新規開業・新規参入のための事業計画を、宿泊業専門コンサルタントが具体的に解説します

こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。今回のコラムでは、ホテル・旅館の事業計画の書き方を紹介します。このコラムを読んでいただければ、自分で事業計画を書けるようになるはずですので、少し長いですが最後までお付き合いください。

事業計画は、銀行から融資を受けるための書類であると同時に、自分自身が無謀な投資をしないための羅針盤でもあります。難しそうに見えますが、骨格はシンプルです。図解を交えながら、できるだけ分かりやすく整理していきます。

この記事を読むとわかること
  • ホテル・旅館の事業計画に必要な全体構成
  • マクロ環境・マーケット環境分析のまとめ方と情報源
  • 売上・利益・返済まで一貫した数値計画の作り方
  • 投資としての利回りの確かめ方(投資家目線)
  • 銀行に「貸したい」と思わせる説明の仕方と想定問答

本コラムに入る前に、一点だけ整理させてください。「事業計画」と「経営改善計画」は、名前は似ていますが目的がまったく異なります。自分がどちらを必要としているかを、最初に確かめておきましょう。

図表1 事業計画と経営改善計画の違い
観点事業計画(本コラム)経営改善計画
対象これから開業・新規参入するすでに営業している
目的新規融資を受けて始める立て直して返済を続ける
時間の向き将来を描く現状を立て直す

本コラムは、これから開業・新規参入する方が、融資を受けるために作る事業計画を扱います。すでに営業していて業績の立て直しが必要な場合は、別途解説している「経営改善計画の作り方」のコラムをご覧ください(記事末尾に関連リンクをまとめています)。

ひとくちにホテル・旅館といっても、近年は業態が大きく多様化しています。従来のシティホテル・ビジネスホテル・旅館に加えて、ゲストハウスやホステル、カプセルホテル、キャビン型ホテル、アパートメントホテルキッチン付きなど長期滞在向けの客室)、一棟貸しの宿(ヴィラ・コテージ)、グランピング、古民家を再生した宿、民泊など、選択肢は広がる一方です。

さらに最近では、スマートロックやセルフチェックイン宿泊客が自分で受付・入室を行う仕組み)を活用した無人ホテル・省人化運営」も増えています。これは正確には一つの業態というより、人手をかけずに運営する「運営手法」であり、上に挙げたさまざまな業態と組み合わせて用いられます。深刻な人手不足と人件費の高騰を背景に、新規参入の有力な選択肢になっています。

図表2 ホテル・旅館の主な業態・形態
分類主な例特徴
従来型シティホテル、ビジネスホテル、旅館宿泊業の基本となる業態
低価格・宿泊特化ゲストハウス、ホステル、カプセル、キャビン型設備を絞り、低価格・高回転で運営
長期滞在型アパートメントホテル、サービスアパートメント連泊需要に対応し運営効率が高い
一棟貸し・自然体験ヴィラ、コテージ、グランピング1組限定など高付加価値・体験重視
遊休不動産活用古民家再生の宿、民泊既存建物を活かす。地域資源との親和性
(運営手法)無人ホテル・省人化運営業態でなく運営の手法。各業態と組み合わせる

こうした新しい業態・運営手法であっても、事業計画の構成は基本的に同じです。本コラムの考え方は、どの形態の宿泊施設にも応用できます。

ホテル・旅館を新たに始めるには事業計画が必要

この章をひとことで言うと

コストも金利も上がった今、勢いだけの開業は危ない。綿密な事業計画の重要性は、かつてないほど高まっている。

コロナ禍を経て、観光業界は大きく姿を変えました。インバウンドは過去最高を更新し、市場規模も過去最高水準にあると報じられています。好調なエリアでは新規開業も活発です。

ただし、開業を取り巻く環境は以前よりはるかに厳しくなっています。建築費・人件費・食材費・光熱費はいずれも大きく上昇し、長く続いた低金利の時代も終わりを迎えました。日銀の利上げにより、借入金利は数十年ぶりの水準まで上がってきています。同じ規模の施設を建てるにも、以前より多くの資金が必要になり、その返済負担も重くなっているのです。

こうした「コストも金利も上がった世界」では、勢いだけで開業すると早々に資金繰りに行き詰まります。だからこそ、綿密に練り上げた事業計画の重要性は、かつてないほど高まっています。事業計画は、銀行から融資を受けるための書類であると同時に、自分自身が無謀な投資をしないための羅針盤でもあります。

