こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの川越貴文です。

「繁忙期は仕方がない。現場も分かっている」「とにかく乗り切ろう」。旅館・ホテルの経営者から、こうした言葉をよくお聞きします。お気持ちはよく分かります。季節の波がある業種である以上、忙しい時期そのものは避けられません。ただ、その繁忙期が「乗り切る対象」ではなく、毎年決まって繰り返される「仕組みの問題」になっていないか、一度立ち止まって考えてみる必要があります。

繁忙期を毎年そのままにしておくと、人はさらに辞めていきます。そこで必要になるのは、新しいツールを入れることでも、新しい施策を足すことでもありません。現場から業務を引く、つまり「やらないこと」を決めることです。今回は、繁忙期の現場を守るための業務改善の考え方と、次の繁忙期に間に合う進め方をお話しします。

経営者・支配人・現場責任者の方へ この記事のポイント
  1. 繁忙期を放置すると、人はさらに辞めていく。残業・意欲低下・離職が同じ職場で同時に起きていることを、数字で確かめます。→ ポイント①へ
  2. 業務は「やめる・減らす・後ろ倒し・置き換え」の四つに分ける。足し算ではなく引き算から。→ ポイント②へ
  3. 生成AIや機械は、引き算の後に来る。見るべきは導入費ではなく「何も変えないコスト」。→ ポイント③へ
  4. 閑散期に小さく試し、引き算を約束してから展開する。現場を守るのは「頑張る指示」ではなく「やめる判断」。→ ポイント④へ

気になるポイントだけ、つまみ読みでも役立つように作っています。

ポイント① 繁忙期を放置すると、人はさらに辞めていく

まず、現場で何が起きているのかを、数字で確かめましょう。労働政策研究・研修機構(JILPT)が全国の企業と正社員を対象に行った調査では、職場に人手不足があると感じている労働者のうち、85.8%が「残業時間の増加、休暇取得数の減少」を挙げています。さらに78.4%が「働きがいや意欲の低下」、75.9%が「離職者の増加」を挙げました。

図表1 人手不足が職場にもたらす影響 ── 残業・意欲低下・離職は、同じ職場で同時に起きる
残業時間の増加、休暇取得数の減少85.8%
従業員の働きがいや意欲の低下78.4%
離職者の増加75.9%
能力開発機会の減少75.0%
メンタルヘルスの悪化等による休職者の増加65.0%

職場に人手不足があると認識する労働者のうち、各項目を「影響がある」と答えた割合。出典:労働政策研究・研修機構「人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査(企業調査・労働者調査)」調査シリーズNo.193(2019年実施)
https://www.jil.go.jp/institute/research/2020/193.html

ここで見ておきたいのは、「残業の増加」「意欲の低下」「離職」が、同じ職場で同時に起きているという点です。繁忙期に残業が増えること自体は自然なことです。しかし、その状態が毎年同じように繰り返されると、スタッフは「ここにいると疲れる」と感じ始めます。その気持ちが「ここで働き続ける理由」より大きくなったとき、人は辞めていきます。

実際、厚生労働省の「令和6年雇用動向調査」によれば、宿泊業・飲食サービス業の離職率は25.1%。全産業平均の14.2%を大きく上回り、主要産業の中で最も高い水準が続いています。転職した人が前職を辞めた理由として「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」を挙げた割合は、男性8.6%、女性12.8%でした。数字だけを見ると小さく感じるかもしれませんが、宿泊業の現場に置き換えれば、繁忙期の無理がそのまま辞める理由になっていく様子と重なります。

図表2 産業別の離職率 ── 宿泊業・飲食サービス業は全産業平均の約1.8倍
宿泊業,飲食サービス業25.1%
全産業(調査産業計)14.2%

令和6年(2024年)1年間の離職率(常用労働者に対する離職者の割合)。棒の長さは30%を上限として描画。出典:厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/index.html

ここで、考え方を改める必要があります。繁忙期があること自体は、業種の特性上避けられません。しかし、その状態を毎年そのままにしておくことが、人手不足をいっそう深刻にしているのです。言い換えれば、繁忙期の業務改善とは単なる効率化ではなく、スタッフの「ここで働き続けたい」という気持ちを保つための投資です。

では、自館の繁忙期が「放置されているかどうか」は、どう見分ければよいのでしょうか。ご相談を受けてきた中での私の所感ですが、役に立つのは、部門ごと・時間帯ごとに「スタッフの手が本当に必要な人数」を数えてグラフにしてみることです。旅館・ホテルの一日には、チェックイン、夕食、朝食、チェックアウトという山が必ずあり、繁忙期にはその山が高く、間隔が詰まります。山の高さがそのまま残業と疲弊に変わっている館では、「山の時間帯にやらなくてもよい仕事」が、山の中に混じっていることがほとんどです。この山を低くするという考え方が、次のポイントにつながります。

