ホテル旅館の経費削減を継続する仕組み ― PDCA・月次レビュー・組織定着化の実務マニュアル
この記事は ホテル旅館の経費削減完全ガイド の一部として、経費削減を継続させる仕組みづくりを詳しく解説したものです
こんにちは。ホテル旅館コンサルタントの青木康弘です。本記事では、ホテル旅館の経費削減を「単発の取り組み」で終わらせず、組織として継続させる仕組みづくりについてお伝えします。経営者の方はもちろん、支配人の方や、地域の宿泊業界を支援される自治体観光課のご担当の方にもお役立ていただける内容にまとめました。
経費削減プロジェクトは、立ち上げ時は熱意があっても、半年後には元の状態に戻ってしまうことが珍しくありません。原因は施策そのものよりも、継続させる仕組みがないこと、現場の巻き込みができていないことにあります。本記事では、私が長年の支援経験で培ってきた、経費削減を組織に定着させる実務的な方法をお伝えします。
この記事を読むとわかること
- 1経費削減が続かない3つの構造的な原因
- 2PDCAサイクルの設計 ― 旅館・ホテルでの現実的な回し方
- 3月次経費レビュー会議の設計 ― 議題・参加者・運営ルール
- 4KPIモニタリングと業績管理 ― 異変を早期に察知する仕組み
- 5組織への定着化 ― 経営層と現場スタッフを巻き込む方法
- 6専門家・伴走支援の活用 ― 自走できる組織になるまでの支援
- 7自治体観光課ご担当の方向け ― 地域施設の継続支援の枠組み
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私が長年支援してきた経験では、経費削減が続かない原因は施策そのものではなく、継続を支える仕組みの不在にあります。代表的な原因は次の3つに整理できます。
- 「やりっぱなし」になり、効果検証がされない:新しい施策を導入しても、3か月後に「実際にいくら削減できたか」を検証する仕組みがない。次の施策に進む判断もできない
- 担当者個人の頑張りに依存し、属人化する:経費削減の旗振り役が異動・退職すると、取り組み全体が止まる。組織のルーティンになっていないため引き継がれない
- 現場が「やらされ感」を持ち、本気にならない:経営層からのトップダウン指示だけでは、現場は最小限の対応に留まる。自分事として取り組まない限り、本質的な削減にはつながらない
単発の経費削減で年間100万円の効果が出ても、翌年元に戻ってしまえば長期的な効果はゼロです。毎年確実に積み上がる削減効果を生むには、継続の仕組みが不可欠です。
私の経験上、継続の仕組みを持つ施設と持たない施設では、3年後の累積削減効果に2〜3倍の差が生まれます。最初の1年の効果は同じでも、2年目・3年目に新たな削減を積み上げられるかどうかで差が広がっていくのです。
継続の仕組みづくりは、経費削減の「最後の仕上げ」ではなく「最初の前提」です。施策を打つ前に、継続させる仕組みを設計しましょう。
→ 次章では、継続の中核となる「PDCAサイクル」の設計についてお伝えします。
PDCAサイクルとは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)を繰り返し回すことで、継続的な改善を実現する手法です。製造業の品質管理から発展した考え方ですが、旅館・ホテルの経費削減にも有効です。
【図表1】経費削減のPDCAサイクル
| フェーズ | 旅館・ホテルでの具体的な内容 |
|---|---|
| Plan(計画) | 勘定科目別の削減目標額・施策・スケジュール・担当者を明文化。年間計画と月次計画に分けて策定 |
| Do(実行) | 業者交渉・契約見直し・運用変更などを現場で実行。実行プロセスを記録に残す |
| Check(評価) | 月次試算表で予算実績を比較。削減目標達成度・想定外の経費増を月1回チェック |
| Act(改善) | 目標未達の原因分析・施策の見直し・次月の計画へ反映。成功事例は横展開 |
私の経験上、PDCAサイクルが回り続ける施設には共通の特徴があります。次の3点を意識すれば、形だけのPDCAから脱却できます。
- サイクルを短く回す:年1回ではなく月1回。完璧な計画より、頻繁な見直しのほうが改善スピードは速くなる
- 数値で評価する:「頑張った」「努力している」ではなく「先月比でいくら削減」と具体的に。数値化できない施策は評価できない
- 記録を残す:議事録・実績データを蓄積。担当者が変わっても引き継げる形にすることで、属人化を防ぐ