いい加減な事業計画では融資してもらえない

銀行は、融資を申し込めば無条件で貸してくれるわけではありません。建設予定の施設の図面や融資希望額の明細に加えて、しっかりとした事業計画が求められます。業歴や担保さえあれば多額の建設資金を貸してくれる、という時代ではありません。

とりわけ金利が上がった今、銀行は返済の確実性をより厳しく見るようになっています。いい加減な計画では、「作ろうとしている施設のプランが甘いのではないか」「貸しても返済できないのではないか」と疑いの目を向けられます。面倒がらずに、しっかりとした計画を作りましょう。

→ それでは、事業計画の全体構成から順に見ていきましょう。

事業計画の全体構成を作ってみましょう

この章をひとことで言うと

事業計画は4つのパートでできている。概要→市場→競合→数値の順に、「返していけるか」を示していく。

この章でわかること
  • 事業計画の標準的な4部構成
  • 各パートで何を書くか
  • 銀行に説明しやすい組み立て方

まず、計画書の全体構成を作ってみましょう。一般的には、次の4部構成が作りやすく、銀行にも説明しやすい形です。流れで捉えると分かりやすいので、図で示します。

図表3 事業計画の全体構成(4部構成)
1
概要
施設の名前・場所・規模・完成イメージ。「どんな施設を作るのか」を示す
2
マクロ環境分析
市場規模、エリアの稼働率・単価、インバウンド動向。「市場は有望か」
3
マーケット環境分析
周辺の需要、競合施設の調査・評価。「勝てる場所か」
4
数値計画
売上・利益・返済・資金繰りの見通し。「返していけるか」

1. 事業計画の概要

本計画の要旨を分かりやすくまとめたものです。施設の名前(屋号)、住所、建物の構成、土地・建物の延べ床面積、構造、用途地域、駐車場などをまとめると良いでしょう。外観・内観イメージパース完成予想を描いたイラスト)を数点入れると、銀行の審査担当者が、どのような施設を作ろうとしているのかをイメージしやすくなります。

なお、銀行へ融資申し込みを行う段階では、詳細な図面や工事見積もりは原則として要りません。融資審査には必要ありませんし、融資条件によって計画変更が十分ありうるからです。

2. マクロ環境分析

国内のホテル市場規模の推移、建設予定エリアの客室稼働率・宿泊単価の動向、訪問目的別の動向(観光・ビジネス・その他)、インバウンドの動向などをまとめると良いでしょう。

特に、出店エリアの客室稼働率や単価は月単位で入手しましょう。出店する施設の稼働率計画の裏付けになるからです。「自分が経営すれば売上はこれくらい獲得できるはずだ」という説明は、銀行担当者にはまったく信用されません(絶好調の施設を立ち上げた実績があれば別ですが)。地域の平均的な稼働率や単価からみて、無理のない売上計画にするのが賢明です。

マクロ環境の資料を作るための主な情報源は次のとおりです。どの機関が何を教えてくれるかを押さえておくと、必要なデータに最短でたどり着けます。

図表4 マクロ環境分析の主な情報源
情報源何が分かるか
観光庁(宿泊旅行統計調査)地域別の宿泊者数・客室稼働率を毎月公表。インバウンドにも詳しい
日本政府観光局(JNTO)訪日外国人旅行者数。「インバウンド〇〇万人」の出どころ
業界団体(日本旅館協会など)会員施設の営業状況・経営指標の統計
自治体観光客数・宿泊者数など地域の観光統計
業界専門誌・調査機関市場規模や業界動向(多くは有料)
※各機関の公表データは更新時期や名称が変わることがあります。利用時は最新の公表資料をご確認ください。

3. 対象マーケットの環境分析

建設予定地周辺の状況、需要の見通し(ビジネス・レジャー・公共施設など)、競合施設の分布、競合施設のハード面・ソフト面の評価、競合施設の実地調査結果などをまとめると良いでしょう。

競合になりそうな施設は、客室や大浴場などのハード設備を入念に実地調査する必要があります。ホームページの印象は実際と異なることが多いので、現地に訪問して調査したほうが良いでしょう(古い施設でもホームページだけは綺麗なところがありますよね)。ハード面だけでなく、業務効率やスタッフの習熟度、営業力といったソフト面も調べないと、競合を過小評価してしまう可能性があります。

