こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。今回のコラムでは、ホテル旅館の経費削減について、勘定科目別に具体的な打ち手をお伝えします。経営者の方はもちろん、支配人の方や、地域の宿泊業界を支援される自治体観光課のご担当の方にもお役立ていただける内容にまとめました。

「売上は戻っているのに、なぜか楽にならない」 ―― ホテル旅館の経営者から、そんな話を頻繁に聞くようになりました。稼働率はコロナ前を上回り、客室単価も過去最高水準で推移している一方で、食材費・人件費・水光熱費は高止まりし、借入れの返済負担も重い。そうした状況をよく耳にします。

こうした状況を打開する切り札こそ、経費削減です。経費を見直して生まれた利益は、そのまま施設の体力となり、本当に必要な投資に振り向けることができます。本記事では、勘定科目別に11章にわたって、私が現場で実践してきた経費削減の具体策をお伝えします。

この記事を読むとわかること

  • 1ホテル旅館の損益構造の全体像と、経費削減で着眼すべき優先順位
  • 2食材原価・人件費・OTA手数料・水道光熱費など、主要な勘定科目ごとの具体策
  • 3仕入日計表の作り方など、明日から実行できる実務手順
  • 4オーナー経営者が陥りやすい経費管理の落とし穴と、その回避策
  • 5SEO・AIO対策など、生成AI時代の集客戦略のポイント
  • 6経費削減を一度きりで終わらせない、継続的な仕組みづくりのポイント
  • 7自治体観光課が宿泊業界の経営支援に活かせる視点と連携先
目次 タップで開閉

自館のコスト構造 ― 簡易セルフチェック

以下の項目に2つ以上当てはまる館は、本記事を最後まで読むことをお勧めします。

□ 売上は戻っているのに利益が伸びない

□ 食材原価率を即答できない、または25%を超えている

□ OTA(楽天トラベル・じゃらん等のオンライン旅行サイト)経由の売上が全体の60%を超えている

人件費率が業界平均を上回っているが対策が打てていない

□ 水道光熱費の月次推移を把握していない

□ リネン契約の解約金条項を確認したことがない

□ 月次の試算表が翌月15日以降に届いている

▶ 2つ以上該当した方:本記事で月100万円以上の改善余地が見つかる可能性があります。

経費削減は、決して「縮こまる経営」ではありません。一時的な利益確保のためでもありません。市場環境の変化に強い経営体質を作り、本当に必要な投資に資金を回すための「攻めの一手」です。今回のコラムを参考に、ぜひ自館の経費構造を点検してみてください。

第1章
なぜ今、経費削減が「攻めの一手」なのか
要点 売上は戻っても、コスト高騰・返済負担・価格競争で利益が出ない構造になっています。11章にわたる勘定科目別の打ち手でコスト構造そのものを見直せば、年商3億円の旅館で年間約2,250万円の改善余地があります。
観光業界の好況の裏で進行する利益圧迫

インバウンド需要の回復と国内観光需要の安定により、ホテル旅館業界は表面的には好況に見えます。実際、稼働率や平均客室単価(ADR)を見れば、コロナ前を上回る数値の施設が増えています。

しかし、現場の経営者からは「売上は戻っているのに、なぜか楽にならない」という声を頻繁に耳にします。その背景には、4つの構造的な要因があります。

  • 食材費・人件費・水光熱費の高止まり ―― コロナ禍以降の物価上昇が定着し、原価が高水準のまま
  • コロナ融資の返済負担 ―― 据置期間が終わり、月次の返済額が経営を圧迫
  • 価格競争の激化 ―― 新規開業ホテルの増加で、価格を上げにくい状況
  • OTA手数料の構造的負担 ―― 表面手数料に加え、ポイント還元・広告費が膨らんでいる

つまり、売上が戻っても利益が伸びにくい構造になっており、経費の見直しが経営の生命線になっているのです。

経費削減は「攻めの一手」 ― 守りではなく、未来への投資

経費削減と聞くと、「縮こまる経営」「節約志向」というイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これは大きな誤解です。

経費削減で生まれた利益は、客室リノベーション・スタッフの待遇改善・口コミ評価向上の取り組み・新規顧客開拓のためのデジタル投資など、未来の競争力強化のための原資になります。これは間違いなく「攻めの一手」です。

たとえば、食材原価率が25%を超えている旅館で、仕入日計表を導入して原価率が相対的に10%下がるとします。1億円の食材費が9,000万円になれば、1,000万円の余剰が生まれます。この1,000万円を、客室リノベーションやスタッフの待遇改善、口コミ評価向上の取り組みに振り向けられれば、それは「攻めの一手」になります。

【図表1】ホテル旅館の損益構造 ― どこに着手すべきか

勘定科目売上比率の目安削減難易度該当章
食材原価15〜25%第2章
飲料原価5〜10%第3章
人件費15〜35%第4章
OTA手数料・広告費8〜25%低〜中第5章
水道光熱費5〜10%第6章
衛生費・備品消耗品費3〜6%第7章
その他経費(保守・通信・教育)3〜7%第8章

ホテル旅館の経費は、施設運営のさまざまな場面で発生します。利益を確実に確保するためには、勘定科目ごとに具体策を立てていくことが必要です。

【図表2】コスト削減 優先度マトリクス ― 効果と難易度の交差点

まず取り組むべき領域
削減効果:大 × 難易度:低
中期で取り組む領域
削減効果:大 × 難易度:高
・食材原価(仕入日計表)
・OTA実質手数料の見直し
・備品消耗品費の精査
・接待交際費の節度
・人件費の構造改革
・地代家賃の交渉
・退職金制度の外部積立化
・リネン契約の見直し
着手しやすい領域
削減効果:小 × 難易度:低
優先度は低い領域
削減効果:小 × 難易度:高
・通信運搬費の見直し
・教育研修費の再設計
・販売促進費の点検
・保守委託の相見積もり
・大規模設備の更新
・ブランド変更
・営業所体制の抜本見直し