完璧なPDCAより、回り続けるPDCAを目指しましょう。最初は粗くても構いません。回し続けることで精度が上がっていきます。
→ 次章では、PDCAの中核となる「月次経費レビュー会議」の設計についてお伝えします。
経費削減を継続させる最も実践的な仕組みが、月次経費レビュー会議です。次が基本設計の例です。自施設の規模に合わせてカスタマイズしてください。
- 頻度:月1回(月初の第1〜2週に開催。前月の試算表が出るタイミング)
- 時間:60分以内(長くしない。30〜45分が理想)
- 参加者:経営者・支配人・経理責任者・各部門長(調理・客室・フロント・施設)
- 議題:(1)前月の予算実績比較 (2)目標未達の科目の原因分析 (3)新規施策の提案・検討 (4)次月の重点項目の確認
- 資料:月次試算表・経費削減進捗表(1枚で完結)
会議が機能するためには、運営ルールの明文化が不可欠です。資料は1ページ、報告は5分、議論は20分を基本としましょう。
立ち仕事の多い旅館・ホテルでは、会議資料を作ろうとすると業務後の残業になりがちです。資料のページ数を1ページに絞り、自動集計・レポート出力できるようシステムをカスタマイズすることをお勧めします。フロント会計システムのデータをそのまま使い、独自に手の込んだ資料を作らないルールが大切です。
「資料は事前配布、会議は議論の場」というルールを徹底すれば、会議時間を半減できます。
青木康弘(ホテル旅館コンサルタント)
会議で陥りがちなのが、数字を出すこと自体が目的になってしまうことです。提出のための数字づくりに追われると、現場は疲れ、改善は止まります。指標は報告のためではなく、次に何を変えるかを決める道具です。当月の結果・原因・打ち手・次月に確かめることを一枚にまとめ、その場で決めるところまでやる。それだけで会議は見違えます。
経費削減進捗表は、勘定科目別に予算・実績・差額・達成率を一覧化したA4 1枚の資料です。視覚的に分かりやすくするため、目標未達の科目と達成科目を色分けします。
この資料があれば、会議では「何を議論すべきか」が一目で分かります。経営者は未達の科目だけに集中して原因分析と対策検討を行えばよいのです。月次試算表をそのまま使うのではなく、見やすく加工した進捗表を準備することが、会議の生産性を大きく左右します。
→ 次章では、月次レビューを支える「KPIモニタリングと業績管理」の仕組みについてお伝えします。
経費削減を継続させるには、効果を測るKPI(重要業績指標)が不可欠です。私が支援してきた施設で実際に運用しているKPIは、次の4階層構造です。
【図表2】経費削減のKPI体系
| 階層 | KPI例 | 頻度 |
|---|---|---|
| 全体KPI | GOP(償却前営業利益)率、売上総利益率、営業利益率 | 月次 |
| 科目別KPI | 食材原価率、人件費率、水道光熱費率、OTA手数料率、衛生費率 | 月次 |
| 運営KPI | 客室稼働率、ADR(平均客室単価)、RevPAR、人時生産性 | 週次・月次 |
| 先行KPI | 予約ペース、口コミ点数、SNSフォロワー数 | 週次 |
先行KPI(予約ペース・口コミ点数)は、業績への影響が出る1〜2か月前に変化が現れます。これを週次で見ていれば、業績悪化を未然に防げます。
数値を「見る」だけでなく「読む」力が、これからの経営には求められます。たとえば、宴会部門で施行組数や単価は維持されているのに1組あたりの人数が減少しているなら、団体組織率の低下や構成変化が影響している可能性があります。レストラン部門で売上が落ちているなら、メニュー構成・提供スピード・客席の快適性・口コミの影響など、複数の要因を分解して見る必要があります。
単純に「全体的に売上が落ちている」「経費が増えている」と判断するのではなく、事業別・科目別に数値を分解し、原因を特定する視点が欠かせません。最低でも過去3年分(できれば2019年度を含む過去7年分)について月別で比較すれば、どの指標に異変が生じているのかが浮かび上がってきます。
経費削減を継続させる仕組みづくりを伴走支援します
- PDCAサイクルの設計支援
- 月次経費レビュー会議の設計・運営支援
- KPI体系の構築とダッシュボード設計支援
- 現場の巻き込み方・組織定着化の伴走支援
- 自治体観光課ご担当の方向けの地域施設継続支援スキーム検討
初回相談は無料です(オンライン相談可)
→ 次章では、PDCAやKPIの仕組みを「現場が自分事として取り組む」状態にするための、組織への定着化についてお伝えします。