→ 環境分析ができたら、いよいよ計画の心臓部である数値計画です。

数値計画の作り方

この章をひとことで言うと

数値計画は、基本方針→前提→売上→利益→返済→資金繰り、と積み上げていく。一つずつ図解する。

この章でわかること
  • 基本方針(4P)の立て方
  • 売上計画の組み立て方
  • 利益から返済余力までの見方

数値計画では、基本方針、計画の前提、売上計画、通常時の収益力算出、長期収支計画・返済計画、貸借対照表(BS)計画、キャッシュフロー(CF)計画などをまとめます。順に見ていきましょう。

基本方針

基本方針は、マーケティングミックス(4P)事業の方針を4つの視点で整理する考え方)というフレームワークを使うとまとめやすいです。商品・サービス(Product)、価格(Price)、立地(Place)、宣伝(Promotion)の頭文字をとったものです。ホテル・旅館に当てはめると、次のように整理できます。

図表5 4Pをホテル・旅館に当てはめると
Product(商品・サービス)
客室タイプ、食事の内容、温泉・スパ、客室数、ターゲット客層
Price(価格)
客室単価、シーズン別料金、食事つき/素泊まりの設定
Place(立地)
出店エリア、交通アクセス、観光地・ビジネス需要との距離
Promotion(宣伝)
自社サイト、OTA(予約サイト)、SNS、旅行代理店との連携

計画の前提

計画の前提は、売上計画の前提となる設定値を整理したものです。たとえば、客室構成とそれぞれのシーズン料金、稼働率、料飲価格、喫食率宿泊客のうち館内で食事をとる客の割合)、付帯売上の比率などが挙げられます。売上計画の根拠になるので、多少面倒でも内訳を細かく出して、積み上げ式で保守的に予測したほうが良いでしょう。

「これくらいの売上がほしい」「これくらいの売上がないと借入金返済や投資回収ができない」と、どんぶり勘定で計画を作ってしまうと、後々苦労することになります

売上計画(月次・年間)

売上計画は、計画の前提さえしっかり作っておけば簡単に作れます。客室タイプごとの宿泊単価、稼働率、1室あたり人数、喫食率を月ごとに設定すれば、掛け算と足し算で宿泊売上を出せます。仕組みを図で示します。

宿泊売上の基本式
客室単価1室1泊
×
客室数全室数
×
稼働率埋まる割合
×
日数営業日数
=
宿泊売上+付帯売上で総売上
図表6 売上計画を組み立てる4つの設定値
設定値意味決め方の目安
客室単価1室1泊あたりの平均価格エリアの相場・競合から保守的に
稼働率客室が埋まる割合地域平均から無理のない水準で
喫食率夕食・朝食をとる客の割合業態・客層に応じて設定
付帯売上比率宿泊以外(料飲・売店等)の売上割合業界平均・地域相場を参考に

計算された売上予想は、当初の期待目標より低くなりがちですが、無理に引き上げる必要はありません。保守的な売上予想でも十分に利益が出るように、経費計画や投資計画を工夫すれば良いのです。なお、稼働率と単価をどう組み合わせれば収益が最大になるかは、それ自体が奥の深いテーマです。価格と稼働の最適化(レベニューマネジメント)や、どれくらいの稼働率があれば赤字にならないかという損益分岐点の考え方は、別のコラムで詳しく解説しています。

事業計画づくりで、つまずいていませんか

数値計画は、専門家と一緒に作ると確実です。弊社では、市場調査から売上・収支計画まで、金融機関に説明できる事業計画づくりをお手伝いしています。新規開業をお考えなら、まずはお気軽にご相談ください。

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→ 売上の見通しが立ったら、それに対する原価・費用を見積もり、利益を算出していきます。

通常時の収益力算出(年間)

通常時の収益力は、売上計画に対する原価・費用を見積もることで算出できます。売上原価は、部門別売上にそれぞれの原価率を掛けて合計します。費用は、人件費・業務委託費・水道光熱費・租税公課・送客手数料・修繕費・減価償却費・その他経費をそれぞれ算出します。分からなければ業界平均でも構いませんが、可能な限り積み上げて計算しましょう。

原価率や利益水準は業態によって大きく異なります。シティ・ビジネス・温泉旅館・リゾートなど、業態ごとの収益構造や利益率の目安は別のコラムで詳しく整理していますので、自館がどの業態に近いかを踏まえて前提を置くと、より精度の高い計画になります。主な費目の考え方は次のとおりです。