特に効果が大きく、着手しやすいのが左上の領域です。食材原価とOTA実質手数料の見直しは、私が支援するほぼすべての施設で大きな効果が出ています。

全章を実施した場合の年間改善余地

各章で取り上げる施策をすべて実施した場合、年商3億円の旅館でどの程度の改善が見込めるかをまとめました。

【参考】各章で得られる削減効果の試算(年商3億円・食材原価率20%・人件費率30%の温泉旅館を想定)

取り組み内容年間改善余地の目安
第2章食材原価率を相対10%減(20%→18%)/食材費6,000万円ベース約600万円
第3章ドリンク値上げ・在庫管理見直し(料飲売上ベース)約300万円
第4章人件費5%効率化(シフト管理・業務分業)/人件費9,000万円ベース約450万円
第5章OTA直販比率10pt改善(2〜3年かけて)約450万円
第6章水光熱費8%削減(省エネ機器・EMS)/水光熱費2,400万円ベース約200万円
第7章リネン契約・備品消耗品費の見直し約150万円
第8章保守修繕費・通信運搬費・教育研修費約100万円
合計全章を実施した場合の改善余地(年商3億円ベース)年間 約2,250万円

これはあくまで目安ですが、自館の規模感に合わせて試算してみると、経費削減のインパクトの大きさを実感できるはずです。年商規模が異なる施設の場合は、各項目の数値を比例計算で調整してください。

→ 次章では、最も削減効果が出やすい「食材原価」のコントロール手法を、仕入日計表という具体的なツールを使ってお伝えします。

進捗:第1章/全11章 ■□□□□□□□□□ 9%

ここまで読了:約2分 / 残り約13分

第2章
食材原価のコントロール ― 仕入日計表で原価率10%減を実現する
要点 食材原価は人件費に次いで大きな割合を占めます。料理長に丸投げせず、毎日の仕入額と売上を比較する仕入日計表を作るだけで、年商3億円の旅館なら原価率の相対10%減=年間約600万円の改善が見込めます。

ホテル旅館の経費の中で、食材原価は人件費に次いで大きな割合を占めます。総売上に対する食材原価率が25%を超えていたら、警戒すべき水準です。原価管理を調理部門任せにしている施設が多いのが現状ですが、料理のことが分からないからと役員や他部門が口を出さないでいると、いつの間にか原価率が上昇していた、という事態に陥りやすくなります。

仕入日計表 ― 料理が分からなくても取り組める打ち手

料理のことが分からなくても取り組みやすい経費削減策が、仕入日計表の作成です。これは私が長年お勧めしている、最も効果が出やすい手法のひとつです。納品伝票の金額を毎日入力し、日別の総売上と比較するだけで、原価率がリアルタイムに見えるようになります。

【図表3】仕入日計表のサンプル(Excelで作成可能)

日付業者A業者B業者C日次合計累計仕入累計売上原価率
4/125,00018,00012,00055,00055,000280,00019.6%
4/212,0008,00020,00075,000520,00014.4%
4/322,00015,00037,000112,000810,00013.8%

月末の棚卸し額を加算しておけば、月の途中でも累計原価率がリアルタイムに見えます。業者別の集中度、日別の変動、異常値の発見、この一枚で多くのことが分かります。日計表を導入することで、調理スタッフ自身が「無駄な仕入れをしないよう気をつけよう」という意識を持つようになり、不正防止にも役立ちます。

実際に、日計表を導入しただけで食材原価率が10%近く下がったケースもあります。

年商3億円・食材原価率20%の旅館を例に考えてみます。年間の食材費は6,000万円です。日計表の導入で原価率を相対的に10%下げられれば(20%→18%)、年間で約600万円の利益改善になります。食材費が1.5億円規模の高級旅館であれば、同じ取り組みで年間1,500万円規模の改善が見込めます。

+600万円/年

仕入日計表の導入による利益改善(年商3億円の旅館の場合)

地方公務員の年収約1名分、または客室15室の年間清掃費に相当する金額です

ホテルブッフェの巨匠 高階孝晴

高階孝晴(ホテルブッフェの巨匠)

原価の話というと、料理人は身構えるものです。けれども、出来たてを目の前で仕上げるライブキッチンは、お客様に喜んでいただけるうえに、作る分だけ作るので食材の廃棄が減ります。臨場感を高めることと、ロスを減らすことは、実は同じ方向を向いているんです。

事例 01

高級温泉旅館(40室・年商約5億円規模)― 仕入日計表で年間1,200万円の利益改善

客単価3万円台の高級温泉旅館でした。食材原価率が30%を超え、利益が圧迫されていました。仕入日計表を導入したところ、3か月で原価率が22%まで低下しました。食材費1.5億円規模に対する8ポイント減で、年間で約1,200万円の利益改善につながりました。

板長は当初「料理人を信用していないのか」と反発していましたが、データを見せながら「経営判断のためにも数値が必要」と説明したところ、最終的には自ら日計表を活用するようになりました。

食材原価管理の実務をさらに詳しく

  • 仕入日計表のExcel設計例と運用ノウハウ
  • 業者選定の評価基準・相見積もりの取り方
  • 業態別・規模別の食材原価率ベンチマーク
  • 一人一品原価の算出方法と削減事例
  • 棚卸し業務・在庫管理の実務テクニック

▶ ホテル旅館の食材原価管理 ― 仕入日計表の作り方から業者選定まで実務マニュアル

「仕入日計表を作りたいが、自社で進めるのが難しい」というご相談を多くいただきます

  • Excelテンプレートの提供と運用設計
  • 調理長・料飲部門との合意形成サポート
  • 3〜6か月の伴走支援で原価率改善を実現

初回相談は無料です(オンライン相談可)

▶ 食材・飲料原価の見直しを相談する

→ 次章では、食材原価よりも見落とされがちな「飲料原価」の落とし穴と、ドリンク値上げの効きやすさをお伝えします。

進捗:第2章/全11章 ■■□□□□□□□□ 18%

ここまで読了:約4分 / 残り約11分

第3章
飲料原価・売価見直し ― 値上げと在庫管理で利益体質に転換する
要点 ドリンク1杯の100円値上げは、食材原価100円削減と利益効果が同じです。しかも料理の質を下げるリスクがなく、調理部門の合意形成も不要。原価率の再計算とABC分析でメニューを再構築すれば、取り組みやすく効果も出ます。

