ホテル旅館の人件費最適化 ― 業態別ベンチマークから外注費・退職金まで実務マニュアル
📍 この記事は ホテル旅館の経費削減完全ガイド のクラスター記事です
こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。本記事では、ホテル旅館の人件費最適化について、業態別ベンチマークからシフト管理・外注費・退職金制度まで、現場で実践できる具体策をお伝えします。経営者の方・支配人の方・人事担当の方にお読みいただきたい内容です。
人件費は、ホテル旅館の経費の中で最も大きな割合を占めます。最低賃金の上昇や人手不足により、人件費率は構造的に上昇傾向にあります。しかし、安易な削減は離職と派遣費の悪循環を招き、結果的にコストが増加するリスクがあります。本記事では、人件費を「削る」のではなく「最適化する」ための実務をお伝えします。
この記事を読むとわかること
- 業態別の売上高人件費比率ベンチマーク
- 総労働時間の予算化とシフト管理の実務
- コア業務とノンコア業務の分類による業務分業
- スタッフ定着率向上が結果的に最大の人件費対策
- 外注委託費の見積もり評価ポイント
- 退職金制度の選定(中退共・確定拠出年金等)と外部積立化
- 求人費の費用対効果測定と無料媒体の活用
📑 目次(クリックで開閉)
1. 業態別の売上高人件費比率ベンチマーク
| 想定読者 | 経営者・支配人・人事担当者 |
| 問題 | 自館の人件費率が適正か判断する基準がない |
| 解決策 | 業態別ベンチマークと比較して構造的課題を特定する |
| 効果 | ベンチマーク超過の場合、ビジネスモデル自体の見直しが必要なケースも |
| ひとことで | 業態によって適正な人件費率は大きく違う。客単価との関係で評価が必要です |
業態別ベンチマーク
自館の人件費率が適正なのかを判断するためには、業態別のベンチマークと比較することが有効です。
【図表C3-1】業態別 売上高人件費比率の目安
| 業態 | 売上高人件費比率の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| ビジネスホテル | 15〜20% | フロントと清掃中心、業務がシンプル |
| シティホテル | 25〜30% | レストラン・婚礼・宴会等の併設で人員多め |
| リゾートホテル | 28〜33% | レジャー施設併設・大規模ゆえ人員多い |
| 温泉旅館(料飲一体型) | 30〜35% | 客室係・調理・接客で人員密度が高い |
| 高級旅館・ラグジュアリー | 20〜25% | 客単価が高いため、人員多くても比率は低め |
自館の人件費率がこの目安を大きく超える場合は、構造的な要因を確認しましょう。
客単価が業界水準を大きく下回っているのに人件費率だけが業界水準並みの場合、ビジネスモデル自体の見直しが必要なことがあります。
人件費率の高さは、必ずしも人件費の絶対額が多いことを意味しません。客単価が低くサービスレベルが過剰、というケースも多いです。その場合は人件費を削るのではなく、客単価向上やサービスの再設計が本質的な解決策になります。
→ 次章では、人件費最適化の3つの軸のうち、最も即効性のある「総労働時間の予算化とシフト管理」をお伝えします。
2. 総労働時間の予算化とシフト管理
| 想定読者 | 経営者・支配人・各部門責任者 |
| 問題 | シフトを現場任せにしているため、人員投入が過大になりがち |
| 解決策 | 年間労働時間を予算化し、月次・週次でモニタリング |
| 効果 | 予算化だけで5〜10%のシフト効率化が実現するケースが多い |
| ひとことで | 「人手が足らない」という現場の言葉を鵜呑みにせず、データで判断を |
総労働時間の予算化
人件費を抑制するために最も重要なのが、総労働時間の予算化です。年間を通じた労働時間の予算を立て、月次や週次でモニタリングすることで、総労働時間を抑えることができます。
予算化の基本ステップは以下です。
- 年間売上目標と目標人件費率から、年間総人件費予算を算出
- 平均時給(社員・パート別)で、年間総労働時間を逆算
- 繁忙期・閑散期のシーズン別に労働時間を配分
- 部門別に労働時間を配分(フロント・客室・調理・予約等)
- 週次・月次で計画対実績を確認し、超過時は対策を講じる
シフト管理の落とし穴
シフト管理は、現場スタッフに任せきりでは良くありません。1〜2時間程度のピークタイムに合わせてシフトを組むため、投入スタッフが過大になる傾向にあるからです。
「人手が足らない」という現場の言葉を鵜呑みにせず、年間売上と目標人件費率からみて、投入労働時間が適正か確認したいところです。実際、私が支援した施設では、シフト管理を見直すだけで5〜10%の人件費削減につながったケースが多数あります。
シフト管理ツール(楽天シフト・Airシフト・ShiftMAX等)を導入することで、シフト作成の効率化と労働時間の見える化を同時に実現できます。月数千円〜数万円のコストで、人件費数十〜数百万円の削減につながるROIの高い投資です。