  • 人件費 ― 管理職・一般スタッフ・パート・派遣の平均賃金に人員数を掛けて算出する。人材獲得競争が激化し、宿泊業の求人単価も大きく上昇しているため、予算上は多めに見積もっておくほうが安全
  • 業務委託費 ― リネン・清掃・メンテナンスなどの費用。あらかじめ地元業者から見積りを取っておくと正確になる
  • 水道光熱費 ― 温泉の有無や源泉温度、自治体、建物構造、設備状況で大きく異なる。光熱費が高止まりしている近年は、設備業者から情報を得て正確に予想する
  • 租税公課 ― 周辺の公示価格や新築建物課税標準価格認定基準表から、建築前に概算できる。必ず払う費用なので正確に見積もる
  • 送客手数料 ― OTAや旅行代理店への手数料。直接販売を重視するにしても広告宣伝費はかかるため、多めに見ておく
  • 修繕費 ― 建物・附属設備の1〜2%程度を、修繕費および資本的支出(大規模修繕)として見積もる。前者は損益計算書、後者は貸借対照表に計上する点を区別しておく
  • 減価償却費 ― 資産ごとの法定耐用年数で計算するのが正確。簡便には総投資額を建物の法定耐用年数で割ってもよい。将来の大規模投資分の償却も忘れずに加える
経験からの助言 ― 削りすぎは、自らの首を絞める

費用を低く見積もるほど計画上の利益は大きく見えますが、人件費と広告宣伝費を切り詰めすぎた計画は、かえって危ういものです。人件費を抑えすぎれば人が採れず、開業後のサービスが回りません。広告宣伝費をかけなければ、そもそも施設の存在を知ってもらえません。とりわけ広告宣伝費は開業後の集客を左右するため、売上の最低でも1%程度は確保しておきたいところです。机上で利益を大きく見せるための削減は、開業後に自らの首を絞めます。

売上から「返済できる力」までの流れ

売上計画に対する原価・費用を見積もり、足し引きすると営業利益の予想値が出ます。さらに、借入に対する収益力を見るには、営業利益に減価償却費を足し戻した償却前の利益を見ます。ただし、ここに大切な落とし穴があります。流れを図で追ってみましょう。

図表7 売上から「真の返済原資」までの流れ
売上高宿泊売上+付帯売上
− 売上原価・費用を引く人件費・原価・経費など
営業利益本業のもうけ
減価償却費を足し戻す現金が出ない費用を加算
償却前利益本業が生む現金
− 更新投資を引く設備の維持・更新に要する額
真の返済原資実際に返済に回せる現金

ここで、初めて事業計画を作る方が見落としがちな大切な点があります。それは、減価償却費をまるごと返済に回せると考えてはいけないということです。減価償却費は確かに現金が出ていかない費用ですが、その裏では、客室や設備は毎年少しずつ古くなっています。償却額に見合う再投資(更新投資)を続けないと、施設はやがて陳腐化し、競争力を失ってしまいます。

ですから、本当に返済に回せる現金は、償却前利益から、施設を維持するために通常必要となる更新投資を差し引いた額です。事業計画では、ここが毎年の返済額を上回っているかが、銀行の最大の関心事になります。減価償却費を全額返済に充てる前提の計画は、数年後に「修繕する資金がない」という事態を招きかねません。

投資としての利回りも確かめておく

他業種での事業や不動産投資の経験がある方は、「いくらを投じて、年にいくら稼ぎ、利回りは何%か」という視点を自然にお持ちでしょう。ホテル・旅館の新規開業でも、この視点は有効です。目安になるのが、運営による純収益(NOI)を総投資額で割った利回りです。

投資利回り(NOI利回り)の考え方
NOI運営純収益
÷
総投資額投じた資金
=
投資利回り高いほど効率的

NOIとは、運営収益から運営費用を引いた、減価償却前の本業の純収益です。この利回りは立地やカテゴリーによって市場が期待する水準が異なりますが、一般に都市部のホテルより、地方の旅館・観光ホテルのほうが、設備投資の負担が重い分だけ高い利回りが求められる傾向があります。投資物件として見るなら、おおむね一桁台後半から10%程度が一つの目安とされることが多いようです。

ここで一点、注意があります。先ほどの返済原資の話と同じく、純収益から、家具・什器・備品(FFE)の更新や大規模修繕への積立分を差し引いて考えることが大切です。ホテル・旅館は、客室の内装や備品を定期的に入れ替えなければ商品力を保てません。この積立を見込まずに高い利回りに見えても、実態としては手元に残らないのです。表面的な利回りの高さに惑わされず、再投資を織り込んだうえで判断しましょう。

