廃校・公共施設は買って儲かるのか――観光宿泊で再生する収益と落とし穴
こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。
「閉校になった小学校を、宿泊施設として再生できないだろうか」「市が手放す保養所を買い取って、観光事業を始められないか」。こうしたご相談を、ときおりいただくようになりました。実際、近年は廃校をはじめとする公共施設を観光や宿泊の拠点として活用する動きが、各地で活発になっています。全国では毎年450校ほどの学校が廃校となり、老朽化した公共施設の整理も進んでいます。
さきほど「落とし穴がある」と申し上げました。それは、自治体の施設を買ったり借りたりする取引が、私たちが普段なじんでいる民間の不動産取引とは、まったく別のルールで動いていることです。この違いを知らないまま動くと、「買えると思った施設が買えない」「借りた方が安いと思ったのに割高だった」という事態に陥ります。逆に、この仕組みさえ理解していれば、競合が尻込みする物件を、有利な条件で手に入れることもできるのです。
もっとも、こうした取り組みがすべてうまくいっているわけではありません。集客と収益が軌道に乗った成功例がある一方で、業績が振るわず苦戦している例もあります。だからこそ、安易に飛びつくのではなく、収益の見通しと判断の基準を、これからじっくりお話しします。
ただ、その前に一つお伝えしておきたいことがあります。廃校や使われなくなった公共施設を取得するという挑戦は、単なる不動産投資ではありません。地域の人々が慣れ親しんだ建物を、もう一度まちの誇りとして蘇らせ、新たなにぎわいを生む営みです。採算はもちろん大切ですが、その先には、地域に貢献しながら自社の事業と信用を育てていくという、より大きな意味があります。本記事は、その挑戦を現実的な収益の目線から支えるためのものです。
- ●なぜ今、自治体の施設が市場に出てくるのか、その構造
- ●「買う・借りる・運営権」という3つの入口の違いと、初期投資の重さ
- ●廃校を宿泊施設にした場合の収支は実際どうなるのか(試算例)
- ●民間取引とは違う「隠れた事情」――補助金の縛りと適正対価のルール
- ●どんな施設なら勝てるのか、取得を判断する基準
1. なぜ今、自治体の施設が市場に出てくるのか

まず、なぜ自治体の施設が次々と市場に出てくるのか。背景には3つの大きな流れがあります。
この「手放したい自治体」と「活用したい民間」の利害が一致するところに、事業機会が生まれています。つまり、いまは観光・宿泊事業者にとって、活用できる施設を探しやすい局面が広がりつつあると言えます。
2. 「買う・借りる・運営権」――手に入れる3つの入口
「自治体の施設で事業をする」と一口に言っても、その関わり方には大きく3つの入口があります。どれを選ぶかで、初期投資の重さも、経営の自由度も、背負うリスクもまったく変わってきます。
一般的な感覚では、「いきなり買うのはリスクが高い。まずは借りる方が身軽だ」と考える方が多いでしょう。民間同士の不動産取引であれば、その判断は概ね正しいものです。
ところが、相手が自治体になると、この常識が通用しなくなります。後ほど詳しく説明しますが、補助金が投じられた施設には特殊な縛りがあり、「借りる方がかえって割高で不自由」という逆転現象が起きることがあるのです。
ですから、3つの入口は「どれが身軽か」ではなく、「その施設の事情に照らして、どれが最も得か」という観点で選ぶ必要があります。これは民間取引にはない、自治体案件ならではの判断軸です。
3. 買って儲かるのか――収支の組み立て方

「買って儲かるのか」という問いに、一般論で答えることはできません。施設の規模、立地、改修の度合い、集客力によって、収支はまったく違うものになるからです。そこで、一つのモデルケースを立てて、収支がどう積み上がるかを見てみましょう。なお、以下の数字はあくまで一定の前提を置いた試算例です。
モデル:地方の廃校を、20室規模の体験型宿泊施設に再生