ポイント② 繁忙期の仕事を「やめる・減らす・後ろ倒し・置き換え」で分類する

繁忙期の現場で何が起きているか。多くの場合、こうです。確認を増やす、報告を細かくする、例外対応を積み上げる、その場しのぎのルールを足す。一つひとつは「必要に見えて」進められた業務ですが、積み重なると、重要な仕事と付随的な仕事の区別が曖昧になります。結果として現場は「全部やる」前提で動き始め、本来守るべき品質やお客様対応にまで影響が及ぶようになります。

ここで必要なのは、新しい施策を足すことではなく、不要な業務を見極めることです。業務改善は「何を足すか」ではなく「何をやめるか」から始まるべきなのです。繁忙期の業務は、大きく四つに分類できます。

図表3 繁忙期の業務を四つに分ける ──「やらないことリスト」の型

やめる

なくしても支障が少ないもの。目的より手段だけが残っているもの

  • 定例で提出しているが、実は誰も見ていない報告書
  • 「季節恒例だから」という理由だけで続いている確認作業
  • 議題に関係のない部署まで出席している会議
  • 実質的な権限のない上司への報告・承認

減らす

頻度・範囲・時間を下げる。全件ではなく要点に絞る

  • 日報を週報に変える
  • 全件チェックを重点ポイントの確認に変える
  • 現金・金券の点検回数を絞る(自動釣り銭機の検討も)
  • 30分の会議を15分にする

後ろ倒しにする

繁忙期の間は完了を求めず、落ち着いてから処理する

  • 細かい集計・分析は閑散期にまとめて行う
  • 書類整理、マニュアルの改訂
  • 備品の棚卸し(安全・衛生に関わるものを除く)
  • 新しい取り組みの検討会

置き換える

人が毎回ゼロから行うのではなく、仕組みや道具に任せる

  • 議事録のたたき台(音声認識・生成AI)
  • 問い合わせの一次対応(チャットボット・AI)
  • データ入力や集計の補助(RPA・業務用ツール)
  • 精算・決済(自動精算機・キャッシュレス)

例示はあくまで型です。自館の現場を見て、「本当に今やる必要があるのか」を一つずつ問い直してください。思いのほか多くの業務が「やめられる」「減らせる」ことに気づくはずです。

引き算の対象は、社内の事務作業だけではありません。ご相談を受けてきた館では、繁忙期だけ部屋出しプランの販売数を絞る、夕食の開始時間を二つの枠に集約する、レストランの営業時間を短縮する、低稼働日を思い切って売り止めにする、といった商品側の引き算で、事務の見直しより大きく残業を減らせた館もありました。お客様に多少の不便をお願いすることになりますが、疲れ切ったスタッフが提供する「全部入り」のサービスより、余裕のあるスタッフが提供する絞り込んだサービスの方が、口コミの評価は落ちにくいものです。

大切なのは、この四つの分類を経営判断で進めることです。「忙しいから現場で判断して」という丸投げをしてはいけません。現場は「できることはやらなくては」という責任感から、判断を先延ばしにしてしまうからです。リーダーが「この繁忙期は、あれはやめる、これは減らす」と明確に判断し、現場にそれを伝える。その決定があるからこそ、現場は気兼ねなく仕事の量を調整できます。

スタッフを集めてミーティングを行うホテルの支配人
「やめる」の判断は現場に委ねず、リーダーが決めて伝える

ポイント③ 生成AIや機械は「置き換え」の後に来る

業務改善というと、AIを導入する、機械を入れるといった新しいツールの活用を真っ先に思い浮かべる方もいるでしょう。生成AIが注目を集める今、「うちもAIを使ってみようか」という会話は、旅館・ホテルでも増えています。ただ、ここには守るべき順序があります。

図表4 業務改善の順序 ── 置き換えは、引き算が終わってから
1 やめる

目的を失った業務をなくす。ここで消える仕事は、自動化する価値もない

2 減らす

頻度・範囲・時間を下げる。残す仕事がはっきり見えてくる

3 後ろ倒しにする

繁忙期の山から外す。閑散期の仕事として組み直す

↓ ここまで済んで初めて
4 置き換える(生成AI・業務用ツール・機械)