投資としての妥当性、客観的に検証しませんか

「この計画で本当に返していけるのか」「投資として見合うのか」。弊社は特定の金融機関や業者と利害関係を持たない独立した立場から、売上・収支・返済・利回りを数値で組み立て、計画の妥当性を一緒に検証します。

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長期収支計画・返済計画

長期収支計画・返済計画は、通常時の収益力を基礎にした長期の計画です。単年度の計画と違い、時間的な変化を考慮する必要があります。年ごとに変化させる主な項目は次のとおりです。

図表8 長期収支計画で「年ごとに変化させる」項目
項目どう変化させるか
売上開業から数年は保守的に低めに(ご祝儀相場を当てにしない)
減価償却費年々減るが、大規模修繕の償却を忘れず加える
支払利息金利上昇局面のため、高めの金利・余裕ある返済で試算
法人税等黒字化後に発生。実効税率の目安で織り込む

開業から数年間は、通常時で設定した売上よりも低めに計画しておきましょう。ご祝儀相場で高い稼働率・単価を期待できますが、万が一、当初計画を下回ったときに銀行の心象が悪くなるからです。社内予算は意欲的なものを作るにしても、金融機関には確実に達成できる保守的な予算を示すことをお勧めします。

金利と税率は最新の前提で

長く続いた低金利の時代は終わり、金利は上昇局面にあります。かつての低い金利を前提にせず、保守的に試算しましょう。法人実効税率は、中小法人ならおおむね33〜34%程度が一つの目安です(所得規模や地域、2026年4月以後の防衛特別法人税により変動するため、顧問税理士や最新の公表資料でご確認ください)。

特に、手元資金が薄い場合や全額借入(フルローン自己資金をほぼ入れず全額を借入で調達))でスタートする場合は、資金繰りが苦しくなるリスクが高まります。近年は建築費の高騰で総投資額そのものが膨らみやすいので、運転資金には十分な余裕をもたせておきましょう。

貸借対照表(BS)計画・キャッシュフロー(CF)計画

貸借対照表(BS)計画とキャッシュフロー(CF)計画は、社内では見慣れないものですが、金融機関の融資審査には必要です。難しそうに見えますが、決まった順序で計算していけば作れます。まずBS計画は、次の4ステップです。

図表9 貸借対照表(BS)計画の作る順序
1
固定資産
減価償却費を毎年の償却資産から減算していく
2
純資産
税引後利益を利益剰余金に加算・減算していく
3
負債
毎年の借入残高を借入金に入力する
4
流動資産
売上債権・棚卸資産を入力。現預金は差額で逆算

BS計画ができたら、CF計画はそこから組み立てられます。CF計画は現預金の動きを予想するもので、こちらも4ステップです。

図表10 キャッシュフロー(CF)計画の作る順序
1
営業CF
税引前利益+減価償却費から運転資金増減・税を調整
2
投資CF
設備投資の予定額を差し引く
3
財務CF
毎年の元本返済額を差し引く
4
現預金残高
3つのCFを合算し、前年末残高に加減算

会計の知識がないと作れないと思い込みがちですが、実際はこの順序どおりに数字を置いていくだけです。毎年の営業CFが、総投資額に対して5%以上あるかを一つの目安にしましょう。5%を下回る場合は、投資額が過大か、利益の見通しが低すぎる可能性があります。年度末の現預金残高が薄い場合は、スタート時の運転資金を多めに用意しておきましょう。

→ 計画ができたら、それを銀行にどう説明するかが次の関門です。

お金を借りやすくする銀行への説明の仕方

この章をひとことで言うと

銀行は計画を割り引いて見る。よく聞かれる4つの質問に、あらかじめ答えを用意しておくのが鉄則。

この章でわかること
  • 銀行からよく聞かれる4つの質問
  • それぞれの備え方
  • ストレスケースの示し方

事業計画は、提出すれば無条件に融資が受けられるものではありません。当然、銀行からさまざまな質問を受けるので、あらかじめ想定問答を考えておくことが大切です。質問に明確に答えられないと不信感を持たれます。よく聞かれる4つの質問と、その備えをまとめました。