経費削減のアイデアは、現場のスタッフが最も多く持っています。お客様と日々接し、設備や備品を日々使い、業務の無駄に毎日触れているからです。問題は、そのアイデアを引き出す仕組みがないことです。
接客スタッフの「気づく力」を高めるには、PDCAサイクルを現場で回せるよう仕組みづくりをするとよいでしょう。改善を思いつきで始めようとすると、課題の認識や改善手法について意見が分かれやすく、効果が出るかも不透明になります。自分の目で確かめ、裏付けをとる訓練をすることで、効果的な施策を生み出せます。



青木康弘(ホテル旅館コンサルタント)
私が再生の現場でまずやるのは、売上から経費まで、すべての数字を従業員に開示することです。隠したままでは、現場は何を削ればいいか分かりません。あるホテルでは、お客様に影響のない場所のエアコンを一時間止めてみる実験を、従業員自身にやってもらいました。室温はほとんど変わらず、電気代がいくら浮くかも自分たちで計算した。号令で「省エネ」と言うより、数字で目に見えるほうが、現場のやる気は確実に上がります。大事なのは、経費削減ではなく経費の適正化だと伝えることです。
私が現場で実際に運用してきた、現場巻き込みの仕掛けを3つ紹介します。
- 改善提案制度:各部門から月1件以上の改善提案を出すルール。実施された提案には少額のインセンティブ(食事券・図書カード等)を支給
- 部門別の経費目標公開:各部門の経費目標と実績を毎月共有。「自分たちの努力で部門の数字を改善できる」という当事者意識を醸成
- 成功事例の横展開ミーティング:月1回、各部門が3分でその月の改善事例を発表。他部門の取り組みから学び合う機会をつくる
「やらされ感」のあるトップダウンから、「自分たちで考えて動く」ボトムアップへ転換することが、継続の鍵となります。
率直に申し上げると、経営者自身が無駄な支出をしていると、現場の取り組みは形骸化します。スタッフに経費削減を指示しても、経営者の接待交際費が私的流用に近かったり、効果の見えない設備投資を続けていたりすれば、それは現場に伝わります。
経営者自身も含めた全社的な取り組みであることを、姿勢で示すことが大切です。役員報酬や経費の透明性を高める、改善提案制度には経営者自身も提案を出す、月次レビュー会議には欠かさず参加する。こうした姿勢の積み重ねが、組織の本気度を決めます。
経費削減を進めすぎると、現場のサービスが画一的になり、顧客満足度が下がるリスクがあります。製造業であれば流れ作業で効率化を極限まで追求することは正しいですが、旅館・ホテル業では効率を重視しすぎると、愛想がなくサービスが画一的だとマイナス評価につながります。
顧客満足度の高い旅館・ホテルには良い意味での無駄が多いものです。一組のお客様の要望を叶えるためにスタッフが付きっ切りになったり、対価を取らないサービスを充実させたりする。経費削減と顧客満足度のバランスを取りながら、削るべきところと残すべきところを見極めることが、経営者の判断軸として求められます。
→ 次章では、自走できる組織になるまでの「専門家・伴走支援の活用」についてお伝えします。
経費削減の仕組みを完全に自前で構築するのは、相応の時間と労力がかかります。特に次のような場面では、外部の専門家を活用することで立ち上げ期間を大幅に短縮できます。
- 業界ベンチマークと比較したい:自館の経費水準が業界平均と比べてどうなのか、客観的に評価したい
- 仕組みを一気に立ち上げたい:月次レビュー会議・KPIダッシュボード・改善提案制度などをまとめて設計したい
- 金融機関への説明資料を整えたい:改善計画を金融機関に提示する際の、説得力ある資料を作成したい
- 第三者の視点が必要:社内の力学では言いにくい改善ポイントを、客観的に指摘してもらいたい
- 補助金申請の支援を受けたい:経費削減と組み合わせた省力化投資補助金等の申請書類作成
率直に申し上げると、外部専門家への永続的な依存は健全ではありません。理想は、半年〜1年の伴走支援を経て、自走できる組織を作ることです。
具体的には、初期6か月は専門家が会議運営・分析・提案を主導し、その後の6か月で社内担当者へ徐々に移管していく形が現実的です。1年経過時点では、社内担当者が主体的にPDCAを回せる状態を目指します。
継続支援の形態としては、月次会議への参加(オンラインで30分程度)、半期ごとの全体レビュー、年1回の戦略見直しなど、段階的に関与頻度を下げていく設計が望ましいでしょう。
自治体観光課のご担当者の方へ ― 地域施設の継続支援スキーム
自治体観光課のご担当の方にお勧めしたいのが、地域の宿泊施設に対する継続支援スキームの設計です。単発のセミナーや補助金支給だけでは、地域施設の経営改善は持続しません。
