えることが大切です。
→では、実際にどんな取組で成果が出たのか。まずは「採用」から見ていきましょう。

私が担当した都内のホテル会社(従業員約90名)は、応募が少なく、若手もなかなか定着しないことに悩んでいました。年間休日は103日。週休2日が当たり前の他の業界と比べると少なく、求人を見た時点で応募をためらわれていたのです。
図表4 条件を変えて、応募が増えた2つの例
年間休日を103日→120日に
「英語力が必須」→「英語に興味がある人」に
※ 前掲の取組事例集をもとに作成(施設名は非公表)
求職者は、まず休日、勤務時間、給与を見て、応募するかどうかを決めます。条件が相場より低いと、仕事の魅力を伝える前に読むのをやめられてしまいます。
求人票の書き方も大切です。社員に「ここで働いて良かったこと」を聞いて、その言葉で求人票を書き直した施設もありました。経営者が思う「うちの売り」と、社員が感じている魅力は違うことが多いものです。一度、自社の求人票を、応募する人のつもりで読み返してみてください。
→採用できても、辞めてしまっては元も子もありません。次は「辞めない職場づくり」です。

この事業では、「コミュニケーションで離職を防ぐ」というテーマで、2回のセミナーの講師を務めました(参加者は25名と35名)。
「辞めるのは給与が安いから」と思われがちですが、実際には人間関係や、「自分がどう評価されているのかわからない」という不安が理由であることが少なくありません。セミナーでは、次の3つをお伝えしました。
図表5 人が辞めない職場の3つのコツ
失敗を責めない
「わからない」「間違えた」と言っても怒られない雰囲気をつくります。失敗を恐れると、接客の質も下がります。
人に合わせて教える
同じ教え方でも、響く人と響かない人がいます。ほめ方や任せ方を、相手に合わせて変えます。
話す時間を先に決める
月1回でも、勤務後の5分でも構いません。部下と話す時間を、あらかじめ予定に入れておきます。
もう一つの担当施設は、創業130年を超える都内の老舗ホテル(従業員約30名)です。建て替えで客室を71室から154室に増やし、スタッフも大きく増えました。ところが、「どの立場で何ができれば評価されるのか」がはっきりしないままでした。そこで、立場ごとの役割表をつくりました。
図表6 老舗ホテルでつくった役割表
ジュニア
経験の浅いスタッフ。まず覚える仕事を書き出す。
シニア
経験を積んだスタッフ。任せる仕事の範囲を書き出す。
リーダー
チームをまとめるスタッフ。まとめ役として求めることを書き出す。
※ 前掲の取組事例集をもとに作成(施設名は非公表)
あわせて、本人が自分を振り返る面談シートもつくりました。このシートには「あなたから見て頑張った人を2人挙げてください」という質問があります。ホテルの仕事はチームプレーなので、上司だけでなく、仲間から見た評価も取り入れたのです。
大切なのは、シートをつくって終わりにしないことです。本人の声を聞き、会社からも評価をきちんと伝える。このやりとりがあるから、「ちゃんと見てもらえている」という安心につながります。
採用や定着のお悩み、無料でご相談いただけます
「応募が来ない」「若手がすぐ辞める」など、今のお悩みをお聞かせください。施設の状況を伺いながら、何から手をつければよいかを一緒に整理します。
人材のことを無料で相談する→3つ目の打ち手は、仕事を楽にすることです。ここでも「小さく始める」のがポイントです。