飲料原価率が上昇傾向にある施設は、仕入単価が上がっていないか伝票をチェックしてみましょう。ウイスキーのように、従前の数倍になったものもあります。1品ごとに料飲原価率を算出し直して、ドリンクメニューの内容や価格を見直すことをお勧めします。

原価率以上に気をつけたいのが、飲料の在庫量です。飲料在庫が1か月分以上あるなら、仕入過剰・売れないメニューの滞留・客室冷蔵庫の品揃えミスのいずれかが原因です。棚卸資産回転率(在庫が効率的に売れているかを示す指標)で在庫の目安を決め、必要最小限にするよう見直しましょう。

見落としがちなのが、ドリンク類の売価です。食材原価を100円下げるのも、ドリンク1杯を100円上げるのも、利益への効果は同じです。

ホテルブッフェの巨匠 高階孝晴

高階孝晴(ホテルブッフェの巨匠)

新しい味やコンセプトのドリンクを、いち早くお出しする。それだけで、お客様には新鮮さとワクワクが生まれます。いつ来ても同じ顔ぶれより、季節の一杯やその土地ならではの一杯があるほうが、選ぶ楽しみが増えるものです。ドリンクも、料理やビュッフェと同じで、楽しんでもらうための大事な一要素なんです。

100円の値上げを受け入れてもらうには、魅力的なドリンクメニューの開発やホールスタッフからの声かけをあわせて行うとよいでしょう。地元の銘酒や季節のカクテルなど、ストーリーのあるメニューは値上げが受け入れられやすい傾向にあります。ABC分析で売れ筋を整理し、A・Bランクから値上げに着手するのが定石です。

飲料原価と売価見直しの実務をさらに詳しく

  • ドリンクメニューABC分析の具体的な手順とExcelテンプレート
  • 100円値上げの導入手順と顧客への伝え方
  • 棚卸資産回転率の運用と在庫適正化
  • 地元の銘酒・季節カクテルの企画方法
  • 客室冷蔵庫の収益化アイデア(軽減税率8%の活用)

▶ ホテル旅館の飲料原価・売価見直しの実務マニュアル ― 客室冷蔵庫の軽減税率8%活用とABC分析

→ 次章では、最も複雑で削減が難しい「人件費」の最適化を、業態別ベンチマークと業務分業の視点から解説します。

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ここまで読了:約5分 / 残り約10分

第4章
人件費の最適化 ― 安易な削減はサービス品質低下と離職の悪循環を招く
要点 最低賃金上昇・人手不足で人件費率が上昇しています。安易に削ると離職の悪循環に陥るため、総労働時間の予算化・コア/ノンコア分業・定着率改善の3軸で取り組みます。業態別ベンチマーク水準への適正化で、年商3億円なら年間450万円規模の改善が見込めます。

人手不足、最低賃金上昇による時間単価の上昇、働き方改革関連法施行による必要人員数の増加により、売上高に対する人件費率が上昇している施設は多いと思います。ただし、人件費は単純には削れません。時間単価を抑制していると新規採用が困難になり、人手不足を補うために派遣会社への外注費が膨らむという悪循環に陥ります。

業態別の売上高人件費比率ベンチマーク

自館の人件費率が適正なのかを判断するには、業態別のベンチマークと比較することが有効です。

【図表5】業態別 売上高人件費比率の目安

業態売上高人件費比率の目安
ビジネスホテル15〜20%
シティホテル25〜30%
リゾートホテル28〜33%
温泉旅館(料飲一体型)30〜35%
高級旅館・ラグジュアリー20〜25%

※清掃外注費・業務委託費を含む実質人件費の総合値。直接人件費のみの場合はこれより低くなります。

自館の人件費率がこの目安を大きく超える場合は、構造的な要因を確認しましょう。客単価が業界水準を大きく下回っているのに人件費率だけが業界水準並みの場合、ビジネスモデル自体の見直しが必要なことがあります。

人件費最適化の3つの軸

人件費を最適化するには、3つの軸で取り組む必要があります。

  • 総労働時間の予算化:年間労働時間を予算化し、月次でモニタリング。シフトを現場任せにすると過大になりがち
  • コア/ノンコア業務の分業化:接客・コンシェルジュ等のコア業務にスタッフを集中、清掃・自動精算等は外注・自動化
  • 定着率の改善:労働環境・就業規則の見直しでスタッフの定着率を高めることが、結局のところ最大の人件費対策

これらに加えて、外注委託費の見直し(外注費は実質人件費であり、便乗値上げに注意)、退職金制度の外部積立化(中退共=中小企業退職金共済制度等の活用)も重要なテーマです。

人件費の最適化の実務をさらに詳しく

  • シフト管理ツールの比較・選定と運用
  • コア/ノンコア業務分類の実務手順と外注先評価
  • 定着率向上の具体策(就業規則・福利厚生・寮の整備)
  • 外注委託費の見積もり評価ポイント
  • 退職金制度の選定と移行の手順
  • 求人費の効果測定と無料求人媒体の活用

▶ ホテル旅館の人件費最適化 ― 業態別ベンチマークから外注費・退職金まで実務マニュアル

→ 次章では、ホテル旅館の利益を大きく削っている「集客コスト」、特にOTA手数料の実態を可視化し、直販比率を上げる施策をお伝えします。

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ここまで読了:約7分 / 残り約8分(折り返し)

第5章
集客コストの構造改革 ― OTA実質手数料とAIO対策
要点 OTAの表面手数料は10〜15%でも、広告費・キャンペーン参画費・ポイント還元を合算すると実質20〜35%に達します。まず実質手数料を計算し、直販比率を上げる施策とAIO対策を2〜3年継続することで、売上の数%が利益として残る構造へ転換できます。
実質的な送客手数料率を把握する