→ 次章では、業務効率化の核心である「コア/ノンコア業務の分類」をお伝えします。
3. コア業務とノンコア業務の分類による業務分業
| 想定読者 | 経営者・支配人・各部門責任者 |
| 問題 | 全業務を内部スタッフが抱え、コア業務に集中できていない |
| 解決策 | コア業務とノンコア業務を明確に分類し、ノンコアは外注・自動化 |
| 効果 | 業務分業で人件費10〜20%の効率化が現実的に可能 |
| ひとことで | 接客・コンシェルジュ等のコア業務にスタッフを集中、清掃・自動精算等は外注・自動化 |
業務の効率化を進めるためには、付加価値につながるコア業務と、付加価値と直接関係のないノンコア業務を明確に区別しておきましょう。
【図表C3-2】コア業務とノンコア業務の分類 ― 自館で点検してみよう
| 部門 | コア業務(内部スタッフ集中) | ノンコア業務(外注・自動化検討) |
|---|---|---|
| フロント | チェックイン時の関係づくり、コンシェルジュ業務、苦情対応 | 自動精算機への切替、深夜の単純電話対応、紙の予約台帳作成 |
| 客室 | お客様対応、室内点検、備品の在庫確認 | 床清掃・浴室清掃の外注、リネン取替の効率化、消耗品補充の標準化 |
| 調理 | メニュー開発、味付け、最終仕上げ、季節食材の選定 | 下処理の冷凍食材活用、皿洗いの機械化、半製品の活用 |
| 予約 | プラン企画、料金戦略、団体問合せ対応 | OTAサイトコントローラー導入、自動返信メール、データ抽出の自動化 |
コア業務にスタッフを集中させ、ノンコア業務は外部委託や自動化を進めるのが基本方針です。とはいえ、すべてを外注すれば良いというわけではありません。施設の規模・立地・客層によって最適な分業の形は変わります。
→ 次章では、結局のところ最大の人件費対策となる「スタッフ定着率の改善」をお伝えします。
4. スタッフ定着率の改善が最大の人件費対策
| 想定読者 | 経営者・支配人・人事担当者 |
| 問題 | 離職率が高く、採用→離職→再採用の繰り返しで求人費と教育費が膨らむ |
| 解決策 | 労働環境改善・就業規則見直し・職場の人間関係改善で定着率向上 |
| 効果 | 定着率改善で求人費30〜50%削減、サービス品質も向上 |
| ひとことで | 高額の求人広告費をかけても、就職者より離職者が多ければ問題は解決しません |
スタッフが職場に不満を持っている状況では、高額の求人広告費をかけて採用活動しても、就職者より離職者の方が多くなり、問題の解決にはなりません。
労働環境の改善や、就業規則・ハウスルールの見直しによりスタッフの定着率を高めることが、結局のところ最大の人件費対策となります。
定着率向上の具体策
私が現場で支援する定着率向上策の代表的なものを紹介します。
- 就業規則の見直し:休日数・休憩時間・有給取得率の見える化と取得促進
- ハウスルールの整備:挨拶・連絡のルール化、上下関係の見直し
- 福利厚生の充実:住宅手当(地方の宿泊施設は特に有効)、まかないの質向上
- 研修制度:OJTだけでなく、定期的なスキルアップ研修
- キャリアパス提示:5年後・10年後の役割と給与水準を見える化
- 問題スタッフへの対応:放置せず、経営者自ら措置を講じる
- 地域貢献の機会創出:地元行事への参加で帰属意識を醸成
特に地方の宿泊施設では、住居の確保・子育てサポートなど、地域行政との連携も重要です。スタッフの生活環境が採用・定着率に大きく影響します。
大型施設の場合は、仕事の効率が悪く待機時間の長い部署があれば、業務プロセスの見直しと配置転換が有効です。中型以下の施設では、職場の人間関係がスタッフの士気低下・離職率増加の原因となっていることがあります。問題あるスタッフを放置せず、経営者自らが措置を講じることが重要です。
→ 次章では、人件費と並んで見落とされがちな「外注委託費」の評価ポイントをお伝えします。
5. 外注委託費 ― 実質的には人件費であることを忘れずに
| 想定読者 | 経営者・支配人・購買担当者 |
| 問題 | 外注委託費が膨らんでいるが、便乗値上げを見抜けず鵜呑みにしている |
| 解決策 | 見積もり詳細チェック・相見積もり・一部内製化の検討 |
| 効果 | 外注費見直しで年間100〜500万円の削減事例が多数 |
| ひとことで | 外注費は実質人件費。便乗値上げを見抜くための詳細チェックが必要です |
旅館・ホテルの外注費として計上するものは、客室や共用部の清掃、接客・調理スタッフの派遣、売店・レストラン運営などが挙げられます。外注費といっても、実質的には人件費が大部分を占めます。
人手不足と採用難の影響は外注委託会社にも及んでおり、求人費・人件費・社会保険料のコスト増分が外注費に上乗せされている状況にあります。
中にはコスト増を理由に便乗値上げしてくる業者もあるので、見積もりはよくチェックした上で交渉を進めましょう。具体的には、内訳の明細(時給単価・必要時間数・諸経費比率)を確認することが重要です。