客単価18,000円、年間平均稼働率55%という、地方の体験型宿泊施設として現実的な前提を置きます。宿泊収入に加え、飲食・体験・物販などの付帯収入を見込みます。
GOP率は21%。温泉旅館の一般的な水準(20〜30%)の下限にあたり、地方の中規模施設としては堅実な数字です。問題はここからで、初期投資をどう回収するかが勝負の分かれ目になります。
投資回収――「交付金が使えるか」で回収年数が倍も変わる
廃校の取得費そのものは、民間の土地建物に比べてかなり低廉です。問題は改修費で、耐震補強・用途変更・宿泊仕様への転換に大きな費用がかかります。ここで決定的に効いてくるのが、国の交付金です。
交付金が使えるかどうかで、投資回収年数がほぼ倍も変わります。観光振興に資する拠点整備には、整備費の2分の1を国が補助する交付金制度があり、これを使えるかが事業性を大きく左右します。そして、この交付金を申請するのは自治体です。民間が良い提案を持ち込み、自治体がその気になって交付金を取りに動く――この連携が成立すると、事業の採算性は一気に高まります。
4. 買う前に知るべき「隠れた事情」――民間取引との決定的な違い
ここからが本題です。自治体の施設をめぐる取引には、民間の不動産取引にはない「隠れた事情」があります。これを知らないと、思わぬところでつまずきます。
事情その1:補助金が入った施設は、そもそも売れない・買えないことがある
学校をはじめとする公共施設の多くは、国の補助金を受けて整備されています。補助金を受けて取得した財産は、補助金適正化法という法律により、一定期間内は補助の目的に反する使用・譲渡・貸付などを自由にできません。この期間を処分制限期間といい、建物の法定耐用年数などを勘案して定められています。
もし自治体がこの期間内に施設を民間へ売却・有償貸付しようとすると、国に補助金相当額を返還(国庫納付)しなければならないのが原則です。だからこそ、「貸したい・売りたいけれど、補助金の返還が発生するから動けない」という施設が、全国に数多く存在するのです。
事情その2:自治体は「安く貸す」ことができない――適正対価の原則
もう一つ、民間の感覚を覆すルールがあります。自治体が財産を貸す場合、原則として「適正な対価」で貸さなければならない、という縛りです。
民間同士であれば、「最初の数年は安くしておくので、そのかわり長く借りてほしい」といった柔軟な賃料交渉ができます。ところが自治体の財産は住民共有の資産です。これを不当に安く貸すことは原則として認められていません。無償や減額で貸すには、条例の定めや議会の議決といった特別な手続きが必要になります。
正確に言えば、これは普通財産(行政目的に使わなくなった財産)についての規律です。学校や庁舎などは本来「行政財産」ですが、廃校・廃止に伴って用途を廃止し、いったん普通財産に切り替えたうえで売却・貸付されるのが通常です。そのため、売買や貸付の場面では、この適正対価のルールが効いてきます。
だから「借りるより買った方が得」という逆転が起きる
この2つの事情を重ねると、民間の常識とは逆の結論が見えてきます。
もちろん、これはすべての案件に当てはまるわけではありません。補助金の処分制限がかかっていて、そもそも売却できない施設も多くあります。重要なのは、その施設に補助金がいくら入っていて、処分制限がいつまでで、自治体がどんな手続きを踏めるのか――こうした隠れた事情を一つずつ確認した上で、最も得な入口を選ぶことです。この見極めこそ、自治体案件で勝つための要諦です。
5. どんな施設なら勝てるのか――取得判断の基準
すべての公共施設が、観光・宿泊事業に向いているわけではありません。「安く手に入るから」という理由だけで飛びつくと、改修費と制約の重さに苦しむことになります。次の4つの観点で冷静に見極めることをお勧めします。
特に注意したいのが、改修費です。廃校や古い公共施設は、取得費が安くても、耐震補強や用途変更(学校から宿泊施設へ、といった建築基準法上の用途の変更)に多額の費用がかかります。取得費の安さに惑わされず、改修費を含めた総額で採算を判断してください。