旅行会社やOTAに支払う販売手数料は、表面上の数値だけでは実態が見えません。表面上の送客手数料だけでなく、広告掲載費・キャンペーン参画費・システム利用料・協賛金など、さまざまな名目で支払っている費用を旅行会社ごとに合算して、売上に対する比率を求めてみましょう。

業態によっては、売上に対する実質的な送客手数料が30%を超えるケースも珍しくありません。特に小規模旅館や地方のビジネスホテルでは、上位掲載のための広告費・キャンペーン参画費が膨らみ、実質40%超に達することもあります。

【図表7】OTA実質手数料 計算ワークシート ― 業態別の典型例

費目都市部のシティ・ビジネスホテル地方の温泉旅館(中規模)地方のビジネスホテル
表面手数料10〜12%12〜15%12〜15%
広告掲載費2〜4%4〜7%3〜6%
キャンペーン参画費1〜2%3〜5%2〜4%
ポイント原資負担2〜3%3〜5%3〜5%
システム利用料・協賛金0.5〜1%1〜2%1〜2%
実質手数料合計15〜22%23〜34%21〜32%

自館が該当する業態の数値を当てはめて、実質手数料を計算してみてください。特に地方の温泉旅館やビジネスホテルでは、実質手数料が25〜35%に達することも珍しくありません。これは収益構造に大きな影響を与える数字です。手数料率の多寡だけでなく、皆さまの館に対する取引姿勢やサポート体制、会社の考え方なども勘案しながら、取引方針を決めるとよいでしょう。

事例 02

地方の温泉旅館(60室・年商約4億円規模)― OTA実質手数料の可視化で年間1,200万円の改善

地方の温泉地にある中規模旅館でした。OTA経由の売上比率が65%、表面手数料は12%という認識でしたが、実質手数料の計算ワークシートを使って試算したところ、実質負担が28%に達していることが判明しました。

OTA経由売上2.6億円に対して、実質手数料28%だと約7,300万円がOTA関連支出となっており、表面手数料の認識から見れば約4,200万円分を見落としていた計算です。特に、楽天トラベルとじゃらんへのキャンペーン参画費、ポイント還元の自社負担が大きく膨らんでいました。

翌年、参画キャンペーンを絞り込み、ポイント還元プランの一部を直販プランへシフト。2年で直販比率が15%→32%まで上昇し、OTA関連支出は年間約1,200万円減少しました。直販シフトに伴う公式サイトのリニューアル費用(約400万円)を差し引いても、十分にペイする投資となりました。

+1,200万円/年

OTA実質手数料の可視化と直販シフトによる改善(60室・年商4億円規模)

従業員2名分の年間人件費、または客室3〜4室の年間光熱費に相当する金額です

広告宣伝費と直販比率改善 ― 集客コストの構造を変える

旅館・ホテルは、広告会社の営業を受けやすい業界です。営業の提案をすべて受け入れてしまうと、広告宣伝費の予算はいくらあっても足りません。媒体ジャンル別に年間予算や継続の判断基準をあらかじめ決め、テレビ・ラジオでもネット広告でも、効果が見られないものは惰性で続けずに中止を検討しましょう。ただし、広告宣伝費は削りすぎにも注意が必要で、売上に対して最低でも1%程度は確保しておきたいところです。

OTA依存からの脱却を本気で目指すなら、直販比率を上げる仕組みづくりが必要です。自社サイトのSEO、メルマガ・LINE公式アカウントによるリピーター施策、Googleビジネスプロフィールの最適化、口コミ管理の継続が基本になります。これらは一朝一夕には成果が出ませんが、2〜3年継続することで、確実にOTA依存度を下げることができます。

ホテル旅館コンサルタント 青木康弘

青木康弘(ホテル旅館コンサルタント)

OTAは、好況のときは強い味方ですが、需要が落ちると掲載順位が下がり、販売がさらに落ち込むという面もあります。直販の土台は、こういう局面でこそ効いてきます。値上げも、宿泊料金全体より、まず食事やドリンクから始めるほうがお客様の理解を得やすい。順序を工夫すると、無理なく進められます。

AIO対策 ― 生成AI時代の集客戦略

近年、ホテル旅館業界でも「AIO(AI Optimization・AI最適化)」が重要な集客テーマとして浮上しています。ChatGPT、Perplexity、Google AI Overviewなどの生成AIが、宿選びの初期段階で使われるケースが急増しているためです。

旅行者が「静かな温泉旅館 大人向け」と生成AIに尋ねたとき、自館が候補として挙がるかどうか。これがAIO対策の核心です。従来のSEOが「検索結果の上位に表示される」ことを目的としていたのに対し、AIOは「生成AIに引用される」ことを目的とします。両者は重なる部分も多いですが、生成AI時代の集客を考えるなら、SEOと並行してAIO対策にも取り組む必要があります。

特に中規模以下の旅館にとってAIO対策は朗報です。大手OTAや大手ホテルチェーンと違って広告予算が限られていても、独自性のあるコンテンツと地域に根ざした情報発信があれば、生成AIに引用される可能性は十分にあります。

集客コストの構造改革とAIO対策の実務をさらに詳しく

  • OTA各社の使い分け戦略(楽天トラベル・じゃらん・Booking.com)
  • 直販5施策の具体的な実装手順(自社サイト・LINE・メルマガ・GBP・口コミ)
  • AIO対策の実務(Q&Aコンテンツ・構造化データ)
  • 広告宣伝費の費用対効果測定の手順
  • 観光協会・DMOとの連携で実現する地域集客の事例

▶ ホテル旅館の集客コスト構造改革とAIO対策 ― 実務マニュアル

自治体観光課のご担当者の方へ ― 集客支援の視点

管内の宿泊施設のOTA依存度を下げ、地域経済への利益還元を高めたいとお考えの観光課ご担当の方には、以下のアプローチが効果的です。

  • 地域DMO・観光協会と連携した共同公式サイト・予約システムの整備
  • 地域全体のSEO・AIO対策を共通課題として勉強会・セミナーを開催
  • Googleビジネスプロフィールの最適化を、地域の宿泊事業者向け研修テーマに
  • 宿泊施設経営者向けの専門家招聘事業(中小企業庁の経営支援アドバイザー派遣制度等)の活用支援
  • 地域ブランディングと連動した、各館の魅力を引き出すコンテンツ作成支援