残った定型業務を、仕組みや道具に任せる。投資対象が絞られ、費用対効果が見えやすくなる

不要な業務をわざわざ自動化するほど無駄な投資はありません。この順番を守るかどうかで、結果は大きく変わります。

生成AIや業務用ツールが活躍するのは、定型的で、繰り返しが多く、処理手順がある程度決まっている業務です。反対に、判断や配慮、人間関係が中心にある業務は、道具に任せるほど質が落ちます。整理すると、次のとおりです。

図表5 生成AI・業務ツールと相性の良い業務、悪い業務

相性が良い ── 定型・反復・手順が決まっている

議事録・報告書下書きを任せる会議の録音から議事録のたたき台を作る。日報・申し送りの要約
メール・案内文初稿を任せる予約確認、案内メール、多言語の定型返信の初稿作成。最終確認は人が行う
問い合わせの一次分類振り分けを任せるよくある質問への自動応答、担当部署への振り分け。判断が必要なものだけ人へ
入力・集計・チェックリスト手作業を減らす売上集計、在庫入力、点検記録の標準化。転記ミスと手戻りが減る

相性が悪い ── 判断・配慮・信頼が価値の中心

クレーム対応人が担う状況の見極めと配慮が必要。初動の記録整理はAIでも、対応そのものは人
スタッフの評価・指導人が担う人間関係と信頼が基盤。数字の整理は道具に任せても、伝えるのは上司
お客様対応の創意工夫人が担う一人ひとりへの個別対応が価値そのもの。ここに時間を戻すための改善
経営判断人が担う責任が伴う。AIは判断材料の整理までにとどめる

「AIが新しいから」「競合がやっているから」という理由で入れたツールは、操作負荷が増えるだけになりかねません。ツール導入を目的にしないことが肝心です。

ところが実際には、順番を考える手前で話が止まってしまうことがあります。「AIは高そうだ」「機械化しても元が取れない」「そこまで投資するほどではない」。こうした反応は珍しくありません。ただ、ここで見落とされているのは、今のやり方を続けることで、毎年発生しているコストです。

図表6 見落とされている「何も変えないコスト」の棚卸しシート
毎年繰り返される繁忙期の残業代時間外・休日・深夜の割増分を含む年間万円
応援・派遣・スポット人材の手配費繁忙期だけ外部に頼っている人件費年間万円
ミス・手戻りによる損失予約の取り違え、二重入力、クレーム対応に費やした時間年間万円
離職に伴う採用・育成コスト求人費・面接・研修・戦力化までの生産性低下一人万円 ×
スタッフの疲弊による品質低下口コミ評価・リピート率への影響。数字に表れにくい損失(金額化しにくい)
管理者が判断業務に使えなかった時間本来の経営判断・スタッフ育成が後回しになる(金額化しにくい)
何も変えないことで、毎年失っている額年間万円

離職一人あたりのコストの考え方は、別記事「旅館・ホテルの離職コスト」で詳しく整理しています(記事末尾の関連記事へ)。

たとえば、導入コストが50万円のツールがあるとします。一方で、毎年200万円の繁忙期残業代が発生し、年に一人の離職が続いているとしたら、その50万円は十分に元が取れる投資です。この見方の違いが、業務改善に踏み出せるかどうかを分けます。繁忙期の残業が当たり前になっている職場では、「導入コストが高いからやらない」と判断する前に、「何も変えないことで毎年いくら失っているのか」を棚卸しする視点が必要なのです。

パソコンの画面を確認して手応えを感じる和食店の従業員
道具は、引き算が終わって残った定型業務に入れる。そこで初めて費用対効果が見える

「やらないことリスト」と「何も変えないコスト」の棚卸しを、設計の段階からお手伝いします。

繁忙期の業務改善を相談する

ポイント④ 現場を守る業務改善の進め方

では、実際にどう進めるのか。大切なのは、一度に全館で実行しないことです。そしてもう一つ、繁忙期の改善を繁忙期の最中に実施しないことです。次の三段階で進めます。

図表7 業務改善の三段階 ── 閑散期に試し、約束してから広げる
1閑散期に試す(小さく始める)
「次の繁忙期に向けて、報告フォームを簡素化する」「定例会議を15分にしてみる」「議事録のたたき台を生成AIに任せてみる」。現場に余裕がある時期に、一部門・一業務から始める
2反応を観察し、問題点を修正する(1か月程度)
スタッフから出てくる意見、実際に起きた変化、予想外の負荷をすべて集める。「本当にやめていいのか」「ここは調整が必要か」を検討し、無理なく運用できる形に直す
3「何を引き算するか」を明確にしてから展開する
本格展開の前に、「これをやるために、あれはやめる」という約束を明文化する。これがないと新しいことが足し算になり、現場の負荷はむしろ増える