デジタル化は、大きな会社だけの話ではありません。効果が出やすいのは、むしろ小さなデジタル化です。
都内のビジネスホテル(53室、従業員約23名)は、パソコンに慣れていないスタッフが多い職場でした。給与計算はタイムカードを見ながらの手作業。毎年10月の最低賃金の改定で新旧の時給が混ざる計算などに手間がかかり、計算ミスが起きることもありました。
図表7 勤怠管理を変えた結果
これまで
タイムカード+手作業の給与計算
計算に手間がかかり、ミスも起きていた
これから
勤怠管理システムを導入
パソコンの画面で出退勤を記録。今後は給与計算の自動化も予定
※ 前掲の取組事例集をもとに作成
スタッフの年齢層が高めで、パソコンに抵抗を感じる人もいました。そこで施設では、「間違っても大丈夫。やり直せるから、怖がらずにやってみて」と伝え続けました。その結果、今では全員が自然に使えるようになっています。
社長も「アナログ人間の自分でも、デジタル化を前向きに考えられるようになった」と話していました。
もう一つの方法が、仕事の見直しです。休日を120日に増やした会社では、昔から続いているだけの作業を減らし、その時間を接客に回そうとしています。仕事が楽になれば、「ここで働き続けたい」と思える職場に近づきます。
→では、自社はどこから始めればよいのでしょうか。簡単なチェックをご用意しました。
図表8 3分でできるチェック
① 採用
- 年間休日が120日未満
- 求人票に「必須」の条件がある(資格・語学など)
- 求人票を、応募する人のつもりで読み返したことがない
② 定着
- 立場ごとに「何ができれば評価されるか」が決まっていない
- 部下と面談する時期が決まっていない
- 部下が失敗や意見を話しにくそうにしている
③ 効率化
- 給与計算や出退勤を、手作業やタイムカードで管理している
- 「昔からやっている」だけで続いている仕事がある
- 忙しくて、仕事を見直す時間が取れない
図表9 当てはまる項目が多かったところから始める
採用が多かった
休日などの条件と、求人票の見直しから始めます。
定着が多かった
役割表づくりと、面談の時期を決めることから始めます。
効率化が多かった
勤怠管理のデジタル化と、仕事の見直しから始めます。

「自社のどこに問題があるのか、自分たちではわかりにくい」というのは当然のことです。毎日の仕事に追われていると、自社を外から見る時間はなかなか取れません。
支援を受けた施設からは、「自分たちだけでは気づかなかった強みや弱みがはっきりした」という声をいただきました。外の目が入ることで、経営者の気持ちが「変えなければ」と動く。それが、成果の出発点になっていました。
この記事の主な出典・参考
- 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2025年12月推計値)」
- 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概況」
- 東京都・公益財団法人東京しごと財団「業界別人材確保強化事業(カスタマイズ支援)人材確保取組事例集」(令和8年3月)
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よくある質問
Q小さな旅館でも取り組めますか?
A取り組めます。ご紹介したのは、従業員20〜90名ほどの施設の例です。求人票の書き直しや、面談の時期を決めることなど、お金をかけずに始められることも多くあります。
Q休日を増やすと、現場の人手が足りなくなりませんか?
A休日を増やすだけでは足りなくなります。ご紹介した会社でも、あわせて仕事の見直しを進め、昔から続いているだけの作業を減らしています。採用と効率化をセットで考えることが大切です。
Q評価のしくみは、自社だけでつくれますか?
Aまずは立場ごとの役割を書き出すところから、自社で始められます。ただ、老舗ホテルの支配人も「自分たちだけではなかなかうまくいかない」と話していました。形にするところで、外の意見を取り入れるのも一つの方法です。
Qパソコンが苦手なスタッフが多いのですが。
A大丈夫です。ご紹介したホテルでも、「間違っても大丈夫」と伝え続けたことで、年配のスタッフも含めて全員が使えるようになりました。まずは毎日使う出退勤の記録など、簡単なものから始めるのがおすすめです。
Q相談するときは、何を用意すればよいですか?
A特別な準備はいりません。この記事のチェックの結果や、今のお悩みをお聞かせください。
さいごに
いかがだったでしょうか?
ホテル・旅館の人手不足への対策を、「採用」「定着」「効率化」の3つに分けて、実例とともにご紹介しました。
どの施設でも、改善の出発点は「経営者の思い込みに気づくこと」でした。お客様が過去最高の今、ホテル・旅館の伸びを左右するのは「人」です。まずは、この記事のチェックから始めてみてください。
私はこのほか、京都市や札幌市が主催した宿泊業の人材確保セミナーの講師や、観光庁の事業の専門家として、宿泊施設や自治体のお手伝いもしています。
弊社アルファコンサルティングは、ホテル・旅館・観光業に特化したコンサルティング会社です。2009年の創業以来、経営改善、人材・採用、デジタル化、事業承継まで、全国の施設のお手伝いをしてきました。販売する商品を持たず、お客様の利益を第一に考える独立系のコンサルティング会社です。
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