OTA依存度の高い地域ほど、宿泊単価が押し下げられて地域全体の宿泊収入が伸びにくい構造があります。地域単位の集客力を高める取り組みは、観光地としての持続可能性に直結します。

OTA手数料の見直しと集客戦略のご相談を承ります

  • 経営者の方:OTA実質手数料の計算、直販シフト戦略、SEO・AIO対策の立案
  • 支配人の方:OTA運用の最適化、楽天・じゃらん等の使い分け設計
  • 自治体観光課の方:管内宿泊事業者向け勉強会の講師、地域全体の集客戦略立案
  • 中小企業活性化協議会・観光協会との連携支援

初回相談は無料です(オンライン相談可)

▶ 集客戦略について相談する

→ 次章では、固定費の代表格「水道光熱費」の削減を、省エネ機器・EMS導入の投資回収の視点から解説します。

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ここまで読了:約11分 / 残り約5分

第6章
水道光熱費の削減 ― 省エネ機器とEMSで着実に下げる
要点 築年数の長い施設は水光熱費が高止まりし、利益を直接圧迫します。省エネ機器(LED・高効率ボイラー)とEMSの導入で使用量を可視化し、8%削減できれば、年商3億円の旅館で年間約200万円の改善になります。

水道光熱費は、料飲原価や人件費と並んで大きなコスト負担のひとつです。建物の築年数が長かったり、ロビーやラウンジ・廊下などのパブリックスペースや、売店・大浴場などの付属施設が大きかったりすると費用がかさみます。毎月支払っている水道光熱費の額を当たり前のものと思わずに、削減に取り組むことで、利益体質への転換が可能になります。

効果的なコスト削減策は、省エネ機器(高効率ボイラー・空調・LED・二重サッシ・蓄電池等)の導入と、EMS(エネルギー・マネジメント・システム=エネルギー使用量をリアルタイムで監視するシステム)の活用です。初期投資はかかりますが、補助金活用と組み合わせれば3〜7年で回収可能な設備が多くあります。EMSを使えば、客室が空いている時間帯の空調自動オフや、ピーク時間帯の消費抑制など、運用面での工夫もできます。

空調や給湯の効率を高め、水光熱費を8%下げられれば、年商3億円の旅館で年間約200万円の利益改善になります。

水道光熱費削減の実務をさらに詳しく

  • 省エネ設備の選定比較(LED・高効率ボイラー・空調)
  • EMS(エネルギー管理システム)の選定基準
  • 省エネ補助金・観光地再生補助金の活用ノウハウ
  • 投資回収シミュレーションの作り方
  • 自治体担当者向け:地域全体の省エネ支援策

▶ ホテル旅館の水道光熱費削減と計画的設備投資 ― 観光庁補助金・エコキュート・新電力切替えの実務

→ 次章では、衛生費と備品消耗品費を取り上げます。リネン契約の落とし穴と、汎用品への切り替えがもたらすコスト効果をお伝えします。

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ここまで読了:約12分 / 残り約4分

第7章
衛生費・備品消耗品費 ― リネン契約の落とし穴と汎用品への切り替え
要点 ロゴ入りタオルや浴衣のリース契約は、業者切り替えの障害になります。リネン契約の7項目を点検し、汎用品の無償支給へ段階的に切り替えれば、リネン費・備品消耗品費で年間100〜200万円規模の削減が可能です。

衛生費に含まれる主なものは、リネン費・洗剤・殺虫剤・マット等のレンタル費・事業ゴミ処理費などです。リネン費は、人件費高騰と新規ホテル開業による需要増で単価が上昇傾向にあります。価格交渉で障害となるのが、リネン材のリース契約です。ロゴ入りタオルや浴衣など専用品を使用している場合は、業者切り替えがしにくいため、交渉は不利になります。

解約金も高額でトラブルになりやすいので、契約書はよく確認しておきましょう。経費削減を優先するなら、リネン材は汎用品を無償支給するというやり方に切り替えていくことをお勧めします。

【図表9】リネン契約 チェックリスト ― 契約更新時に必ず確認したい7項目

No確認項目見落とすと起きること
1契約期間と自動更新条項気づかぬうちに数年単位で更新され、解約タイミングを逃す
2中途解約時の違約金額業者切り替え時に数百万円規模の解約金を請求される
3値上げ条項(値上げの根拠と通知期間)業者都合の値上げが繰り返され、根拠の説明も曖昧なまま
4ロゴ入り専用品か汎用品かロゴ入り専用品は業者切り替えがほぼ不可能になる
5リネン材の所有権(レンタルか買取か)買取分の在庫が契約終了時に処分扱いとなり費用負担が発生
6配送・回収の頻度と曜日運用に合わない頻度設定で、無駄な在庫を抱える
7欠品・破損時の対応破損時の弁償基準が曖昧で、想定外の追加請求が発生

特に項目2と項目4は、業者切り替えの自由度に直結するので注意が必要です。客室アメニティについても、オリジナルのものを使うのは、大手チェーンや大型ホテル旅館を除き、経費削減の観点からはお勧めしません。

衛生費・備品消耗品費の見直しをさらに詳しく

  • リネン契約7項目チェックリストの詳細解説
  • 汎用品への切り替えの実務手順
  • 解約金トラブル回避のポイント
  • 客室アメニティのオリジナル化リスク
  • 部門別経費管理の仕組み

▶ ホテル旅館の衛生費・備品費・保守費の削減(リネン・アメニティ・設備保守) ― 売上比5〜10%の統合管理術

→ 次章では、保守修繕費・通信運搬費・教育研修費の見直し方を、業界の慣習を疑う視点からお伝えします。

進捗:第7章/全11章 ■■■■■■□□□□ 63%

ここまで読了:約13分 / 残り約3分

第8章
保守修繕費・通信運搬費・教育研修費 ― 慣習を疑い、合理化する
要点 メーカー保守・予約確認電話・対面研修など、業界の慣習がコストを膨らませています。保守は専門業者の相見積もり、電話はSMS・メール代替、研修は社内化で、3費目の合計で年間100〜200万円規模の改善が可能です。
保守修繕費 ― メーカー保守からの脱却