今がすでに繁忙期なら、この期間は「記録」に徹してください。残業時間、手戻り、誰も見ていなかった報告書。それが閑散期に試すための材料になります。

この段階的な進め方の中で、もう一つ大切なことがあります。それは、リーダーが「変化を信じる姿勢」を見せることです。「これをやらなくても大丈夫だろうか」という不安は、現場にも伝わります。その不安が伝われば、スタッフは「やっぱり自分たちでもやっておこう」と、やめるはずだった業務を再開してしまいます。反対に、リーダーが「この改善は試した。実行する」と明確に示せば、現場は新しいやり方に集中できます。

これは、部下を指導する際の原則と同じです。部下に「こうやってみてください」と指示しながら、自分は違うやり方を続けていれば、部下は混乱します。組織全体で「やらないことリスト」を決めたなら、リーダー自身がそれを守る姿を見せることが、現場を動かすいちばんの近道です。

ホテル旅館コンサルタント 川越貴文川越貴文ご相談を受けた館でいちばん手応えがあったのは、経営者が朝礼で「この繁忙期、この報告書は出さなくていい。責任は私が持つ」と自分の口で言ったときでした。同じ内容を文書で回覧しただけの館では、翌週も報告書が出続けていました。

足す前に、引く。引いてから、置き換える。
やめる判断は、リーダーが自分の言葉で伝える。

よくある質問

Q. 現場に「やめてもいい業務」を聞いても、何も出てきません。

A. 聞き方を変えてください。「やめられる仕事はあるか」と聞かれれば、責任感のあるスタッフほど「ありません」と答えます。「この1か月で、誰にも使われなかった書類や報告は何か」「先月、なくても困らなかったことは何か」と、事実を聞くのです。出てきた事実をもとに、やめるかどうかの判断はリーダーが下します。

Q. 業務を減らすと、サービスの質が落ちませんか。

A. 減らす順番を間違えなければ落ちません。まずお客様の評価に直結しない社内業務から手をつけます。お客様に見える部分(部屋出し、営業時間など)を絞る場合は、「繁忙期限定」と明示し、閑散期には戻すことを前提にしてください。疲れ切ったスタッフが提供する「全部入り」より、余裕のあるスタッフが提供する絞り込んだサービスの方が、評価はかえって保ちやすくなります。

Q. 生成AIは、何から始めるのが現実的ですか。

A. 議事録のたたき台と、案内文の初稿です。翌日には効果が分かり、失敗しても影響が小さい。始める前に「個人情報・機密情報は入力しない」「出力は人が確認してから使う」というルールを一枚にまとめて配ってください。ルールがあるから、慎重な人も安心して使えます。

Q. 小規模な旅館でも、この進め方は当てはまりますか。

A. 小規模の館ほど、成果が早く表れます。少人数の館では一人が複数の持ち場を受け持つため、一つの業務をやめると、その分が全員の負担に直接響くからです。報告書一枚、会議一つの引き算が、繁忙期の残業時間にそのまま表れます。

さいごに

いかがだったでしょうか。繁忙期があることは、業種の特性上避けられません。ただし、繁忙期が毎年繁忙期のまま続き、残業や疲弊が当たり前になっている状態は、経営の責任として見直すべきものです。その見直しの第一歩は、何かを足すことではなく、何をやめるかを決める判断です。やめるべき仕事をやめ、減らせる仕事を減らし、残すべき仕事は標準化し、必要に応じて生成AIや業務用ツールに置き換える。そうして、人が本来やるべき仕事、すなわちクレーム対応の配慮、お客様との関係づくり、スタッフへの指導に集中できる状態をつくることが、これからの業務改善には求められます。

現場を守るのは、「もっと頑張ろう」という呼びかけではありません。リーダーが「この時期は、これはやめる」とはっきり判断し、現場の負担を生んでいる前提そのものを変えることです。その判断があって初めて、スタッフは「この職場は自分たちのことを考えてくれている」と感じ、それが「ここで働き続けたい」という気持ちにつながっていきます。

弊社アルファコンサルティングでは、「繁忙期が繁忙期のまま固定化している」「業務が増え続けて現場が疲弊している」といったご相談に対応しています。個別の施策ではなく、その背景にある業務体系そのものの見直しを、特定のシステム会社と利害関係を持たない中立の立場からご支援します。

初回相談無料です。自館の繁忙期の在り方に疑問を感じている方は、どうぞお気軽にご相談ください。

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