- 経営診断・ベンチマーク提供(自館の経費水準を客観的に把握)
- 月次〜四半期の伴走支援プログラム(専門家派遣)
- 成功事例の地域内横展開セミナー
- 補助金活用支援と連動した改善計画策定支援
観光協会・DMOが事務局となり、専門家を活用しながら地域全体の競争力向上を図るスキームは、検討の価値があります。半年〜1年の継続的な伴走支援を組み込むことで、地域全体の底上げにつながります。
よくあるご質問
Q月次経費レビュー会議は、規模が小さい施設でも必要ですか。
A規模が小さい施設ほど、シンプルな形でも月次レビューを行うことをお勧めします。客室数20室程度の小規模施設なら、経営者と経理担当者の2名で30分の打ち合わせで十分です。重要なのは形式ではなく「月1回、必ず数字を見て話し合う」という習慣です。施設規模に応じて、運営の負荷を最小化しながら継続できる形を設計しましょう。
QKPIを設定しても、現場が見てくれません。どうすればよいですか。
AKPIを「経営層だけが見るもの」にしている限り、現場は見ません。現場が自分事として捉えるには、(1)部門別のKPIを設定する (2)KPIの達成状況をスタッフルームに掲示する (3)達成時のインセンティブを設計する、の3点が有効です。また、KPIの種類を絞ることも大切です。1部門に10個のKPIがあると現場は混乱します。3〜5個の重要KPIに絞りましょう。
Q経費削減と顧客満足度の両立は可能ですか。
A両立は可能ですし、両立させることが本質的な経費削減です。「お客様への提供価値を下げない範囲で、無駄を削る」というスタンスが基本です。たとえば、アメニティの数を減らしても品質を上げる、リネン交換を希望制にして環境配慮の文脈で説明する、といった工夫により、経費を減らしながら顧客満足度を維持・向上できます。顧客満足度を下げる経費削減は、短期的には効果が出ても、口コミ低下を通じて中長期的に売上を下げます。
Q自治体観光課として、地域の宿泊業を継続的に支援する施策はありますか。
A(1)地域施設向けの経営診断・ベンチマーク提供サービス (2)専門家派遣による月次〜四半期の伴走支援プログラム (3)経営改善の成功事例の地域内横展開セミナー (4)補助金活用支援と連動した改善計画策定支援、などが考えられます。単発の支援ではなく、半年〜1年の継続的な伴走支援を組み込むことで、地域全体の競争力を底上げできます。
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経費削減の全体像はこちら
本記事は、経費削減を継続させる仕組みづくりに焦点をあてた記事です。経費削減全般の戦略や、勘定科目別の打ち手(食材原価・人件費・OTA手数料・飲料原価・水道光熱費・衛生費等)については、全体をまとめた完全ガイドをあわせてご覧ください。
ホテル旅館の経費削減 ― 全体像と勘定科目別の打ち手
- 11章にわたる勘定科目別の経費削減手法
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- 年商3億円の旅館で年間2,250万円の改善余地
- PDCAサイクルによる継続的な仕組みづくり
- 経営者・支配人・自治体観光課のすべての方向け
さいごに
いかがだったでしょうか。経費削減は、単発の取り組みでは持続しません。PDCAサイクル・月次レビュー会議・KPIモニタリング・現場の巻き込みを組み合わせた「継続の仕組み」を構築することで、毎年確実に削減効果が積み上がる組織になります。仕組みを持つ施設と持たない施設では、3年後の累積削減効果に2〜3倍の差が生まれます。
弊社アルファコンサルティングでは、ホテル・旅館の経費削減の仕組みづくり支援、月次レビュー会議の設計・運営支援、KPI体系の構築支援、現場の巻き込み支援、自治体観光課ご担当の方向けの地域継続支援スキーム検討まで、幅広くご支援してきました。観光経済新聞でのコラム連載は2009年4月から17年に及び、業界の構造的な変化と現場の実態の両方を踏まえた、実践的なご支援を強みとしております。
「経費削減の仕組みを構築したい」「月次レビュー会議を設計したい」「KPIダッシュボードを作りたい」「現場の巻き込み方を改善したい」「地域の継続支援スキームを設計したい」といったご相談を承っております。初回相談は無料です。お気軽にご相談ください。
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