ホテル旅館にはさまざまな設備があり、それぞれに保守契約が締結されているのが一般的です。問題は、メーカー保守のまま長年継続しているケースが多いことです。メーカー保守は安心感がある反面、コストが高くなりがちです。法定点検が必要なもの(エレベーター・消防設備等)以外は、専門業者の相見積もりを取って切り替えを検討することをお勧めします。20〜30%程度のコスト削減になることが多いです。

通信運搬費 ― 電話依存からの脱却

固定電話の通話料・郵送費・宅配便代などが通信運搬費です。予約確認電話を毎回かけているホテル旅館がありますが、SMSやメール、LINE公式アカウントでの確認に切り替えれば、人件費と通信費を同時に削減できます。予約確認だけでなく、当日のお出迎えメッセージやお礼メッセージなどもSMS・メールに切り替えれば、ホスピタリティを高めつつコストを下げられます。

教育研修費 ― 外部研修依存からの脱却

ホテル旅館の従業員教育は、外部の研修会社に依存しているケースが多く、1人あたり数万円の費用がかかります。研修内容を社内マニュアル化し、ベテランスタッフが講師となる形式に切り替えれば、コストを大幅に削減できます。ただし、外部研修が必要なテーマもあります(コンプライアンス・最新のサービストレンド等)。すべてを内製化するのではなく、メリハリをつけて使い分けるのが現実的です。

ここまでの振り返り(全11章のうち8章まで読了)

・食材原価・人件費・OTA手数料の3つが最大の削減余地でした

・水光熱費・衛生費・各種経費も合算すると年間数百万円の改善余地があります

・年商3億円の旅館で全章実施なら年間約2,250万円の改善余地

・残り3章は「地代家賃」「役員報酬」「継続の仕組み」 ―― あと約3分で完読です

ここまでの内容を「自社でやるのは大変だ」と感じた方へ

  • 経費削減プロジェクトの伴走支援(月額20万円〜)
  • 現状診断と改善計画の策定
  • 月次PDCAサイクルの運営支援
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▶ 経費削減プロジェクトを相談する

→ 残り3章では、忘れがちな「地代家賃」「経営者自身の経費管理」、そして「継続のための仕組みづくり」を解説します。

進捗:第8章/全11章 ■■■■■■■□□□ 72%

ここまで読了:約13分 / 残り約2分

第9章
地代家賃 ― 交渉できない契約はない、ダメ元でも引き下げ交渉を
要点 土地・建物を第三者から借りている施設では、地代家賃が固定費として重くのしかかります。「契約上は無理」と諦めず、事業計画を示して賃料引き下げや変動家賃を打診すれば、応じてもらえることもあります。年間数百万円規模の削減事例も存在します。

自社所有の土地・建物で営業しているホテル旅館にとっては、地代家賃は不要な経費です。しかし、オーナー以外への賃料支払いが必要な施設(土地だけ借りているケース、建物ごと借りているケース、両方借りているケース)では、地代家賃が固定費として重くのしかかっています。

「契約書で決まっているから」と諦めている経営者が多いですが、賃料の引き下げは交渉できないわけではありません。

事業環境が大きく変化したタイミングで、事業計画書と業績データを示して賃料の引き下げや変動家賃化(売上の数%)を打診すれば、オーナー側も応じてくれることがあります。誠実に相談すれば、応じてもらえる可能性は十分にあります。年間数百万円規模の削減事例も実際にあります。

進捗:第9章/全11章 ■■■■■■■■□□ 81%

ここまで読了:約14分 / 残り約1分

第10章
役員報酬・接待交際費 ― 信頼維持の経費管理
要点 経営者の私的支出はスタッフに見られています。経営者だけが派手な生活を続けながら現場に節約を強いると、経費削減の指示は形骸化します。役員報酬の段階的減額と接待交際費の節度ある運用が、現場の経費削減文化の土台になります。
役員報酬 ― 業績悪化時は段階的な減額を

役員報酬は、ホテル旅館の経営者の考え方によって金額の設定はさまざまで、平均値はあまり当てになりません。月給20万円で倹約に努める経営者もいらっしゃれば、自分の経営の成果だからと月給300万円というケースも珍しくありません。

業績悪化時には、現場のスタッフは経営者の生活ぶりや支出を意外と見ています。経営者だけが派手な生活を続けながら、現場に節約を強いる構造になっていると、現場のモチベーション低下を招きます。段階的に役員報酬を減額する姿勢を見せることが、経費削減文化の土台になります。

役員貸付金の落とし穴

赤字の穴埋めのために役員貸付金勘定(会社から役員個人への貸付金。決算書上は会社の資産扱いだが、実態は返済が滞っていることが多い)が膨らんでいるのは、健全な状態ではありません(事業承継の際は簿価=額面で課税されてしまい不利になります)。会社から返済の目処が立たないのであれば、役員報酬を減らして、役員貸付金勘定を減らすことを優先しましょう。これは決算書の見栄えを良くするだけでなく、金融機関への印象にも大きく影響します。

接待交際費 ― 節度ある運用を

接待交際費は、業界関係者・取引先・地域の方々との関係維持のために必要な経費です。しかし、経営者個人の私的支出が混ざりやすい費目でもあります。元帳をチェックして、業務との関連性が薄い支出が含まれていないか定期的に確認することをお勧めします。支出基準を明文化し、業務との関連性が明確なものに絞り込むことで、スタッフからの信頼を維持しつつ経費削減を実現できます。