逆に言えば、立地に独自の魅力があり、構造を活かせて改修費が読め、需要の根拠がある施設であれば、低廉な取得費と交付金を組み合わせることで、民間単独開発では実現できない採算性を確保できます。歴史的建造物、眺望に恵まれた高台の施設、温泉付きの保養所などは、こうした条件を満たしやすい代表例です。
6. 取得にこぎ着けるまでの動き方
実際に施設を手に入れるまで、大きく2つのルートがあります。
率直に申し上げます。公募が出てから入札に参加するだけでは、なかなか勝てません。公募が公表される頃には、活用方針や要求水準がすでに固まってしまっているからです。自治体が活用を検討している段階で、自社の構想を正規の制度に乗せて届けられるかが、勝負を分けます。
これは「裏で根回しをする」という話ではありません。PFI法に基づく民間提案制度や、サウンディング型市場調査など、制度として正式に用意された対話の場があります。こうした正規のルートを使って構想段階から自治体と健全に対話していくことが、案件を取りにいく最も確実な道です。この具体的な進め方は、公募前の正しい動き方の記事で詳しくご説明します。
私どもがお手伝いできること。私はこれまで、宿泊・観光施設の再生に数多く携わると同時に、自治体側の事業設計に関わる仕事もしてまいりました。自治体が要求水準書で何を求め、審査で何を評価するのか――その内側を知る立場から、弊社アルファコンサルティングでは、民間事業者であるオーナー様の利益を最優先に、構想づくりから収支計画、提案の組み立てまでを、組織として一貫してご支援しています。特定の金融機関や業者と利害関係を持たない独立した立場で、中立的にご助言できることが、弊社の強みです。
よくあるご質問
さいごに
いかがだったでしょうか。自治体の施設を取得して観光事業に活かす道は、民間取引とは異なるルールに満ちていますが、その仕組みを理解すれば、競合が尻込みする物件を有利な条件で手に入れる大きな機会になります。鍵となるのは、補助金の縛りや適正対価といった隠れた事情を一つずつ読み解き、買う・借りる・運営権の中から最も得な入口を選ぶことです。
そして忘れてはならないのは、これが地域の資産を蘇らせ、まちに新たなにぎわいを取り戻す仕事でもあるということです。採算を冷静に見極めることと、地域への貢献を志すことは、決して矛盾しません。むしろ両立させてこそ、長く続く事業になります。その両面から、私どもはお手伝いをしています。
弊社アルファコンサルティングでは、宿泊・観光施設の再生に関する豊富な実務経験と、自治体側の事業設計に関わってきた両面の知見をもとに、公共施設の取得・活用をお考えのオーナー様を、構想段階から伴走して支援しております。特定の業者に偏らない中立的な立場で、オーナー様の利益を最優先にご助言いたします。
「気になる施設があるが、買えるのかどうか分からない」「収支が成り立つか見極めたい」といった段階でも構いません。お気軽にお問い合わせください。
初回相談は無料です。
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「買う」以外の入口も比較してみたい方は、あわせてご覧ください。
- 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号)第22条――補助事業等により取得した財産の処分の制限
- 同法施行令(昭和30年政令第255号)第13条・第14条――処分を制限する財産の範囲、承認を要しない場合
- 地方自治法(昭和22年法律第67号)第237条第2項――財産の適正な対価によらない譲渡・貸付の制限
- 同法第96条第1項第6号――適正な対価によらない財産の処分に係る議会の議決
- 同法第238条の4・第238条の5――行政財産・普通財産の管理及び処分
※ 処分制限期間や国庫納付の要否に関する具体的な取扱いは、補助金の種類や所管する省庁の財産処分承認基準によって異なります。実際の判断にあたっては、当該施設に交付された補助金の所管省庁の基準をご確認ください。