図表11 銀行からよく聞かれる4つの質問と備え
質問1誰が経営の主体か
備え:投資回収は長期に及ぶため後継者の意思を必ず問われる。一族で方針を一本化しておく
質問2ホテル・旅館の経験はあるか
備え:運営支援・支配人派遣・経験者採用など、経験不足を補う体制を示す
質問3オープン・返済開始はいつか
備え:工期に半年の余裕をみて伝え、開発スケジュールを提示する
質問4売上未達ならどうするか
備え:7割稼働・金利上昇のストレスケースの収支・返済計画を用意しておく

特に4つ目が重要です。銀行は、提出された事業計画を額面どおりには受け取りません。割り引いて(ストレスをかけて)評価します。たとえば、売上が計画の7割程度にとどまった場合に返済できるかをチェックします。そこで、売上が計画に達しなかった場合の収支計画・返済計画(ストレスケース)をあらかじめ作っておくと良いでしょう。金利上昇局面の今は、金利が上がった場合のシナリオも併せて示せると、より説得力が増します。「最悪の場合でもこう対応する」という備えを見せることが、かえって信頼につながります。

さいごに

いかがだったでしょうか。従来のシティホテルやビジネスホテル、旅館だけでなく、ゲストハウスやアパートメントホテル、一棟貸しの宿、グランピング、古民家再生の宿、民泊、さらには無人・省人化での運営など、宿泊業の形は大きく多様化しています。しかし、どの形態であっても、事業計画の作り方は基本的に同じです。

そして、事業計画は作って終わりではありません。大切なのは、開業後に計画と実績を照らし合わせ、ずれを早めに修正していくことです。開業後に陥りやすい失敗のパターンや、万が一業績が計画を下回ったときの立て直しについても、別のコラムで解説しています。開業前の今のうちに目を通しておくと、いざというときに慌てずに済みます。

繰り返しになりますが、コストも金利も上がった今こそ、保守的で実現可能性の高い事業計画が、開業の成否を分けます。勢いで突き進む前に、数字でしっかり裏づけを取りましょう。

事業計画づくりを、専門家と一緒に

弊社アルファコンサルティングは、特定の金融機関や業者と利害関係を持たない独立した立場から、依頼者であるオーナー様の利益を最優先に、ホテル・旅館の新規開業・新規参入をご支援しています。観光経済新聞でのコラム連載は17年になり、現場で積み重ねてきた知見をもとに、次のようなお手伝いができます。

  • 事業計画の作成支援 ― 高い収益性が期待でき、資金調達もスムーズに進む事業計画づくりをお手伝いします
  • 市場調査・コンセプト策定 ― 出店エリアの需要分析や競合調査、施設コンセプトの設計を支援します
  • 資金調達支援 ― 金融機関に説明できる数値計画・返済計画の組み立てをお手伝いします
  • 開業後のフォローアップ ― 計画と実績のモニタリングや、運営改善まで継続的に支援します

「自館がいまどの段階にいるのか分からない」「何から手をつければよいか整理したい」という段階でも構いません。早めにご相談いただくほど、選べる選択肢は多くなります。

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用語ミニ辞典 ― この記事に出てきた宿泊業の言葉

本コラムに登場した、ホテル・旅館業界で使われる主な言葉をまとめました。事業計画を作る際の参考にしてください。

図表12 宿泊業の主な用語
用語意味
客室稼働率客室全体のうち、実際に泊まられた割合
客室単価(ADR)販売した客室1室1泊あたりの平均販売価格
RevPAR客室1室あたりの売上(単価×稼働率)。収益力を測る指標
喫食率宿泊客のうち、館内で食事をとる客の割合
付帯売上宿泊以外の売上(料飲・宴会・売店・スパなど)
OTAネット予約サイト(楽天トラベル・じゃらん等)。手数料がかかる
送客手数料OTAや旅行代理店に支払う、予約に対する手数料
償却前利益営業利益に減価償却費を足し戻した、本業が生む現金に近い額
更新投資客室・設備を維持・更新するために定期的に必要となる再投資
NOI運営による純収益(運営収益−運営費用)。減価償却前で見る本業の稼ぐ力
FFE家具・什器・備品。定期的な入れ替え(積立)が必要
フルローン自己資金をほとんど入れず、全額を借入で調達すること

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事業計画づくりや開業後の経営に役立つコラムをまとめました。あわせてご覧ください。また、数値計画の作成や銀行向け説明にお困りの方は、ホテル・旅館・観光業のコンサルティングもご検討ください。

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