事例 03

地方のシティホテル(80室規模)― 経営者の襟正しから始まった経費削減文化

業績悪化で金融機関にリスケジュールを申し込んだホテルでした。私が支援に入ったとき、経営者の月給は高水準のまま、社用車は高級車、接待交際費も派手な状態でした。

「まず経営者ご自身の襟を正されないと、現場はついてきませんよ」と率直に申し上げました。経営者は当初抵抗されましたが、最終的には役員報酬を大幅に減額し、社用車を国産普通車に変更、接待交際費の支出基準を明文化されました。

その姿勢が現場に伝わり、各部門の経費削減への取り組みが活発化しました。2年後にはリスケジュールから卒業し、現在は健全経営に戻っています。経費削減の文化は、経営者の覚悟から始まります。

進捗:第10章/全11章 ■■■■■■■■■□ 90%

ここまで読了:約15分 / 残り約1分

第11章
経費削減を一度きりで終わらせない ― 継続のための仕組みづくり
要点 経費削減は一度の取り組みでは持続しません。部門別目標+月次PDCA+経営者の覚悟の3点セットを習慣化すれば、経費削減が「経営文化」になり、毎年数%の利益率改善を持続できます。

経費削減は、一度きりのイベントではなく、継続的に取り組む経営の習慣です。継続するためには、部門別の経費削減目標を設定することが有効です。調理部門には食材原価率の目標値、客室部門にはリネン費の予算、フロントには通信運搬費の予算、と部門ごとに具体的な目標を設定します。これにより、各部門の責任者が自らの裁量で経費管理を行う文化が醸成されます。

こうした取り組みを継続させる枠組みが、いわゆるPDCA(Plan・Do・Check・Act。計画・実行・検証・改善を繰り返す業務改善の基本サイクル)です。月次でこのサイクルを回すと、経費削減が「文化」として根付きます。

【図表11】経費削減の月次PDCAサイクル

段階実施タイミング具体的なアクション
Plan(計画)月初(1〜5日)前月実績の振り返り、当月の部門別予算の確定、重点取組テーマの設定
Do(実行)月中(1日〜末日)仕入日計表での日次原価率モニタリング、シフト管理、予算超過時の即時アラート
Check(検証)翌月10〜15日試算表に基づく予算実績比較、差異要因の分析、業界水準との比較
Act(改善)翌月15〜20日差異の大きい部門に改善計画を提出させる、翌月予算への反映、好事例の横展開

月次PDCAを実効性のあるものにするためには、試算表の質が重要です。部門別の売上・原価計上、社員とパート・業務委託の区別、翌月15日までの試算表提出、月次推移表の活用などを会計事務所に依頼すれば、追加費用なしで対応してもらえることがほとんどです。

経費削減を継続させる最大の鍵は、経営者の覚悟です。経営者自身が率先して経費を見直し、無駄を削る姿勢を示さなければ、現場のスタッフはついてきません。また、経費削減の取り組みを通じて生まれた利益が、スタッフの待遇改善や設備投資に使われることを明確に伝えることも重要です。

ホテル旅館コンサルタント 青木康弘

青木康弘(ホテル旅館コンサルタント)

私が支援に入ってまず申し上げるのは、経費削減は数字いじりではない、ということです。削って生まれた利益を、どこに振り向けるのか。スタッフの待遇か、客室か、返済か。その使い道を経営者が言葉にして共有できている施設ほど、現場が前向きに動き、結果として削減も続きます。

経費削減の継続化(仕組みづくり)の実務をさらに詳しく

  • 部門別経費削減目標の設定方法
  • 月次PDCAサイクルの運営詳細と各段階の実務
  • 試算表の整備(会計事務所への依頼ポイント)
  • スタッフのモチベーション設計と社内コミュニケーション
  • 経営者セルフチェック7項目の運用

▶ ホテル旅館の経費削減を継続する仕組み ― PDCA・月次レビュー会議・KPIモニタリングの実務マニュアル

自治体観光課のご担当者の方へ ― 経営改善支援の視点

管内の宿泊施設の経営改善を支援する立場の方には、以下のアプローチが効果的です。

  • 経営支援アドバイザー派遣事業の活用(中小企業庁・都道府県の制度)
  • 中小企業活性化協議会との連携(財務再構築が必要な施設の場合)
  • 省エネ補助金・観光地再生補助金等の活用支援(設備投資の回収年数短縮に有効)
  • 自治体主催の経営セミナーでの専門家招聘(コスト構造・収益改善・事業承継などのテーマ)
  • 地域内の事業承継・M&A支援機関との連携(後継者不在の施設の場合)

宿泊施設は地域経済の中核を担う存在です。一施設の経営改善が、地域全体の雇用維持・観光振興・税収確保につながります。経営者が自力で取り組みにくい構造的な課題(地代家賃の見直し、運営委託契約の精査、事業承継等)については、自治体としての側面支援が大きな価値を生みます。

経費削減を「経営文化」として定着させたい方へ

  • PDCAサイクルの設計と月次運営支援(3〜6か月の伴走)
  • 部門別経費削減目標の設定と管理体制の構築
  • 月次推移表・予算実績比較の仕組みづくり
  • 経営者・幹部社員向けの経費管理マインドセット研修

初回相談は無料です(オンライン相談可)

▶ 仕組みづくりを相談する

進捗:第11章/全11章 ■■■■■■■■■■ 100%

完読おつかれさまでした。

よくあるご質問

本コラムへのご相談で、特に多くいただく質問にお答えします。関心の高い順に並べました。

Qコンサルティング費用の相場はどのくらいですか。

A経費削減コンサルティングの場合、月額20万円〜程度が一般的です。期間は半年から1年が標準的です。費用対効果としては、年商1〜3億円規模の施設で年間2,000万円以上のコスト削減効果が見込めるケースが多いため、十分にペイする投資と言えるでしょう。なお、弊社では初回相談を無料で承っておりますので、自館の経費構造の問題点をまず整理されたい方は、お気軽にご相談ください。