外注委託会社と条件面が折り合わないようであれば、一部内製化も検討しましょう。クラウドサービスが普及している現在では、自社で管理業務を行っても以前のような手間と経費がかからなくなっています。
→ 次章では、人件費に隣接する重要テーマ「退職金制度」について、外部積立化の選択肢をお伝えします。
6. 退職金制度の選定と外部積立化
| 想定読者 | 経営者・経理担当者 |
| 問題 | 退職金制度を導入したが資金の裏付けがなく、退職者が増えると経営が傾く |
| 解決策 | 中退共・確定拠出年金等の外部積立に切り替える |
| 効果 | 外部積立で税制優遇+M&A時の譲渡額減額リスクを回避 |
| ひとことで | 退職金制度を導入するなら外部積立が必須。社内引当は危険です |
安易な気持ちで退職金制度を導入していないでしょうか。企業として責任ある姿勢を示すことは大変重要ですが、資金の裏付けがないと、ベテラン社員の退職が重なったときに思いもよらない経費増につながります。
また、法人を売却するときには、スタッフ全員に一括して退職金を支払わなければならないケースがあるので注意しましょう(当然その分、譲渡額は減額されてしまいます)。
外部積立の選択肢
退職金制度を導入するのであれば、外部積立を行うことが望ましいでしょう。代表的な選択肢を整理しました。
【図表C3-3】退職金制度の選択肢
| 制度 | 適用企業 | 特徴 |
|---|---|---|
| 中小企業退職金共済(中退共) | 中小企業 | 国が運営、加入手続が簡単、掛金は損金算入、税制優遇あり |
| 確定拠出年金(企業型) | 大企業中心 | 運用は本人、ポータビリティが高い、税制優遇あり |
| 確定給付企業年金 | 大企業中心 | 給付額が確定、運用リスクは企業負担 |
中小企業の場合は中退共を検討すると良いでしょう。加入手続きは非常に簡単で、税制面の優遇を受けることもできます。利益計上しているタイミングで思い切って外部積立に切り替えることをお勧めします。
人件費最適化の実行を伴走支援します
- シフト管理の効率化(ツール選定含む)
- コア/ノンコア業務分類の整理と外注先選定
- 定着率改善のための就業規則・福利厚生レビュー
- 退職金制度の見直しと外部積立化
- 求人費の費用対効果分析
初回相談は無料です(オンライン相談可)
よくあるご質問
Q1. シフト管理ツールはどれを選ぶべきですか?
施設規模により異なります。小規模(20名以下)ならAirシフト等の無料版でも十分。中規模以上ならShiftMAX・楽天シフト・ジョブカンなどの有料版を比較検討してください。重要なのは、自施設の業務フローに合っているかと、スタッフが直感的に使えるかです。
Q2. 定着率向上の取り組みは効果が出るまでどのくらいかかりますか?
半年〜1年が目安です。就業規則の見直しは即効性がありますが、職場文化の改善には時間がかかります。継続的な取り組みが重要です。
Q3. 中退共への加入手続きは難しいですか?
中退共の加入手続きは非常に簡単です。専用の申込書類を記入し、提出するだけで加入できます。掛金は事業主負担、損金算入が可能で、税制面の優遇も受けられます。
Q4. 業務分業を進めた結果、サービス品質が落ちないでしょうか?
正しく分業すれば、むしろサービス品質は向上します。コア業務(接客・コンシェルジュ等)にスタッフを集中させることで、お客様への対応の質が上がります。ノンコア業務(清掃・データ入力等)の外注先選定は慎重に行ってください。
Q5. 求人費が膨らんでいます。無料で使える求人媒体はありますか?
ハローワーク・Indeed(無料枠)・地域の求人情報サイト等があります。また、自社サイトに採用ページを設けて、SNSやLINE公式アカウントで発信するのも効果的です。地域貢献を打ち出した採用ブランディングが、特に若年層に響きます。
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本記事は「ホテル旅館の経費削減完全ガイド」のクラスター記事です。経費削減全般の戦略・他の勘定科目(食材原価・OTA手数料・水光熱費・衛生費等)については、ピラー記事をご参照ください。
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いかがだったでしょうか?人件費は、単に「削る」のではなく「最適化する」視点が重要です。総労働時間の予算化・業務分業・定着率改善の3軸で取り組み、外注委託費の見直しや退職金制度の整備も併せて行うことで、サービス品質を維持しつつ人件費の構造改革が可能になります。
弊社アルファコンサルティングでは、ホテル・旅館の人件費最適化の支援を、これまで多数の施設で実施してきました。観光経済新聞でのコラム連載は2009年4月から17年に及び、業界の構造的な変化と現場の実態の両方を踏まえた、実践的なご支援を強みとしております。
「人件費率が高止まりしている」「シフト管理を見直したい」「定着率を上げたい」「外注費を点検したい」「退職金制度を整備したい」といったご相談を承っております。初回相談は無料です。お気軽にご相談ください。