QOTA手数料を下げる現実的な方法はありますか。

AOTA各社の手数料率を交渉で下げることは、現実的にはかなり難しいです。それよりも、直販比率を上げる施策(自社サイトのSEO・AIO対策、メルマガ・LINE公式アカウントの活用、Googleビジネスプロフィールの最適化)に取り組むほうが、効果が大きく持続性もあります。近年は生成AIが宿選びの初期段階で使われるケースが急増しており、AIO対策の重要性も高まっています。短期的にはOTAも活用しつつ、3〜5年かけてSEO・AIO・直販強化を進める中長期戦略をお勧めします。

Q食材原価率は何%が適正ですか。

A業態によって異なりますが、温泉旅館(料飲一体型)で20〜25%、シティホテル・ビジネスホテルで15〜20%、高級旅館で20〜30%が目安です。これを大きく超える場合は、仕入日計表の導入をお勧めします。

Q経費削減と従業員満足度の両立は可能ですか。

A両立は十分に可能です。むしろ、経費削減を成功させるには従業員満足度の維持・向上が不可欠です。「節約で生まれた利益で、スタッフの待遇改善や設備投資を行う」というメッセージを共有し、スタッフが経費削減の意義を理解できる状態にすることが重要です。

Qリスケジュール中でもコスト削減を進めるべきですか。

Aはい、リスケジュール中こそ、コスト削減は最重要です。リスケジュール中は新規の借入れが難しいため、自己のキャッシュフローで返済原資を作るしかありません。経費削減で生まれた利益を返済に回し、リスケ卒業を目指すのが王道です。なお、リスケジュール中の経費削減は金融機関への報告事項にもなりますので、計画的に進める必要があります。専門家のサポートを受けながら進めることをお勧めします。

用語集 ― 経営・集客に関する主な略称・専門用語

本記事に登場した略称・専門用語を、業界外の方にも分かるようにまとめました。自治体のご担当の方や、業界経験の浅い方は、必要に応じてご参照ください。

用語・略称意味
OTAOnline Travel Agentの略。楽天トラベル・じゃらん・Booking.com・Expedia等のオンライン旅行予約サイト。表面手数料に加え、広告費・キャンペーン参画費・ポイント還元負担などが発生する
ADRAverage Daily Rate。客室1室あたりの平均販売単価。施設の単価戦略を示す重要指標
OCCOccupancy Rate。客室稼働率。販売可能な客室数に対する販売実績の割合
RevPARRevenue Per Available Room。販売可能客室1室あたりの収益(ADR×OCC)。施設の収益力を示す総合指標
GOPGross Operating Profit。償却前営業利益に近い概念。施設運営の収益力を測る指標
SEOSearch Engine Optimization。検索エンジン最適化。Google等の検索結果の上位表示を目指す施策
AIOAI Optimization。生成AI最適化。ChatGPT・Perplexity・Google AI Overviewなどの生成AIに引用されることを目的とした施策。SEOと並ぶ集客戦略として注目される
EMSEnergy Management System。エネルギー使用量をリアルタイムで監視・制御するシステム。空調・給湯の効率化に効果
中退共中小企業退職金共済制度の略称。中小企業が外部に退職金を積み立てる公的制度。掛金は損金算入が可能で、税制面の優遇がある
PDCAPlan(計画)・Do(実行)・Check(検証)・Act(改善)の頭文字。継続的な業務改善のための基本的なフレームワーク
DMODestination Management Organization。観光地域づくり法人。地域の観光資源を統合的にマネジメントする組織
リスケジュール通称「リスケ」。借入金の返済条件(返済期間・月額・利率)を金融機関と協議して変更すること。資金繰り改善のための重要な選択肢
仕入日計表日々の食材仕入額を業者別・食材別に記録し、売上との比率(食材原価率)をリアルタイムで把握するための管理表
ABC分析売上構成比に応じて商品やメニューをA・B・Cの3ランクに分類し、優先順位を判断する手法。在庫管理・メニュー見直しに有効
中小企業活性化協議会国の認定を受けた公的機関。中小企業の経営改善・再生支援を行う。財務再構築が必要な施設の相談先のひとつ

さいごに

いかがだったでしょうか。経費削減は、ホテル旅館経営者にとって「守りの一手」ではなく、「攻めの一手」になりうるものです。市場環境の変化が激しく、価格競争も厳しくなる中で、コスト構造に強い経営体質を作ることは、将来の競争力に直結します。今回のコラムでお伝えした内容を、ぜひ自館の経費構造の点検にご活用ください。

読了後の3ステップ ― 今日から無料でできること

ステップ1:現状把握(所要時間:30分)

過去12か月分の試算表を準備し、食材原価率・人件費率・OTA関連支出を計算してみてください。本記事の業態別目安と比較すれば、自館の課題が明確になります。

ステップ2:優先順位の決定(所要時間:1時間)

第1章の優先度マトリクス(図表2)に自館の課題を当てはめ、まず取り組むべき領域を3つ選びましょう。「削減効果:大 × 難易度:低」の領域から着手するのが鉄則です。

ステップ3:仕入日計表の作成開始(所要時間:1日)

第2章で紹介した仕入日計表のExcelテンプレートを作成し、明日から記録を開始してください。1か月続ければ、食材原価率の動きが見えるようになります。

上記3ステップをやってみて「相談したい」と思われたら、弊社の初回無料相談をご活用ください。

弊社アルファコンサルティングでは、ホテル・旅館・観光業のコンサルティング、特に経費削減・収益改善・財務再構築の支援を、これまで多数の施設で実施してきました。観光経済新聞でのコラム連載は2009年4月から17年に及び、業界の構造的な変化と現場の実態の両方を踏まえた、実践的なご支援を強みとしております。

「自館の経費構造の問題点を整理してほしい」「具体的な削減施策を一緒に検討してほしい」「金融機関への説明資料の作成支援が必要」といったご相談を承っております。初回相談は無料です。お気軽にご相談ください。

「自館の経費構造の問題点を整理したい」「具体的な削減施策を検討したい」「金融機関への説明資料を作りたい」といったご相談を承っております。初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。

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登録不要・2〜3分の経営健康診断です。稼働率・原価・人件費・直販力の4つの軸を、日本旅館協会の統計(黒字施設の水準)と照らして簡易判定します。

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